Chapter: 第7話 罠「皇帝陛下、皇帝陛下。いずこに?」私は廊下を歩き、皇帝を捜していた。「皇帝陛下。梅皇貴妃が隼の餌を持ってきましたよ」しーんとしている。廊下をすたすたと歩く音と私の呼び声。それだけが響く。中国の王宮は静寂を好むのか。騒がしさとは無縁のようだ。「だれかおらぬか? 皇貴妃じゃ。梅妃が皇帝を捜しておる」中国の王宮で暮らす私の身分は皇貴妃。現世の主婦から貴族へと華麗に転身、異世界転移して第二夫人の体になった。姿は現生の私とほぼ変わらない。現世に夫を残して未練はないが、皇帝の愛がほしい。夫似の召使にそそのかされた。皇帝の寵愛を得たいなら、皇帝が愛玩する隼の喜ぶニワトリを園庭に放ちなされ、と。単純な私は、それがいいと思った。生きたニワトリをゲットしに、厨房の裏へ行った。そこには大きな竹籠があり、中に生きたニワトリがたくさんいた。首尾よく生きた一羽を生け捕りにした。さすがは私。ワイルドな性癖は健在だ。ただ、手にニワトリを持つ姿を夫似の召使と白虎王子に見られ、少々気まずかった。ところで、隼の居場所が分からない。皇帝に教えていただこうと、皇帝を捜して広い王宮内を歩き回った。廊下を歩き、皇帝の寝所に辿り着いた。以前、皇帝の寵愛を受けた思い出深い寝室だ。自然と足が向いた。だが、そこに皇帝はおられなかった。残念だ。別の部屋を探した。手にしていたニワトリがバサバサと羽ばたいて邪魔だ。それを持つのが鬱陶しくなり、庭に放り
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-06-15
Chapter: 第6話 企み中国の王宮で暮らし、しばらくたった。 梅皇貴妃と呼ばれる私は、第二夫人として、宮中でそれらしく振る舞った。 その身分を受け入れ、貴婦人らしく振る舞いさえすれば、何不自由のない|豪奢《ごうしゃ》な生活を送れた。 現世ではただの主婦だったから、気持ちのいいことこの上ない。 本来はその世界の住人でなく、中国だの、宮中だの、何も知らない。 知らなくても、ここの人は皇貴妃だと言い、すり替わったことを疑わない。 元のままだと信じる人がいるなら、演じるだけだ。 お陰で中国の王宮生活にも慣れ、かなりいい気になっていた。 私は貴婦人である。皇貴妃という身分は、皇帝の愛を受け入れる二番目の夫人らしい。 皇后は上から目線で来るけれど、私を冷たく扱うことはなかった。 他の夫人たちは、一様に私に頭を下げる。身分が違っても、それほど露骨な差はないのかもしれない。 私も他の夫人を邪険にすることはなかった。 第二夫人ならば、できるだけ早く、できるだけ多く、皇帝の寵愛を受けたい。 女の性だ。 自分としては、皇帝に尽くすことが仕事だと考えた。 綺麗に見せるのも、美しく着飾るのも、極言すれば皇帝の愛を受けるためと言ってよい。 夫似の召使が私に近づいたのは、王宮に来て四日目の朝だった。 「梅妃様。よいことがございます」 「何じゃ?」 その頃には、私は夫似の召使と気心が知れていた。 その召使は、顔といい、声といい、愚夫によく似ていた。 その影響もあり、夫似の召使に信頼を寄せていた。知らない王宮に来て、いろいろしてくれる召使に、妙な親近感を覚えていた。 召使は周囲を窺い、さっと近寄って私に耳打ちした。 「皇帝のお気に入りはご存じでしょう」 「と言うと?」 私は知らないのに、複数のお気に入りがあるように取り繕った。 「|隼《はやぶさ》でございます」 夫似の召使は|狡《ずる》そうに笑った。 「ああ、あの鳥のことか。たしかに皇帝は隼を可愛がり、|天塩《てしお》にかけて育てておられる」 さも知っているような口調で話を合わせた。 おまけに、召使にウインクして私も声を落として話した。 我ながら、図々しい神経と調子のいい性格の持ち主だ。フフフ。 「はい。もっとも、餌やりやフンの始末は、私どもの仕事ではございますが」 「それで、何が言いたいのじゃ?」
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-06-12
