Chapter: 第327話・そして捨てた道「やっぱり|獣使師《ビースト・テイマー》になってたのか! しかも話を聞いたところじゃお前も神子なんだろ?! 一体どんな……」「シンゴ、ヴェデーレが帰っているのだろう」 ノックして入ってきたレーヴェが声をかけた。「何で分かった?」「オルニスが飛んでくる気配がするから」 あちゃあ、とヴェデーレは顔を覆った。「無窮山脈から出てくるなってあれだけ言ったのに」 くおお、と外から音が響いて、ヴェデーレが窓から外を見る。 神殿の前、一番広い所で、|巨鳥《ルフ》が羽根を休めていた。「オルニス! 簡単にこんな所まで来るんじゃないよ!」「|巨鳥《ルフ》……?」 トーノが呆然と声をあげる。「嘘だろ、おい……?」「ついでだから一旦帰省すれば?」 俺が提案した。「オルニスで行けばすぐだろ」「オルニスを乗合馬車代わりに使うな」「魔獣ならいいのか?」「よくない。やっということを聞いてくれるようになったのに……」「魔獣が、言うことを聞く?」「うん、多分世界で唯一の|魔獣使師《モンスター・テイマー》でもあるから」「シンゴ、言うなよ……」 トーノはもう口をパクパクさせているだけだ。「悪かったな、魔獣が人を襲わないようにしつけてもらってたんで、なかなか帰れなかったんだ。休暇、かな? あげるから、しばらく休んでくれ」「相変わらずお人好しだね、シンゴってば」 それまで足をブラブラさせて聞いていたミクンが呆れた。「でも魔獣のしつけはヴェデーレにしかできないからって押し付けてたから、そろそろ休んでもらわなきゃって思ってたし」「ま、それもそうだよね。神子の中で一番忙しかったのヴェデーレだし、オルニスもグライフもヴェデーレに会えなくて欲求不満気味だったし? 悪友さんたちと世界を周るってのもいいんじゃない?」 ヴェデーレとトーノ、ミクンが出て行ってから、俺は思い出す。 魔神を倒した直後、死物たちは四散した。 支配者がいなくなったのを知って、喜んで消えた者、恐ろしくて消えた者、たくさんだ。 ヴェデーレには俺を信仰する魔獣が、人間を襲わないようにとしつけることを頼んだ。 レーヴェ、ヤガリ、ミクンにはそれぞれの種族のまとめを。ベガのおかげである程度ケンタウロスの中の位置を勝ち取っていたスシオもケンタウロス族をまとめてもらった。 サーラとベガには種族間交渉の
Last Updated: 2026-05-06
Chapter: 第326話・新しい道 鳥の鳴き声に、俺は目を覚ます。 寝る必要はないんだけど、やっぱり精神が眠りを求めるものなんで。 ここは、原初の神殿。 大陸中央にあるこの神殿から、俺の力は秩序となって流れていく。 世界は、滅亡寸前から、俺の知らない繁栄していたころに戻りつつあるとサーラは言った。 大樹海、無窮山脈、奈落断崖、ビガスの要所を結ぶ運輸は、魔獣が出なくなったとはいえ、盗賊なんかが出たりもするので、フェザーマンの輸送隊は重宝されている。それまでフェザーマンが他人種に対して何らかの役割を果たすことができなかったので、フェザーマンたちは役割を与えられたことを喜んでいるようだった。 街も人が戻り始め、ハーフリングも草原から出て来るようになった。 エルフやドワーフもいらない対抗意識を燃やすこともなくなった。 プセマのようなノームも、淘汰されていった。俺の正義……あるいは自己満足に見合った人間だけが生き残っているようだった。 これは、俺のせいなんだろうか。 サーラやベガが言うには、俺の正義は範囲が広いから、これまでの生神と魔神の戦いの内では滅んでいく人は少ないのではないかと言うことだった。 つまり、俺が助けたいと思うだろう人は自然に助かっていくってことだ。 おじさんの望んだような一つの正義以外が淘汰される完璧な世界じゃない。 でも、ちょっといい奴が、他のいい奴に触れて、もっといい奴になっていく世界なら、それでいいんじゃないかな、と。 おじさんから見たらもどかしい世界かも知れないけどな。「シンゴ様?」 シャーナが神殿の最奥にある俺の部屋をノックした。「シャーナ? どうした?」「お忘れですか? ミクン様が、ハーフノームの訴えを聞いてあげて欲しいと……」「あ、言ってた。悪い、顔洗ってすぐ行くから」 服を変え、顔を洗い、面談室に行く。 ミクンが憤慨しているハーフノームをまあまあ、と抑えていた。 ん? あのハーフノーム、見た覚えが……。「ミクン」「ああシン……」「シンゴ?!」 ヴェデーレの悪友。トーノ。「シンゴが何故ここに? ……あ、そうか、お前、ミクン様みたく神子なのか? ならグリフィンに乗ってエンドを目指したのも納得……」「ごめん、トーノ」 俺は頭を下げた。「俺が生神なんだ」 ぶぅっとトーノが噴き出す。「グルートンは元気か?」「ああ元気…
Last Updated: 2026-05-06
