『英国王のスピーチ』のトム・フープ監督が手掛けた『The Duke of Burgundy』は、一見寝取られテーマを含むように見えますが、実は人間関係の深層を描いた詩的な作品です。
蝶の研究者を題材にしたこの映画は、支配と服従の関係性を繊細に表現しています。表面的なエロティシズムを超えて、二人の女性の愛の形を問い直す内容は、単なるジャンル作品の枠を遙かに超えています。最後のシーンで交わされる言葉の重みは、見る者の心に長く残りました。
サウンドデザインと映像美が完璧に調和したこの作品は、2014年に公開された後、数々の批評家賞を受賞しています。寝取られという設定をきっかけにしながら、人間の本質的な孤独と繋がりへと話を昇華させていく手腕は見事です。
ふとあの映像が蘇ることがある。映像美と抑えた感情が重なって、浮かび上がるのは'In the Mood for Love'だ。
この作品は寝取られという言葉に典型的な曝露やスキャンダルを求める人には違和感があるかもしれない。けれど、私が惹かれたのは「裏切り」の肉体的な証拠よりも、関係の崩れ方とその余韻の描写だ。トニー・レオンとマギー・チャンが演じる二人の間にある静かな緊張、時代背景や服装、カメラワークが互いの距離感を物語る。
感情の寝取られを映す際の繊細さ、そして結局は満たされない欲望が残す寂しさを、美術と音楽が引き立てる。そういう意味で、この映画は単なる不倫劇を越えて、寝取られがもたらす人間の内面の崩壊を丁寧に描いた傑作だと私は思う。