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結城慎二
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Novels by 結城慎二

僕だってチートがあれば苦労なんてしていない

僕だってチートがあれば苦労なんてしていない

のどかな田舎の小さな集落で生まれ育ったジャン・ロイは15歳の誕生日の前日、村を襲った盗賊から逃げている最中唐突に四十半ばのおじさんだった前世の記憶が蘇った。 略奪され、焼き尽くされた村でただ一人生き残ったジャンのサバイバル生活は、なんだかんだと仲間が増えて村が町の規模に。 復興したことが領主にバレたのを機に叛旗を翻し、ついには下剋上を成し遂げ領主として戦国の世におどりでる。
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Chapter: インビジブルストーカー
 その夜、寝室で待っていると夜更けにリリムが帰ってきた。「待ってたよ」「先に寝ててもよかったのに。朝になってからじゃダメだったの?」「ダメだね。情報鮮度は重要だ」「はいはい」 リリムは灯りの魔法で部屋を明るくする。  僕は、くず炭をすりつぶして粘土に混ぜ、棒状に固めた筆記具と建築廃材の木片を用意する。  いわゆるチャコールペンと木簡だ。  木片はなるべく書きやすいものを揃えている。  皮紙は高級品でメモ書きなんかにはもったいないし、紙はこの国ではさらに高級品のようなので落ち着いたら紙漉きを試してみようと思ってるくらいだ。  準備ができたので、ペンを回しながらリリムを見る。「で、四人の様子はどうだった?」「どうって普通よ」「……それじゃリリムに頼んだ意味がないじゃないか。普通でいいから細かく教えてくれよ」「うーん、まずね……」 その報告によれば、四人はざわつく村の中を何事もなかったように散策していたという。  厚顔無恥とはこういうことだろうな。  会話内容は「特に見るべきところのないどこにでもある村だな」って、どこにでもある村じゃねーだろ。  城壁を備えた村は少なくとも王国にはないってジョーが言ってたぞ。  どこを見てんだこんちくしょう!「例の男もそれに賛同してたのか?」「っていうか、むしろそいつが積極的に『どってことない村』だってことにしようとしてたわよ」 なるほど、それならそれでこっちにも別の反応があるぞ。「あと『何日もいるような村じゃない』って」 「見るべきものは見た」ってことか。  ぼんくらトリオはどうでもいいや、もう一人が何を見て何を感じどう思ったかが問題だ。  そして、その情報をどう利用するのかもね。「じゃあ、明日には村を立つ可能性が高いね」「三人はどうか知らないけど、あいつはすぐにでも出発したがってる風だったわ」「なるほど。他に気づいたことは?」
Last Updated: 2026-07-21
Chapter: 文明水準は医療に顕れる
 なるほどね。 四人のうち誰が登ると言い出したのか聞いてみたら、思った通りの男だった。  推理ものなら「犯人はお前だ!」ってふん|縛《じば》るのもアリだけど、それをやっても仕方ないしな。「しばらくは|病《や》むだろうが、しっかり養生してまた働いてくれ」「ありがとうございます」 部屋を出たあと、ジャリと二、三話しをする。  腫れが引くまで冷やすこと、腫れが引いたら適度に体を動かすこと、バランスの良い食事をとることだ。  もっとも栄養成分は知りようがないのでバランスってのをどうとればいいかは僕にも判んない。  よく言うのは一汁三菜か……。  ルダーの奧さんになったヘレンに作ってもらえるように頼んどこう。  ジャリに任せるのは無理筋だろうからね。 田舎なせいで医療レベルはびっくりするほど遅れてる。  これは仕方ないことだ。  前世と比べちゃいけないことは重々承知の上でなにか対策を練らなきゃいけない。  ま・なにかもなにもないんだけど。  一にも二にも魔法使い、それも治癒魔法師を仲間に引き入れなきゃダメだ。  魔法さえあれば現代医療もびっくりの治療ができる。  人体構造は治癒魔法の技術に直結しているから相当なレベルまで研究されている。  今回サビーたちが素早く処置に当たれたのもそのおかげだ。  彼らは戦闘任務についてたんで怪我は日常茶飯事だったから、そこらへんに精通していたみたい。  とはいえこの世界、治療は基本魔法任せ。  魔法がなければ自然治癒力任せだ。  チャールズの見舞いに行くと、彼はベッドで眠っていた。  折れた骨を元の位置に戻す処置の痛みに耐えかねて気を失ったと言うのが正解だろう。「お館様」「ザイーダ、どうだ?」「右足は多分完治しますが……」「しますが?」「左の骨折は複雑すぎて元の位置に戻せきれていないんです」 切開手術なんて、この世界の医療技術じゃ無理だもんな……仕方ないって言っていいのか悩むけど、他に言
Last Updated: 2026-07-20
Chapter: 事件ですか? 事故ですか?
