Chapter: 最終話 秋の実り ひゅうと、秋風が紅葉の葉を運びながら、私の頬をなでていく。 思えば、ハルちゃんと出会ってから、ちょうど一年か。「どーしたんです、おねーさん?」 恋人つなぎで、庭を一緒に散歩していた彼女が、声をかけてくる。 庭では、紅葉の葉が紅に染まっていた。「ん? 出会ってから、ちょうど一年だなあと思って」「もう、そんなになるんですね。大人になると、時間の過ぎ方があっという間になるっていいますけど、ほんとなんですね」 ハルちゃんも、目を細めて、柔らかくなった秋の日差しを見上げる。「あのときは、びっくりしたよ。朝起きたら、私もハルちゃんもネイキッドで寝てるんだもん」「あはは。本当に、お姉さんの|ワザ《・・》、ステキでした」「もーう、そういうこと言わないの。恥ずかしいじゃない」 口をとがらせて拗ねると、彼女が一層、愉快そうに笑う。「会長令嬢と知った時は、愕然としたっけなあ。まるで、漫画のヒロインかと思ったよ」「漫画のヒロインって、そうなんです?」「ものによってはね。それにしても、警察だの吾文さんだの押しかけてきた時は焦ったなあ」 愛しの|彼女《・・》に、そっと肩を寄せる。「あの頃は、まだお父様と仲が険悪でしたからね」 彼女も、肩を寄せてきた。「お父様が倒れられて、幸か不幸か、|父娘《おやこ》仲が改善しましたけど。……いや、幸と言っちゃいけないですね。でも、お父様、ずいぶん丸くなりました」「そうだね」 私も、ずいぶんな言われようをしたっけ。「そのしばらく前だよね。ミドリさんとハルちゃんが、ばったり再会したのは」「はい。あのときは、心臓が爆発しそうでした。二度と会えないと思っていたミドリさんが、眼の前にいるんですもん」 あれは本当に、偶然に偶然が重なった。たまたま映画を見に行って、たまたまピアノを弾いて、たまたまミドリさんが聴いていて。「おねーさんが必死にミドリさんを止めてくれて、助かりました。おねーさんがいなかったら、ミドリさんは私の手から、するりとすり抜けてしまうところでした」「詩的な表現だね」 詩といえば、ハルちゃんとユキさんは、デビューに向けて、仕事と両立しながら、必死に頑張ってる。すごいな。「ありがとうございます。でも、まさか公式二股とか、おねーさんから言い出すとは思いませんでしたよ。さすがに、びっくりしました」「あはは
Last Updated: 2026-07-01
Chapter: 第三十二話 夏の星 結果発表をまんじりともせず待つ日々。公式HPによると、審査が長引いているらしい。 仕事を終え、バスの中で|ツイスター《SNS》を見ると、ついに結果発表が! 急いで公式HPに飛ぶと……最優秀賞……じゃない、優秀賞……でもない。じりじりと不安な気持ちで、画面を下にスクロールしていく。 あったあああああああ!! 審査員特別賞! たしか、募集時にはなかった賞のはず。賞金なし。プロデューサーがつき、デビューに向けてサポートします……だって。うーん、急遽設けられた末席かあ。 ちょっと残念な気持ちで帰宅すると、ハルちゃんとミドリさんが、笑顔で出迎えてくれました。「ちょっと惜しい結果だったね。もっと上、狙えると思ってたんだけど。でも、入賞は入賞だ!」 励ますつもりでそう言うと、「何|仰《おっしゃ》るんです! 大金星ですよ!」と、聞き覚えのある声が。 ハルちゃんのスマホからだ。「だそうですよ、おねーさん!」 笑顔で画面を向けてくるので見てみると、興奮気味なユキさんが映っていた。「あのですね。賞レースの世界で、初めての投稿作が入賞なんて、自分で言うのもなんですけど、天才の所業ですよ!?」「そうなんですか?」「はい! 私も、小説賞で一次選考での落選を、何度繰り返したかわかりません。……初めての受賞が、小説ではなく歌っていうのがあれですけど、万々歳です!!」 へー。「これをお父様に伝えたら、今度こそ、心の底から喜んでくれてですね! 今度の日曜、真の祝賀会をしようって話になりました!」「おおー! おめでとう!!」 大学を続けるかどうか悩んでいた、ハルちゃん。思い切って音楽の道に進んだわけだけど、ピアノ講師以外の道も見えてきたわけだ。「いやー、印税でウハウハになったりするかなー?」 なんて青写真に思いを馳せていると、「いや、それは夢見すぎですね」と、一転して冷静なユキさん。「少なくとも小説だと、受賞後デビューしても、働きながら、副業として執筆活動する人がほとんどです」「意外と、渋い世界なんですね」「ですよ。売れっ子なんて、万に一人……いや、それ以下の選ばれし人なんですよ。音楽も、同じだと思いますよ」 ほんと、厳しい世界なのねえ。でも、地方公務員も、世間様が思うほど恵まれてないから、そんなもんか。「まあ、何にしても祝賀会楽しみですね!」 ウ
