昨年読んだ中で強く印象に残っているのは、『The Book of Lost Names』という作品です。第二次世界大戦中にユダヤ人子供たちの身元を偽造した実在の図書館司書をモデルにした物語で、歴史の闇に消えそうな個人の記憶を掘り起こす緻密な筆致が特徴です。
特に興味深かったのは、加害者側の日常との対比描写。普通の家庭を持つナチス将校が、午後のお茶会の後に虐殺命令にサインするシーンは、暴力の平凡さを浮き彫りにしています。著者がインタビューで語っていた『歴史の加害者は必ずしも怪物ではなく、むしろ平凡な顔をしている』という言葉が、作中で何度も反響していました。
現代のルワンダ虐殺を扱った『Our Lady of the Nile』も最近再読しました。女子校を舞台にした一見平穏な日常が、民族対立の進行と共に崩れていく過程が、少女たちの視線から淡々と描かれる点が秀逸です。