 ジャスの家に駆けつけると、ちょうどサビーとイラードが家を出てくるところだった。「容体は?」 中に入る前にサビーに尋ねると「左上腕骨と左大腿骨の骨折。肋骨も何本かヒビが入っているかも知れないな」 という返事だった。「詳しい状況を教えてくれ」「それはワタシがご説明します。村長の指示通り、正面門の左右に物見櫓を建設しておりました。右の櫓はすでに運用中で現在左の櫓を建設中です」 そこは僕も把握している。  足場を組んで骨組み中だった。「その足場が何かの拍子にぐらりと揺れたらしく、投げ出されたジャスともう一人が九シャッケンほどの高さから地面に落ちたそうです」「もう一人の安否は?」「両足の複雑骨折でした」 うわっ……。「そっちはがザイーダが付いています」「二人とも歩けるようになるか?」「ジャスの方は問題ないと思いますが、チャールズの方はうまく骨接ぎ出来なければあるいは……」 チャールズか……。  確か三十代の頭髪が薄い男だった。  多少魔力感応力がある男で、若いうちから修行していれば魔法が使えていたかも知れないと連れてきたときにジョーが紹介していた。「チャールズの処置が終わったら教えてくれ。あとで見舞いに行く」「判りました」 ジャスの家に入る際、ふと気になったので僕はリリムに小声で頼みごとをする。 中に入ると、ジャリがやってきた。「村長」 最近はジャリも僕のことを村長と呼ぶ。「様子はどうだ? 面会できそう?」「痛みで唸ってますが、受け答えはできてる」 ひとまず大丈夫かな?  ジャリに案内されて寝室に入ると、彼のいう通り痛みに脂汗を浮かべてベッドで痛みに耐えているジャスがいた。「村長……」「災難だったな」「ええ、午前中まではしっかり組まれていたんですけど、どうも縄が緩んでいたみたいです」 ……
Last Updated: 2026-07-20
Chapter:  な……なんだって──!!
 炭焼きには副産物として木酢液と木タールができる。  木酢液は強い臭いと「酢」の字が示す通り酸性なので動物避けや害虫対策、殺菌などに使われていたと、ルダーが言っていた。  木酢液は蒸留するとメタノールになることだけが知識としてある。  どうやればいいかの知識がないとこが惜しいな。  メタノールが精製できればアルコールランプが作れるのに……。  木タールの方は記憶が確かなら(前世知識は転生ボーナスだから確かなんだけど)正露丸の主成分だ。  北欧ではその昔万能薬と呼ばれていたってサウナ関連の記事で読んだ。  もちろん、樹種で成分や効果が違うだろうし、こっちの木タールに同等の効用があるかは試してみないと判らないけどね。  視察の限り生産に関しては怖いくらい順調だ。  問題があるとすれば、生産が順調すぎて雑木林が荒れていることかな。  元々の村の生活に必要な木材を調達するために人の手を入れていた場所なんだけど、村の復興のための建築材伐採やルンカー、炭の大量生産に想定以上のペースで切り出したせいだ。  そのせいもあってかラバトやデヤールなども森の奥に入っていて、最近雑木林での狩りはさっぱりだ。  これはまずいってことで去年の秋から冬にかけて北の森で木材を調達したので、荒廃はだいぶん抑えられたけれどもしばらく雑木林からは枯れ枝の柴刈りくらいしかできそうにない。  雑木林の奥には森が広がっているんだけど、そこは「主」のテリトリーだ。  これ以上東側で雑木林は広げられない。  西の山には植物型怪物スクリトゥリがいて(定期的に怪物退治の演習をすることになってるけど)危険だしな……。  少し遠いけどやっぱり北の森の一部を雑木林にするか。  そんなことを考えながら視察を終えて村に戻ってくると、今度はオギンが僕を待っていた。「お館様」「問題か?」「はい」「旅人関連?」「いえ、ジャスが建築中の物見櫓から落ちました」 な……なんだって──!!
