LOGINー変わらぬ愛がそこにあるー 海沿いにある「あおぎり動物病院」を営む兄弟獣医、院長・梧颯真と、副院長・梧碧玖。 二人には、誰にも言えない秘密があった。 ——彼らは義兄弟であり、そして「夫夫」だった。 高校生と獣医学生という男同士のお見合いから始まり、遠距離恋愛やすれ違いを乗り越えて紡がれた二人の長い愛の軌跡。 そして、獣医として、夫夫として、共に歩む甘く温かな日常の物語。 コミカルスパダリ兄×ツンデレ弟
View More3 ボクはその後目指していた大学の獣医学部に合格した。いつか颯真さんと動物病院を開くための、夢の第一歩だった。 そして高校卒業のお祝いにと、颯真さんが卒業旅行をプレゼントしてくれた。 雲ひとつない青い空に青い海、ボクたちを乗せたフェリーは白い波を立たせながら佐久島へ向かった。 春の太陽に、颯真さんの笑顔が眩しかった。 港へ降り立つと解き放たれた心地良さに二人して深呼吸をした。穏やかな潮の香りが心をくすぐった。 すると颯真さんはご機嫌に口を開いた。 「ほ〜らね、どうよ、この天気!」 「…自分の手柄にしないでください。ボクも晴れ男です」 ボクも調子に乗って得意気にふふんと返した。 この自然豊かな小さな島は徒歩でも半日もあれば回れてしまう。その至る所にアート作品が点在していて、それも楽しみだった。 港から少し歩くと〈おひるねハウス〉が見えた。それは9マスで仕切られた黒い額縁のような造形物でハシゴで登れるようになっていて、ボクははしゃいでするりと潜り込んだ。 「颯真さんも来て!」 そう声をかけると、ニコニコしながら颯真さんはやってきて、その小さな四角に二人でゴロリと横になった。 目の前はブルーの海と空だけ、颯真さんとボクだけだった。息を飲む美しい景色に見とれながら、ボクたちの存在も溶けて同化しているような、そんな場所だった。ひっそりと重なるボクたちの鼓動と波音だけがうるさいみたいだった。 お互いの体温に動けなくなっていた。限界だと思った。 「誰か来たらやばいですね」 「うん…男同士ここで密着してるの、結構ハイリスク」 二人して苦笑いをしてその場を後にした。 島の小道を探索するように並んで歩く。木々のトンネルに古民家の集落。不思議なくらいにボクたちだけだった。時折出会うのはお昼寝中の猫や石垣の間をすり抜けていく猫たちくらいだった。僕たちだけの島みたいで、贅沢な時間だった。 颯真さんは猫や風景に気を取られていたけれど、ボクは颯真さんと二人きりのデートだと思うと胸の高鳴りが抑えられなかった。時々肩を寄せては、ボクのこの空いている掌に気付かないかと一人ドキドキしていた。 いつまで経ってもボクの右手に気付かない颯真さんに痺れを切らして、ボクは小さなため息とともにそっと颯真さんの手を握った。 やっと
1 穏やかな青い海、波の音と潮風が通る道。僕らの毎日がここにある——。 ここは『あおぎり動物病院』。兄弟二人で開業している。 マスク越しのキスを思いっきり目撃されてしまった院長・颯真と副院長・碧玖は、もう誤魔化せないと思い看護師・ユリちゃんに事情を話したのだった。 「──で、入籍されていて夫夫としての義兄弟だったんですか!?」 ユリちゃんは院長・副院長と膝を突合せ冷静に話を聞いていた。 「そうなんですよ、ユリちゃん…」 院長は少し心配そうな顔をしていた。 「………」 マスクから見える副院長の目は、そこだけでも充分に分かるほど落ち込んでいた。どんな捉えられ方をするのかと、怖さを滲ませていた。 「……事情は分かりました。お話していただいてありがとうございます。……あの、一つ言うなら、デキているのはとっくのとうにバレていましたよ!!」 ばーーんっ!! これでもかという力強い答えが返ってきたのだった。 院長も副院長も驚きのあまり目をぱちくりさせ言葉が出なかった。 「…安心してください。私も、ナミちゃんもアイちゃんも、ここの看護士全員腐ってるんで!あ、もとい、恋愛に性別は関係無いと思っているので、無問題です」 「え、えーと、腐ってる?モーマンタイ…受け入れてくれてるってこと」 「はい。受けれるも何も、幸せな人の恋愛に意見するなんておかしいですよね?」 「良かったです。ほっとしました」 碧玖は胸をなで下ろした。 「ありがとう、ユリちゃん」 颯真もほっとして緊張が緩んだ。 「さ、先生方、患者さんがお待ちです」 ユリちゃんは颯爽と受付に向かった。 「…ふぅー、どうなるかと思ったけど良かった」 「本当に。ほっとしました」 二人は支え合うように、力が抜けたお互いの身体を抱き留めた。 ──ほんの一歩だけれど、ボクたちが夫夫として当たり前に受け止められた温かい場所は、ボクたちのすぐそこにあった。 不安に枕を濡らしたあの頃のボクに教えてあげたい。 君の未来は幸せに溢れているよって。 2 「おおー!お帰り、朝帰りの碧玖クン!ハジメテどうでした〜??」 颯真さんとの初デートでそのまま一泊して寮の部屋に戻った時、先輩が冷やか
