تسجيل الدخولイアンちゃんのおすすめのお店に連れて行ってもらう。だが、少し血の匂いが残っている以上、まずは身支度を整えるのが先だ。イアンちゃんも一旦血の匂いを落としてから行きたいとのことなので、家へお互い戻って体を拭いてから再合流することになり、イアンちゃんに迎えに来てもらうことになった。
セルフィと宿に戻る途中で夜の鐘が鳴る。これは急がないといけないな。急いで宿に戻って、メリーさんに湯を二人分頼む。部屋に戻ると、ベッドがもう一つ運び入れられていた。どうやらセルフィ用にもう一つ運び入れてくれたようだ。ありがたいことだな。寝床をどうしようか少し悩んでいたところだ。
「私のベッド……ちゃんと用意してくれたんですね」
「さすがに一緒に寝る……というのはな。それに言われる前に用意してくれたようで、後でお礼を言っておこうな」
「はい」
しばらく今日使ったショートソードや防具の手入れをしていると、メリーさんが湯を持ってきてくれた。
「セルフィ、向こう向きな。背中はやってあげよう。ただ前と……それ以外の部分は自分でやってくれ。さすがに年齢的にまずいだろうしな」
「わかりました。では、背中お願いします」
髪を洗うのは最後でいいな。セルフィの長い銀髪を軽く持ち上げて縛り、邪魔にならないようにしてから背中を拭いてやる。「あう……」と気持ちよさそうな声が聞こえるので、しばらく体も洗えていないんだろう。奴隷とはいえ、ある程度綺麗にしておかなきゃ売り物にもならないとは思うんだが、その辺は良いんだろうか。
セルフィの背中を拭き終わった後、背中合わせになってお互い自分のあちこちを綺麗にしていく。ふと、湯を掬うための手ぬぐいを洗うタイミングが一緒になり、手が触れ合う。ビクッとびっくりしたセルフィだったが、すぐに俺の手だと気づいて元に戻る。後一年こんな関係が続くんだから慣れていかないとな。
血の匂いが落ち着き、体も綺麗になったところでセルフィの髪を洗ってやる。体を拭いた後の湯なので綺麗だとは言いがたいが、今のままの髪で居るよりはよほど綺麗になるはずだ。髪を梳いてやるには櫛やシャンプーなんかが必要だろうが、俺の知能でどこまで実現させてやれるかはわからない。
一応こっちへ来る前に「これだけ詰め込め! 異世界に行ったときにチートできる知識100選」みたいな本を読んできたので、似たような性質のものを見つけてうまいことやってしまうしかないな。さて、髪を洗ってやったところで服を着なおして、外に出かける準備は万端。一階に降りて食堂の横を通ると、リンカちゃんとばったり出くわす。
「今から食事ですか? 今日もいつものメニューですけど」
「いや、なんかイアンちゃんが他のお店も教えてくれるらしくて。今日はそっちに」
「それは残念ですね。でも、イアンちゃんのおすすめというと……豚は出荷亭ですかね。ミニボア料理がおすすめのお店なんですよ。うちではミニボアはめったに取り扱わないですからね。多分ですけど、ミニボア狩りにでも行ってたんですかねえ」
「そうなんだ。セルフィが大活躍でな。おかげで今日の分も無事に稼ぎきることができた」
「セルフィちゃんとタカナシさん、すっかり仲良しですね」
リンカちゃんにそう言われ、確かに気が付けば仲良しになっているな。
「ああ、そうだ。ベッドありがとうね。運んでもらわなきゃ二人同じベッドで寝るところだったよ」
「ベッドがちょうど一つ余っていたのでサービスです。これからも長期宿泊してくれるかもしれないお客さんには、できるだけよくしておかないと」
ありがたいことだな。期限が来てもまた十日伸ばしてここに宿泊させてもらうことにするか。それが借りる側のありがたみってものだろう。
食事をしないのに食堂で待っているのも悪いので、部屋に戻って待っていると、しばらくしてイアンちゃんが到着した。
「お待たせしました。それでは行きましょう」
イアンちゃんに連れられてしばらく歩くと、「ブタハシュッカテイ」の文字。どうやら本当にここらしい。というかこの店の名前はなんだろう。どことなく親近感がわく。これも、異世界の前の住人が残した名前だったりするのだろうか。
「さあ、ここでお勧めです。銅貨15枚の一匹丸ごとコースがお勧めですね。ただ、セルフィちゃんにはちょっと量が多いかもしれませんが」