Last Updated: 2026-07-19
Chapter: 農作業を免除されている人々
「最短コースとか障害になるものの見極めとか、そういうところを調べてるんじゃないかな?」 もっとも家は点在だから狭い路地があるわけでも行き止まりがあるわけでもない。  この場合の障害ってのはサビーとかガーブラみたいな戦える村人の見極めとか、女の物色じゃないかと踏んでるけどね。「三人の方はいいや、例の男だけに注視してくれ」「かしこまりました」 午後は村を出て炭焼き小屋と窯の視察をする。  同行者はガーブラ。  村では現在、農作業を免除されている専門職が四人いる。  一人はジャリ。  毎日毎日鉄を打っている。  最近は出来のいい鎌や包丁を打てるようになってきた。  研ぎの技術も上がっているみたいだ。  もっともルダーのお墨付きが出る鎌は二十本に一、二本だからまだまだ研鑽を積んでもらいたい。  でも、なかなかどうして優秀じゃない?  もう一人はルンカーづくりの責任者。  村の復興が一段落したので最近はルンカーの他に素焼きの器作りに挑戦してもらっている。  前の村でも|壺《つぼ》や|甕《かめ》を作っていたっていうからお願いしたんだ。  皿や|杯《さかずき》は磁器がいいなんて贅沢な望みは前世持ちならではなんだろうか。  それに合わせて僕の前世知識とルダーの前世知識からルンカー窯のとなりに陶器用の窯を製作中だ。  もっとも僕がイメージしている陶器を作るためには釉薬が必要なんだけど、ここでは手に入らないから陶器製作はまだできないし、磁器に関してはネット知識だけじゃちょっと絶望的だ。  あとの二人は炭焼きだ。  だいぶん手慣れたようで、最近は良質な炭を生産してくれる。  黒炭だけじゃなく白炭も生産するようになった。  白炭は燃焼時間が長くて臭いも少ないから冬の暖房に向いてるんだ。  不用意に扱うと爆跳するのが玉に瑕。  ただし、冬の暖房としては村長館以外は暖炉で薪を使うことの方が多く、炭は村内の煮炊きと特産品の側面が強い。
Last Updated: 2026-07-19
Chapter: 行ったり来たり
 ルダーと畑で別れてごはんを食べに戻ると、ザイーダが待っていた。「食べながらにしよう」 ちなみにこの世界は文明水準が近代に届いていない。  王都など中央部は近世に手がかかっているかもしれないが、農村部は中世水準だ。  炊事に関していえばまず火を|熾《おこ》すのが一苦労だし、なにより潤沢とはいえない食糧事情もあるから朝と夕にしか作らない。  朝といっても作物によって作業のタイミングがあるから日の出とともに農作業をして一段落ついてからということが多い。  なので大体昼前だ。  晩飯は日が暮れる前に食べ終わるように逆算して準備する。  灯りは贅沢品なので日が沈むと後は寝る以外にできることがないって事情もある。  肉体労働が基本の農村部で一日二食ってのは力が入んないよなぁと思わなくもないんだけど、少なくとも現状致し方ない。「で、彼らはどうだった?」 |村長館《ぼくんち》には一階の奥座敷に囲炉裏を切っていて常時火を絶やさない、前の小屋を踏襲した一角がある。  今、僕はそこでザイーダと二人きりであったかいスープを飲みながら密談中だ。「お館様のいう通り、うちが見張っていた三人は村の中を興味深そうに見て回っているだけでしたが、オギンが|尾行し《つい》ている男は時折三人と離れて|細々《こまごま》と見て回っておりました」 余談だけど、村長館に住むようになってからオギンとザイーダは僕のことを「お館様」と呼ぶようになった。  最近じゃ一緒にいることの多いイラードが村長とお館様が半々で、ルダーも面白がってお館様と呼ぶ。  ルダー、前世で大河ドラマとか好きだったクチだろ。「どんなところを注目していたとか聞いているか?」「塀の高さやキャラバンの倉庫、ジャリの鍛治などを行ったり来たりと」「行ったり来たりね」「行ったり来たりが問題ですか? うちとしては塀の高さや鍛治の方が重要だと思ったんですけど」「行ったり来たりの方が問題だね。たぶんだけど、道順を覚えるために行ったり来たりしてるんだと思うよ」「……なるほど
Last Updated: 2026-07-18
ゲーム中にモニターに吸い込まれたら異世界を冒険するハメになった

ゲーム中にモニターに吸い込まれたら異世界を冒険するハメになった

世良(せら)玲太(れいと)は大学生RPGマニアでレトロゲームにも造詣が深い。 そんな彼が手に入れたレトロゲームをプレイしようと思ったら画面の中に吸い込まれちゃいました。 8bitゲームの世界から物語が進むたびに16bit32bitとビジュアルやゲームシステムが進化していく世界で戦うレイトは元の世界に戻ることができるのでしょうか?
