Chapter: 第23話:王弟パウロ③ 腹は決まった。王弟パウロに会いにいく。そして、彼に一言、冒険者ギルドから手を引けと命令する。言うだけなら簡単だ。しかし、いざ実行するとなれば途方もない苦労が待ち受けているだろう。 だが、こちらには女神がついている。彼女に頼み込めば、王弟に会うためのステップをいくつかはキャンセルできるはずだ。「というわけで、俺、王弟パウロに会いたいんだけど。女神様、何か策はありますか?」 「策ってほどもないけど……とりあえず屋敷に行けばいいと思うわよ」 「あはは……俺、何のコネもありませんけど!?」 「まーた、わたくしに貸しを作るつもり~? 少しは返してほしいんだけど~?」 「そこは俺の可愛さに免じて!」 「じゃあ、許す!」 「許すのかよ!」 こんな情けない男のどこが可愛いのか、さっぱりわからない。もしかすると女神という超越者視点からすれば、自分みたいな情けなさで溢れる男は可愛いの範疇に収まっているのかもしれない。 真相は謎だ。しかし、齧れるものは親のスネでも齧ってやる。一時の恥を忍ぶことこそが肝心だ。大局を見失うほうがよっぽど愚かだ。 甘えられるうちが花という言葉もある。女神に頼りっきりだが、女神の指示に従うことになる。「じゃあ、まずは身なりを整えないとね。屋敷を訪ねるなり、無礼者! で斬られたら洒落にならないし」 「この制服姿じゃダメなんですか?」 日本の学生服は冠婚葬祭や式典に出席する際、間違いのない服装だ。しかし、女神は言う。それだけでは足りないと。 むむむ……と口をへの字にしてしまう。今からぶん殴りに行く相手にそこまで礼を尽くすべきなのかという疑問があった。「いきなり敵対するわけにはいかないじゃない。相手の話を聞く度量も必要よ?」 「そんなもんなんですかね? 裏金を受け取ってる悪いやつなんて、ぶっとばしちゃえばいいと思うけど?」 「それは獣に対してだけ。相手と言葉が通じるのなら、まずは言葉を交わしてみなさい」 「めんどくさいなあ?」 「面倒くさがらない♪ わたくしはアルトが立派な男になってほしい
Terakhir Diperbarui: 2026-07-30
Chapter: 第22話:王弟パウロ② やるべきことは決まった。今すぐにでも王弟パウロのところへ乗り込んでやりたい気持ちでいっぱいだ。 だが、ここで待ったをかけてきた人物がいた。ギルド長のゲイルである。ゲイルは胃のあたりを手で押さえながら、椅子から立ち上がる。ホワイトボードの前まで移動し、そこでペンを取る。 ゲイルは忙しなくホワイトボードに何かを書いている。しばらくするとそれがこの国における権力相関図であった。「国王と教会が繋がり、王弟と冒険者ギルドが繋がっている。王弟がもしも国王に喧嘩を売るとなれば、その渦中に身を置くことになるのだぞ、アルトよ」 「なるほど? 下手をすれば国王にも睨まれると」 「ああ……巻き込まれ損になる可能性が高い」 「ふむ? それがどうしたんですか?」 「なん……だと!?」 「俺は……聖女たちにザマァ! できて、かつ、リリーと幸せになれるならどうだっていいんです(きっぱり)」 「言い切ったぁ!?」 ゲイルは心底驚いている。こちらとしては国王と王弟の諍いなどどうでもいい。好きなだけやってろと言ってしまいたいくらいだ。 肝心なのは冒険者ギルドを手中に収めること。そして、冒険者ギルドを頼ってくるであろう聖女パーティにザマァ! してやることだ。 まったくもってゲイルは勘違いしている。何度でも言いたいのだが、王弟の企みに関して、なんら興味がない。 王弟のことを路傍の石程度にしか思えない自分がいる。そんな不遜な自分に対して、ゲイルがわなわなと身体を震わせ始めた。こちらはきょとんと首を傾げてしまうしかない。「パウロ様は冒険者ギルドの庇護者なのだ。そのパウロ様が命じれば、冒険者ギルドはアルト、キミの敵になるということだぞっ! 発言には気をつけるんだ」 「それはあくまでもパウロ何某が冒険者ギルドの庇護者のままだったらの場合でしょ?」 「言わんとしていることはわかる。だが……金の卵を産む冒険者ギルドをパウロ様がそう簡単に手放すとは思えない」 こちらとしては交渉で冒険者ギルドを譲ってもらいたい。だが、相手が嫌だとごねてきた場合は実力行使も辞さないつもりでいる。