Chapter: 第5話 宮廷料理どういうわけだか、中国の王宮のような場所で暮らすようになった私。しかも、都合のよいことに、皇貴妃という身分でいられる。とても嬉しい。中国の王宮の生活にもかなり慣れてきた。私は貴婦人である。相手として対象になる男性がいるなら、それは皇帝だろう。皇后とは風呂でご一緒した。さすがに皇后だけあって気品にあふれ、息を呑むほどに美しかった。私もそうありたいものだと思った。何かしたければ、お付きの召使か女官を呼べばいい。どんなささいなことでもしてくれる人たちだ。彼らを使うことに抵抗がなくなった。それだけ、信頼を置いていた。王宮には複数の女官と召使がいた。とくに夫似の召使が私の身の回りの世話をかいがいしくしてくれた。髪の毛を櫛で丁寧に|梳[《す》いてくれた。手の爪や足の爪をつんでくれた。着物を選んでくれた。喉が渇くと、お茶を持って来てくれた。ベッドメイクをしてくれた。湯あみのときに、桶や甕に湯や水を張ってくれた。暑いときはおおきな団扇であおいでくれた。寒くなれば、きっとその真逆のことをしてくれるに違いない。書を書くときは、墨と筆を用意し、終わったらきれいに洗ってくれた。つまり、私はとくに何もしなくてよいのだ。はじめこそ、夫似の召使は私のために献身的に働いた。自分で何もしなくても彼が率先し、代わりにやってくれた。きわめて楽ちんだった。小石を敷き詰めた庭に出た。園庭は美しく掃き清められ、枝ぶりがきれいに整えられ、見事だった。池にはおおきな錦鯉が泳ぎ、亀もいた。広い池にはサギが羽を休めていた。西の方から太陽が差し、池に光が反射する。サギの広げた羽に注ぐ陽光が、白い羽を明るく際立たせる。せっかく中国王朝に来たのだから、皇帝にお目にかかりたい。どんな人
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-06-11
Chapter: 第4話 極上の湯あみどういうわけだか、中国の王宮のような場所で暮らすようになった私。しかも、都合よいことに、皇貴妃という身分にあるのだから、とても嬉しい。私は貴婦人である。相手として対象になる人がいるなら、それは皇帝をおいて他にいないだろう。何かしたければ、お付きの召使か女官を呼べばいい。実際、女官に服の着替えや、ベッドメイクをしてもらった。恥ずかしかったが、トイレを頼んだときもあった。彼らを使うのにも、すっかり慣れた。二十畳ほどの広い部屋に一人ぽつんといると、ちょっと寂しい。体に少しむずがゆさを感じ、入浴したくなった。召使を呼んだ。「風呂に入りたいのじゃ」「はい。準備して参ります。しばし、お待ちを」やがて、先ほどの召使がやって来て、私の前にかしずいた。この召使はよく目にする。私専用の係なのか。顔こそ違うが、背恰好が現世の夫に似ていた。夫似の召使だ、と心中で思った。「梅皇貴妃。こちらへ」廊下を通り、天井の高い大きな部屋に入った。人が十人以上入っても、ぶつからないくらいの広い空間だ。窓は中国風の装飾飾りで区切られている。赤や緑、金色で塗られている。梁や天井も、中国風の細かな彫刻と飾りが施されている。実に贅沢な浴場である。その部屋には、石組みの浴槽が一つあった。「ここにお立ちくだされ」「そうか」召使は大きな浴場内の中央にある、小型の建物に誘導した。建物内の建物だ。四本の赤い柱で支えられた、小型の屋根付き建物。「この小さな建物はなんという?」「これでございますか。|四柱亭《よんちゅうてい》にございます」「よんちゅう、てい?」「さようで。四つの柱に支えられた『亭』にございます」「さようか」私は四柱亭と呼ばれる屋根付き建物の中心に立った。部屋の中にさらに屋根付き建物を配することが、いかにも中国っぽい。召使は大きな桶二つと無地の|甕《かめ》を三つ用意していた。桶に張った水から湯気が立ち上っている。どこかで水を焚いたのだろう。彼らは俯き、床を見ていた。片膝をついて、何かを待っている。「衣服をお脱ぎくだされ」あ、そうか。たくさんの人がいて、いろいろ準備をしているので、私自身がすることを忘れていた。「うむ。分かった。待っておれ」私は帯に手をかけ、スルスルスルと着物を脱いだ。脱いだ衣服は、女官が素早い動きで回収した。
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-06-10
