Chapter: 第99話……覇者の決断 後世の歴史書は、この時期のユリウスについて、統治者としての冷徹な一面が初めて明確に現れたと記している。 早期に帰順しない者に対し、彼は寛容な条件をいつまでも提示し続けたわけではない。 表では圧倒的な軍事力を示して降伏を迫り、裏では防衛側の将官、官僚、貴族、商人たちへ密使を送り込む。 金銭、地位、赦免、領地の安堵を餌に、敵の中枢を一人ずつ切り崩していった。 それは、若き貴公子の中に眠っていた覇者としての素質が、芽を出し始めた瞬間であったのかもしれない。◇◇◇◇◇「皆様方。もはや、この星を守り抜く手立てはないのだ」 惑星クラウゼンの公都にある総司令部。 ハルダー元帥は、居並ぶ貴族や政府高官たちを前に、疲れ切った声で告げた。「敵艦隊は衛星軌道を制圧しつつある。地上戦へ持ち込めば、公都に住む四千五百万の民が戦火に巻き込まれることになる」 しかし、クラウゼンの権益を握る者たちは、ハルダーの意見に従おうとはしなかった。「防衛指揮官がそのように弱気だから、敵に侮られるのです」「徹底抗戦を呼びかけ、アストレア家から譲歩を引き出すべきだ」「そうだ。無条件降伏など、断じて受け入れられぬ!」 彼らとて、クラウゼンが廃墟になることを望んでいるわけではない。 口では、民の暮らしを守るためだと唱えている。 だが、本当に恐れているのは、自らが長年築き上げてきた領地、工場、商会、金融権益が灰になることであった。 その本音を口にする者は、誰一人としていなかった。「元帥閣下」 初老の参謀が、会議場の空気をまとめるように口を開いた。「もうしばらく、敵に対して強硬な態度を示してはいかがでしょう。こちらが容易には屈しないと分かれば、アストレア侯爵も条件を緩めるかもしれません」「いや、それは危険だ」 ハルダーは首を横に振った。「敵にはカタコン配下の歴戦の陸戦隊がいる。それに比べ、我が惑星地上軍は実戦をほとんど経験しておらぬ。士気も経験も、敵に劣っているのだぞ」「また弱気なことを!」「そのような態度だから敵になめられるのだ!」 怒号が飛び交う。 その時だった。 会議場の扉が、外側から爆破された。「動くな!」 銃器を構えた武装兵たちが、怒号と共になだれ込んでくる。「な、何をする!」「狼藉者だ! 警備部隊を呼べ!」 貴族の一人が叫ぶより早く、武装
Last Updated: 2026-07-20
Chapter: 第98話……最後通牒 ――聖帝国暦六四五年四月中旬。 ユリウスは、カスパル一派を大公国の秩序を乱す反乱勢力と断定し、討伐軍の編成を命じた。 総司令官にはユリウス自身が就任し、参謀長にはパウルス元帥を起用する。 惑星アストレアの衛星軌道上には、次期皇帝候補のユリウスへの忠誠を表明した貴族たちの艦艇が、各地から続々と集結していた。 その数、実に一千隻以上。 もっとも、艦隊を構成する艦艇は、帝国軍の正規艦から地方貴族の旧式艦、商船を改装した補助艦まで多種多様であった。 単に数を集めただけでは、まともな艦隊戦など望むべくもない。 パウルスを中心とする軍官僚たちは、各艦の種別、武装、速度、防御力、乗員の練度に至るまで調査し、それらを複数の分艦隊へと再編成した。 ――数日後。 惑星アストレアの空を覆う大艦隊を前に、ユリウスは全軍へ布告した。「正統なる銀河聖帝国ノヴァ復活の第一歩として、まずはアーヴィング大公国を平定する。全艦、出航用意!」 命令一下、新帝国軍艦隊は一斉に軌道を離脱した。 目指すは、アーヴィング大公国の首都星――惑星クラウゼンである。◇◇◇◇◇ ――二週間後。 