4 掛けていたアラームが鳴り、ボクと先生は眠い目を擦り少し微睡む。 先生はボクを抱き寄せて、唇を重ねる。 「…あ、先生、今日はもうあと3回しかキス出来なくなっちゃいました…」 ボクと先生は、あのファーストキスの日から守っているジンクスがある。 「…え〜、キミちゃんと数えてたの?」 「当たり前です。先生に教えてもらった大事なジンクスですから」 「……教えるんじゃなかったなー、こんな真面目さんに…」 先生はちょっとおどけながら困った顔をしていた。 「…付き合った最初の年は、キスは1日10回。次の年は11回。…先生とボクは今年で1日23回です。これを守ってると、絶対にお別れしないんですよね?」 「…うーん、でもさ、守らなくても、キミとボクなら別れるなんてことあるわけないでしょ?」 「………そうですけど……」 ボクの不服そうな様子を見て、先生は提案した。 「…わかった。いい方法がある。今は、あと1回だけキスをしよう。じゃあ、僕に任せて」 そう言うと先生はボクにキスをした。 ボクを深く強く求める長いキスに頭の芯が蕩け、身体が熱かった。 長い間唇を重ね名残惜しく唇を離した。 とても長い1回のキスだった。 二人して息が上がっていた。 どれだけ深く求めてもキスだけでは切なくもどかしさが募る…。 すると先生がその先も求めるように、ボクの首筋にキスをした。 「……唇意外なら、数には入らないでしょ?」 そう言うとボクの身体に何度も優しくキスを落とした。 それからボクたちは、お互いの身体の隅々まで慈しむようにキスを贈りあった───。 午後の診察時間に間に合うギリギリにセットした最後通告のアラームが鳴った。 「この続きは今夜しようね、碧玖…」 そう言って先生はボクの唇にキスをした。 「あぁ!先生、今日はもうあと1回しか出来ないです…」 「大丈夫、夜中の12時を回ればまた一から数え直しでしょ?」 先生と顔を見合せて笑いあった。 「……先生、ボク、キスを数えるのやめようかな…」 「うん、随分前から僕達にジンクスなんていらないでしょ?僕と碧玖で叶えていけばいいだけだよ」 「…はい、一緒に叶えていきます」 「よし、碧玖おいで」 そう言って、ボクを抱き締
*** そして日曜日、お見合いから2ヶ月以上経って初めてのデートだった。 ボクは高校の正門前で颯真さんの迎えを待っていた。 ボクは首の開いたTシャツに黒スキニー、髪型はウルフカット。ちゃんとその頃の流行りを抑えていた。 待っている間落ち着かず、もしかしたら連絡が来てるかもしれないと思い、何度も携帯電話を確認する。空港から車で迎えに来てくれると言っていた。 間もなく、颯真さんが迎えにきてくれた。ボクは嬉しくなって手を振った。 促されて車の助手席に乗ると挨拶半分で言われた。 「お見合いの日は袴だったけど年相応でいいね」 「…それ、子供っぽいってことですか?」 ボクなりに背伸びをしたつもりだったのに、年相応と言われるのはちょとがっかりした。 ボクの頑張りは伝わっていないのかもしれない…。 でも、颯真さんは微笑んで嬉しそうだった。 「音楽何が好き?」 「ボクより、颯真さんが好きなの知りたいです」 「じゃあクラッシックね」 「えっ…」 ボクは一瞬困惑した。 クラッシックなんて聴いたりしていない…。やっぱり大人って違うのだろうか? すると颯真さんはニコニコ笑いながらボクを見た。 「なーんて、ほんとはGRe〇〇eNだよ!」と言ってボクの困惑顔を笑った。 ボクは颯真さんの笑顔が嬉しくて笑った。 颯真さんはドライブデートらしく、流行りの曲を用意してくれていた。 窓から入る爽やかかな夏の北海道の風はボクの緊張を解き、軽やかな笑顔を引き出してくれた。 目指すは札幌から約2時間、北海道のデートの定番であり、獣医師を志す彼らしく旭山動物園だった。ボクも生き物が好きで、とても楽しみだった。 そして、運転する姿がやっぱり大人で格好良くて、ドキドキした。 運転する横顔を見ては隣に居ることだけでも夢みたいだった。そして、この現実を噛み締めた。何度でも嬉しかった。 やっぱりもう憧れとしてではなく、颯真さんを一人の男性として好きだと実感した。 動物園は本当に楽しかった。 どうぶつ達のこと、自分はどんな獣医師を目指しているのかを熱く語る颯真さんは生き生きとして楽しそうで、優しさに溢れていた。 ボクは人間のお医者さんになりたいと常々思っていたけれど、颯真さんの心に触れて同じ獣医を目指す気持ちが