Chapter: 第325話・決別 ミクンの俺を見る目が痛い。「この人たちの話をまとめるとぉ……シンゴは無抵抗で魔神の攻撃を受けて、一度死んだ、ってそういうことなのかしら?」「……はい、そうです」「はいそうですじゃない!」 レーヴェに一喝された。「尊敬する人物が魔神だというショックは分かる! だからと言って、死を選ぶんじゃない! この世界は、お前がいないとダメなんだぞ!」「そうだよ、シンゴ……シンゴは生きてなきゃダメなんだよ……」 アウルムが泣きそうな顔で言い、コトラが俺の足にごっちんしてブランも頭を押し付けてきた。「心配……かけちゃってたなあ」「当たり前だ馬鹿野郎!」「オレ、兄ちゃんが死んだらどうしようかって……!」 うん、俺が悪い。全般的に。「ゴメン……二度としないよ」「当然!」 ごん、とミクンに殴られた。 その時。「…………」 小さな、呻き声とも言えない声。「……戻って来たか」「戻って?」 ベガが不思議そうに聞いて、そして気付いて慌ててそちらを見た。 魔神の右手が上がっている。 ゆっくりと降りて行って、自分の頭に掌を乗せている。 青白い光が宿って、しばらく。「シンゴ!」「大丈夫」 俺は同じくらいの身長のヴェデーレに肩を借り、ゆっくりと魔神に近付いていく。 魔神はしばらく掌で顔を覆っていたが、ゆっくりと手が離れていく。 額についた傷跡は消えなかったけど、おじさんは虚ろな目を虚空に向けて、それから、俺の方を見た。「……お帰り、おじさん」「…………」 おじさんは何も言わない。 多分、貴船さんに会って来たんだ。俺の時と同じように。「生き帰ることを選んだんだね……じゃあ、どうする? 魔神として俺と戦う? それとも……」 おじさんは……立ち上がった。 皆が身構えるのを片手で押さえて、俺とおじさんは視線を合わせた。「二度と、会わないだろう」「……そっちに、決めたんだね」 貴船さんのように、このモーメントから生神や魔神に相応しい人間を探す役目を請け負ったんだろう。「……ああ。私はこの世界のどこかで、お前の世界再生を見ている。もしそれが誤っていると思ったら、私はこの世界に再び魔神をもたらす」「そうならないよう努力するよ」 おじさんの額の傷跡に俺の目は釘付けになった。 かつてワー・ベアが言っていた、魔神に隠された第三の目。その目
Last Updated: 2026-05-05
Chapter: 第324話・謝罪 魔神が仰向けに倒れたのを見届けて、俺はその場に座り込んだ。「っで~……」 魔神の強烈な一撃を受け止め続けた水鏡の盾を持つ左手には感覚がない。 天剣を持つ右手は固く強張っていて剣を手離せない。 信仰力はたくさんあったとしても、血は失われているから、興奮状態から解放された今は貧血がひどい。「シンゴ!」 魔神が倒れたのを見届けたみんなが、オルニスの背から飛び降りて駆け寄ってくる。「シンゴ、済まない……」 サーラが俺の強張る右手の指を、一本一本、|解《ほぐ》しながら、頭を下げた。「まさか我々が囚われるなど夢にも思っていなかった……守護獣の思い上がりだ……。ベガに聞いた。苦労したのだろう……済まない」「謝らなくていいって」 俺は、何とか《《怖くない笑顔》》を作った。「魔神は……死んだのか?」 感覚のない左手からそっと水鏡の盾を受け取って、レーヴェが聞いた。「多分、まだ、決まってない」「多分? まだ?」「多分、生神や魔神の寿命は、周りが決めるんじゃなくて本人が決めるんだ。あっちへ行って、聞かれて……」 ぽかぽかっ。 後頭部をそれ程力はないにせよ二度叩かれて、俺は振り返った。「なーにが、あっちだ」「ヴェデーレ……」「ヴェデーレ兄ちゃんの言う通りだ! シンゴ兄ちゃん、さっき、死ぬ気だったじゃないか……って言うか死んだじゃんか! 服とか床に血の跡残ってないからってごまかされると思うな! あの時、何も抵抗しないで殺された時、オレらどう思ったか……!」「悪い、スシオ、ごまかす気も隠す気もないけど悪かった」「死んだって……」「死んだんだよ! 胸やられて、ひどい血を流して!」「落ち着け、スシオ」 ベガがスシオを軽く小突き、ヴェデーレの背中を撫でて落ち着かせてくれる。「人生の師とも仰いでいた相手が魔神だったのだから、死にたくなるのも仕方はない」「人生の師……シンゴの叔父上か……?」 俺のおじさんの話を聞いていたサーラが思い出してくれた。「そうか、叔父上が魔神だったか……」「ああ、気にしないで。決着はついたから」「気にするわ!」 怒鳴るヴェデーレ。「胸打ちぬかれてぶっ倒れた時、俺たちがどんな気持ちだったか……!」 そうだそうだ、の意識はオルニスからも来た。「シンゴはおれたちがいない間に何かやらかしたのか?」 ヤガリの
Last Updated: 2026-05-05
Chapter: 第323話・守るために ……お前の友達は私にとっても友達なのだから、いつでも呼んできなさい。 そんなおじさんだったから――最終的には俺に甘いおじさんだったから、俺が神子にした仲間……友達を、殺さなかったんだ。 俺を殺そうとした人間をそんな風に信じるなんて馬鹿げてる、と言う人もいるだろう。 でも、身内だから、育てられたから、分かることだってある。 エンドでサーラたちに出会った時、魔神の力なら殺すことだってできたんだ。それをしなかったのは、多分、魔神として生神である俺を殺すことになったとしても、俺の大事な友達は守らなければならないと思ったから。 魔神として俺と戦うことになるかもしれない。その結果、俺を殺してしまうこともあるかもしれない。 それでも、俺が手に入れた大事なもの……友達だけは、守らなければならないと。 例え、その結果、俺を殺し、彼らに殺されることになったとしても。 ああ、笑えるな。 