Last Updated: 2026-07-01
Chapter: 第三十一話 春が来て「ただいま戻りました~」 今日も、お仕事頑張ったー! というわけでお屋敷に戻ると、ハルちゃんとばったり出くわした……というか、待ち構えていて、「おねーさん!」と、子犬のように抱きついてきました。 季節も春になり、福祉課自体は変わらないけど、別地区の担当になりました。こうしないと、不正する職員、悲しいけどたまにいるからね。実際、昔、岡山で問題になったらしい。「危ない、危ない! どーしたの、そのテンション?」 危うく倒れ込みそうになり、彼女を制する。「すみません。それでですね! 完成したんですよ、歌が!」 そういえば、そろそろ締切だっけ。「おー、そりゃめでたいね! ハルちゃん、頑張った!」 頭をなでてよしよしすると、「えへへ~」ととろけるお嬢様。かわいい。「吾文さんも、さぞ喜んでくれたでしょう?」「それがですね、『まだ入賞したわけではない。気を引き締めなさい』って塩対応で、お母様に、『こういうときは、素直に祝ってあげてくださいな』って、たしなめられてました」 はは。本当に、不器用な父親だなあ。大病して以降、ずいぶんカドが取れたんだけどね。「でもとりあえず、祝賀会を開こうって言ってくれて、お屋敷のみんなでパーティーすることになりました!」「おー、そりゃ楽しみだねえ!」 吾文さんも、リハビリのかいあって、杖が必要だけど、少しは歩けるようになっている。「はい! もちろん、ユキさんも招かれてますよ」「いつやるの? さすがに今日じゃないよね?」「今度の日曜です!」「りょーかーい! ところでお風呂入りたいな」「じゃあ、一緒に大浴場行きましょうよ!」 目をキラキラさせる彼女。「ミドリさんは、まだお仕事?」「はい」「じゃあ、お風呂はハルちゃんと二人っきりかあ~」 ひさびさかな、これも。 というわけで、楽しく流しっこするのでした。 お腹も空いてるし、さすがにリスキーなので、それ以上はしなかったけどね! ◆ ◆ ◆「今日は、不肖の娘、ハルが……」「あなた、ハレの場で、娘を不肖などというものではないですよ」「こほん。我が娘ハルが、賞向けの歌をご友人と完成させた記念に、気が早いが、祝賀会を開かせてもらった。日頃の奉仕に報いる意味もあるので、今日は大いに呑み、食べ、楽しんでほしい」 奥様に、最近ツッコミを入れられがちな吾文さんの挨拶
Last Updated: 2026-07-01
Chapter: 第三十話 たまには どうも、最近オフは、やることがなくていけない。お掃除もお洗濯も、メイドさんたちがやってくれるしなあ。かといって、またメイドイン私……逆か。ま、それはちょっと辛いと理解できた。 というわけで、競馬中継など見ていたわけだけど、スターランサーが有馬で怪我し、療養中になってしまった。予後不良とかじゃなくてまだよかったけど、寂しいな。 もう一頭の推し、マリアージュベーゼも、パッとしない戦績が続いている。さっきも、六着に終わったところだ。高松宮では、ビシッと決めてほしいけどなー。 なんとも、気が沈みますなあ。 なんか、今日は視聴気分じゃないや。そういや、今日ミドリさんオフだっけ。たまには、ハルちゃん抜きでミドリさんと絡んでみようかな?「ス~マ~ホ~!」 某猫型ロボットの物真似をしながら、コール。「はい? どうされました?」「いやー、手持ち無沙汰だし、メイドさんのお手伝いは、私には無理だと悟ったんで、たまにはミドリさんと、なにかしようかと」 首筋をもみながら、提案する。テレビばっか見てたら、首凝っちゃったよ。「そうですね……読書も、目が疲れましたので、小休止中でして。構いませんよ」「じゃあ、とりあえず、私の部屋で」「かしこまりました」 冷蔵庫から炭酸水を取り出して飲んでると、ノックとともに「|私《わたくし》です」と、ミドリさんの声が。「いらっしゃ~い。入って、入って!」「お邪魔します」 彼女が入ってくる。「さーて、ミドリさん。呑みましょうか!」「ええ!? 唐突ですね? というか、屋敷のお酒を勝手に開けるわけには……」 高級酒ばかりですもんね。「ノンノン。私の私物~。自分用に、こつこつ買い溜めてるんですよ」 と、クラフトビールを二缶出す。「おつまみも、ありますよ~。いきましょうよ!」 乾き物を、色々取り出す。「そうですね、久しぶりにこういうのも、悪くないかもしれません。お嬢様がいらっしゃらないのが、残念ですが」「一時間ぐらい前、ピアノ室覗いてみたら、ユキさんとかなりガチな話してましたよ。邪魔しないほうが、いいかもしれませんね」「左様ですね。では、二人で呑みましょう」 「そうこなくっちゃ!」と、ビールグラスを出し、慣れた手付きで注ぐ。美味しさを引き立てる白い泡が、シュワッと膨らむ。「乾杯!」 グラスを打ち鳴らし、ごくごく。