新帝国軍艦隊は、惑星クラウゼン近縁の宙域へ進出した。 ユリウスは攻撃に先立ち、クラウゼン守備軍の最高司令官であるハルダー元帥へ通信を送った。『ハルダー元帥。戦況は、もはや決しております。元帥のみならず、一兵卒に至るまで現在の地位を保証いたします。無用な流血を避けるためにも、速やかな帰順を望みます』 モニターに映し出されたハルダーの顔は、苦虫を嚙み潰したように歪んでいた。 ハルダーには、亡きアーヴィング大公から受けた恩義がある。 その遺児であるカスパルを擁立し、大公国を存続させる。 それこそが亡き主君への忠義であると、彼は信じていた。 だが、肝心のカスパルは首都星を捨て、すでに逃亡している。 惑星クラウゼンは、星そのものが巨大な要塞であると称されるほどの強力な対空システムを持ち、強固な防御力を誇っていた。 しかし、主君に見捨てられた将兵の士気は、目に見えて低下している。 ……それだけではない。 パウルスに同調し、新帝国軍へ加わった高級将校も多かった。 防御施設の配置、軍需物資の備蓄場所、地下司令部へ通じる経路、さらには最新の通信暗号方式まで、クラウゼン守備軍の機密は新帝国軍
Last Updated: 2026-07-20
Chapter: 第97話……正統後継者 ――聖帝国暦六四五年三月上旬。 ユリウス=アストレア侯爵は、自らが銀河聖帝国ノヴァの正統な後継者である旨を宣言した。 儀式の会場は、わずか二週間で造成された急ごしらえの広場であった。だが、そこに漂う空気は仮設のものではない。 アストレア侯爵家に臣従している貴族家の当主たちが居並び、旧アーヴィング大公国軍からはパウルス元帥をはじめとする一部高級士官たちも参列していた。 さらに、文官、武官、軍需商人、地方代表者たちまでもが、その場に顔をそろえている。 臨時政府の儀礼官が、声を張り上げた。「銀河聖帝国ノヴァ正統継承者、ユリウス=アストレア侯爵閣下、御出座!」 その瞬間、会場に集まった者たちは一斉に膝を折った。 ユリウスは白銀の礼服をまとい、ゆっくり壇上へ上がった。 右手の薬指には、荒鷲の金印がある。 それは単なる装飾ではない。金印から放たれる淡い光は空中に複雑な紋章式ホログラムを描き出し、歴代皇帝の認証紋、血統封印、先帝の勅許記録を次々に浮かび上がらせていた。 映像を見た者たちの間に、抑えきれぬざわめきが広がる。 本物である。 誰もが、そう理解した。 この宣言の儀には、多数のマスコミが招かれていた。 それは帝都系の報道局だけではない。 地方星系、旧大公国領、星間ギルド系列、果てはあまり知られていない中立星域の通信社まで呼ばれている。 映像は、旧帝国領全域へ同時配信されていた。 ユリウスは壇上から、居並ぶ者たちを見下ろした。 まだ若い。 だが、その右手の金印が、彼をただの地方侯爵ではない存在へ押し上げていた。「私は、この宇宙の正統なる統治者である」 静かな声だった。 それにもかかわらず、その声は会場全体へ、そして無数の星々へ届いた。「我が旗に逆らう者には容赦しない。だが、剣を納め、秩序へ帰参する者には、寛容をもって迎える」 沈黙。 次の瞬間、最初に臣下の礼を取ったのは、エリザベートであった。 亡きアーヴィング大公が、後継者の母として指名した女。 大公の愛妾であり、正妻ではない。貴族社会から軽んじられ、嘲られ、時に利用されてきた存在である。 だが、その身には旧大公家の継承問題を左右する重みがあった。 エリザベートは壇上の前まで進み、深く膝をついた。「ユリウス様」 彼女の声は震えていた。 演技だけではない。