笑えるくらいに矛盾してるな。「全てを破壊する魔神が、生神の神子を守るってどんだけだよ」「そう言う貴様は、生神の力を使い、死物を苦しめただろう」「そうだよ」「全てを救う生神が?」「俺は、全てを救うなんて言ってない」 ゆっくりと、天剣を構える。「手の届く範囲、助けられる人を助ける。全ての人間を救えるなんて思い上がってないからね」 だから、魔獣は助けたけど、他の死物は許せなかった。 俺の手の届く、俺が助けたい人たちを傷つけていたから。 魔獣は、助けてくれと言っていたから、そして俺の手が届いたから助けた。「結局、一人ですべてを救うなんて無理なんだよ。滅ぼすのも」「なら……何のための生神だ……何のための魔神だ……!」「貴船さんなら知っているかもね」「貴船……?」 仮面の下、おじさんの目が丸くなっていることは簡単に想像がついた。「お前、貴船を知っているのか!」「知ってるも何も、さっき会ってきた」 そうして、天剣を構える。「会いたかったら、一度死んでくれるか?」「冗談を」 おじさんはひび割れた仮面をむしり取って床に叩きつけた。 |儚《はかな》い音がして、仮面が粉々に砕け散る。 額から血が流れ続け、止まることがない。鮮血を帯びたおじさんの顔は、これまでにない程激怒していた。「お前が……お前が私を殺すことは出来ないのだ……私がお前を殺せても」「殺さ
Last Updated: 2026-05-04
Chapter: 第322話・ずっと友達で 解放されたサーラの混乱する意識が伝わってくる。サーラだけでなく、全員が混乱している。 そりゃそうだろ、最果ての地でいきなり争いに巻き込まれて封じられて、目が覚めたら水墨画の世界だったら誰だって混乱するよ。「私……は、魔神に……」「サーラ! レーヴェ! ヤガリ! コトラ! ミクン! アウルム! ブランも! よかった、全員無事だったか!」「シンゴ?! ここは一体……」「それは我が説明する! シンゴは魔神に集中しろ!」 ベガの絶叫が耳と頭脳の両方に届いた。 それもそうだ、相手は魔神、力の源を叩き割ったくらいでぶっ倒れる相手じゃない。 俺はすぐに魔神に目を戻す。 魔神の仮面は、善悪を見抜くという第三の目を|印《しる》すルビーが砕け、その欠片がまるで血しぶきのように散っていた。「ぐう……う」 魔神は膝をついて、仮面の砕けた額を抑えて震えている。「馬鹿な……馬鹿なっ」「皆を封じることで、防御の力が失われていたんだ」 俺はゆっくりと、ゆっくりと間合いを詰める。「封印なんて真似をしなければ、第三の目が失われることもなかったのに」 魔神が気付いた時には、俺はもう、天剣の間合いに入っていた。「なあ……おじさん?」 よろけながら立ち上がる魔神に、俺は《《そう》》呼び掛けた。「なんで、神子を、滅ぼさなかった? 全てを滅ぼす魔神が、生神の神子を」「……気紛れだ」「本当に?」「…………」 聞かなくても、分かってた。 魔神が……おじさんが、神子を殺すのではなく、第三の目が弱体化するリスクを冒してまで封印した理由。 ……俺の、仲間だったから。 俺はおじさんの世話になっていた身なので、小学校の時から滅多に友達を家に連れて行くなんてことはしなかった。子供心に迷惑をかけると思っていたから。 でも、俺が風邪を引いて学校を休んだ時、プリントと皆からの「元気出して」レターを持ってきた友達二人に、おじさんは「風邪がうつるから」と俺と会わせなかったけど、お菓子やジュースでもてなしてくれて、「ずっと真悟と友達でいてくれ」と言った。トイレに降りてきて、俺以外の子供の声に気付いて応接間を覗いたのが、その場面だった。二人の手を握って、頭を下げていた。 ……小学生相手に、大の大人が。 友達を連れてきてもいいんだぞ――それが、おじさんの|口癖《くちぐせ》だった。
Last Updated: 2026-05-04
Chapter: 第64話・遅れて契約 ポルティアとナーヤーが、ぐたりと椅子に座り込む。「……あれ……本当に俺の家なのか……?」 もう何度目の確認になるだろう。うん、と頷くと、ポルティアが机に突っ伏して頭を抱えた。「あんな家、ピーラーに見せたら速攻奪われる……」「大丈夫、そもそもピーラーみたいなヤツは最初っから町に入れないから」 どうやら家の中の家具を全部「鑑定」してしまったらしく、それが全て最高級と判断され、どうしようもない状態というところ。 一方小さい頃から憧れの家、と言っていたナーヤーは比較的冷静さを取り戻してるっぽい。「あの家、住んでいいんですよね?」「うん。好きに使っていい」「じゃあ、好きに使わせてもらいます」 うん、うん、と頷くナーヤー。 やっぱり何か追い込まれた時強いのは女性の方なんだろうか。それともうちの町の女性陣、アナイナとかヴァリエとか奥さん陣にそういうのが揃っているのか。でもヴァリエはまだ町民じゃないから……でもそろそろ決めないとなあ……てかヴァリエ、家が新しく出来てたのを指摘してなかったなあ……。そういう町、って納得してるのかなあ……。「で?」 突っ伏した体勢のまま、視線だけがぼくに向く。「この町でやらなければならないことは、何だ?」「絶対やらなきゃいけないのは、家具づくり」「ああ、町の人間全員で作るのか。しかし俺のスキルは」「スキル関係ない。