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第29話:監視員イアン

作者: 大正
last update publish date: 2026-05-11 07:00:03

「あ、いました。一日どうでしたか。リンカちゃん、安いほう一つ」

「あいよー、黒パンセット一つ! 」

 ふと気が付くとイアンちゃんが訪ねてきていた。そういえば、夜にでも今日の一日の成果を確認しに来ると言っていたな。

「やあ、イアンちゃん。一日ゆっくりできたかい? 」

「それはもうゆっくりと……って、私のことは良いんですよう。お二人がどうなっているかが気になるんです」

「それは、もうばっちり。この通り、今日のご飯は高級セットが食べられるぐらいには稼いできたよ」

 テーブルの食器を指さし、安いほうではなく高いほうの食事をとっていることを示す。

「それは良かったですね。一日働いて……あれ、働いて? 」

 イアンちゃんが自分で言った言葉に混乱している。

「タカナシさんは働きに来たんじゃないですよね? お休みに来たんですよね? 」

「休みだけど、働かないと食っていけないからな。だから……副業? 」

「それ、神崎さんにどうやって報告すればいいんですかね……みっちり働いてるって伝えればいいんですかね……どっちにしろ、あちらで問題になりそうなんですが」

「まあ、そのまま伝えればいいんじゃない? 休みを使って精いっぱい異世界で働いてるって」

「? ご主人様は休みに働いてるんですか? 」

 セルフィも混乱している。なぜそんなに混乱しているのか。

「まあ、楽しくやってるのは確かだから、これは仕事でも休みのようなもんだな。神崎さんにはよろしく伝えておいて」

「まあ、ありのままを報告しろとは言われてますのでそのままお伝えしますが……どうなっても知りませんよ? 」

 イアンちゃんがちょっと怖い口調で伝えてくる。

「こっちで働いてはいけない理由とかあったりするの? 」

「当方といたしましては、エンジョイしていただくのが主なサービスなんです。こっちまで来てがっつり働かれるのは想定外でした、としか言いようがありません。このケースは初めてですので、報告を上げて対応を迫るしかないですねえ」

「黒パンセットお待ち。じゃあタカナシさん明日よろしくね」

「うん、こっちこそよろしく」

「よろしくね……って、何かするんですか? まさか仕事ですか」

「いや、そうじゃないよ。あっちにあった調味料をこっちでも再現できないか試してみるだけなんだ」

 そう伝えると、イアンちゃんがジト目でこちらを見てくる。労働じゃないぞ、暇つぶしだからな。

「さすがに三日目になると同じ味もつらくなってきたからさ。味にアクセントをつけたいと思って」

「まあ、そういうことにしておきます。とりあえず無事に帰ってきた様子ですので、ダンジョンは問題なく通えた、ということで……で、いくら稼げました? 」

「二日半分の生活費にはなった。もうちょっと稼げるようになれば、一日お休みが取れるかもしれない。そうなったら今度こそ休みをエンジョイできるはずだ。それまではちょっとカツカツかな。じゃあ、俺たちは明日に向けてもう寝るからお先」

「はい、お疲れさまでした。明日こそちゃんと休んでくださいね。私もご飯を食べたら戻ります」

 さて、寝るか。部屋に戻るといつもの月明かりが部屋を照らしてランプ要らずのこの部屋。ここの気候は暖かく、夜になってもそれほど冷えないので窓が開けっ放しであっても風邪をひく心配がないのがありがたい所だな。

 ◇◆◇◆◇◆◇

 side:イアン

 部屋に戻り、平仮名と漢字を交えた流暢な日本語で報告書を書く。私は一応こっちの世界とあっちの世界の仲介役として、あっちの世界の言葉もある程度使えるのだ。早速、神崎さんに向けて報告書を書き始める。

 マサアキ・タカナシについての報告書:

 報告対象者マサアキ・タカナシについて、まず初日から三日間の行動と初見について報告する。

 まず、彼は休むということを知らない。初日から彼は装備品をかき集めると、さっそく薬草採取に精を出し、ついでにホーンラビットと戦闘を開始し、無事に戦い終える。

 基本的に自分の懐から金を出して楽しむ……という行動はあまりしない様子だ。過去の対象者とは違い、財布の中でやりくりをしようとしているそぶりすら感じられる。

 また、奴隷については他の対象者と違い、奴隷制度という存在を受け入れた上で、奴隷を買い入れようとしたり、自分の滞在が期限付きであることを時々忘れるような行動をとる。

 二日目にはその奴隷の中から一人を買い戻した。その奴隷は彼の目からすると、過去の対象者が子供を作って帰っていった、その子孫だということが対象者が持ち合わせていた鑑定スキルにより判明する。

 過去のどの対象者がそういう店舗を利用していたかや、恋愛関係を結んでいた結果生まれたかまでは今更たどり着くことは難しいだろうと思われる。

 また、二日目はさらに短い時間で食肉狩りを行い、奴隷の所持していたスキルにより、いたって簡単にそれらをこなすことができた。

 三日目にはダンジョンへ通って、無事に数日分の稼ぎを手にした様子だが、次の日も働く予定である可能性が高い。

 またダンジョンへ行くのか、薬草採取か、食肉狩りか、何をするかまでは不明だが、労働にあたる行為をすることは間違いなさそうだ。

 また、どうやらそちらの世界にある調味料を再現するために明日も働く可能性は非常に高い。

 今のところ、休んでいるのは寝ている時間だけであり、それ以外の時間はすべて労働に費やしていると言っても過言ではない様子だ。

 本人曰く副業みたいなものだと言っているので、これが労働行為に該当するかはそちら側にゆだねる。

 有休延長が認められる場合は、それを本人に伝えるかどうかもそちらの指示に従うものとする。

 彼は、本当に何をしにこちらの世界へ来たのか。興味がうすれることはなく、その行動原理にはいかなるものがあるのか、見通していく必要がある。

 七日目の効果測定までにはより詳細な情報があげられるとは思われる。続報を待たれたし。

 観察者:イアン

 こんなもんですかね。さて、私もちゃんと仕事をしたことですし、明日はお休みをもらわないといけません。きちんとした労働にはそれに見合う報酬と労働の疲れをいやす分だけの休暇が与えられなければいけない。

 たとえ異世界に住む私であっても、会社の方針として無理に働かせたりはせずにきちんとお休みをもらえる。いい会社とのつながりをもらえたものですね。これも【世界渡り】という私にしかないスキルを持ち合わせた運命ともいうものでしょうか。

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