Chapter: 第七話「オワコン、まさかの大逆転!?」翌朝。相沢ひまりはスマホの通知音で目を覚ました。ピコン。ピコン。ピコン。「……ん……。」まだ眠い。ぼんやりと画面を見る。通知が二十件。「え?」寝ぼけた頭が一瞬で覚醒した。さらに通知が増える。三十件。四十件。五十件。「な、何……?」慌ててSNSを開く。すると、目を疑った。昨夜投稿した子猫のイラスト。『いいね』の数が――五万を超えていた。「……え?」思考が止まる。何度も見直す。五万。間違いない。コメント欄を開く。『めちゃくちゃ可愛い!』『プロのイラストレーターさん?』『絵本にしてほしい!』『元子役って、この人!?』『絵の才能エグい……』『フォローしました!』「えええええっ!?」思わず叫んだ。何これ。どういうこと。昨日の夜には数百件だった。それが一晩で五万件。理解が追いつかない。すると。ピコン。また通知。フォロワー数が増えていく。一万人。二万人。三万人。みるみる数字が変わる。「嘘でしょ……。」その時。着信が鳴った。神崎蒼だった。「も、もしもし!?」『おはよう』のんびりした声だった。「おはようじゃありません!」『ん?』「何なんですかこれ!?」『ああ。バズったね』「バズったねじゃないです!」ひまりはベッドの上で頭を抱えた。『想像以上だなあ』「他人事みたいに言わないでください!」電話の向こうで笑い声が聞こえる。『でも、よかった』「よかった……?」『ほら、ちゃんと見つかった』「……。」『君の絵。』その一言に、ひまりは黙った。画面を見る。何万もの『いいね』。何千ものコメント。全部、自分の絵に向けられている。じわり、と目頭が熱くなった。『泣いてる?』「……泣いてません」『泣いてるね』「泣いてません!」完全に鼻声だった。また笑われる。『相沢さん』「……はい」『おめでとう』その言葉を聞いた瞬間。涙がぽろりと零れた。「……ありがとうございます」やっとそれだけ言えた。その頃。芸能事務所では。「え?」マネージャーがスマホを二度見した。「うそ……」社長も画面を見る。そこには、『元子役YouTuber・相沢ひまり、イラスト投稿が大反響!』というネット記事。「何だこれは……」社長の顔が引きつる。コメント欄
آخر تحديث: 2026-06-29
Chapter: 第六話「初投稿」「……やっぱり夢じゃないんだ。」帰宅した相沢ひまりは、テーブルの上に置かれた契約書を見つめていた。今日。自分の絵が、初めて仕事として認められた。有名企業のキャラクターデザイン。しかも、その場で採用が決まった。何度思い返しても信じられない。「私の絵が……仕事……。」胸がじんわりと熱くなる。だが同時に、不安もあった。本当にできるのだろうか。期待を裏切らないだろうか。また失敗するのではないだろうか。すると、スマホが震えた。『働きたくないな〜』神崎蒼からだった。「この人は……。」思わず笑ってしまう。『お疲れさまでした』送る。すると、すぐに返信が来た。『お疲れ』『今日はありがとうございました』『うん』相変わらず短い。『でも、まだ信じられません』少しして、返信が来た。『じゃあ、もっと信じられるようにしよう』「……え?」『絵、投稿してみなよ』ひまりの指が止まる。『投稿?』『SNS』『無理です』即答だった。『早い』『絶対に嫌です』『何で』『怖いからです』スマホを握る手に力が入る。ネットの言葉は怖い。ひまりは誰よりも知っていた。子役時代から。YouTuberになってからも。何度も傷つけられてきた。『下手』『期待外れ』『オワコン』たった数文字で、人は簡単に傷つく。『また叩かれたら嫌なんです』送信する。少し沈黙。そして。『じゃあ、一枚だけ』メッセージが届く。『一枚だけなら逃げてもいい』思わず吹き出した。何だ、それ。『逃げていいんですか』『いいよ』『普通、頑張れって言いません?』『無理な時は逃げてもいい』ひまりは画面を見つめた。この人は、どうしてこういう言い方をするのだろう。押し付けない。でも、そっと背中を押してくれる。『一枚だけ』その言葉が、不思議と心に残った。視線を机へ向ける。スケッチブック。そこには昔描いたイラストが何枚もある。その中の一枚を開く。子猫の絵だった。窓辺で眠る、ふわふわの白い子猫。自分でもお気に入りの一枚だった。「……一枚だけ。」小さく呟く。スマホを手に取る。写真を撮る。そして、投稿画面を開いた。指が止まる。怖い。やっぱりやめようか。そう思った時。また通知が鳴った。『まだ?』神崎蒼だった。『見張っ
آخر تحديث: 2026-06-28