Last Updated: 2026-07-20
Chapter: 第96話……金印の主 ――聖帝国暦六四五年二月上旬。 ユリウスは、相変わらず政務に忙殺されていた。 アーヴィング大公国は、カスパル派と反カスパル派に分裂し、各地で小競り合いを繰り返している。 表向きの争点は正統性や統治方針であったが、実際にはもっと生臭かった。 ゴチエ大国のエーテル資源帯。 大公国最大の権益ともいえるその鉱区を、どちらの派閥が握るのか。 その一点をめぐり、両派は抜き差しならぬ対立に陥っていた。 ユリウスは、どちらの陣営にも明確には加担していない。 だが、それは中立というより、様子見に近かった。 彼の治めるヴァルカン伯爵領は小さくもないが大きくもない。けれど、軍備、補給、信用、人材のいずれも、安易に敵対してよい相手ではなくなっていた。 だからこそ、両派はユリウスを誘い、試し、時には脅した。 ユリウスは水面下で、両派の中にいる比較的穏健な人物へ接触し、資金や物資を回していた。 味方を作るためではない。今すぐ敵を増やさぬためである。 執務机の上には、未決裁の書類が山のように積まれていた。 その山の一角に、通信端末の呼び出し音が鳴る。 発信者名を見た瞬間、ユリウスは思わず椅子から腰を浮かせた。「つながってくれ」 通信モニターに、包帯まみれのツーシームが映った。「……あ、坊ちゃん。こんにちは。なんとか無事……ではないけど、そっちに向かっているよ」 その顔を見た瞬間、ユリウスは胸の奥に溜まっていた息を吐いた。「よかった。なんとか生きていて」「あんまり無事じゃないけどね」 ツーシームは、照れ隠しのように頭をかこうとして、包帯に引っかかり顔をしかめた。「無理に動かないでくれ。傷は?」「見た目よりは平気。たぶん。トムの方が重かったけど、手術は済んだ。しばらくは寝かせておけば大丈夫だと思う」「そうか……」 ユリウスは安堵した。だが、それだけでは済まない。 彼は少しためらってから、口を開いた。「ツーシーム。悪いとは思ったんだけど、君の部屋に入った」 モニター越しに、ツーシームの目が細くなる。「……で?」「不思議な金の指輪があった。触れようとしたら、指輪から肉芽のようなものが伸びて、それが少女の姿になった」 その瞬間、ツーシームの表情から、軽さが消えた。「……ああ。そこまで見たんだ」「説明してくれ。あれは何なんだ?」 ツー
Last Updated: 2026-07-16
Chapter: 第95話……惑星レンズの英雄 納屋の扉の外側の存在に、ツーシームは銃を握りしめる。 だが、その手首を、血に濡れた大きな手が押さえる。「動かないで。今撃てば、こちらの負けです」 床に横たわるビッグベアは、浅い息のまま小さく告げた。 次の瞬間、扉が吹き飛んだ。 黒い制服を着た男たちが、銃口をそろえて納屋になだれ込んでくる。「動くな!」 それは保守派の急先鋒が支配する、武装警察隊であった。 隊長らしき男が、ツーシームの顔を見るなり、いやらしく口元を歪める。「これはこれは、著名な宇宙海賊様ではないか。すぐに上等な絞首刑台を用意してやるぞ」「くっ……!」 部下たちが電磁手錠を手に、じりじり近づいてくる。 ツーシームは奥歯を噛んだ。戦えない距離ではない。 だが、背後には重傷のビッグベアがいる。彼を置いて逃げる選択肢など、彼女にはなかった。 その時だった。 隊長の視線が、床の上の大男に止まった。 彼の顔から、嘲笑が消える。「……あ、あの」 隊長は、銃を下ろした。「ひょっとして……フェルドナンド曹長殿ではありませんか?」 トムは片目だけを開けた。「ああ。