LOGIN私と北代市で名高い「流川社長」、つまりは私にとって義理の叔父である流川俊哉(るかわ しゅんや)との間に、秘密の恋愛関係を育んでいた。 彼にプロポーズしようとしたその時、突然知ったのだ。当時彼が私を追いかけたのは、私の継父が彼と彼の思い人を引き裂いたことへの報復のためだった。 私はただの、彼の復讐の道具に過ぎなかったのだ。 彼の思い人はすでに帰国した。 道具である私は、彼の人生から姿を消し、退場するつもりだった。 しかし、彼は後悔した。
View More香澄には、もはや怒りの感情などまったくなかった。彼女は公園の小川を見つめ、そよ風に揺れる花々を眺め、最後に空の美しい雲へと目を向けた。「私は愛する人を間違えたが、まだ若いだし。挑戦して失敗してもやり直せるだけの力はあるよね?」俊哉は苦しげな声で言った。「間違いだって?もう俺のことを間違った人間だと決めつけてるのか?過去の過ちを全部償って、傷つけたことも謝って、愛してると認めて、これからもずっと大事にしていくって誓っても……」香澄はもう彼の弁解を聞き入れようとせず、遮って言った。「貴方を信じないわ」その一言が、まるで俊哉の胸を貫いたかのように、痛みが全身に広がった。彼は低い声で言った。「信じない?」香澄はうなずき、あっさりと言った。「私の初恋は、まるごと嘘だった。愛も、愛してくれた人も、全部が私を騙すための演技だった。これから先、もしかしたらまた愛を信じたり、期待したりする日が来るかもしれない。でも、今は無理。いつか他の誰かを愛するようになるかもしれないが、あの噓つきだけは絶対に愛さない。だって、彼がいつ本当のことを話しているのか、いつ演技しているのか、もう分からないから。だから貴方が何を言おうと、私は信じない。流川俊哉、私が愛したのは、貴方が演じていた『別人』であって、本当の貴方じゃない。本当の貴方はどんな人なのか、私は知らないし……」最後に、俊哉の目をまっすぐに見つめながら言った。「知りたくもないのよ」俊哉はまるで時が止まったかのように、固まった。しばらくして、ようやく口を開いた。「信じないわ」彼は香澄の拒絶を受け入れられず、必死に言い続けた。この数日、自分が何をしてきたかを語った。彼はずっと前から静がどんな人間か知っていた。若気の至りで一瞬心が動いただけ。もし流川輝彦が余計な世話を焼かなければ、自分はとっくに彼女と別れていただろう。彼は一度も静を愛していなかった。彼女が帰国してからも、ただ「取り繕っていた」だけだった。面子を保つため、静を適当にあしらいながらも、心の中では、友人が口にする「何でもできて、全てが手の内にある流川俊哉」という人物像が実際に存在することを演じていただけ。自分は何も見失っていない、と周囲に、そして自分自身に言い聞かせたかったのだ。けれど本当の彼は、香澄と過ごす日々
翌日の午前、飛行機に乗る前に、俊哉は助手からの連絡を受け取った。静はすでに引っ越していたと。彼はそれに構わず、手のひらにある青い蝶の髪飾りを見つめながら、香澄と再会した後の光景を思い描いた。この間、彼女は確かにたくさんの辛い思いをした。悲しんで、怒るのも当然だ。俊哉は、かつてのように彼女のそばに寄り添い、優しく慰めながら待とうと思っていた。香澄ちゃんは純粋で優しい女の子だ。彼女は情にもろく、機嫌を取るのも難しくなかった。俊哉には自信があった。彼女を取り戻せると。彼女が交換留学を選んだことも、別に構わない。一年だけだし、それが終われば素直に帰国するだろう。彼は輝彦に二人の関係を話し、香澄にプロポーズして、盛大な結婚式を挙げるつもりだった。輝彦が反対したところで関係なかった。流川家と絶縁する覚悟もあったから。今の俊哉にはそれだけの力があるし、たとえ流川家を離れても、香澄には最高の人生を与える自信があった。だが――どれだけ心の準備をしていても、目の前に現れた香澄の姿は、彼の想像を遥かに超えていた。彼女はキャミソールにホットパンツ姿、白い肌は雪のように輝いて、髪は金と赤のグラデーションに染められ、ゆるく巻かれ、メイクをして――驚くほど美しかった。