……ああでも出来た家具の平均価格を鑑定してくれると嬉しいけど」「待て、おい待て。俺は職人じゃないぞ」「うん。ていうか家具職人はこの町一人もいない」 ポルティアの顔面に疑問がたーくさん浮かんでるよ。「……ああ、分かりました」 ナーヤーが手をポン、と打つ。「私たちの家のように、望んだものが出来る、というわけですか?」「んなわけあるかっ」「あります」 一瞬浮上したポルティア、また撃沈。「個人の物は個人の望みで出来るけど、町で作る外に売り出す品は町民全員が望まないとちゃんとできないんだ。町の人間全員が「これが必要」って思うこと。それが必須条件。でも、それがあるから、スピティに持ってけるほどの家具が出来る」「デザイナーは」 ぼくがシートスを見ると、シートスは少し笑った。「今は家で大人しくしているわ。水路を作る時には起こしてくれって言ってたけど」「毎日寝てる?」「寝溜めするって言ったのを
Last Updated: 2026-07-02
Chapter: 第63話・驚愕の極み「ちょちょ、ちょっと待て!」 家の中に入ったポルティアの声が裏返っている。「何だ、何なんだこの高級な家具の見本市は!」 出てきて開口一番これだ。「あれだ、これは俺の家じゃない、グランディール製の家具の見本市だ」「家具はグランディール製で間違いないけど、この家はポルティアので正しいよ」「だけど、あれ!」 ポルティアが指した先を見れば、それはまあ立派な家具の見本市。「ああ、そうか、家具を鑑定できるだけじゃなくて欲しかったのか」「いや、確かに俺の欲しい家具ばかりだけど! こんな高級な家具、家、適当に町外れにあっていいものじゃない!」「でも、それがポルティアの希望の家なんでしょ?」「希望過ぎて怖いわ! 俺の稼ぎで買えない!」「どの家も稼ぎでできたわけじゃないよ?」「は?」「ああ、あんたが新入りか」 畑の手伝いに行っていたらしいヴァダーが、汗を拭いながら戻ってきてポルティアの顔を見た。「あなたはこの町の町民か」「ああ。家がすごいんだろう?」「すごい? そんな言葉で形容できるか! ピーラーもこんな家に家具揃えてないぞ!」「町長の「まちづくり」のスキルのおかげだ」「は?」「町民の理想の家が出来る」「はあ?」「正確には、町民が理想、あるいは必要とするものを、町が具現化するんだ」「はああ?!」 何て見事な「は」の三段活用。「こいつ、何してた人だ?」「スピティの門番って言うか、フリーの家具鑑定師。だから見てるものはいいのばっかだと思う」「あー。高すぎて手に入らないけど欲しいのがいっぱい出てきたのか」 うんうんと頷くヴァダー。「なんだ、欲しいものが手に入ったなら素直に喜びゃいいのに」 マンジェが呆れたように言った。「高すぎて怖い! 俺の人生何回分で揃えられるのか……!」 ナーヤーは……。 入口に座り込んでいる。「大丈夫?」 シートスが声をかける。「わ、私が子供の頃に住みたかった家がそのまま出来てる……。嘘……」「うん、そうなの。思った家が出来るんだよ」「うらやましいです、わたくし、まだ町民として認められていないから、家がないから……」 アナイナとヴァリエも落ち着かせようとナーヤーに声をかけている。「ちょっと、ちょっと待て。この町の町スキルって……いや町長のスキルか……? 町に必要なものが生えて来るって、文
Last Updated: 2026-07-01
Chapter: 第62話・新町民ご案内 というわけで、湯処。 一応体が汚れている人が入る時はしっかり洗ってから、という決まりがあるので、ポルティアは洗い場でこすられてから湯に入った。「……こんな広い湯処、初めてだ」 湯の中に放り込まれたポルティアが、呆然と呟く。「……ちなみに、使用料は?」「使用料?」 考えてもなかった。「……まさか、タダ……?」「ていうか、今のとこ、この町でお金って使ったことも使われたこともない」「家具売って出来た金は?」「スピティで食糧とか買った」「その割り当ては?」「みんな平等のご飯になりました」「…………」 もはや言葉も出ない模様のポルティア。 そう言えばお金のことって考えなかったよなあ。町の施設もいるものも望めば生えてくるから……。ご飯とか野菜とか、外の物を手に入れる時くらいしか使わないなあ。「……エアヴァクセンを超える、か」 ぽつりと呟かれた言葉に、ぼくは頷いた。「それがぼくの目標。でも、最終目標は違う」 お湯で顔を洗って、ぼくは続けた。「最終目標は富める強国ディーウェスだけが持っていたSSSランク」「SSS……!」「無茶な夢って思うだろうけど、この町に住んでいるみんなは信じてる。こうやって町を大きくしていけば、いつかはその称号を手に入れられるだろうって」「…………」 ポルティアは天井を仰いだ。「とんでもないスキルと、途方もない夢、だな」「分かってる」 でも、とぼくは付け加えた。「ぼくのスキルは、そのためにあるんだと思ってる。エアヴァクセンのミアスト町長を見返して、最高の町を造るために」「そうか」 ポルティアは腕を伸ばした。「俺はポルティア・ポーター」「ん?」「スキルは「家具鑑定」。レベルは3000。正直スピティの門番って言うのは家具を見るから、単純に門番として役に立たないのは分かってる。それでもいいなら」「いいの?」「……いや、町長がそれでいいというんなら」「良かった」 ぼくはほっと息を吐いた。「そんなに俺みたいな役立たずでも嬉しいのか?」「半分はそれだけどもう半分は違う」「半分?」「町民になったから、着替えが出来る」「……は?」 脱いだ服は洗っておくから、ということで引き取ったのだけれど。「町民ってなったら、服も出来る」「服……《《出来る》》……?」「ああ。家も出来てるだろうな。