Last Updated: 2026-07-01
Chapter: 第二十九話 一日メイド こんこん、がちゃ。ハルちゃんの部屋……。いない。 ピアノ室かな? てくてく……こんこん、がちゃ。ビンゴ!「ハールーちゃん。競馬見ーましょ」「すみません、おねーさん。今、取り込み中で」 スマホからも、ユキさんの声が聞こえる。作曲中か……。 ハルちゃん、曲自体もあれからブラッシュアップするとのことで、ピアノ室にこもることが多くなっている。 ミドリさんは仕事中でしょ。だからって、休日まで同僚とつるみたくないしなあ。 私にも、楽才なり詩才なりあったらな。ハルちゃんとユキさんの間に混じれるのに。 ただ食客やってるのもあれだし、今日は皆さんのお手伝いでもしますか!「ミドリさーん」 とりあえず、取っ掛かりとしてミドリさんを捕まえ、呼び止める。「はい、なんでしょうか」「私、暇を持て余してまして。で、ただ食客やってるのもアレだし、お手伝いしようかなあ、なんて」「ありがたいお話ですが、|私《わたくし》の一存では決めかねますので……メイド長に、話を取り付けましょう」 というわけで、メイドさんたちが、わらわらとたむろしてお掃除している、エントランスへ。「……というわけなのですが」「なるほど、ありがたいことです。でもその格好では……余ってるメイド服、召されてみますか?」 おお! リアルメイド服! まさか袖を通す機会が訪れるとは。「はい、ぜひ!」 そんなわけで、更衣室へ。おお、これがメイド服! 何かワクワクするな!「おまたせしました」 着替えて、しゃらららん。「ではさっそく、拭き掃除をお願いします」 と、水入りバケツと雑巾をメイド長から手渡されました。 おっほう! さっすがメイド長! 着替えたてホヤホヤのボランティアにも、容赦なしですね! 彼女が、葵家の秩序を守っているのだなあ。「あの、メイド長さん」「|長野《おさの》と呼んでください」 おさの、おさの……あれ?「ひょっとして、シェフ長の……」「はい、彼は夫です。それで、ご質問は?」「あ、はい。ええと、どのあたりを中心に拭けばいいですか?」 メイドさんたちがめいめい動いているので、文字通りどこまでクリアされてるか、わからないのだ。「でしたら……」 と、結構な広範囲を指定される。うっひゃ~! でも、自分で言いだしたことだもんね! やるぞー! ◆ ◆ ◆「みなさん、休憩にしま
Last Updated: 2026-07-01
Chapter: 第二十八話 粋な計らい「お父様、わたし、作曲の賞に応募してみようと思うんです」「おお、そうかそうか。お前も頑張ってるのだな」 万年筆を右手に持ち、自室でハルちゃんの報告を聞く吾文さん。リハビリのため、文字を書く練習をしていたらしい。何十字もの「あ」や「い」で埋め尽くされた紙が見える。 かつての彼はそこにはおらず、娘同様努力する、人当たりのいい、おじ様がそこにいた。「それで、お父様にも試聴していただきたくて……。音楽、かけてもいいでしょうか?」「いいとも。聞かせてくれ」 ハルちゃんが、ファイルを再生しながらスマホの音量を調節する。「……いい曲だ。これだけで応募できるんじゃないか?」「いえ、作詞も必要で……。わたし、作詞はからっきしなので、ミドリさんのご友人のご助力を、いただいているんです」「ほお……」 筆を止めず、同時に話を聞くという器用なことをしながら、感心する彼。「そういえば、奥様のお姿が見えませんね」 いつもなら麗さんのいる席で主人の世話をしている辻さんを見て、ミドリさんが素朴な疑問を口にする。「今日は、一日羽根を伸ばしてもらっている。オレの世話で、ずっと苦労させっぱなしだったからな」 吾文さん、ほんとに丸くなって……。「そういえば、ハルも紅さんも、皆に混じってまかないを作ってるんだったかな?」「はい。わたし……こういう言い方は失礼ですけど、アキさんと共同生活して、世間様の暮らしを体験しました。