同年代の若者たちと一緒にクラブで踊っていた。音楽は激しく、彼女も楽しそうに踊っていた。周りの男たちの視線は、露骨なものも隠されたものも、全て彼女に釘付けだった。俊哉の中の「理性」という名の糸が、ぷつんと切れた。何も考えずに彼は駆け寄った。「香澄ちゃん!」香澄は彼をちらりと見た。淡々とした目で、ほんの一瞬だけ視線を流してから、再び楽しそうにダンスを続けた。周囲からは口笛や歓声が上がった。香澄は長テーブルにあったカクテルを手に取った。怒りが込み上げた俊哉は、彼女の手から酒を取り上げた。「君、アルコールアレルギーなのに。こんな場所で飲むなんて、死ぬ気か!」それでようやく香澄は踊るのをやめた。空気が変わったのを察したDJの若者が手振りをして、音楽を止めた。若者たちは空気を読んで、その場を離れていった。俊哉は酒を置き、香澄の手を取ろうとした。「一緒に帰ろう」だが、その手は空をつかんだ。香澄はすっと身を引き、淡々とした口調で言った。「
その夜、俊哉は、香澄と一緒に使っていたダブルベッドで一人眠った。しかし夢に現れたのは、涙に濡れた香澄だった。彼女は壁際に身を寄せ、両手で自分を抱きしめながら、ひどく悲しそうに泣いていた。俊哉の胸も締め付けられるように痛くなった。「香澄ちゃん、泣かないで。君を愛し――」そう言いかけた瞬間、香澄が彼に気づいた。涙を拭い、その目には……憎しみが浮かんでいた。彼女は言った。「流川俊哉、貴方が憎い」俊哉ははっと目を覚まし、ベッドサイドのライトをつけた。この家のことは、以前は小さいと感じていた。以前、香澄と冗談を言ったこともあった。流川輝彦はケチだから、贈った家も小さいだとからかった。しかし、今この瞬間、この小さな家が突然ひどくがらんとしているように感じた。どうしようもなく不快だった。俊哉はベッドに腰かけ、とうとう我慢できずに一本のタバコに火をつけた。しかし、口に運ぼうとしたその時――香澄が慢性咽頭炎で、煙の匂いがダメだったことを思い出した。彼はそのまま手を止めた。最後はタバコを消して、トイレに流して処分した。そして換気システムをしばらく稼働させた。煙の匂いが完全になくなったのを確認してから、ようやく灯りを消して再びベッドに横たわった。だが今度、俊哉はなかなか寝つけず、長いこと寝返りを打った末、ようやくうとうとし始めた。夢の中では、あの夜――静の歓迎会で、彼女の服が濡れて、俊哉が香澄に謝らせた場面がよみがえった。彼の言葉を聞いて、香澄は素直に謝罪した。当時は何も思わなかったが、夢の中で再びその姿を見た瞬間。俊哉の胸が突然ズキンと痛んだ。自分がずっと大切にしてきた女の子が、いつそんなふうに人に頭を下げただろうか?場面が変わり、次に現れたのはこの家のリビングだった。香澄が丁寧にお守りの破片を全て拾っていた。彼女は声を枯らして言った。「おばあちゃんのお守りが割れたの」その目は、生気を失っていた。そして最後に見たのは、彼女が決然と去っていく後ろ姿だった。「香澄ちゃん、行かないで!」俊哉は再び飛び起きた。すぐさま、この数日に買い集めた高級ブランドのものや、オークションで落札したさまざまな玉のお守りを取り出した。だが彼はよく分かっていた。どんなに高くて良いお守りでも―
交換留学生として海外に来たが。行き先が決まると、流川輝彦はすぐに人を手配して、学校の外に香澄用のマンションを用意させた。香澄が到着する前には、部屋の掃除も掃除婦が完了した。冷蔵庫には新鮮な野菜がすでに準備されていた。しかも香澄は一人で来たわけではなかった。彼女の学校からは、他に三人の交換生も一緒に渡航していた。そのうち彼女以外、もう一人の女子がいた。その女子生徒は家庭の事情もあり、学校の寮を選んだ。皆で一緒に学校に行き、履修登録を済ませ、クラスメイトや先生にも挨拶し、外で食事をした後。寮に住む男子生徒がその女子を先に送り届けた。そして、池田亘(いけだ たけし)という男子生徒は家庭環境がいいので、香澄と同じマンションの別の部屋を借りていた。亘は香澄と一緒に帰路に着いた。道中、二人はこの国の印象や、これからの授業内容について話し合った。