そう呼ばれていたこともあるな……」 その瞬間、隊長は姿勢を正した。「こ、これは大変失礼いたしました! 惑星レンズでは、大変お世話になりました。小官はキエザ警部補であります!」 さっきまで処刑台の話をしていた男が、今度は軍靴を揃えて敬礼している。 ツーシームは、思わず目を白黒させた。「……え? なにこれ?」 キエザは振り返り、部下たちへ怒鳴った。「貴様ら、何をぼさっとしている! すぐに医者を呼んでこい! それから酒と食事を運んでこい! 清潔な毛布もだ!」「はっ!」 武装警察隊の男たちは、さっきまでの殺気を消し、慌ただしく動き始めた。 ツーシームは、ぽかんとしたままビッグベアを見る。「トム。あんた、何者なの?」 ビッグベアは、苦しげに上体を少し起こした。「たぶん、昔の戦場での部下かと思われます」「へぇ」 キエザは、その言葉に首を振った。「曹長殿は惑星レンズの英雄です。将校どもが氷の戦場から逃げ出した後、この方は残された兵をまとめ上げ、補給も砲兵支援もない包囲下で敵を撃退なさった。あれは奇跡でした」「へぇ。トムって、すごい奴だったんだ」 ツーシームは素直に感心した。 だが、キエザの表情
Last Updated: 2026-07-16
Chapter: 第94話……金印の少女 雨は、夜の森を黒く塗りつぶしていた。 ツーシームは泥に足を取られながら、ビッグベアの腕を必死に支えていた。 普段なら大岩のように頼もしい男の体が、今はひどく重い。 だが、彼の傷はすべてツーシームを救い出すために作ったものであった。「もう少しだ。あそこに納屋がある」 ツーシームは自分に言い聞かせるように呟いた。 追手の怒号は、少しずつ遠ざかっている。 だが安心はできなかった。 森の中では音が狂う。 近いはずの声が遠く聞こえ、遠いはずの足音がすぐ背後にあるように感じられる。 朽ちかけた納屋の扉を押し開けると、かびた干し草の匂いが鼻を突いた。 中には古びた農具と、形が崩れた樽が積まれているだけだった。「入って。早く」 ツーシームはビッグベアを干し草の上へ座らせ、扉を内側から閉ざした。 隙間だらけの板壁から、青白い月光が細く差し込んでいる。 ビッグベアは苦しげに息を吐いた。「お嬢……俺は、もう……」「黙って」 ツーシームは彼の傷口を押さえた。 掌にぬるい血が広がる。 何度も戦場をくぐり抜けてきた彼女でさえ、その量には顔をしかめた。「この程度で死ぬわけないでしょ。あんた、熊みたいに頑丈なのが取り柄じゃない」「へっ……熊は熊でも、穴だらけじゃあな」「笑えない」 ツーシームは短く言い、懐から布を引き裂いて傷に巻きつけた。 だが布はすぐに赤く染まった。 ビッグベアは彼女の手首を弱々しく掴んだ。 その指には、まだ信じがたいほどの力が残っていた。「船長。最後に聞いてくれ」「聞かない」「俺は、ずっと……」「聞かないって言ってる」「最後に、言わせてくれ。俺は、お前さんを……」 その瞬間、ツーシームは彼の口を手で塞いだ。「縁起でもないことを言うな」 彼女の声は震えていた。「最後とか、そういう言葉を使ったら撃つ。私が撃つ。いいね」 ビッグベアは目を丸くし、それからかすかに笑った。 血の気を失った顔なのに、その笑みだけは昔と変わらなかった。 ツーシームは喉の奥が焼けるように痛んだ。 自分は泣かない。 海賊船の船長が、部下の前で涙を見せるものか。 そう思っていた。 だが今は、船も、仲間も、逃げ道もない。 あるのは壊れかけた納屋と、死にかけている相棒だけだった。 外で枝の折れる音がした。 二人は同時に息を
Last Updated: 2026-07-15