「がんばる! 」
「あー、頑張らなくていいぞ。金銭的な意味ではなく、もったいないの意味で。二人で一匹丸ごとコースを頼んで、まだ足りなかったらもうちょっと注文するってこともできるかな? 」
「できますよー。そっちにしますか? 私は定食を頼みます」
席に座り、丸ごとセットと定食を注文。しばらくして、ミニボアの各部位をそれぞれの味で仕込んだ丸ごとセットが届いた。
特製ソースのかかったもも肉をまずは味わう。量は少ないが、一番ヘルシーらしく、ほとんどいわゆる赤身肉の部分を茹でて出してきたように見受けられる。ソースの酸味が程よく中々に美味しい。
もも肉の次は塊で出てきたステーキだ。一枚肉をニンニクのような香りのするソースがかけられ、これもまた美味しい。ニンニクは……厨房を眺めてみると、厨房の上の棚に吊るしてあるのが見つけられた。ほぼにんにくの形をした物体が見える。あれがそうだな。
厨房の主がもぎ取って、かけらを取り出した後分厚い包丁でペシンと叩いてつぶして、そのまま刻んでいる。どうやらニンニクで間違いないようだ。さて、次は……ロース肉っぽい部位の半生……これ大丈夫なのかな。
「ミニボアって生でもいけるの? 」
「大丈夫ですよ。モンスターには寄生虫などは寄り付かない……というより、モンスターにはそういった部類のものは憑りつけないんです。寄生虫が仮に憑りついても、モンスターの性質……これは説明すると長くなるんですが、その性質上寄生虫も死んでしまうので安心して生でも食べられるようになっています」
イアンちゃんが大丈夫だというので大丈夫なんだろう……と、セルフィは普通に生で食べているな。生ハムみたいなものだと思って食べてみよう。ソースをつけて……ああ、生だとマヨネーズが欲しいな。
かじりついてみるが、噛み切るのにちょっと難儀する以外は美味しい肉だった。これが今日の成果だとすればなかなか悪くない。あと、やっぱり生よりも焼いてあるほうがなんとなく安心するのも確かだな。
さて、次は……
ヤークトさんは、一足先に店に戻っていった。次のパンを焼く時間までに戻らないといけないそうだ。そんなわけで、デクレール親方のところへ置いていかれた俺とセルフィ。 デクレール親方は土の準備をしに行ったらしく、工房の販売スペースに置いていかれることになった。さっきと同じく、親方や徒弟の作品をいろいろと見回す。陶器のベースの色は土地の土の材質で変わるんだったな。「これだけ詰め込め! 異世界に行ったときにチートできる知識100選」の中にも、強化ガラスの作り方やボーンチャイナの作り方についてのネタがあったので俺の頭の中にもしっかりインストールされている。 本当はガラス職人がいれば、確実に白いパン皿を作ることができたのだろうが、先日街巡りついでに調べたところ、どうやらこのあたりにはガラスの材料である石英の砂や珪砂の類のものが産出しないらしい。 本来ならガラスを高温で形状を決めた後、再度熱したあと、冷気で急冷して強化ガラス化することにより、白いパン皿のような強度と、内部で光を乱反射して美しい白さを保つのだが……この地域でガラス工芸を勃興させるのは難しそうである。 その点で言えば、もうオッサラー商法はある意味破綻しているのだが、ボーンチャイナをいかに安く作らせるかと、その希少性をパン屋のおまけでそれを入手できる、という面白さを少し観察してみたいといういたずら心もある。人は欲しいもののためにどこまで日常の延長戦を戦い続けるのか。 白磁は土に含まれる鉄分が少なければ少ないほど白くなるらしいが、この辺の土は……緑になるかならないか、程度には鉄分が少なめではあるらしい。惜しい、というところだろう。 ここに焼いた動物の骨の骨灰に含まれるリン酸カルシウムを混ぜ込むことによって乳白色の温かみある色合いと、陶器よりも高い強度が得られることになる。「本当にうまく行くんですかね……? 白いお皿なんて高級品ですよ? 」「やはりこの辺でも白いお皿は高級品になるのか」 セルフィに一応尋ねてみる。もしかすると知っているかもしれないから、できる限りの知識吸収はしてお