Last Updated: 2026-06-30
Chapter: 第61話・一番の町「こんな町って……」 ポルティアが呟いた。「私、これまで旅した中でも、一番と言っていい町ですよ」「え? ほんと? それは嬉しい」 ナーヤーありがとう。それはすごい褒め言葉。「家具って特産なしでもここに住みたいって奴は大勢いるだろうに、何故俺たちを?」 改めて聞き直したポルティアに、ぼくも真面目顔……町長の仮面をつけて答える。「この町を造った第一目的は、エアヴァクセンに勝つこと」「エアヴァクセン……鑑定、SSランクの町か」「この町に住む、ぼくを含んだ半分近くがエアヴァクセンから追い出された放浪者なんだ」「こんな町を造るようなスキルの持ち主を追い出したってのか?!」「うん。ぼくの場合はレベル上限が1、つまりスタート状態で上限に達しているから鑑定式の時点で不要だって言われた。実際にはこの町のほとんどを造ったほどのスキルを、ね」「……馬鹿だな、エアヴァクセンも」「でも、私たちは|この町《グランディール》に見合うほどのスキルはないわ」「だから、スキルは求めてないって」 ぼくは二人を見た。「ここに住みたいっていう人、他の人と仲良くやってくれる人、約束を守ってくれる人。そうであれば立場も身分もスキルも問わない。ああ、ちゃんとみんなで食べていくために畑の手伝いとか掃除とかそういうことをしてくれる人なら大歓迎」「……えらく条件が良くないか」「ぼくの条件はこれを守ってくれる人。それ以上は求めない」「これが、私たちの今の立場でなければ大歓迎なんですが……」「大歓迎ならいいじゃない、問題なし」「いや、ある、あるぞ?」 慌ててポルティアが口を出してくる。「俺たちは貴方たちの町を見つけることを依頼されて、失敗してここに来てるんだ。俺たちが気を変えてピーラーにこの情報を売ったら」「売らないでしょ」「あ?」「だから、売らないでしょ? 依頼失敗したからってあっさり切ってここに取り残すような依頼主に、そんな義務を果たすだけの義理もないでしょ?」「そりゃあ……そうなんだが」「それに、ピーラーの性格からしたら、二人がスピティに戻っても戻れないくらいにはしてあると思うね。悪い噂流すとか、他の門番に知らせておくとか。ナーヤーもピーラーと長い付き合いなんだから、その性格くらいは分かってるだろ?」「……ええ。顔もいいし演技も超一流だけど、他人の意見なんて
Last Updated: 2026-06-29
Chapter: 第60話・見学「とりあえず見てから」 こっちも最初からそのつもりです。 会話の間にアレの「移動」スキルも発動可能になったし。「グランディールに住まないってなっても、約束は守ってもらう」「グランディールの場所をか?」「ううん。それ以上の秘密を」 ポルティアとナーヤーが顔を見合わせる。 そして同時にぼくを見た。「場所が知られたくないんで逃げたんじゃないのか?」「いやー、場所なんてあってないようなものなので」「……貴方のスキル「まちづくり」に関係がある?」「うん、まあ、そう」「……分かった。貴方には俺たちを助けてくれた恩がある。住まないとしてもグランディールの秘密とやらを明かさないと誓おう」「私もです」「ありがとう」 そしてアレを見る。アレは頷いて「移動」した。 移動したのは、荒れた土地が斜めになっている場所。雲で太陽が隠れていて、より一層辛気臭く感じる。「ここは? ここが……まさか、この荒れ地がグランディールと言うのか?」「言わない。ヴァローレ」 ヴァローレの瞳が金に光る。辺りをじっくり見まわして、頷く。「誰も居ない」「OK。今、呼ぶから、待ってて」「呼ぶ?」 見てりゃ分かるので、説明を省いてグランディールを呼ぶ。「……ん?」 光が遮られて見上げた二人が口を開けたまま上を見続けている。 グランディールはゆっくりと降りてくる。 微かな音を立ててグランディールは水平に着地した。「はい、グランディールです」 まだ口が開いている。虫入るぞ。「……待て、ちょっと待て」「何を待てばいいか分からないけど待つよ。何?」「本名はペテスタイ、とか言わないか? この町」 うん、伝説の空飛ぶ町。浮いてて降りてきたらそっちを疑うよな。「いいえ。グランディールです。能力はペテスタイをパクったけど」「パクった?」 ていうかぼくのスキルの反則技なんだけど。「とりあえず町の中に入ってしまってくれないか? 何処からか見られてると厄介だからさ」「お……おお」 ぼくたちで二人を囲んでとりあえず入る。全員入って、グランディールを浮かせる。 門につかまって体を固定させながら遠くなる地面を見下ろして、そしてぼくを見て、ポルティア、一言。「……なんで浮くんだ」「浮くようにってしたから」「そんなんで浮くのか?」「浮いてる」「すごい……浮いてる
Last Updated: 2026-06-28