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Chapter: 青年のプレイしていたRPGは大団円を迎え、現実世界の恋愛ゲームが始まる2
「…………」 おそるおそる振り返る玲太が目にしたのは、目の覚めるような五人の美少女たちが愛らしく横たわっている寝姿だった。「なんじゃあ、こりゃあ!!」二回目だね、それ。  さっきよりも大きな声が出たことで、少女たちの目が覚めたようだ。「ん……ここは?」 愛らしい仕草と耳に心地いい声はまごうことなくクリスティーンのものだ。「なんなの、ココ!?」 アシュレイが驚くのも無理はないよねー。  玲太だってあっちの世界で似たようなリアクションだったし。  それにしたって学生が一人で暮らすワンルームマンションに六人がいるんだから窮屈に感じないか?  しかも、玲太にヴァネッサにソフィアと鎧を着ているってんだからね。「ええと、なにから説明しよう?」 混乱はしながらも意外に冷静に対処しようとしている玲太。  さすがだね。  伊達に修羅場はくぐっていないよ。  いや、でもこっちの修羅場はどうだろう?  とりあえず、知った顔ばかりだったこともあって大騒ぎにだけはならなかったことも幸いし、玲太は事の起こりから丁寧に説明することにした。  その前に玲太はみんなに着替えてもらうことにする。  まずは玲太が普段着に着替え、彼女たちが着替えている間に近所のコンビニまで買い出しに出かける。  戻ってきたときにはみんな玲太の部屋着を着ているんだから、彼の言い知れないむずがゆさを判ってもらえるだろうか?「──つまり、玲太が私たちの世界に来たように今度は私たちが玲太の世界に来たということですね?」「そういうことになるね」「でもどうしてかしら?」 アシュレイの疑問ももっともだ。  人類滅亡の危機に瀕したゲーム世界に救世主として吸い込まれた(と思われる)玲太と違って、彼女たちが世界を渡る意味が判らない。「たぶんですけど、私たちが玲太と一緒にいたいと願ったからじゃないでしょうか?」 さすがは最年少ながら聖女として英才教
Last Updated: 2026-05-22
Chapter: 青年のプレイしていたRPGは大団円を迎え、現実世界の恋愛ゲームが始まる1
 |玲《れい》|太《と》の意識が戻った時、最初に出た言葉は「はぁ!?」 だった。  無理もない。  見覚えのある懐かしいワンルームマンションの自室のパソコンの前に、国王に謁見していたときに着ていた鎧姿で座っていたのだから。  テレビモニターに映し出されているのは、あの日起動して「さあ、ゲームを始めよう!」と思っていたゲーム「王国の勇者」。  しかも、なにがどうなってなのか知らないが、ゲームがクリアされていてエンディングが流れている。  そりゃあ混乱しない方がおかしかろう。  他にリアクションがあるとすれば「え?」とか「あぁん?」せいぜい「ちょ、待てよ!」くらいしかないに違いない。  混乱に拍車をかけているのは「王国の勇者」がSHARP製8bitパソコンX-1 turbo Z II用のレトロゲームであり、確かにX-1 turbo Z IIにペラッペラの5(正確には5.25)インチ2HDフロッピーディスクを差し込んで起動したはずなのに今動いているのは玲太の持つもっとも最新のPCだったからだ。「フロッピーディスクはどこいった!?」 X-1 turbo Z IIの|灯《ひ》は消えていて、確かに二つのドライブに差し込んだはずの二枚のフロッピーディスクは影も形もない。「なんじゃあ、こりゃあ!」 腹を撃たれた刑事のようなリアクションの後、起動しているPCを操作するとびっくりするほど軽いゲームデータがインストールされている。「2MBって……これっぽっちのデータでどうやってこんな美麗なグラフィックとBGMのエンディングが動くんだよ?」 突っ込むところがそこかいな。「ん……」 混乱した玲太の耳に女性の漏らす甘い呟きが聞こえてきた。
Last Updated: 2026-05-21
Chapter: 青年は主人公らしく仲間の美少女たちに好意を寄せられる2