「いくつか確認しておきたいことがあります。白い皿が作れないのは土がないから、つまり白く焼くための原料が手に入らないから、ということでいいんですね? 」 適当に開いている椅子に座って、お互い話し合いをはじめる。お茶も何も出てこないが、そういうものをもらいに来たわけでもないので気にせずにおく。ちなみにセルフィは奴隷の身分で自分も座るわけには……と、立ったままだ。「そうだ、白く焼くための土が近くで取れるならその限りじゃないが、この辺ではそこの水差しみたいな碧を出すのが精いっぱい。それ以上白っぽいものとなると釉薬を使うしかないわけだが、白と言っても若干黄色味を帯びてしまう。なかなか作り出せるものじゃないし、運よくうまく行っても作れる枚数を考えたらかなりお高いものになってしまう」「ちなみに、その白の皿を一枚作るにはいくらぐらいかかるとお考えで? 」「そうだなあ……銀貨二枚ぐらいはいっちまうかなあ。ヤマナリさんところで利益をちゃんと確保しつつ、銀貨二枚のおまけをつけるにはパンを何個売れば元が取れそうなんだ? 」「うーん……一年? とてもじゃないがその間待っててくれというには値段も時間もかかりすぎる。その間につぶれてしまうのが関の山だと思う。もっと短期間で収益を上げられて、安くお皿を作る方法があればその限りじゃない。もしくは、その一年に見合うだけの高品質なものである必要があるね」 高品質か、低価格か。どっちを実現するか、というところなのかははっきりしているが、高品質過ぎてもいけないというのはわかる。つまりそれなりにお安くできなければいけないということだな。「骨って、安ければいくらで買えますか? この際牛ではなくてもイノシシ……ミニボアでもいいです」「骨なら……ゴミ捨て場に行けばいくらでもあるんじゃねえかな。何に使うんだそんなもん」 ということは、この世界には豚骨料理もないんだな。もしくは、出汁として知らないうちに使ってしまっているか、というあたりか。これならいけそうだな。「骨を焼
翌日、さっそく朝の儀式を終えた後、食事をとり、その後、親父さんがパンを買いに行くついでにヤマナリパンを訪れた。道中で新しくできたというパン屋にも立ち寄り、朝食ついでに一つパンを買ってみた。 どうやら新規開店した分だけ新しい釜で焼いているらしく、古い小麦の匂いの染みついていないパンと小麦をしっかりと使った柔らかいパン、そして、小麦を混ぜ込んだ、真っ黒ではない黒パンも人気のようだった。 値段はヤマナリパンに合わせてきているようで、どうやら小麦の自前の入手ルートがあるらしい、ということまではわかってきた。市場で小麦を仕入れていてはこの値段で出すことはできないし、新しい釜だからこそ燃料費も節約できて、トータルで割安の料金に仕上げることができているのだろう。「これはなかなか強敵だなあ。ふんわりしてて美味しいし、ヤマナリパンには普通にやってちゃ勝ち目ないかも」「たしかに、出来立てとはいえ、美味しいですもんね」「二人とも、まさかたどり着いて無理だから店を畳みましょう、なんて店主に伝えるつもりじゃないだろうな」 親父さんとセルフィと三人で買い食いをしながらヤマナリパンに向かう。親父さんも味については確かにヤマナリパンよりも美味しい……と心のどこかでは認めているらしく、心配そうにむしゃむしゃと白パンを食べていた。「まあ、ダメで元々……というところもありますし、俺の知識でだめでも、何人か集まればいい案が出るかもしれませんからね。せいぜいあがいてみますよ」 ヤマナリパンまでに買い食いを終わらせて、親父さんはいつも通り仕入れの分だけパンを買うと、帰っていった。俺とセルフィはヤマナリパンの店主の仕事が終わるまで、しばしヤマナリパンの売れ行きを見ていく。 どうやら常連であるとか、普通に世間話をして帰っていくような立場の人々は買い物に来ているので、完全に閑古鳥が鳴いている、という状態ではないようだ。 しばらくして店が一段落したのか、店主が出てきた。「どうも、お待たせしました。次のパンの仕込みが終わって一区切りついたので、今のうちにいろいろ回っていこうかと思いま