Chapter: 第五話「この人、本当にニートなの……?」翌日の昼。相沢ひまりは、都内にある大手玩具メーカーの本社ビルの前に立っていた。高層ビルを見上げる。ガラス張りの外観。自動ドアを出入りするスーツ姿の人々。場違いだ。どう考えても場違いだった。「帰りたい……。」思わず本音が漏れる。すると隣から声がした。「俺も。」振り向く。黒いパーカー姿の神崎蒼が立っていた。「俺も帰りたい。」「何で来てるんですか。」「心配だから。」あまりにも自然に言われて、ひまりは一瞬言葉を失った。「いや、普通こういうのって一人で来るものですよね?」「そうなの?」「そうです!」「へぇ。」まったく気にしていない。この人は本当にマイペースだ。「でも、一人で不安そうだったし。」「……。」「だから来た。」ひまりは思わず目を逸らした。ずるい。こういうことを平然と言う。「ほら。」蒼がビルを指差す。「行こう。」「……はい。」二人は受付へ向かった。会議室へ案内される。中には三人の社員がいた。ひまりは緊張で背筋が固まる。「本日はありがとうございます。」頭を下げる。「こちらこそ。」社員の一人が笑顔を見せた。「実は、弊社で新しく発売する知育アプリのキャラクターデザインをお願いしたいんです。」「キャラクター……。」「はい。」テーブルに企画書が置かれる。子ども向けのアプリらしい。ひまりはページをめくった。次の瞬間。目が止まる。頭の中にイメージが浮かぶ。森。動物たち。優しい色合い。小さな男の子。一気に世界が広がった。「あ……。」思わず声が漏れる。「何か浮かびましたか?」社員が尋ねる。「え、あ……。」ひまりは慌てた。説明できない。頭の中には完成形があるのに。うまく言葉にならない。すると。「たぶん。」隣から蒼の声がした。全員がそちらを見る。蒼は企画書を指差した。「この企画、勉強させるというより、楽しませたいんですよね?」社員が目を見開く。「ええ、その通りです。」「だから、子どもが親しみやすいデザインがいい。」「……はい。」「かわいいだけじゃ駄目。」「!」「物語を想像できるキャラクターが必要。」会議室が静まり返った。社員たちが顔を見合わせる。ひまりも固まっていた。何で分かるの。企画書を少し見ただけなのに。「その通りです……!
آخر تحديث: 2026-06-27
Chapter: 第四話「私、本当に描いていいの……?」翌朝。相沢ひまりは、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。テーブルの上にはスマホ。画面には、有名企業から届いたDMが表示されている。『イラスト制作についてご相談があります』何度見ても消えない。夢ではないらしい。「……どうしよう。」ひまりは頭を抱えた。依頼を受ける。そのたった一歩が、とてつもなく怖かった。もし期待外れだったら。もし「こんなものか」と思われたら。もし自分に本当は才能なんてなかったら。そう考えるだけで胃が痛くなる。すると、スマホが震えた。『働きたくないな〜』神崎蒼からだった。思わず吹き出す。朝から第一声がそれなのか。『おはようございます、ニートさん』送る。数秒後。『まだニートじゃない』『じゃあ何なんですか?』『働きたくない人』『同じです』『ひどい』ひまりは少しだけ笑った。昨日まで、こんなふうに自然と笑えなかった気がする。すると、再びメッセージが届く。『で、依頼は受ける?』笑顔が消える。指が止まった。『まだ迷ってます』『そっか』『……怖いんです』正直に打ち込む。すぐに返信が来た。『じゃあ、今から会おう』『え?』『話したい』『でも……』『大丈夫』それだけだった。不思議だった。その三文字だけで、少し安心する自分がいる。一時間後。ひまりは駅前のカフェにいた。窓際の席。そこへ蒼がやってくる。今日もラフな格好だった。黒いパーカーにジーンズ。やっぱりニートっぽい。「おはようございます」「おはよう」蒼は席に座るなり言った。「眠れてないでしょ」「……何で分かるんですか」「目の下」ひまりは慌てて目元を触る。蒼が小さく笑った。「分かりやすい」何だか悔しい。「それで?」蒼が真面目な顔になる。「どうしたい?」「え?」「受けたい?受けたくない?」ひまりは俯いた。答えは決まっている。「……受けたいです」小さな声だった。「うん」「でも、怖いです」「うん」「失敗したらどうしようって」蒼は少し考えてから言った。「失敗したら、また描けばいい」「え?」「一回駄目だったくらいで終わりじゃない」当たり前のように言う。「でも……」「相沢さん」蒼が真っ直ぐこちらを見る。「君、自分に厳しすぎ」ドキリとした。「百点以外は失敗だと思ってる」「
آخر تحديث: 2026-06-26