Terakhir Diperbarui: 2026-07-28
Chapter: 第21話:王弟パウロ①「ゲイルの胃に大きな穴を開けるかもしれないけれど、聞いてほしい」 「アルト、何をそんなに思い詰めた顔をしてるんだ? まさか……裏金の流れを掴んだのか!?」 「その通りだ、ゲイルさん。聞いて驚くなよ……裏金の最終地点は……王弟のパウロ・ジェームズだ」 「グエーーーいっそ殺してくれんンゴねぇ?」 「気をしっかりもって!? ゲイルさん!?」 椅子に座っていたゲイルがその場で崩れ落ちた。リリーもリアクションが大きかったが、ゲイルは彼女の10倍のリアクションを見せてくれた。 自分は王弟のパウロがどれほどの大物かがわかっていない。ある意味、自分は幸せ者なのもかもしれない。 しかし、相手が誰であれ、冒険者ギルドを手に入れるのは変わらない。邪魔をするというのであれば、王弟をぶん殴ってやるつもりである、こちらは。 鼻息をフンスフンス! と荒げていると、ようやくゲイルが復活して、椅子に座り直していた。「とんでもない名前が出てきて、つい情けない姿を見せてしまった」 「本当ですよ。てか、リリーもそうだけど、そこまで厄介な相手なんですか?」 「うむ……王弟のパウロ様は冒険者ギルドの庇護者なのだ」 「えっと? 庇護者がなんで裏金を受け取ってるんですかね!?」 「灯台下暗しとはまさにこのことだ。パウロ様を公然と非難すれば、間違いなく私とリリーは職を追われる」 「リリーは俺が幸せにするからいいけど、ゲイルさんは本当の意味で無職になりますね?」 「こいつぅ!」 ゲイルがこちらの身体を掴んできて、さらに前後にぶんぶんと揺らしてきた。こちらはまったく……とため息をつくしかない。 とりあえず、事情は見えてきた。王弟のパウロは冒険者ギルドの庇護者であることを良いことに、裏金作りの組織として、冒険者ギルドを利用している。 まさに癒着と言ってもよい|行《おこな》いをしている。そして、何のために裏金をせこせこ作っているかが問題となる。「俺の予想としては……国王への反逆ってところかな」 「あはは……私腹をただ肥やしてるってだけで勘弁願いたい」
Terakhir Diperbarui: 2026-07-25
Chapter: 第20話:ギルド会館④ リリーは未だに他の受付嬢にもみくちゃにされている。そろそろこの騒ぎを終わりにしたい。女子たちの波にズイッと身体を潜り込ませ、リリーと対峙する。「リリー。ギルド長のゲイルさんに会いたいんだ。取り次いでもらえるかな?」 「は、はいっ」 こちらを囲む受付嬢たちの目の色は好奇心でいっぱいだったが、それに応えている時間は自分にはなかった。 帳簿を調べたことで得た情報を一刻も早くゲイルと共有しておきたい。リリーが忙しなく動いている。それを目で追いながら、思案に暮れることになる。(王弟のパウロ・ジェームズ。俺が手にする冒険者ギルドから手を引いてもらわないとなっ) (しかし国王様の弟なのに冒険者ギルドと裏で繋がってるってのはどういことなんだ?) (まるでわからん。ただ金を受け取ってるだけならいいけど……俺の嫌な予感って悪い方に働くからなぁ) 頭の中は真面目なことを考えていた。しかし、だんだん身体が本能的にそれを嫌がり始めたのか、自分の目は忙しなく動いているリリーに釘付けになっていた。さらに言えば、リリーのお尻を注目してまくっている。(安産型だな) (健康な子を産んでくれそうよね) (うんうん。って、女神様ぁ!? 俺の脳内に直接話しかけてきてる!?) (アルトくんだって、エスパーとしての訓練を積めばできるようになるわよ?) (えっと……念話でしたっけ) (そうよ。ファミチキくださいって口に出さなくてよくなるわよ) (いや、それ、ただのエスパー能力の無駄遣いっ!) 女神アテナは遅れて、この場にやってきていた。周りの受付嬢たちがぺこぺこと頭を下げる中、女神は軽く手を振って応えていやがる。 それだけで「キャー!」という黄色い声が上がる。どんだけ人気者なんだとびっくりしてしまうしかない。(女神様って女性にも人気なんですね) (なんか棘がある言い方ぁ~) (俺もモテたいですよトホホ) (リリーちゃんって可愛い娘がいるのに?) (リリーとは別腹でモテたいってのは無しですか?) (男
