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第十三話:名前

Author: 新城凪
last update publish date: 2026-04-11 12:00:00

聖堂の外は荒れていた。
風が途切れず吹き抜け、重い雲が空を覆っている。
アスイェはこの空を知っていた。
――神罰が下る前に広がる、あの色。

彼は眠らない。
石の座に身を預け、腕の中でセラフィナを抱いていた。

幼きその身は温かい。
だが、もはや人ではない。
この熱は病の残滓ではなく、生そのものの証だった。

脈がある。
皮膚の下で確かに打ち、ドクン、ドクンと響く。
アスイェには、それが音楽のように、美しかった。

セラフィナはまだ眠る。
けれど血は、すでに目覚めている。
言葉でも、仕草でもなく、さらに深い次元で。

その応えは、皮膚に浮かぶ契印とは異なる。
形もなく、色もなく。
ただ気配の底に沈み込み、共鳴として広がっていた。

アスイェは目を閉じる。
初めての感覚が、胸を満たしていた。

彼は誰とも契約を結んだことはない。
吸血鬼にとっ
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    朝の庭は静かで、平和だった。露《つゆ》はまた花びらの上に残っていた。日の光はまたやさしく、芝生《しばふ》を照らしていた。いつもなら、セラフィナは芝生の上に寝転んでいるのだが、まるで何かの儀式の前の準備のようだった。アスイェは手に本を持っていた。「準備はいいか?目標は一直線だ」「でも、ここはアスイェの庭でしょう?」「お前の庭でもある」「燃やしちゃだめだよ!」「昨日の夜、一度燃えただろう。気にしていない」「あ、あれは!」「燃やしたくないなら、石だけに火をつければいい」アスイェは石を一直線に並べていて、それが今回のセラフィナの目標だった。セラフィナは手を挙げて、しばらくそのままだった。「……今回こそ一直線に燃やしてみせる」そう言って、彼女の指先から小さな炎が灯った。「できた!」興奮した瞬間、その炎はセラフィナの指先から逃げ出すように広がり、芝生の上に焼け跡の線を残した。それは「直線」と言いがたいものだった。――それは蛇のように、セラフィナの側からアスイェの前まで燃え広がった。その「蛇」はもちろん、アスイェの靴に触れる前に消えた。アスイェはその痕を見て、しばらく何も言えなかったが、セラフィナは彼に聞いた。「風が吹かなかった?」「お前の頭の中では吹いていたんだろう」「どういう意味?」「かわいいバカって意味だ」「セラ、真剣にやった!」「なら、自分のドレスまで燃やさないはずだ」「燃やしてないもん!」アスイェはゆっくりと少女の側にしゃがみ、彼女の肩を軽く叩いた。「よく見ろ」アスイェが手を軽く上げると、炎は本当に、金色の直線を描いた。その炎は静かで、柔らかそうに見えるが、熱さも、危うさも纏っていた。――アスイェが望めば、すべてを美しく燃やせるのだろう。「アスイェ、火を安定させる魔法も使ったでしょう?」「……使っていない。お前もやってみろ」「こう?」「肩の力を抜け。手を震わせるな。火を灯すんだ。爆発させるんじゃない」

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  • アスイェ•Asyeh   第三十話:午後の光

    午後の光は、薄い布のようにすべてを覆っていた。花の形すら、セラフィナの目にはうまく映らなかった。少女はゆっくりと歩いていた。彼女は、なぜ散歩しているのかもわからなかった。ただ、ゆっくりと歩いていた。夜の蟲にいくらか食われたにもかかわらず、アスイェの薔薇はまだ多く、最近までつぼみだった花も一気に咲いていた。その香りは強く、セラフィナはくらくらと眩暈を覚えた。彼女はいつのまにか庭の中で立ち止まり、耳のそばで風の音が鳴り続けていた。まるで水の下にいるように、視界もぼやけていた。セラフィナは頭を振り、足取り

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  • アスイェ•Asyeh   第十八話:「シロップ 」と灯り

    セラフィナは名を持ってからというもの、成長が驚くほど早かった。 今では、人間でいえば二、三歳ほどの年頃に達している。 もっと上かもしれないが、アスイェは人間の時間概念はよく理解していない。 吸血鬼にとって歳はそんなに重要ではない、 セラフィナもいつれ同じように思うようになるだろう。 体格はまだ小さいものの、「ひとりで留守番ができる」ほどには成長した。 アスイェは部屋

  • アスイェ•Asyeh   第十七話:その名の意味

    炎はすでに消え、屋敷の中へと風が吹き込んでいた。
その風は灰と血の匂いをまとい、割れた窓から静かに部屋へ入り込む。 幼子はアスイェの腕の中に隠れたまま、顔を出さない。
アスイェはただその体を抱きとめ、離さずにいた。
やがて、彼の手が幼子の瞼にそっと触れる。
そのひとつの動きだけで、セラフィナの世界は静けさに包まれた。 ――眠っているように見えた。
だが、セラフィナの唇はわずかに動き、かすかな寝言をこぼしていた。

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