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第6話

Author: 森野白鷺
晴香は激怒した。

その瞬間、理性が音を立てて崩れ落ちた。

彼女はベッドから勢いよく起き上がると、甘奈の髪を鷲づかみにし、そのまま床へ引き倒した。

「きゃあ!」

甘奈が悲鳴を上げ、必死にもがく。

晴香は彼女に馬乗りになり、両手で首を絞め上げた。目は真っ赤に血走り、怒り狂った雌獅子のようだった。

「死ぬべきなのは、浮気したクズと、人の家庭に入り込んだ女のほうよ!征司の妻の座が欲しいんでしょう?全部あげるわ!征司なんて、私が捨てたゴミよ。欲しいなら持っていけばいい。でも、私の子を呪ったことだけは許さない。殺してやる!」

甘奈は首を絞められて白目をむき、両手をむやみに振り回した。晴香の腕には、いくつもの引っかき傷が刻まれていく。

ドアの外にいたボディーガードたちが物音を聞きつけ、慌ててドアを破るようにして駆け込んできた。そして無理やり晴香を引き離した。

晴香は押さえつけようとする手を振りほどき、乱暴に突き放して距離を取った。冷たい目で、床に崩れた甘奈を見下ろす。

「出ていって」

甘奈は首を押さえて激しく咳き込みながら、憎悪に満ちた目で晴香を睨んだ。

「覚えてなさい。必ず後悔させてやるから」

深夜、邸宅に突然、警報音が鳴り響いた。

二階の廊下から濃い煙が広がり、誰かが恐怖に震えた声で叫んだ。

「火事です!一花お嬢様のお部屋が燃えています!」

晴香は上着を羽織って部屋を出た。

廊下は大混乱に陥っていた。

征司が全身ずぶ濡れになり、意識を失った一花を抱えて濃煙の中から飛び出してくる。

甘奈が駆け寄り、胸が張り裂けるように泣き叫んだ。

「一花!私の一花!征司、早く助けて!」

火はほどなく消し止められた。

一花は煙を吸い込んだため、病院へ緊急搬送された。

邸宅の庭で、征司は血走った目で晴香を睨みつけていた。その眼差しには、激しい憎しみが滲んでいた。

「お前がやったんだろう?昼間に甘奈の首を絞めたと思ったら、その夜に一花の部屋が火事だ。お前はどこまで残酷なんだ。五歳の子どもにまで手を出すのか!」

晴香は冷たい風の中、背筋をまっすぐ伸ばして立っていた。

「私はやっていない。この邸宅には至るところに監視カメラがあるでしょう。映像を確認すればわかるわ」

執事が震えながら進み出て、どさりと地面に膝をついた。

「旦那様……監視カメラに映っておりました。夜中に、奥様が寝間着姿で、こっそり一花お嬢様のお部屋へ入っていかれました。そのしばらく後に、部屋から煙が……」

征司は執事の手からタブレットを奪い取った。

画面には、晴香によく似た体つきの女が、人目を忍ぶように子ども部屋のドアを開ける姿が映っていた。

晴香は氷の底へ突き落とされたような気がした。

ようやく、甘奈が昼間に言った「後悔させてやる」の意味を理解した。

これはすべて、甘奈が仕組んだ自作自演の芝居だった。

晴香を陥れるために、実の娘の命まで賭けたのだ。

「まだ言い訳があるのか!」

征司は晴香を蹴り倒した。

晴香の膝が石畳に強く打ちつけられ、骨の奥まで響くような痛みが走る。

彼女は顔を上げ、十年も愛してきた男を見つめた。

その男が、突然ひどく見知らぬ人間に思えた。

「あなたが信じるなら、もう言うことはないわ」

征司は目を血走らせ、晴香の襟元を掴むと、庭の中央まで引きずっていった。

「そこに土下座しろ。一花に謝れ」

征司は低く怒鳴った。

「一花に何かあったら、ただじゃ済まさない。自分が何をしたのか、そこで頭を冷やせ」

激しい雨が降り出し、晴香の薄い服を容赦なく濡らしていった。

ボディーガードが彼女の肩を押さえ、庭石の上に無理やりひざまずがされた。

晴香は抵抗しなかった。

ただ虚ろな目で、雨に煙る庭を見つめていた。

冷たい雨が髪を伝い、頬を濡らし、やがて古傷から滲んだ血と混ざって落ちていく。

痛みはあった。

けれど、その痛みでさえ、胸の奥に開いた穴には届かなかった。

雨に打たれながら時間が過ぎていく。

一分一秒ごとに、征司への愛が静かに削られていった。

空が白み始めたころ、ようやくボディーガードは彼女の肩から手を離した。

「奥様、病院から連絡がありました。一花お嬢様は危険な状態を脱したそうです。旦那様からのご指示です。奥様が再び一花お嬢様に危害を加えないよう、すぐ郊外の旧宅へ行って反省するように、と。おとなしくなれば、また迎えに行くとのことです」

晴香は泥水の中から起き上がり、顔についた雨を拭った。

そして静かにポケットから、離婚届の受理証明書を取り出し、ボディーガードの顔へ投げつけた。

「これを征司に渡して。自由にしてあげる、と伝えて」

そう言い残し、晴香は邸宅の門を出て、タクシーを拾った。

彼女はスマートフォンを手に取った。

画面が暗くなる直前、最後に残っていたメッセージはこうだった。

【運転手さん、望月家の本邸までお願いします】

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