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ゆこ
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Novelas de ゆこ

結婚式の端っこで、君と乾杯を

結婚式の端っこで、君と乾杯を

29歳のOL・瑠衣は、結婚式を一か月後に控えていた。 しかし婚約者の雅之が妹・真衣を妊娠させたことで婚約は破棄。結婚式まで妹に乗っ取られ、両親からも「妹のメンタルが云々」と家を追い出されてしまう。 居場所を失った瑠衣が出席したのは、自分のものだったはずの結婚式。そこで出会ったのは、親戚中から変人扱いされる独身の叔父・相沢灯だった。披露宴の片隅で交わした会話をきっかけに、灯は瑠衣へ一軒の空き家の鍵を差し出す。だがその叔父には、誰も知らない秘密があった――。結婚式の端っこから始まる、年の差再生ラブストーリー。
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Chapter: 14話「本を探す人」
 今日の営業部は朝から慌ただしかった。 メーカーから追加修正の依頼が来て、社内でクリエイティブと他の営業が軽い言い合いになっていた。「急ぎで」「それ昨日も聞きました」というやりとりが廊下で起きていた。いつもの光景だった。「忙しいですね」 隣の席の正木がPCの画面から目を逸らさずに零した。「そうですね。大型のクライアント案件で人員が割かれているから」 瑠衣は見積書の確認をして、クライアントへの返信をまとめていた。 電話が鳴った。受話器を取ると馴染みのクライアントの担当者だった。「江品さん、申し訳ないのですが企画書の変更を行いたくて」「またですか」 瑠衣が軽く笑うと相手も苦笑いの声が聞こえた。「すみません。今のままでは詰めが甘いという結論になりました。江品さんのせいではありません。私のアイデアの問題で」「お互い大変ですね。分かりました。変更の部分を聞きましょう」「江品さんは頼りになってありがたいです」 いつものことをいつものようにしているのに、感謝されるのは悪いことではなかった。 仕事をこなして、気づくと外が暗くなっていた。 帰り支度をしながら、ふと足が止まった。 本屋に寄ろうと思った。 理由はよく分からなかった。読みたい本が特にあるわけでもなかった。ただ、駅の反対側にある大型書店の前を通りたい気分だった。 書店に入ると、平日の夜でも人がそれなりにいた。自動ドアをくぐると、紙とインクの混ざった匂いがした。冷房が効いていた。棚が天井近くまである、広い店だった。灯がよく来そうな場所だと思った。なぜそう思ったのか、自分でもよく分からなかった。 入口近くの新刊コーナーを通り過ぎて、文庫の棚へ向かった。歩きながら、灯が以前話していた本のことを思い出した。紙の質が変わった版があると言っていた本だった。 タイトルは覚えていなかった。 著者名も覚えていなかった。外国語のタイトルで、薄い本で、スウェーデンだったか別の国だったか、そのあたりの記憶も曖昧だった。 自分でも苦笑した。これでは探しようがなかった。 
Última actualización: 2026-06-29
Chapter: 13話 「似合う人」
 仕事帰りの電車の中で、今日の案件を頭の中で整理していた。 クライアントへの確認事項が二点残っていた。明日の午前中に連絡すれば間に合う。企画書の修正は夜にやろうと思っていたが、帰宅してから考えることにした。最寄り駅で降りて、いつもの道を歩いた。 門を開けて、玄関の鍵を差した。扉を開けた瞬間、足が止まった。 革靴があった。 揃えて置かれていた。見覚えのある、状態の良い革靴だった。 口元が少し緩みかけた。気づいて、止めた。 鞄を持ち直して、リビングへ向かった。 気配は地下からした。 書庫の扉が開いていた。明かりがついていた。降りると、灯が脚立の上にいた。白いシャツに黒いパンツ。袖を肘までまくって、上段の本を一冊ずつ取り出して並べ替えていた。 脚立の高さは天井近くまであった。「危なくありませんか」 灯が少し首を傾けた。脚立の上で、手は本棚に向けたまま、こちらを見た。「落ちたことはありません」「そういう問題じゃなくて」「ありがとうございます」 それだけ言って、また本棚に向いた。礼だけ受け取って、心配の続きは受け取らなかった。脚立を降りる動作を横から見ていた。 無駄がなかった。ゆっくりでも速くでもなく、必要な動きだけで降りてきた。四十代だとは思っているが、動きに年齢を感じなかった。「整理しているんですか」「順番が気になったので」「どんな順番ですか」「出版年です。著者別にすると探すとき分かりやすいですが、出版年順にすると時代の流れが見えます」「両方あった方が良くないですか」「どちらかを選ぶ必要があります」 そう言って、また脚立を上った。今日は出版年順を選んだらしかった。 出版年順。著者別より不便に思えたが、灯がそう決めたなら理由があるのだろうと思った。この家の本棚の順番を、自分ではなく灯が決めている。そのことを、おかしいとは思わなかった。 夕食は冷蔵庫にあった残り物に、帰りに買ってきたコンビニの惣菜を足した。大した食事ではなかった。 灯は「いただきま