Chapter: 第3話 生き物として昔の中国風王宮に来た私。タイムワープってやつなのか。難しい理屈に頭を使う気はない。そんな高級な頭脳すら持ち合わせてない。優雅な音色の笛と弦楽器。ゆるやかに、部屋に吹き渡る風。とても優雅な世界で、いつまでもこの屋敷にいたい、住みたいと願った。天蓋ベッドの部屋から出た。薄くて緑の絹の着物を着る私は、食堂を探した。板張りの廊下を歩く。まっすぐ進み、角を曲がり、またまっすぐ行く。突き当たりに左右の廊下があり、右に行く。あちこちに部屋があり、どこを曲がったのか、よく分からない。それにしても、お腹が空いた。お腹が空いたのに、だれも呼びに来ない。まさか、寝室で食事のわけもないだろう。私は貴族。優美に振る舞うの。そうよ。でなけりゃ、梅皇貴妃じゃないもの。グルルル、グー。また、はしたないお腹の音。体は正直だ。生き物として、しごく当然。食事前にこちらの世界へ来ればよかった。そんなつまらぬ後悔をした。皇貴妃の身分に合う食事を用意してほしい。中国らしい食事。食べられそうなメニューを頭に思い浮かべた。薄いピンクの饅頭、フカヒレのスープ、特製ラーメン。点心で出るケーキ。北京ダック。アワビの煮込み。とにかく、本で見た「満漢全席」のような、|贅《ぜい》を尽くした料理の数々。そんな食事を期待しながら、|涎《よだれ》が出そうなのをこらえて広大な屋敷の中をほっつき歩いた。途中、女官がお辞儀をするので、小さく頷いて会釈した。やっと、それらしい場所に来た。天井の高い部屋だ。ここが食堂だろう。「ここ、食堂かしら」 だれもいない食堂で呟いた。「おーい、だれかおらぬか」返事がない。テーブルには皿数枚が重ねられているだけだ。他の食器も、箸、スプーンもない。時間じゃないから、食べられないパターンかよ。私は、空腹を我慢できず、隣の厨房を覗いた。唖然とした。ここにも、だれもいない。でも、いいものを見つけた。饅頭が二つ、台座付きの食器に置いてある。私がいただくわよ。心の中で唱えるがいなや、素早く饅頭に手を伸ばした。表面がぷりんとして、大きな饅頭だ。手が動くより早く口が饅頭を迎えに行く。かぶりつくように、腹を空かした熊のように、猛烈に饅頭にむしゃぶりついた。そのあまりの旨さに、舌を噛みそうになった。「うまい! ああ、生き返った」あっとい
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-06-08
Chapter: 第2話 皇貴妃になる鳥が額にぶつかって、気を失った私──まったく、そんな偶然が起きるものなのか?いたって平凡で、それまでは変わったことなど何も起きなかった私。正月に縁起がいいモノと言えば、一富士、二|鷹《たか》、三なすび。あの鳥は鷹。そうではなく、もっと小さかった。小さいけれど、鋭い加速だった。私を獲物と勘違いしたみたいに、まっしぐらに飛んできた。うん。ぶつかる前のことをちゃんと覚えている。私は、何もかもを失ったわけではない。記憶がしっかりしてる。ちゃんと命もある。体も五体満足で、手足も動くし、顔も首も、上下、左右に動く。恐る恐る、手を額に持って行く。ちゃんと、額はあった。ちゃんとあるし、穴も開いてない。凸凹がないのが、本当によかった。ぶつかった形跡は今のところなさそうだ。詳しいことは鏡を見ないと分からないが、傷はないような触り心地だ。よかったぁ。整形外科に通わなくて済む。でも、ちょっと待ってよ──私はここにいていいのだろうか。知らない場所に、いきなり来てしまった。お邪魔……ではないのなら、ま、いっか。自身の記憶はしっかりと頭に残っている。私は普通のマンションに暮らす、平凡な主婦で|梅本《うめもと》|香里《かおり》。運悪く、高い階に住んでいた。それでなのか、大空から鳥が飛んで来た。鳥がぶつかった一瞬で、世界が変わった。どうしてこんな場所にいるのだろうか。どのように聞かれても、私には説明がつかない。夢でも見ているのか。そこははっきりした色と形から成る、独立した世界だ。たいへん、たいへん、たいへんよ。私はまったく知らない世界にいた。そこは王宮だった。私は王宮の建物の中にいた。そこは、明らかに、きれいな王宮だった。きれい? いや、いや。もっとすごい。きらびやかなとは行かないまでも、壁は朱塗りの壁であり、柱は太くて頑丈そう。天井に灯りはないが、部屋の四隅に|行灯《あんどん》が配されている。昔の中国風の王宮であり、なんとなく何かの映画で見た風景である。そして、現世では高級な中華料理店でしか流れないような、優雅な音色の笛と弦楽器がどこかで奏でられている。仕切りのないこの部屋にゆったりした音色が、風に乗って運ばれる。「女子十二楽坊の音楽だわ」その程度の理解でも充分すぎるほどの、とても優雅な音の世界。そんな中、私は|天蓋《てんが
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-06-08