Chapter: 第59話・実はスカウト「あなたも、逆らえなかったんですね?」「……ああ」 家具の町スピティの門番は大体どこかの商会と繋がっている。新しく町に入ってくる家具を鑑定して、良い家具を自分の商会に持っていく。フリーだったポルティアは、ぼくらの持ってきた家具を見て、最大の評価をして、大商会二つに繋いでくれた。でも、その裏でピーラーと繋がっていたんだろう。多分相当売り込んだはずだ。でなければ「新人潰し」の異名を取るほど新人好きな取引相手でも、一つの商会で四ヶ月かかる注文をするなんて真似はしないだろう。「ピーラーはいい取引相手だった。無茶は言うが、それに相応する報酬はもらえた。だから、あの日、ピーラーにあなたたちの後を尾行しろと言われても疑問に思わなかった。ピーラーは気に入ったものは何でも手に入れたがるから」「ピーラーの愛人兼使用人のナーヤーと俺、二人がかりの尾行で、見つけられないものはなかった。……今までは」 ポルティアは渋い顔をした。「多分、スキルなんだろうが、どうやって俺たちの目を眩ませた?」 ぼくは素直に話した。 ぼくのスキル「まちつくり」で、町とも言えないこの門と塀を作り、時間稼ぎする間に「移動」のアレがグランディールに行って「鑑定」のヴァローレを連れてきて、スキルを察知、それを捨てて、町の塀だけ残して「移動」で帰ったと。「「鑑定」「移動」……スピティにもそうはいないスキルだな。なんで出来たばかりの町があんな家具やスキルを……いや、それが「まちづくり」のスキル……?」 ポルティアはぶつぶつと考えている。フリー門番やれるくらい頭の切れる人だ、判断も早い。「で、わざわざ俺たちを助けに来たのは、ピーラーの情報を得たいのか?」「いいや、情報はいらない」 ポルティアは渋い顔をした。ここでピーラーを売って、自分たちを安全な場所に送ってもらおうと思っていたんだろう。取引の種を失ったと思って。「うちは「知識」があるから。必要な情報は安全に手に入る」「……そうか」「実は、別の話が合ってこっちに来たんだ」「別の話?」「ああ。……うちの町に来ないか?」「は?」 きょとん。 そんな擬音がしたと思うほど、ポルティアもナーヤーも丸い目を見開いてこっちを見た。「グランディールに?」「そう」「お前……正気か?」「こんな話が出来る程度には正気なつもりだけど」「俺たちは、ピ
Last Updated: 2026-06-27
Chapter: 第185話・すべては終わり 十年後。 瑞希と一緒に、バスを降り、少し歩く。 辿り着いたのは、十年前から更地になったままの場所。「おう、来たか」 壮は僕と瑞希の姿を見つけて、軽く手を挙げた。「お前らも毎年律儀だな。こんな跡地に来るなんて」「それを言うなら壮だって」 あの時、学園長と地下研究施設全てを失った弧亜学園は、秘密の研究で全人類のコアを消したのではないかとの疑いをかけられ、国連に全ての研究データなどを没収された。 しかし、肝心なことは、羽根さんは自分の命と一緒に持ち去ってくれたので、残っていたのは動かすコアのないコアコンピュータだけだった。 学校が廃校になって、十年。 更地にされた学園に、僕たちは、一年に一回やってくる。「人のうわさも七十五日」 瑞希が呟いた。「弧亜学園が叩かれて、コアがなくなって。人類どうなるかと思ったけど、案外コアがなくても生きていけるものなのね」 跡地に花を置いて、瑞希は呟いた。「なんだか、あの時のことが、夢みたい……」「でも、覚えてるだろ?」 こうやって、人類が滅亡を免れた日に、花を手向けにやってくる。 羽根さん。長田先生。学園長。地下にいたコア生物や新人類、そして、ココ、ナナ。「僕たちが墓場まで持って行けば、それでこの一件は水の泡。もう誰も、コアがあったことなんか思い出さなくなる」「そうね……」 しばらく僕たちは合掌した。「飲みにでも行くか?」「まだ日中だよ?!」「いいだろが、今日は記念日だ。飲んでいいんだ、俺的に」「相変わらずね、壮君は」「はん、そう簡単に変わってたまるかよ」 僕たちは、歩き出した。 だから、気付かなかった。 木陰に、緋色の光を放つ何かが、落ちていたことに……。 完
Last Updated: 2025-12-03
Chapter: 第184話・コアを染めて『私の間違いは正されたのですね』 突然、合成音が聞こえた。「何、この声」「羽根さん」「羽根?!」 まだ人間の姿を取り戻せていない長田先生があちこちを見る。『ありがとう、丸岡くん』「羽根さん……これで、終わったんですね?」『まだ、終わりじゃないわ』 合成音は静かに告げる。『新しい人類の道をやり直さなければ、同じことはまた起こる』「どうすれば……?」『全てのコアを、ナナに命じて、貴方のコアの望みのままに、透明に、そして、無に』「……って、それって、地球からコアが消えるってことか?」 彼方くんの問いに、羽根さんは、是、と答えた。『このままコアを残しておけば、人類が成長する限りいずれは誰かが私と同じ結論に辿り着き、同じ結果を導き出す。そして、その時に貴方が、そして透明なコアがあるとは限らない』「無茶だろそれ。今の人類の研究や実験は、ほぼすべてコアか、対コアとして進んでる。コアが突然なくなれば、インフラにも影響がデカい」『そこは、人間の可能性に賭けるしかないわね』「無責任だな」『私のいない未来だもの』「なら生き延びて新しい道を示せよ」『私と言う存在がある限り、人類はコアを諦めない。