解体所の解体結果書と薬草の鑑定結果書をもって冒険者ギルドのカウンターにようやくたどり着き、書類を渡して本日の仕事の結果を受け取る。大銀貨3枚と銀貨1枚、それに大銅貨2枚での支払いを受け取った。 どうやら、合計で銅貨換算で3120枚分の仕事をした、ということになるらしい。ガルキン狩りまわった時の二倍ほどの金額になったか。薬草採取も結構儲かるんだな。「おかげで助かりました。薬草が少し心もとない状態だったんです、また足りなくなった時によろしくお願いしますね」 薬草採取でも鑑定の力を使えばかなり儲けることができると自信がついたな。薬草採取のスペシャリストとして名を馳せる未来もあるかもしれない。鑑定のおかげとは言わなければ問題はないだろう。「今日は儲かりましたね! 」「ああ、そうだな。ワイルドボアも倒せたし、段々と力をつけてきてこれたという自信もついた。あと二つもレベルが上がれば一人でもワイルドボアを倒せそうな気すらしてきた。この調子で頑張っていくか」 セルフィと軽く話しながら帰り道につき、銀の卵亭にたどり着いたところで早めに湯をもらっておく。メリーさんからは「今日はゆっくりだったねえ」と言われてしまった。 確かにいつもはもうちょっと早いし、できるだけメリーさんの都合に合わせて帰ってきているからな。その分今日は珍しく感じたんだろう。 今日は薬草採取の割に収入が多かったのと、冒険者ギルドでの鑑定に時間がかかったからだと言い訳をしておいて、そのままお湯をもらって部屋に戻る。 血まみれ……というほどではないが、ミニボアの返り血が程よく付いた服を水魔法で軽く濡らして軽く濡らして、こすり落とす程度にしておく。明日でもいいかな……朝にでもしっかり綺麗にして、乾かしてしまえば良いか。よし、明日明日。とりあえず今は体の汚れを落とすのが先だ。 ほぼ全裸になり全身をごしごしとこすりながら汗を落としていく。途中からセルフィに背中を拭いてもらい、お礼に背中を拭き返してやる。いつもの作業を終えたところで、着替えて食堂へ下りる。すると、親父さんから声がかかる。「タカナ
午後からも引き続き薬草を集めていく……が、やはり予想通り、ミニボアと薬草の取り合いになった。しかし、ミニボアも集団で一気に薬草の群生地を荒らしに来ているというわけではないようだ。 群生地に引きよせられるように一匹、また一匹と、ホルム草を掘り返すのに夢中になってる間にこっそり近づいて倒す、というミニボアを暗殺するような形で一匹ずつ倒している。 食後すぐの一件以来、ワイルドボアがまた出てくるという状態にはなっていないが、いつ出てきてもいいように注意はしている。ミニボアはともかく、ワイルドボアは足音の振動でわかる。 ミニボアの足音も分かるようになればいいのになあとは思っているが、そこまで大きいモンスターではないのでなかなか難しいというか、俺の過敏さではミニボアは判断できない。が、セルフィは判断できるらしい。「次、また来ますよ。やっておきますか? 」「対応よろしく……血抜きはこっちでやるから」「はい」 セルフィがミニボアを倒して、ミニボアの血抜きはこっちでやっておく。流れた血が薬草にかからないように注意しつつ、ミニボアの血でさらにミニボアが寄ってこないようにはしているものの、やはり血だまりはできてしまうことになる。 かといって移植ごて程度の大きさでは、血抜きした血を溜めておく穴を掘るのも一苦労だ。そのための穴を掘っておいても……結局あふれてしまうし、それならと思って垂れ流しにするのだが。 その血の匂いをたどってミニボアがまた一匹、また一匹とぽつぽつと出てくるので、そのたびにセルフィと倒して血抜きを繰り返す。 ◇◆◇◆◇◆◇ 段々、薬草を集めるよりもミニボアの相手をしている時間のほうが長くなりつつあるころ、日が傾き始めた。「そろそろ帰るか……途中からミニボアとホルム草の取り合いになったのはちょっと想定外ではあるが。まあ、ワイルドボアも二匹ほどさらに相手することになったし、その分収入になったと思えばいいか」 ワイルドボアはあの後、さらに二匹引っ掛かってきた