「ソフィア、ビルヒルティス、アシュレイ、そしてヴァネッサとレイト。魔王に攫われた我が娘クリスティーンを救出に旅立った勇者たちよ、王国の危機、ひいては世界の危機を救ってくれたこと、心より感謝する。特にヴァネッサとレイトには二度も娘の命を救ってもらった。この恩、生涯忘れまいぞ」「もったいなきお言葉」「命の危険を顧みず、魔王に立ち向かいあまつさえその魔王を討ち滅ぼしたそなたらはまさに世界の救世主。英雄と呼ぶにふさわしい者たちだ。朕は王として、また民の代表としてそなたらの望みを出来うる限り叶えたい。この場で望みを申すがよい」 そう言われて、五人は互いに顔を見交わした。  突然そんなこと言われてもねぇ。  すぐには思い浮かばないよねぇ。  まぁ、レイトの願いは想像つくけどね。「レイトよ。娘はそなたを好ましく思っておるようだぞ」「お父様!」 語気を強めるクリスティーンは耳まで|朱《あか》くして抗議する。  |王様《お父ちゃん》、封建社会だからって娘をものみたいに扱っちゃいけませんよ。  王妃は王妃で笑みをたたえて|父娘《おやこ》のやりとりを見ている。  そんな微笑ましい様子じゃないと思うけどね。「あの……」 と、恐る恐る発言許可を求めたのは最年少のビルヒーだった。「私、聖女の地位を捨ててレイトと一緒に旅がしたいと思います」「え?」 つい言葉が漏れたのは一緒に旅をしてきた四人だった。「聖女として母や国教会、王国に育てていただいた身ですが、この旅で外の世界の面白さ、気ままな自由さを知りました。このままレイトと一緒に自由に生きていきたいと望みます」「で、では私も、私も騎士の身分を捨てレイトと共に生きていきたく存じます」「ははは、そりゃいいね。あたしは別に欲しいものなんてなかったんだけど、あたしもかたっくるしい生活よりレイトと一緒に気ままに楽しく過ごせるならそうしたいや」「私も、私も一緒にいる!」(は? なんじゃこりゃ!) おうおう、王道のハーレム展開じ
Last Updated: 2026-05-20
Chapter: 青年は主人公らしく仲間の美少女たちに好意を寄せられる1
 王都に戻って十日が経った。  王女であるクリスティーンは王宮に戻り、ソフィアは騎士として王都の治安維持に、ビルヒーは聖女として最高司祭である母とともにそれぞれの仕事に従事している。  その間残った三人は暇を持て余していた。  そして、ようやくお呼びがかかり、国王に謁見とあいなった。  王城に登り控室に通されると、そこには騎士として正装したソフィアとこちらも聖女として国教会の正装をしているビルヒーがいた。「久しぶりだねぇ」 ヴァネッサが二人に声をかける。「お久しぶりです、ヴネッサ」 ちょっと見ない間に少し大人っぽくなっているビルヒーが、会釈をする。「はぁ、ちゃんとした正装のある立場の人はいいよねー。私なんか一応洗濯はしてきたけど旅に出てた時のまんまよ」 と、女の子らしく嘆くアシュレイをカラカラと笑い飛ばすソフィアは「ならこれを着るかい?」 と、クローゼットを開けてみせる。  そこにはきらびやかなドレスが数着並んでいた。  それを見たアシュレイはぶるぶると首を振って「やっぱやめとく。そんなの着たらみんなになんて言われるか判ったものじゃないもの」 と、チラリとレイトを横目で伺う。「なら、あたしが着ようかね?」 というヴァネッサに「サイズがないだろ」 と、余計な一言を投げかけてしまいチョークスリーパーをかけられるレイトであった。 ……まったく。 目鼻立ちのクッキリしたオリエンタルな顔立ちのヴァネッサにきらびやかなドレスは案外似合うと思うぞ。 しばしの談笑を繰り広げていると、部屋をノックする音がして呼び出しの声がかかる。(謁見するのは二度目だなぁ) なんて思いながら謁見の間に向かうレイト。  魔王の襲撃によって破壊された壁などは応急修繕がなされてはいたけれど、その爪痕は残っている。  居並ぶ顔ぶれも若い。  あの日、かなりの重臣が身を挺して魔王と戦い散っていった。  その
Last Updated: 2026-05-19
Chapter: 青年たちは魔王軍をおって王都を目指す3