Chapter: 第148話……宇宙S級提督への野望「敵接近! 距離360光秒!」「敵影、約860隻」「戦闘準備!」「揃いも揃ってやってきたか……雑魚どもめ!」 俺は神らしく、好き放題させてもらった。 6か月もそうこうしていたら、カリバーン帝国どころか、ルドミラ教国まで連合して攻めてきやがった……。「改良型惑星破壊砲用意!」「了解! エネルギー充填開始します!」「エネルギー充填50%」「……80%」「……100%! 充填完了!」「敵艦隊めがけて発射しろ!」「了解! 発射します!」 特大の光条が敵艦隊先頭に命中。 恒星を思わせるほどの光球が現れる。 ……が、「!? 敵艦隊被害なし!」「敵艦隊先頭、識別装甲戦艦ハンニバル!」「……!?」「馬鹿な! あの戦艦は惑星破壊砲を単艦で弾いただと!?」「敵艦隊、なおも接近!」「やむをえん、通常砲撃戦用意!」「了解!」☆★☆★☆「特型電磁障壁解除!」「解除完了ですわ!」「全艦砲撃戦用意!」「装甲ミサイル艦、艦列前へ!」「砲撃用意完了ポコ!」「撃て!」 私はハンニバルの司令席にて、全艦に砲撃命令を下す。 今回私は、カリバーン・ルドミラ連合軍の臨時の艦隊司令長官を務めていたのだ。「長距離ミサイル発射!」「艦載機発進用意!」 ……大出量のレーザー光条が飛び交い、ミサイルが炸裂する。 光球が次々に産まれ、文明の叡智を残骸へと変えていった。「お味方、優勢です!」「よし! これよりハンニバルは、敵左翼に横撃をかける!」「了解ですわ!」「機関全速!」「取り舵一杯! 側砲射撃開始!」「斉射ポコ!」 ハンニバルは僚艦であるオムライスとジンギスカンを率い、高火力と高機動をもってして、敵左翼の艦列を切り崩す。――次第に、敵に混乱の色が見える。「戦略打撃戦艦ペテルギウス発見!」「大きいポコ!」 ……敵艦列を切り裂くと、ついに敵旗艦にお目見えする。 砲術長が言うように大きい。 多分ハンニバルより大きかった……。「機関に短期ブーストを掛けろ!」「ブースト了解ですわ!」「ブースト完了! 機関出力255%! 限界です!」「マイクロ・クエーサー砲用意!」 機関で生み出された大量のエネルギーが、艦体下部のマイクロ・クエーサー砲に流れこむ。 そのあまりの大エネルギーに、艦がきしむ音が聞こえる。「用意良し、エネル
Last Updated: 2026-05-29
Chapter: 第147話……商都ラヘルの落日――標準歴5年4月。 濃い化粧と、お歯黒という独特の容貌のジョー・キリシマ提督は、ラヘル星系の富豪たちに乞われ、傭兵部隊を率いて星系防衛の任についていた。「トロストとかいうやつ何者ぞ?」 彼はクノイチ集団と呼ばれる暗部の女性情報工作員の頭領という別の顔もあったのだが、トロストの急速な台頭を掴み切れないでいた。 彼はラヘル星系の主星ロンギヌスを後背に、艦艇100隻を布陣。 トロストの艦隊を待ち受けた。 トロストはグングニル共和国の艦艇300隻を動員し、このラヘル星系に侵攻してきた。 300対100では勝てそうにないのだが、このラヘル星系の主星ロンギヌスは、姿かたちこそ緑の惑星だが、それは色彩等を意図的に変化させた擬態であり、内実は移動用チューブが張り巡らされたメトロポリスであり、黒鉄でできた人口都市惑星だった。「ほっほっほっ、トロストとやら、目に物を見せてくれん!」「重装甲ミサイル艦の戦列を前へ出せ!」「了解!」 ジョー・キリシマ提督は、グングニル共和国きっての高家の出である。 そのプライドや自信も相当のものだった。「トロスト艦隊接近、射程内に入りました!」