私は三枝紗季(さえぐさ さき)。軽い聴覚障害があり、右耳が少し聞き取りにくい。幼いころから、幼なじみの白川有博(しらかわ ありひろ)は、決まって私の右側に立とうとした。「そうすれば、誰かがお前の悪口を言っても、俺のほうが先に聞けるだろ」有博は、いつもそう言っていた。やがて私たちは婚約し、結婚式の招待状も、もう出来上がっていた。周囲の誰もが、私は幸せ者だと言った。十年以上もそばで私を守ってくれた幼なじみと結婚するのだから、と。それも、本間日菜(ほんま ひな)が有博の会社に転職してくるまでの話だった。日菜は美人で、ぱっと目を引く人だった。話すときはいつも、声に笑みを含ませていた。初めて私に会った日、日菜は私の補聴器をじっと見つめたあと、笑顔のまま有博に尋ねた。「夜、彼女に甘い言葉を囁いたって、その耳でちゃんと聞こえるの?」私は血の気が引いた。けれど有博は日菜を責めることもなく、わずかに眉を寄せただけだった。「彼女の言葉に悪気はないんだ。気にするな」結婚式のリハーサルの日。私は扉の外に立っていた。中からは、日菜が笑いながら、私の誓いの言葉をふざけて読み上げる声が聞こえてきた。「有博、私はあなたの耳になります。杖になります。……一生、あなたのお荷物になります」部屋中がどっと笑い、有博も一緒になって笑っていた。「勝手に変えるなよ。紗季が聞いたら、また傷つくだろ」日菜が尋ねた。「それでも結婚するの?」有博はわずかに間を置いた。「招待状ももう出したんだ。今さら結婚をやめられるわけないだろ」私は廊下の突き当たりに立っていた。手にしていた有博からもらった傘は、まだぽたぽたと雫を落としていた。雨がまだ降っているのに、私は中へ入る気になれなかった。……中から有博が出てきたとき、私はうつむいて手についた水を拭っていた。私に気づいた有博は、一瞬足を止めた。「いつ来たんだ」私は顔を上げて、有博を見た。「今来たところ」日菜は有博の後ろから出てきて、何もなかったように笑った。「紗季さん、さっきのはただの冗談ですよ。まさか聞こえてます?」そう言いながら、日菜はわざと私の右側に立った。ちょうど、私が聞き取りにくい位置だった。有博は眉をひそめ、日菜に目を
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