 たどり着いた大聖堂は無傷とはいえなかったが、甚大と言えるほどの被害ではなかった。「お母様」 陣頭指揮に当たっているアデルグンティスを見つけて駆け寄るビルヒーはやはりいたいけな少女だった。「ビルヒルティス。無事に戻ったと言うことは」 というと、娘から顔をあげ、クリスティーンを見とめた。「ああ、よくぞご無事で」「最高司祭様もご無事でなによりです」 アデルグンティスは陣頭指揮を近くにいた側近に引き継ぎ、大聖堂の中へと冒険者たちを案内する。「魔王軍襲来は国家存亡の危機でした」 最高司祭手ずから入れてくれたお茶を飲みながら、双方の情報交換が行われた。  それによると魔王に率いられた魔王軍は当初、三軍に別れて進軍、瞬く間に侵略されたのだけれど、突然四分五裂。  各軍団が互いに争い始めてあるものは討たれ、あるものは魔族領に戻りして次第に勢力が縮小していったそうだ。「各地で猛威を振るった魔族軍ですが、大賢者バガナス様や王国軍の奮戦によって軍としては壊滅いたしました。今、王国内に残っているのは残党に過ぎません」「つまり、魔王が倒されたことで、次の魔王候補が王国内で覇権争いを始め、侵略戦争どころじゃなくなったってことですかね?」「そうなのかもしれません」「とすれば、次期魔王候補で有力なものほど魔族領に戻り地盤固めに入り、そうではない者が王国内に取り残されているって考えていい?」 それはさすがに短絡すぎやしないかね? レイト。「なんにせよ、幸運にも我が国は世界は魔王の脅威から救われたのだな」 ここにも物事を単純化して考える女騎士がいたよ。  まぁ、間違っちゃいないんだ、これが。「王国としてはこれからが大変だともいえますけれど」 と、ため息こそつかないものの憂いをたたえた表情を見せる最高司祭の横顔を不謹慎にも美しいと思ってしまうレイトであった。 言っとくけど、三十そこそことまだ全然若いけどビルヒーのお母さんだからね、その人。  王国国教の最高司
Last Updated: 2026-05-18
Chapter: 青年たちは魔王軍をおって王都を目指す2
 帰還の旅の最大の試練は魔王軍の一団に出くわしたことだった。  魔族の大男に率いられた十人の魔族兵と二十体はいるだろう魔獣の軍団だ。  しかし、幸いなことに敵軍で大きな傷を負っているように見えなかったものは指揮官らしい大男くらいで、その大男にしても無数の傷を負っていた。  数の上では劣勢であっても魔王を倒した無傷の英雄たちである。  先制はレイトのフレイムウェーブだった。  火の波が魔王軍を襲っている間にクリスティーンとビルヒーがブレッシングの魔法を唱える。  二重がけのブレッシングはホーリーブレスとなり、神の過剰なほどの加護を味方に与える。  そこに当然のようにアシュレイのアクセラレーションが付与されれば、魔族といえども対応の難しい神速の剣戟が生まれる。  これをたった一人で受けて反撃までしてきた魔王がどれほど規格外の存在だったか。  レイトは今更ながらに身震いしてしまう。  これほどまでに過剰なバフを与えられて、魔王軍に遅れをとる冒険者たちではない。  カーナが一人で若いワイバーンを一体倒す間に冒険者は残りの魔獣を倒して魔族との戦いに入っていく。「やれますか?」 王女クリスティーンに問われたカーナは一度強く奥歯を噛み締めるとキッとまなじりを上げて力強く宣言する。「もちろんです」 クリスティーンに向かって襲ってきた魔族を迎え撃つカーナは長く鋭い爪を亡き隊長の形見である長剣で受け止めると、その腹を蹴り押す。  わずかに開いた間合いを自ら詰めると両手でもった剣で力の限り横一閃、硬く重い手応えを受けて止まりそうな勢いを雄叫び上げて強引に振り抜く。  一刀のもと両断された魔族の上半身が地面に落ちるのを確認せずに周囲の状況を確認すると、すでに指揮官の大男以外の魔族はすべて冒険者たちに倒されていた。「なんて強い人たちだ」「英雄と呼ぶにふさわしい方達でしょう?」 クリスティーンがカーナの独り言にそう答える。「確かに」 その間にも冒険者たちの攻撃は最後の魔族に向けられていた。  剣士三人の攻撃は
Last Updated: 2026-05-15
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