人造コアの研究すら始まろうとしているのに、唯一残ったコアの繋がったスーパーコンピュータなんて、戦争を起こしてでも勝ち取りたいものよ』「長田先生は……それでいいですか」「私は長生きをし過ぎました」 人間の姿も取れない、黒茶の平面の生き物は、そう言った。「コアがなければ生きていけない身体……見ての通り、もはや人類ですらない。私たちこそ旧人類。コアなき世は、君たちが創るべきです」「丸岡くん……」 渡良瀬さんが、泣きそうな顔で言った。「それって、先生も、先生の妹さんも、死んじゃうってことよね……? やだよ、そんなの……」「死ぬんじゃありません」 平面の黒茶の一部がむくりと伸びあがり、渡良瀬さんの頭を軽く叩いた。「元に、あるべき姿に戻るだけです。私たちは死にませんよ。本当のことを誰も知る必要はない、ここにいる三人だけが知っていればいい」「カピパラ……いや、長田」 彼方くんは、ちょっと唇をかんでから、言った。「散々悪口言って、悪かったな」「気になさらず。君こそ変わりました。君と丸岡くんを教えられたことは、私の誇りです。渡良瀬さんが死んでほし
Last Updated: 2025-12-03
Chapter: 第183話・透明に「まだ覚えていてくれたんですかー」 学園長の一部、金色の光の中から、その声は聞こえた。「色々あり過ぎてー、新しい相棒も手に入れたみたいだからー。私のことなんて、忘れちゃったかと思ってましたー」「忘れるわけないさ」 あの日。弧亜合格を教えてくれたのは、ココだった。 お節介で図太くて図々しくて気紛れで……でも。「君は、僕の、コア監視員だよね」「何を……」 学園長が何か言おうとしたけど、金色の光が強くなってそれを止めた。「それは、今でも有効?」「そりゃーそうですよー。私を仕込んだのは|救世主《メシア》ですけどー、私と言う存在を形作ったのは丸岡さんですものー。私はー、意識ある限りー、丸岡さんをー、監視しますー」「じゃあ、今僕の考えていることは分かるよね」「丸岡君?!」 長田先生の不安に歪む声に笑いかけて、そして僕は恐らくココがいるだろう場所を見た。「協力してくれるかい?」「難しいですねー」 当然、上手く行くとは思ってなかった。ココは学園長が生み出したコア生物だから。「でもー」 いつもの調子で、ココは言った。「丸岡さんがー、私のことを一生覚えていてくれるって約束してるならー。それならー、協力するかもしれませんねー」「!!」 学園長は目を丸くする。 僕が乗っている長田先生も、一瞬震えた。「バカなこと言うなよ、ココ」 僕は笑った。「確かに僕らの繋がりは半年もなかった。だけど、一緒にいた、一番気にかけてくれた相手を、僕が忘れるわけないじゃないか」「そうですかー」 ココの声は楽し気に聞こえた。 そして、金色の光がぞわぞわとまだらに光る色を押しのけていく。 学園長の胸部の、ちょうど真ん中。「絶対の絶対ー、死ぬまでー、忘れないでー、下さいねー?」「忘れないよ。忘れられるものか」 僕は透明のコアを、光の渦の中心に向かって突っ込んだ。「だって、僕らは、相棒だったんだから」「ぅあっ!」 もう一度、悲鳴。 透明のコアを、学園長の胸部に直接押し付ける。「染まりたいんだろ? 染めてやるよ……透明に!」「やめっ、やめてっ、いやっ」 コアの触れた胸から、学園長の肉体が透明になっていく。「やっと手に入れた肉体なのに……やっと手にした結果なのに! こんな所で! 旧人類に!」「君たちが新人類となる夢は破れた」 僕は透明に染め
Last Updated: 2025-12-03
Chapter: 第182話・ラスボス最終形態 次の瞬間、パッと暗闇が消え、あの時と変わらない距離で、全身に無数の色をまとわせた学園長がいた。「随分前衛的になっちまったな」「まだらですね」「もう……私は、間違いを犯さない」 学園長……無数の色の集まりは、明らかに僕たち四人を狙っていた。「私が……最終存在となる」「その色で妹を語らないでほしいですね!」「行くぞ渡良瀬っ」「分かってる!」 渡良瀬さんは、限界ギリギリまで、他者鎮静化の光をたくさんたくさん生み出した。 危機において、精神や肉体は時に実力以上の結果をもたらす。それはどんな生き物でも同じこと。 渡良瀬さんの力を、彼方くんは|空気弾《エア・バレット》の先端につけて、様々に軌道を変えて打ち出した。「ゥア……ア……」 明らかに、まだらに染まった光が色を失っていく。 他者鎮静化とは、僕の透明コアに近い能力だった。色を一時的に奪うことで相手の力を弱める。そんな彼女と僕が、そしてそれを弾丸の先に乗せて撃ちだせる彼方くんとが、受験で出会ったのは偶然か? あるいは学園長が何か企んだのかもしれないけど、助かった。 これで、随分色を削れる。 僕は長田先生の背中らしき所に捕まって、光の弾丸を受けて悶える学園長のすぐ近くまで進攻していた。「ナナ!」(はい!) 今の僕には分かる。透明なコアが、全てを透明にしたいという欲望を持っていること。 上手く手綱を取って長田先生にその力を向けないようにしながら、僕は右手を伸ばす。 透明なコアが見える。 学園長を取り巻く《《色》》は、それが必要なものだと判断して手を伸ばしてくる。 でも、触れる度、色が怯えて遠ざかっていく。「いいのかしらねぇっ?!」 学園長の狂喜に満ちた笑みが、そのまだらの顔に妙に映えた。「この光は貴方達と同じ人間、光が消えればその人間も死んだことになる! ふふ、まあ同士討ちが当たり前の最低種族だから、脅しにもならないかもだけどっ!」 言いながら、学園長は手を伸ばす。僕の透明コアを手に入れるために。「あなたの中にいる全員が、あなたに従っているとは思えない」 そして、僕は呼んだ。「ココ」