香澄は、最初は異国の地に一人で来たら、少しは寂しさや不安があって、乗り越える必要があるかもと思っていたが。実際に来てみると、それは全くなかった。この常緑大学は授業が非常にハードだった。彼女たちは今日手続きを終えたばかりだが、明日からにはすぐに授業が始まるのだ。今日会った教授は英語のなまりが強く、早口だったりスラングを使ったりすると香澄はときどき聞き取れなかった。すぐに慣れる必要があった。でなければ授業についていけないと思った。部屋に戻った香澄は、すぐに机に向かって予習を始めた。時間になると寝支度を済ませてベッドに入った。くだらないことを考える暇もなければ、孤独や寂しさを感じることもなかった。翌朝早く、彼女は亘とマンションの前で合流した。二人で自転車に乗って学校へ向かった。こうして彼女の異国でのキャンパスライフは、全力疾走で幕を開けた。だから当然、知る由もなかったし、想像もしていなかった。地球の裏側にいる俊哉が、彼女が真実を知ってしまったことに気づいていたなんて。そして、彼女を追って渡航するための航空券まで手配していたことを。俊哉は、香澄との住まいから静を電光石火の勢いで追い出した後、失われた物たちの“修復”を始めた。幸いにも彼の記憶力は抜群だった。まずはネット通販で、家からなくなった物たちを見比べながら一通り買い直した。だが配送に時
香澄は、机の上に置かれたキラキラ光る蝶の髪飾りを一目で見つけた。そこにあしらわれたサファイアは非常に高価なものだった。それは、3年前に俊哉が香澄に贈ったもので、その青い蝶の髪飾りは世界に一つだけだとも言っていた。だが彼女の髪飾りは、流川家の別荘にあって、すでに箱に詰めて寄付に出したはずだ。では、なぜここにある?静は彼女の視線の先を追い、小さく笑った。「これ?俊哉がくれたのよ。3年前のバレンタインの日、わざわざ海外まで飛んできてくれたの。欲しいならあげるわ。どうせ好きじゃないし」つまり、「世界に一つ」なんて嘘だった。香澄の心は、さらに冷え切っていった。彼が自分にかけて
真由が少し安心した後、台所に行って娘のために自ら料理を作り始めた。香澄は部屋に立ち尽くし、ドレッサーや本棚の上に並んだ、これまで俊哉から贈られた品々を見つめていた。突然、それが目に突き刺さるように痛く感じられた。彼女は大きな段ボール箱を2つ取り出した。これは15歳の時に俊哉が贈ってくれた万年筆だった。「将来が明るく輝きますように」と言った。けれど、彼はその将来を自らの手で壊したのだ。香澄は目を伏せ、万年筆を段ボール箱へ投げ入れた。ぬいぐるみ、キーホルダー、蝶の髪飾り、限定版のミニチュアセット……18歳の誕生日、彼は錠前の形をしたペンダントを贈ってくれた。付き合う
その後の二日間、俊哉から香澄に連絡はなかった。もちろん彼女の方からも連絡はせず、ただ母に、留学のことはしばらく秘密にしてほしいとだけ伝えた。アレルギーの症状が落ち着いたころ、仲の良い同級生たちが香澄に送別会を開いてくれることになった。彼女は参加を承諾した。出かけようとしたその時、真由が彼女を引き止めた。「香澄ちゃん、前に出かけた時、アルコールアレルギーが出て危なかったじゃない。お母さん心配だから、今回は堀川さんに車で送ってもらって、終わったら迎えに行かせるわね」香澄ははあと数日で発ってしまうので、母の申し出を拒むのが忍びなく、承諾した。しかし、今日の集まりは親しい同級生
香澄は顔面蒼白のまま、魂が抜けたようにして個室へ戻った。どれくらい時間が経ったか分からないまま、ふと隣に誰かが座った。俊哉の聞き慣れた声が親しみを込めて言った。「香澄ちゃん、顔色悪いよ。大丈夫か」香澄はぎこちなく笑った。嘘が苦手な自分が、この瞬間だけは嘘をつけたことを、少しだけ自分に感心した。「友達が、5年付き合った彼氏と別れたって話してて……ちょっと悲しくて」香澄は普段から映画や小説でも泣いてしまうタイプだったから。俊哉は気に留めることもなく笑った。「香澄ちゃんは本当に優しすぎるよ」そのとき、静がグラスを持って立ち上がった。「今日は私のためにわざわざ集まってく