「砲撃戦開始!」 トロストとジョー・キリシマ提督は、お互いの射程圏に入ると射撃を始めた。 お互い、戦場の長槍兵ともいえるミサイル艦艇を前に出し、主力は温存した戦い方だった。 そもそも、これがこの世界の戦いの常道であり、ハンニバルのように先頭をきる旗艦は珍しかったのだ。「長射程対艦ミサイル来ます!」「迎撃ミサイル発射! 対空砲応射せよ!」 双方、ミサイル艦の長射程ミサイルに対処。 戦いは次のフェーズに映る。「重巡洋艦と戦艦を前に出せ! 大口径レーザーで敵を始末しなさい!」「了解!」 ジョー・キリシマ提督は、ミサイル艦艇の後背から主力戦列艦を投入。 長射程の大口径砲の光条で、トロスト艦隊を攻撃した。 更には惑星ロンギヌスからの砲撃もトロスト艦隊を襲う。 戦いはジョー・キリシマ提督に有利に思えた。 ……しかし、異形のモノが戦場に現れる。「提督! 敵戦列から謎の宇宙海獣が現れました!」「なんですって?」 お歯黒の提督は慌てる。 カリバーン帝国の宇宙海獣戦術には、以前からほとほと手を焼いていたのだ。「こ、これは? カリバーン帝国の戦術! なぜ奴が!?」 ジ
Last Updated: 2026-05-29
Chapter: 第146話……トロスト再び!――暗がりで試験管を眺める男。 奴の名はトール。 少し前まで技術少将を務めていた。 リーゼンフェルトが戦いに負けたので、奴と俺はとある辺境星系へ逃亡する羽目になった。 奴の発明品は、宇宙海獣操縦装置、ダークマター潜航艇、惑星破壊砲の三つ。「トロストさん、新しい体は大切にしてくださいね」「おうよ」 ……さらに奴は、俺に新しい体をくれた。 96%は機械なのだが、パワーとスピードが凄い。 ライオンにも素手で楽に勝てそうだ。 そして新しい乗艦も……。 元・クレーメンス公爵元帥乗艦、戦略打撃戦艦ペテルギウス。 全長1852m全幅243mの巨大な戦闘艦だ。 俺たちが逃げるときに乗ってきた船だ。 星間ギルドに頼み、最低限の乗員をかき集めた。「いざ、母なる地球ってか!?」 俺はトールの奴と別れ、アルデンヌ星系にあるワームホールを目指した。☆★☆★☆「……な、ない!?」「ワームホールがないぞ?」 俺は目をこする。 地球に繋がるワームホールがない。 すぐさま、トールの奴に連絡をとった。「トロストさん、ワームホールってのは気まぐれなんです。ときたま現れては消えてって感じなんです」「じゃあ次はいつ現れるんだ?」「明日かもしれませんし、何万年後かもしれません」「……ふ、ふざけんなよ!」 俺はモニターに怒鳴りつけ、通信を切った。 地球で神になる以外、俺にふさわしい仕事ってないぞ?「……ああ、ワームホールが現れるまで、この世界の神にでもなっておくか……」 俺にはカリバーン帝国国有企業の株式がある。 この財力をもってして成りあがってやるぜ! 俺は仕方なく、この日からこの世界の神を目指すことにした。――翌年、標準歴4年4月。 トロストという男が、突如グングニル共和国の地方星系の議員として当選した。☆★☆★☆――標準歴5年1月。 ハンニバル開発公社は、ラム星系周辺の開発と発展に成功。 カリバーン帝国第二の巨大企業となった。 その利益に伴い、ハンニバルも大改修を行う。 防御力を中心に底上げし、全長1600m級の双胴の艦体は、半ば動く要塞と化してきた。 さらには、内部に兵器工廠や研究開発室も設けていた。「大きいポコ♪」「大きすぎて入港できない宇宙港も出てきたクマね」「ふむう」 ……まぁ、そういうところは衛星軌道上に
Last Updated: 2026-05-29
