地の文のリズムも大きく異なり、英語版のテンポの良さに対して日本語版はやや重め。ただしピラールの語りなど民話調の部分は、日本語訳の方がかえって雰囲気が出ている気がする。決定的なのはタイトルで、英語の『For Whom the Bell Tolls』が持つ荘厳な響きと、日本語の『誰がために鐘は鳴る』の詩的な語感は、同じ作品ながら別の入り口を用意しているようだ。
タイトル『誰が為に鐘は鳴る』には深い象徴性が込められています。ヘミングウェイがスペイン内戦を描いたこの小説では、鐘の音が死の予兆として繰り返し登場します。
主人公ロバート・ジョーダンが爆破任務に赴く中、鐘の音は個人の犠牲と集団の運命を結びつけるメタファーとなっています。特に終盤で敵の接近を告げる鐘が鳴るシーンは、『誰のため』という問いへの答えを浮かび上がらせます。
興味深いのは、原題の『For Whom the Bell Tolls』がジョン・ダンの説教から引用されている点。『誰かの死は人類全体の損失』という思想が、戦争の不条理と繋がっているのです。