午前中を目いっぱい使って、ひたすら薬草集めをする。午後も薬草集めの予定だが、昼食のサンドイッチを食べながら、午前の分量を広げて、セルフィの取った薬草の一本一本判別して雑草を省きつつ、改めて束にしていく。「結構頑張って薬草ばかり抜いていたと思うのですが」「十分頑張ったほうだと思うぞ。7割から8割ぐらいはホルム草やハププ草だ。一部は雑草も混じってるが、このぐらいなら十分許容範囲だと思う」「じゃあなんで仕分け直してるんですか? そこまで詳細な鑑定はしなくても向こうでやってくれると思うんですが」「そりゃ、ギルドの手間を省かせるためでしょ。俺は鑑定で間違いなくホルム草やハププ草だと見分けられるんだから、大量にガバッとセルフィに取ってきてもらって、仕分けしてお渡しするだけでお賃金が得られるんだから、少ない程度の面倒は受け入れるってもんだ」 実際、ギルドではどうやって普通の草と薬草の見分けをつけているのか、まではわからない。俺みたいに鑑定もちの職員が仕分けているのかもしれないし、薬草鑑定士、みたいなより限定された職員がその仕事を任されているのかもしれない。 何にせよ、これが薬草でこれが薬草じゃない、とそれぞれわかってる限り、俺の性格上混ぜ込んでごまかすことはできないってことだな。どうせばらばらにされて組みなおされて新しく束を作り直されて、その作り直しの時間で、もう何束分か薬草を入手することができるはずだったとか。 そういう時間が出てくるならここで多少時間と手間がかかっても、きっちり仕分けしておくほうが、関わるみんなにとって無駄がなくなってよいことだ。俺の手間でみんなが得をするのは悪くない。 ホルム草とハププ草からそれ以外の草を完全に分けて、束にし直すと、ホルム草が37束、ハププ草が18束できた。それにテルミ草が8束出来上がっているので……全部買い取ってもらうとしても、午前の分だけで銀貨7枚分は堅いな。 それに加えてホーンラビットの血抜きした奴が10匹あるから、さらに銅貨50枚。今日はなかなかにいい収穫をしている。一日めいっぱい使えばまた銀貨10枚分稼げるのは確実だな。 これでまた、いつで
翌日、俺は再びアザーワールド社に来た。異世界のしおりによると、こちらとあちらで荷物の持ち込みはできないらしい。が、唯一現金だけは持ち込み、持ち出しが許されるらしい。実際に説明された通り、現金だけはやり取りできるらしいのでまさに身一つで異世界に旅立つことになる。 会社について、受付で小鳥遊です、有休消化しに来ました、と告げると、太客を案内するモードに入ったのか、豪華な応接室に連れられてお茶と羊羹まで出てきた。せっかくなのでいただくことにする。 程よい苦みのお茶と、甘くしっかり砂糖が析出するまで練り込まれた羊羹。これでしばらくこっちの世界の甘味も味わい収めか
「面白そうですね。早速行ってみたいのですが、日程はどうなってますか? 」「ご興味あります? 異世界。詳細聞いちゃいます? 」「聞いちゃう。詳細、聞いちゃう」「じゃあ……少々お待ちください。今現地での行動のしおりを持ってきます」 溜めて……言わずに、現地での行動のしおりみたいなものがあるらしい。なんか修学旅行を思い出すな。 しばらくして、真新しい印刷したてのインクのにおいはするが、古めかしい紙に書かれた冊子を持ってきた。「えっとですね、まず
有給休暇開始一日目。早速有給休暇消化案内所。横文字でハローホリデイ、通称ハロホに行ってみることになった。ハロホには公共のものから私的なものもあり、様々なサービスを受けることができるようになっている。 もちろん、有給休暇であるのでその間も給料は出ている。ここぞという時のためにお金も有休も溜めて一気に使い切る豪快な使い道もあるらしいが、そこまで高い給料をもらっているわけではない俺としては自分の給料でできる範囲で休みが楽しめるならそれに越したことはない。 それに、何より休みは仕事と違って何をするにも金がかかる。何でもかんでも過剰労働の対価が有給という数字にカウントされるようになって以来、ぎり
「小鳥遊主任、いい加減有給消化してくれないもんかな。この際長期でお休みを取るでもいいからさ。当社としても毎回厚労省からの通達で君の名前が筆頭に挙がってくるし、ちゃんと本人には仕事を休んできっちり有給休暇を取得してくれるように頼んでいる、と毎回報告しているものの、実際にきみが有休を取ってくれないと困るんだよ」 上司である係長の中上からの叱責が飛ぶ。今の世の中は効率こそが第一。残業や日曜出勤でいたずらに有給期間を増やし、または有給休暇を消費せずにため込んでおくことはこの際美徳ではなく悪徳とされる時代になっていた。「もう少しだけ待っていただけませんか。今、私抜きでも仕事が間に合うようにマニュアル