Terakhir Diperbarui: 2026-07-23
Chapter: 第19話:ギルド会館③ 王弟だろうがなんだろうが関係ない「リリー安心してくれ。リリーの日常は俺が守る」 そう決め台詞を吐いた瞬間だった。バーン! というけたたましい音と共に資料室の扉が勢いよく開いた。「何を調べているかはわからないが、おとなしくしてもらおうか!」 低い男の声が響く。俺とリリーは同時に振り返った。そこにはメガネをかけた青年が立っていた。見た目の年齢は30後半といったところだろう。 その青年はこの部屋の奥へと入り込んできた。そして、リリーが手にしている帳簿を奪い取る。彼は帳簿とこちらを交互に見た後、ギリギリと歯ぎしりをし始める。「何故、帳簿を調べている? 答えようによっては……」 「答えようでは俺たちをどうするってんだ!?」 「警察に突き出す!」 「普通の反応すぎだろっ。しかも他力本願っ!」 早急にツッコんでやった。しかし、青年はクイッとメガネをかけ直し、眼鏡のレンズをキラリと光らせる。「ふっ。私はモブだ。そんなモブ男が実力行使でどうにかできるとでも?」 「自分からモブ発言しやがっただと!? こいつ、もしかしてただのモブじゃない!?」 「ふははっ。本当にただの一般人だよっ! 残念だったな!」 「ご退場願いまーす!」 エスパー能力で時間を止める。青年からメガネを分捕り、それをテーブルの上に置く。そして、時間停止が終わる。青年は「メガネ、メガネ!」と言いながら慌てふためくことになった。 その隙にリリーと揃って、その部屋から抜け出す。気づけば他の従業員が出社してくる時間となっていたのだろう。 リリーとこれからどうするか相談することにした。「私はそろそろ始業の時間なのですが」 「そういえばリリーの仕事って何? もしかして受付嬢?」 「はい! よくわかりましたね? ヒントも何も言ってないのですが」 「それは俺が占い師だからかな?」 「うふふ。そんなことまでわかっちゃうんですね? アルトさんには隠し事、できないかも」 もちろん、当てずっぽうで言ってみただけだ。ギルド会館で女性が勤
Terakhir Diperbarui: 2026-07-21
Chapter: 第18話:ギルド会館② リリーの案内で過去の帳簿が収められている資料室へとやってくる。古書独特の匂いが鼻につーんとする。「へっぷし! いっぷし! 俺、この匂い、苦手だな」 「クスクス。私は好きですけどね。アルトさんは私とは違うんですね?」 「お、おう!? 今からこの匂い、好きになりまーす!」 リリーにからかわれている。それが心地よい。にこやかな笑顔のリリーが「はい、どうぞ」と分厚い帳簿らしきものを手渡してきた。それを手に取るとゾクッ! と嫌な予感が背中に走ることになる。 今までのほんわかとした空気が一気に冷めた。見たくないものを渡されてしまったという気持ちになるが、後の祭りだ。「ほら、アルト。さっさと透視♪」 「ちょ、女神様! リリーの前でそれを!?」 「ん? まずった?」 「俺、占い師ってリリーには説明してるんで」 「あは~ん。アルトったら賢い♪」 肝が冷えてしまう。こちらがエスパーだということをリリーには知られたくない。あくまでも占い師として『視る』能力を持っているとリリーには説明している。 聖女の時の二の舞はごめんだ。追放されるのは一度だけでいい。 リリーは「トーシ?」ときょとんとした顔をしている。ホッと胸を撫でおろすしかない。この世界ではエスパーという職業はレアもレア、ウルトラレアなのかもしれない。 しかし、自分の横にはうっかり口を滑らせまくる女神がいる。安心してはいられない。さっさと帳簿を透視能力でじっくりと見る。 ページを1枚、また1枚とめくる。ついでに、ほんにゃらはんにゃらほわわ~と口ずさんでおく。占い師らしく、それっぽく振る舞っておく。「視えた。って、口にしていいのかわからないっ」 「アルトの知ってること、教えてほしい、そーれ♪」 「ぐははっ! ちょっと、女神様! わき腹をくすぐるんじゃない!」 「やめてほしかったら、視えたもの、教えなさいー?」 「わかりましたって。ちょっと、手をどけてくださいよぉ!」 透視で見えたもの。それは金の流れであった。数字を追っていると金色の砂粒が
Terakhir Diperbarui: 2026-07-18