Last Updated: 2025-12-02
Chapter: 第181話・ラスボス戦 長田先生の静かな声にも、焦りがにじんでいた。「世界中の人類についているコアを呼び集め、新たな人類の一部として目覚めさせようとしているんでしょう」「新たな人類の、《《一部》》?」「なるほどね」 僕はすぐに納得がいった。「学園長がなろうとしているのは、間違いを犯さないために無数の判断装置がついた究極の精神体。世界中の人類の意識を奪えば、そしてその意識を支配下に置けば、間違いを犯さない永遠の支配者と成り得る」「全人類を支配下に置いたところで間違わないとは思えないけどな」 彼方くんの言葉に僕は頷いた。「そこまで追い詰められたってことだけど……」「だけど、世界中のコアを集めるってことはさ、ゲームで言えばラスボスが、残り一桁のヒットポイントを全回復したってことじゃない?」 暗い中、僕のコアが放つ光に浮かび上がった渡良瀬さんの顔は、見るまでもなく真っ青。「全回復どころか攻撃力に防御力もアップさせただろうね。だけど」 僕は渡良瀬さんに向かって笑いかけた。「負ける気は、ない」 それより、と僕は黒い壁を見る。「長田先生、先生は大丈夫なんですか?」「私はコア肉体を私の支配下に置いた存在」 長田先生は少し苦し気で、でも正確に答えてくれた。「あの《《妹もどき》》がどれだけコアを呼び集めようと、僕の心臓や脳とも同化しているコアは、僕から離れれば死ぬ時だと分かっているから、離れません。結果、こうして君たちをあいつの影響から庇えますが……あいつが完全体になって襲い掛かってきた時、君たちを守ることができるか自信はありませんね」「それなら大丈夫です」 渡良瀬さんと彼方くんの顔がこちらを向く。長田先生の意識もこちらを向いていることが分かった。「今のはラスボスの第一段階、第二段階だった。そして今、最終段階になろうとしている」「なんか手があるんだな」「あるよ。君たちが無事でよかった。長田先生がいてくれてよかった。僕一人じゃ相当てこずった」 そして、僕は作戦をみんなに伝える。「なるほどな」「……頑張る」「その役目は引き受けました」 その時、地面が揺れた。「地震?」「いいや、足踏み」 僕が呟く。「先生、地球中の人類の意識を、あいつは取り込んだんでしょう」「はい」 ああ、久しぶりに長田先生の「はい」が聞けたな。最初に聞いた時はバカにされてるん
Last Updated: 2025-12-02
Chapter: 第180話・追い詰められて 僕は、金色の鞭を掴んで全力で引っ張った。 学園長は慌てて鞭を放す。色なき浸食からギリギリで逃れながら、僕を見ていた。 |創造主《クリエイター》を名乗り、|救世主《メシア》を名乗ったあの余裕の笑みは何処にもない。 ただ、自分を裏切った者たちに対する恨みがあるだけ。「くっ、このっ!」 学園長の行動は読めた。彼方くんの|空気弾《エア・バレット》のように攻撃を仕掛けながら、隙をついて僕からコアを奪い取る。 だけど、そううまくはいかせない。 僕は、僕の内から溢れ出す透明コアの力を、空気のように操った。 学園長が生み出した以上の透明の弾丸を用意して。「死になさいっ」「そっちの方だ!」 同時に金と透明の弾丸の嵐が互いに襲い掛かった。 透明の弾丸をすり抜けて僕を狙ってきた金色の弾丸は、僕の右肩口や足にぶつかり、血を噴き出させる。「……痛いね」 笑って、呟いた。「でも、分かったから、いいか」「何が……やられておいて、何が分かったのかしら?」 もちろん学園長に教える義理はない。ただ、透明に侵食させて力を失う能力は、どうやら無意識の内には出せないらしい。あくまで僕が意識してでないと無理なのか。 だけど、僕が受けたのは数発。しかもまだ透明コアを狙っている学園長は僕を本気で殺そうとはしていないから絶妙に急所を外してきている。 アドレナリンが噴出しているのか、痛くも痒くもなく、僕は笑う。「次の攻撃と行こうか」 僕は左足を引きずって前に出た。 学園長を覆う金色の光が、随分と弱くなっている。「負けない……私たちの力を借りなければ、歴史すら刻めなかったような生き物に、私は負けない……!」「僕も負けない」 笑って、言う。「全人類を背負う気はないけど、何人かの大切な人を助ける為なら、全人類だって救って見せる」「その全人類が消えたらどうなるでしょうねえっ!」「丸岡君! こっちに!」 ケガをしていない左肩を掴んで引っ張ったのは、長田先生だった。「丸岡っ」「丸岡くんっ」「三人とも、動かないで!」 長田先生は自分の身体を丸めるようになりながら巨大化し、すっぽりと僕らを覆った。 外で何が起きているのか。「先生……学園長は今、何を」「旧人類のコアを集めようとしているんです」
Last Updated: 2025-12-02