Chapter: 第145話……温泉旅行と煙草「火をお付けしますね」「ありがとう」「……ふぅ」 私はリアルの世界では吸わないタバコをふかす。 お酒と煙草、人類の永遠の友である。 この煙草の火は、今も副官殿が付けてくれている。 ……この点、大いに贅沢で、私は幸せ者である。 ……我々の世界は4次元で構成されている。 縦と横と高さと、時間の四つだ。 しかし宇宙には、10個もの次元が存在すると言われる。 その未解明な世界の一つは重力が有力である。 その他にも、思念体の世界があるかもしれないし、ゲームの世界があるかもしれない。 さらに言えば、未解明の次元は6つとは限らない可能性もあるのだ。 ……その一つが、今私が煙草をふかしている世界だとしても、何ら不思議はないのである。 地球の世界と、この世界はそもそも時間軸が合っていなかったのだ……。 輪廻転生とか、異世界に旅立ったり、過去にタイムスリップするのは、こういう世界を触媒にしている可能性も高いと、今は感じることが出来た。 もちろん、感じているだけで、この説が正しいと言える確証はどこにも無いのだが……。「灰皿をお持ちしますね」「……ああ」 バイオロイドの副官殿が、灰皿を持ってきてくれた。「……ふぅ」 気が付くと、手にした煙草は、真っ白になっていた……。☆★☆★☆「みんな、旅行に行くならどこがいい?」「海に行くポコ♪」「山に行くニャ♪」「温泉に行きたいですわ♪」「食べ放題に行きたいクマ♪」「釣りに行きたいメェ~♪」 改めて軍を退役し、暇がソコソコできたので、どこに行きたいか、みんなに意見を聞いたら、凄くばらばらだった。 幸いなことに、元帥の年金で行けないような候補地はないようだ……。 ……しかし、いつも勲功第一は副官殿なので、決議として温泉旅行へ行くこととなった。 近場では何なので、巡回や視察という名目で、新たに味方になった星系の中から候補地を選ぶ。 少し考えたところで、「う~ん、……ここが、いいかな?」「「「……」」」 鉱山用惑星カイロ。 航行費用の面などから考えて、ハンニバル開発公社の新開発案権の候補地から選ぶと、皆に白い目で見られた。 ……経費で宇宙船を飛ばすんだから、ある程度仕事絡みなのは、仕方ないじゃない? ハンニバルは私たちを乗せ、長距離跳躍を重ね、鉱山惑星カイロを目指した。☆★☆★
Last Updated: 2026-05-29
Chapter: 第144話……帝国再統一!!「敵要塞へ降下せよ!」「「「了解!」」」 私は二足歩行可変型機種の艦載機二機を引き連れ、要塞地表部へと向かう。 愛機である重雷撃機ケルベロスも、二足歩行機動歩兵に姿を変える。 ……機動歩兵。 この世界にて装輪戦車と並ぶ地上における決戦兵器である。 全高15mにもなる装甲を施されたパワードスーツの一種だった。「散開!」 リヴァイアサン要塞地表の4割は岩石で、6割は金属だった。 私はその岩石部に降り立った。 岩石部は起伏があり、遮蔽遺物も多く、隠蔽率が高かったため有利に戦えるからだ。 ……いつの時代の戦いも、最後は地上戦となる。 いわば人類宿命の戦いであった……。「前方に装輪戦車、多数!」「擲弾筒用意!」 我々を見つけた要塞側も、すぐさま戦車を繰り出してきた。 土煙をもうもうと上げてこちらに迫りくる。――ドドドォォォン 後方からやってきた通常の歩兵隊が、迫撃砲で支援してくれた。 それに合わせて、私も重粒子ガトリンク砲等で攻撃に転じる。 ……しかし、敵砲火が激しく、前進が難しい。「こちらケルベロス、F-998地点へ支援砲火を要請する!」