白石梨乃(しらいし りの)の存在を知った後、私は黒崎悠真(くろさき ゆうま)を責め立てることもなく、ただ離婚協議書を突きつけた。彼はうつむいたまま座り、しばらく葛藤した末にそれを破り捨てた。「十日だ。十日後には梨乃を遠くへやる。二度と俺たちには関わらせないから」そう言い残すと、私の返事を待つこともなく背を向け、家を出て行った。そして、この十日間。悠真は彼女を連れてラフティングや雪山登山、バンジージャンプ、スカイダイビングなど、刺激的な遊びを片っ端から楽しんだ。海辺で朝日を眺め、縁結びを祈願するなど、思いつく限りのロマンチックな時間を過ごした。そして九日目の夜。すべての荷物をまとめ終えた時、思いがけず十年前の自分からビデオ通話がかかってきた。「本当に十年後の私なのね!」画面越しの「私」は明るい笑顔を浮かべ、興奮しきっていた。「じゃあ、私と悠真はもう結婚して、子供もいるの?」私は目に苦痛の色をにじませ、そのままベランダへ向かった。眼下で強く抱き合い、名残惜しそうにしている悠真と梨乃にカメラを向けた。「これが結末よ」彼女は目を見開き、呆然と呟いた。「そんな、嘘でしょ……」私はすべての気力を吸い取られたような、疲れ切った声で言った。「星野明音(ほしの あきね)、お願いだから、彼とは結婚しないで」……画面の向こうで、彼女はとめどなく涙を流していた。悲しみと衝撃で目を真っ赤に腫らし、何事かをぶつぶつと呟き続けていた。「どうして、こんなことに……」私は答えることができなかった。私自身にも分からないのだから。ただ、こう言うしかなかった。「彼と結婚しても幸せにはなれないわ、明音。約束してくれる?」彼女は涙を拭い、真っ赤な目で私を見た。「でも、彼は今、私のそばにはいないの。私の脚を治してもらうため、南雲県(なぐもけん)で世を離れて暮らす名医を訪ねて行ったわ」私は呆然とした。そうだった。すっかり忘れるところだった。あの頃の私は舞台の事故で両脚に重傷を負い、立ち上がることすら困難だった。私以上に心を痛めていた悠真は、毎晩のように徹夜で看病してくれた。薬を替え、夜通しマッサージを続けてくれた。そんな時、南雲県で人里離れて暮らす名医なら私の脚を治せるかもしれないと
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