Chapter: 第三話 「オワコンじゃない。君は天才だ」『イラスト制作についてご相談があります』スマホの画面を見つめたまま、相沢ひまりは固まっていた。何かの間違いではないだろうか。差出人は誰もが知る有名企業の公式アカウントだった。フォロワー数は百万人以上。名前を聞けば、子どもからお年寄りまで知っている大企業である。「……え?」思わず声が漏れる。もう一度画面を見る。だが何度見ても内容は変わらない。『弊社の新規プロジェクトにて、イラスト制作をご依頼できないかと思い、ご連絡いたしました』本物だ。ひまりは慌ててスマホを置いた。いやいやいや。無理無理無理。自分の絵を知っている人なんていない。SNSにも投稿したことがない。仕事として描いたこともない。どう考えてもおかしい。「……ドッキリ?」そう呟いてみる。だが公式認証マークも付いている。偽物ではない。頭を抱えていると、再びスマホが震えた。今度はメッセージアプリだった。送り主は――神崎蒼。『起きてる?』「……何でこのタイミング?」ひまりは恐る恐る返信した。『起きてます』するとすぐに既読が付く。『じゃあ、今から電話していい?』『えっ』返事をする前に着信が鳴った。早い。早すぎる。慌てて通話ボタンを押す。「も、もしもし?」『こんばんは』のんびりした声だった。いつもの蒼だ。ひまりは少しだけ安心した。「どうしたんですか?」『DM来た?』「……え?」ひまりは目を見開く。『有名企業からイラストの依頼』「何で知ってるんですか!?」数秒の沈黙。そして。『俺が紹介したから』「…………はい?」思考が止まった。「え?」『だから、俺が紹介した』「えええええっ!?」思わず立ち上がる。「な、何してるんですか!」『何って、紹介』「何で!?」『君の絵がすごいから』あまりにも当然のように言われた。ひまりは頭を抱える。「いやいやいや! 意味分かりません!」『分からなくていいよ』「よくないです!」蒼が小さく笑った。『でも、あの絵は誰かに見せるべきだと思った』ひまりは言葉に詰まった。『もったいないよ』優しい声だった。責めるでもなく、押し付けるでもない。ただ、当たり前のことを言うように。『君、自分の絵を低く見積もりすぎ』「……そんなこと」『ある』即答だった。『少なくとも俺は、
آخر تحديث: 2026-06-21
Chapter: 第二話 「君、この絵を自分で描いたの?」コラボ撮影は思った以上に順調だった。というより、隣にいる神崎蒼という男が予想外だった。撮影中も、「働きたくないな〜」「帰りたいな〜」「ゲームしたいな〜」などと好き勝手なことばかり言っている。スタッフも呆れていた。それなのに、不思議と場の空気は悪くならない。むしろ視聴者受けしそうな天然キャラだった。休憩時間になり、ひまりは控室でペットボトルの水を飲んだ。すると、「あ」蒼がテーブルの端を見つめる。ひまりは嫌な予感がした。そこには昨夜描いていたスケッチブックが置かれていた。慌てて手を伸ばす。だが一歩遅かった。蒼がスケッチブックを開いてしまう。「見ないでください!」ひまりは思わず叫んだ。しかし蒼は真剣な表情のままページを見ている。「……これ」一枚目は女性アイドルのイラスト。二枚目は街並みの風景画。三枚目は少年の横顔。どれも写真と見間違うほど繊細だった。「君が描いたの?」「そうですけど」「本当に?」「だからそうだって言ってるじゃないですか」ひまりは顔を赤くする。絵を見られるのは苦手だった。演技は見られる仕事だったのに、絵だけは違う。誰にも見せたことがない。秘密の世界だった。蒼はさらにページをめくる。幼い頃の落書き。学校帰りに描いた風景。仕事の待ち時間に描いた俳優たち。十年以上積み重ねてきた時間がそこにあった。やがて蒼は静かにスケッチブックを閉じた。「すごいな」「え?」「本気ですごい」ひまりは目を瞬かせた。褒められると思っていなかった。「お世辞なら結構です」「お世辞じゃない」蒼は即答した。その声には迷いがなかった。「少なくとも俺は、こんな絵を描ける人を知らない」ひまりは思わず視線を逸らした。嬉しいはずなのに、素直に受け取れない。今まで何度も否定されてきたからだ。「でも仕事にはなりませんよ」ぽつりと呟く。「どうして?」「絵で食べていける人なんて一握りですから」そう。ずっと言われ続けてきた。子役時代。撮影現場で落書きをしていた時も。事務所で絵を描いていた時も。『そんな暇があったら台本を覚えろ』『絵なんか仕事にならない』『将来の役に立たない』『時間の無駄だ』誰も絵を褒めてくれなかった。だから趣味として続けるしかなかった。蒼はそんなひまりを見つめ
آخر تحديث: 2026-06-21