「こちらハンニバル、了解!」 遥か彼方の装甲戦艦と、上空の艦載機からの支援射撃により、敵装輪戦車が消し飛ぶ。「前進だ!」「「「了解!」」」 我々は岩肌の窪地から飛び出て、急いで前進。 2時間にわたる激しい砲火ののち、敵地上部隊の壊滅と飛行場の占領に成功した。「こちらケルベロス、P-9地点の飛行場を制圧した。この地点へ惑星揚陸艦を着陸されたし!」「了解だ! アニキ待ってろ!」 アルベルトの声が聞こえる。 これより先の要塞内部の戦いは、ドラグニル陸戦隊を始めとした荒くれ者の白兵戦部隊の独壇場だ。 私の出番はない。「これより地表の残敵を掃討する! 続け!」 ケルベロスと僚機2機は重雷撃機へと可変し、飛び立つ。 他の戦線で戦っている地上部隊を支援するためだ。――更に4時間後。 地表部では目立った抵抗は減っていく。 大要塞攻略戦は最終段階へと入っていった……。☆★☆★☆「おかえりなさいですわ!」「おかえりポコ!」「ただいま!」 ハンニバルへと帰った私は、装甲服を脱ぎ捨て、幕僚たちから報告を聞く。「ほぼ全ての地域で我が方が優勢! 要塞占領は時間の問題ですわ!」
Last Updated: 2026-05-29
Chapter: 第143話……猪突猛進!? 旗艦ハンニバル!!(……リヴァイアサン要塞指令室)「Xポイントに侵入する艦船があります!」「何者だ?」 この要塞の司令官、リーゼンフェルト提督が驚く。 Xポイントは、彼らの主星アルバトロスに通じる道だったのだ。 ……しかし、逆に言えば最も防備が厚い部分でもあった。「識別照合、装甲戦艦ハンニバルです!」「……うはは、トチ狂ったかヴェロヴェマの奴。この要塞を落とさずして、背後に行けると思うなよ!」 リーゼンフェルト提督は笑った。 リヴァイアサン要塞の周りの宙域は、いわゆる険しい隘路になっており、速度を保ったまま安全に進むのは難しかったのだ……。 速度を落としたところを、要塞砲に狙われるのである。「軌道要塞砲移動! ハンニバルを仕留めろ!」「はっ!」「敵の総司令官が、わざわざ死地に出向いてくれるとはな。ワシにも運が巡ってきたか?」 ……そうリーゼンフェルトはほくそ笑んだ。☆★☆★☆(パウリーネ側、諸侯艦隊)「総司令官殿の艦艇が、敵要塞側面に肉薄していきます!」「おおう?」 各指揮官は色めきだった。 この要塞を落としても、結局のところ総司令官のヴェロヴェマ元帥の功績となる。 ……しかし、ヴェロヴェマ元帥が戦死してしまえば? 各指揮官のいずれもが、勲功第一となる可能性が出たのだ……。「要塞奪取の栄誉は、我がラムスール星系艦隊ぞ!」「いやいや、その栄誉は我がパトルシア星系艦隊が頂く!」 パウリーネ派の諸侯艦隊は、次々と要塞に突撃していく。 それに対して、要塞側から多数の砲火が浴びせられる。「駆逐艦パラミス撃沈!」「巡洋艦アラドミア大破!」「被害にかまうな! 全艦突撃!」「他星系艦隊に負けるな! ツッコめ!」 いままで、他の星系の艦隊の動向を見て、あまり積極的に要塞を攻撃しなかった艦隊が、一斉に要塞に総攻撃を掛けた。 しかも、被害を顧みない大攻勢だった……。☆★☆★☆「敵ミサイル艦撃沈!」「敵、揚陸艦中破!」「尚も、敵が前進してきます!」「なぜだ!? 敵は何故こうも士気が上がったのだ!?」「第二防衛ライン突破されます!」「戦略予備の要撃機を全部出せ!」「了解!」「第二滑走路へ、第六要撃部隊発艦せよ!」「尚も敵艦載機、突っ込んできます!」「くそう、奴等は死が怖くないのか??」 要塞司令官であるリーゼンフェルト提
Last Updated: 2026-05-29