Última actualización: 2026-06-28
Chapter: 第12話「翌朝」
 朝、玄関を見た。 革靴がなかった。当たり前だった。灯は昨夜帰っていた。わかっていたのに、一瞬だけ確認してしまった。 台所へ行くと、流しにコップが一つ置いてあった。灯が使ったものだった。洗われていなかった。洗おうとしたのかもしれないし、そのままにしていったのかもしれない。どちらかは分からなかった。 リビングを見た。椅子がきちんと元の位置に戻されていた。灯が座っていた椅子だった。食事のあと、立ち上がる前に押し込んでいった。そういう人だった。 昨夜誰かがここにいた証拠は、流しのコップと、戻された椅子だけだった。 瑠衣はコップを洗って、支度をして、会社へ向かった。 第一営業局は朝から忙しかった。 メールを開くと昨夜のうちに三件来ていた。一件はクライアントからの修正依頼、一件は社内の会議日程の調整、一件は別案件の納期確認だった。順番に返信した。 電話が鳴った。「江品さん、お世話になっております」メーカーの担当者だった。先週入稿した素材に差し替えが出たという話だった。「分かりました。こちらで対応可能な日程をお調べしますのでお待ちください」 すぐにPCの画面を開く。内容を確認して、対応可能な日程を伝えた。「ありがとうございます。またその日に改めてご連絡させていただきます」 電話が切れた。瑠衣はひとつ息を吐いて、先ほどのやりとりの要点をまとめるためにキーボードに手を置いた。 午前中はそのまま終わった。 昼休みに弁当を食べながら、午後の会議の資料を見直した。修正が必要な箇所が二か所あった。「お疲れ様です、江品さん」 隣のデスクの男性社員、正木が座って来た。「今日も弁当ですか」「はい。確認したいことが多すぎて、外に出る暇がないので」 言葉にしたあと瑠衣はハッとした。正木はランチを終えた後だった。彼は瑠衣の気まずそうに小さく『すみません』と呟いた言葉を聞き逃さなかった。軽く笑った。「江品さんはきっちりした性格なんですね。俺も自分の仕事の進捗が気にならない訳ではないですけど、外に出てリフレッシュするのも大事かなと思って」 正木は紙の資料を整理を始めた。「最近、江品さんなんか頑張りすぎのような気がして。無理しないで下さいね。息抜きとかされてます?」「まぁほどほどには」「なら良かった」 独身とは聞いていたが、正木の笑顔は本心のものだろう
Última actualización: 2026-06-27
Chapter: 11話「灯、また来る」
 その夜、灯は手ぶらで来た。 革靴はあった。しかし地下書庫へ向かわなかった。鞄もいつもより小さかった。本が入っている鞄の重さを、いつの間にか判別できるようになっていた。今日は入っていなかった。「読むものがなくなったんですか」「そういうわけではないです」 それだけだった。説明はなかった。なぜ来たのかも言わなかった。靴を脱いで、いつものようにリビングへ向かった。 夕食は豚汁と焼き魚だった。 二人分作る方が自然になっていた。それが習慣になったのがいつからなのか、正確には覚えていなかった。灯が来なければ、翌日の朝食に回せばいいだけの話だった。 テーブルについた。食べ始めた。静かだった。 今日は本の話も出なかった。地下書庫の話も出なかった。灯は豚汁を一口飲んで、特に何も言わなかった。瑠衣も特に話題を作らなかった。沈黙が気まずいわけではなかった。ただ静かな食卓だった。 半分ほど食べたところで、灯が口を開いた。「実家には行きましたか」「先週行きました」「どうでしたか」少し考えた。「変わっていなかったです」「そうですか」「帰りたい場所じゃないとわかりました」 灯は頷いた。焼き魚に箸をつけた。 感想も評価もなかった。同情もなかった。ただ聞いて、受け取った。それだけだった。 食事が終わった。灯が皿を重ねた。「いいです、置いておいてください」「そうですか」 本当に置いた。いつもと同じだった。 しばらくソファで本を読んでいたが、今日はいつもより早く帰り支度を始めた。鞄を持って、玄関へ来た。靴を履いた。「ごちそうさまでした」「いえ」 扉が閉まった。 今日、何しに来たのかわからなかった。 本を読みに来たわけでも、探し物があったわけでも、用事があったわけでもなかった。ただ来て、食事をして、少し話して、帰った。 不思議な人だった。 台所を片付けながら、今日の食卓を思い返した。変わっていなかった、と言ったとき、灯は何も言わなかった。帰りたい場所じゃないとわかった、と言ったときも、何も言わなかった。ただ「そうですか」と言った。 それで十分だった。 ソファに戻った。静かだった。 いい夜だと思った。 スマホを手に取った。 画面が光っていた。 真衣からの通知が十七件来ていた。 開いた。写真が大量に送られてきていた。 ホテルのロビー
