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第4話

Author: 花畑のベイビー
徹は、本気で美羽を連れていくつもりだった。

真っ暗だった私の世界から、最後に残った光まで奪おうとしていた。

美羽がそばにいなければ、私はきっと一日だって耐えられない。

「やめて……美羽を連れていかないで。美羽に会えなくなったら、私はどうやって生きていけばいいの……」

それを聞いた莉奈は、鼻で笑った。

「今の真香さん、気持ちが不安定すぎるんです。徹さんだって、あなたが美羽ちゃんに何かしないか心配してるんですよ。

それに……」

莉奈は私のそばまで来て、耳元に口を寄せ、声をひそめた。

「美羽ちゃん、本当はあなたに会いたくないんですよ」

気づけば、部屋に残っていたのは私だけだった。

かつて愛した人も、何より大切な美羽も、もういない。

部屋の中は、ひどく静かだった。

視線が、ベランダの窓、ローテーブルの果物ナイフ、コンロのガス栓へと、ぼんやり流れていく。

どれも今の私には、この苦しみを終わらせてくれるものに見えた。

私はふらりと立ち上がった。

もう何も考えられないまま、いちばん近くにあったものへ向かって歩き出した。

そのとき、スマホの着信音が突然鳴り響いた。

その音に驚いて、私はようやく我に返った。

画面には、もう何年も見ていないはずなのに、忘れられない番号が表示されていた。

「お母さん……ごめん。私、もうだめみたい。生まれ変われば、またお母さんの子になりたい……」

「真香、そんなこと言わないで。あなたにはまだ私がいるの。

そばにいられなかったけど、ずっと心配してた。どんな姿になっても、あなたは私の娘よ。

苦しかったよね。ひとりでよく耐えたね。お願い、もう少しだけ待って。あなたを助ける方法があるの……」

母の声を聞いた途端、張り詰めていたものが切れたように、私は声を上げて泣いた。

私は、すべての人に捨てられたわけではなかった。

この世界にはまだ、私を本当に大切に思ってくれる人がいたのだ。

母の言葉を何度も思い返しているうちに、さっきまで死ぬことしか考えられなかった気持ちが、ほんの少しだけ薄れていった。

電話を切って少しすると、手の中のスマホがまた震えた。

母からのメッセージだった。

【真香、お願い。私のためにも、あなた自身のためにも、10分だけ待って】

【このあと送るものを読んでから、決めてくれない?】

すぐあとに、ひとつのファイルが送られてきた。

ファイルのタイトルには、こう書かれていた。

偽装死計画。

私は、その中の「死」という字から目を離せなかった。

偽装死でも、死んだのと同じように楽になれるのだろうか。

もう二度と、苦しみも痛みも感じずに済むのだろうか。

私は目を閉じ、どうにか気持ちを落ち着かせながら、そのことだけを考え続けた。

次に我に返ったときには、もう数時間が過ぎていた。

出かける支度はしたままで、顔もマスクと帽子で深く隠したままだった。

そして、長いあいだ出られなかった家の外へ、一歩踏み出した。

本当に終わりにするにしても、偽装死を選ぶにしても、その前にもう一度だけ美羽に会いたかった。

大勢の保護者や子どもでにぎわう校門の前で、私だけがひどく浮いていた。

できるだけ目立たないように隅に立っていた。それでも、莉奈にはすぐ見つかってしまった。

「真香さん、本当に美羽ちゃんの学校まで来たんですね。よくその顔で来られましたね」

莉奈が私の前に立ち、悪意を隠そうともせずに笑った。

私はうつむいたまま、莉奈にだけ聞こえる声で言った。

「遠くから美羽を見られれば、それでいいの……

それもだめなの?」

莉奈はちらりと校門に目をやり、口元だけで笑った。

「だめだなんて、言ってませんよ。

むしろ、美羽ちゃんに会わせてあげます」

そう言った次の瞬間、莉奈は私のマスクを乱暴にはぎ取った。

その勢いで、かぶっていた野球帽も地面に落ちた。

私は慌てて拾おうとした。

けれど莉奈に腕をつかまれ、動けなかった。

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