Última actualización: 2026-06-26
Chapter: 10話「実家へ」
 電車の窓の外に、見慣れた景色が流れていた。 子供のころから何百回と見てきた風景だった。駅のホーム、踏切、団地、川。昔は実家に帰るたびに、この景色が見え始めると少し安心した。もうすぐ帰れる、という感覚があった。 今は何も感じなかった。 それでも電車に乗っていた。本当は来たくなかった。ただもう一度だけ確認したかった。自分の目で見て、肌で感じて、それでも同じ答えが出るなら、次からは迷わなくて済む。そのために来た。 乗り換えが一回あった。乗り換えのホームで、学生のころよく買っていたパン屋が閉まっているのに気づいた。シャッターが降りていた。跡地に別の店が入っていた。 何年前に閉まったのか、知らなかった。 実家の前に立った。 インターホンを押す前に、鍵を持っていることを思い出した。ただ勝手に開けて入る気にはなれなかった。ボタンを押した。「はーい」 母の声がして、ドアが開いた。「久しぶり」「そうですね」「元気そうじゃないか」 父が廊下の奥から顔を出した。 まるで何事もなかったような空気だった。少し拍子抜けした。怒鳴られるとも思っていなかったし、責められるとも思っていなかったが、もう少し何かあるかと思っていた。ただの久しぶりの帰宅として処理されていた。 リビングに通された。 テーブルの上に、カタログが何冊も広げてあった。ベビーベッド、ベビーカー、チャイルドシート。付箋が貼ってあって、母の字でメモが書き込んであった。テレビ台の横にベビー用品の箱が積んであった。部屋の中心が変わっていた。 真衣がソファから立ち上がった。「お姉ちゃん久しぶりー」 いつも通りだった。何も変わっていなかった。声のトーンも、笑い方も、こちらに近づいてくる足取りも、全部あの頃のままだった。「久しぶり」「どこに住んでるの、ちゃんとした家?」「ちゃんとしてます」「良かった。心配してたんだよ」 本当に心配していたらしかった。その顔で分かった。悪意がなかった。何かを演じているわけでもなかった。ただ、心配の中身が少し違う
Última actualización: 2026-06-25
Chapter: 9話「家族からの連絡」
 休日の昼、スマホが鳴った。 母からだった。しばらく画面を見てから出た。「元気?」「まあ、そこそこは」「今どこに住んでるの」「知り合いのところです」 少し間が空いた。「そう」 住所は聞いてこなかった。聞かれても答えるつもりはなかったので、ちょうどよかった。「そろそろ帰ってきなさい」 真衣の出産準備が始まった。手伝いが必要だ。家族なんだから。家族は助け合うべきだ。 母の言い方はいつも同じだった。同じフレーズが何度も続く。瑠衣が口を挟む余地は与えない。 父に代わった。「いつまでも意地張るな」「意地を張っているつもりはないんですが。それに出て行ってくれと言ったのはそちらですよね?」「お前の部屋も空いてる」 (駄目だ、こいつら人の話を聞いちゃいねぇ) 瑠衣は聞こえないように軽く息を吐いた。「赤ちゃんの部屋じゃなかったんですか」 沈黙があった。「なんとかなる」 本気の声だった。なんとかなる、と言いながら、なんとかするのが瑠衣だという前提がすでにあった。「考えておきます」 電話を切った。 ソファに座って、天井を見た。染みのない、均一に白い天井。見慣れてきていた。 帰るかどうか。答えは電話を切った瞬間にはもう出ていた。 別のことを思い出していた。あの夜、父に呼ばれてリビングに行ったら、父の顔が妙に真剣だった。「しばらく家を出てくれ」と言った。理由を聞く前に、自分でわかった。怒りより先に、妙に冷静だった。出ていったのは自分だった。頼まれたから出たのか、自分で決めたのか、今でもよくわからなかった。 本を開いて、読まなかった。灯が地下書庫に置いていった植物学者の随筆だった。ページの上に視線を置いたまま、一行も進まなかった。窓の外で風が木を揺らして、影が床を横切った。それだけ見ていた。母の声でも父の声でもなく、あの夜のリビングの静けさだけが、ずっと耳の奥に残っていた。 夕方、玄関に革靴があった。 珍しく早い時間だった。台所に向かうと
Última actualización: 2026-06-24
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