それで、わたしもぬるま湯に浸かっていてはいけないと思うようになったんです。もっとも、衣と住に関しては、贅沢させていただいてますけども……」 とはいえハルちゃん、オフの日は率先してメイドさんたちの仕事を手伝っている、パワフルさんだ。「ならば、食も遠慮せず、食べなさい。その、夏野には他の使用人の手前、それはさせられないが」 つ、と、|頷《うなず》いて肯定するミドリさん。「それが嫌なんです。私にとってミドリさんの手料理は……こういう言い方よくないですけど、母の味ですし、彼女と同じものを食べたいんです」「ふむ……」 吾文さん、筆を一旦置き、左手で顎を撫でながら、思案する。「なら、慰労会を開こう。屋敷の者、全員参加のパーティーだ。そこでなら、夏野も遠慮は必要あるまい」「よろしいのですか!?」 びっくりミドリさん。「いいともいいとも。考えてみれば、がむ
Last Updated: 2026-07-01
Chapter: エピローグ ボクたちの将来 会場の喧騒が、この控室にもかすかに響いてくる。 眼の前には、頭からタオルを垂らしたタケルくんが、ベンチに座っているけど……。 精神統一しているように見えて、組んだ指の親指を、忙しなくすり合わせている。これは間違いなく、プレッシャーを感じているね。 タケルくんは、U20世界陸上で、百メートルで銀、二百メートルで銅という、とても立派な成績を残したけど。悲しいかな、世間様の扱いは、|金《きん》に非ずば、メダルに非ずという非情さだ。 でも、陸上界ではその名を知られる存在になったのは確かで、前回の金メダリストへのリベンジに燃えている。ただ、これは……。見るからに、入れ込み過ぎだね。タオルで顔は伺えないけど、肩から緊張の様相がにじみ出ている。 ボクはというと、専門学校を卒業し、スポーツメンタルトレーナーとして、本格的な一歩を踏み出したところ。 するとタケルくん、ボクをチームのメンタルトレーナーとして、指名してくれました。 もちろん、監督やコーチらからは、実績のないボクの起用に強い反対があったけど、タケルくんが、「幼馴染かつ恋人で、気心知れた仲であること」を、強調したそうです。 タケルくんも、銀と銅という実績があるので、最終的にチームに、「さしあたって、タケル専属」という形で雇われました。 彼が、わがままと取られる態度をしてまで招いてくれたわけで。今回の結果如何で、ボクの進退が決まるし、タケルくんへの、周りからの心象にも響く。 ボクとしても、失敗できないというプレッシャーがあるけど、それが選手に伝わってはいけない。 今日まで、文字通り精神のトレーニングをしてきたわけだけど、これから総仕上げだ。「タケルくん」 彼の横に腰掛けるけど、こっちを向いてくれない。これは、耳に入ってないね。「たーけるくんっ」 肩をつつくと、ビクッとしてこっちを向いてくれた。 ここで、「リラックスしよう」なんて声をかけても意味はない。そんなこと、彼自身が重々わかってる。 じゃあ、どうするか。「何を悩んでるか、聞かせて?」 穏やかな声色で、問いかける。「……オレ、死ぬほど練習してきた。でも、それでも、あとほんのちょっと届かなくて。動画見て、何度悔しく思ったか! あれから、監督やコーチの指導で、さらにギリギリまで追い込んできたけど、向こうも当然、それやってるわけでさ。差
Last Updated: 2026-06-26
Chapter: ラストエピソード ボクたちの初決意 楽しかった夏休みも、ついに最終日。宿題モンスターは退治済みなので、今日はタケルくんと遊び収めです。「そらー!」「わぷ! あはは! 冷たくて気持ちいー!」 久しぶりに、タケルくんちで水遊び。二人で水着着て、大はしゃぎ!「はー……、はー……。こーたーい」 ノズルを受け取る。「それーっ!」「うっは! つめて! サイコー!」 もう、二人して大はしゃぎ! そして、引き続き水着姿の撮影会。「よーし、きれいに撮れたぜー」「見せて見せてー」 ジュースを飲みながら、わいのわいの!「ボクにも、タケルくんの写真撮らせてー」「オレなんか撮って、楽しいか?」「うん。こう、マッチョなポーズ決めたりして!」「なるほど。そういう趣向は面白そうだな!」 カメラマン交代。いいのいただきました! ご利益ありそう。 昼を過ぎつつあるので、屋外で遅めの|お弁当《ランチ》。お庭があると、こんな楽しみ方ができるのがいいね!「今日も、タンパク質たっぷりだよ~」「うおっ! ステーキ丼!?」「うん。牛赤身が安かったから、野菜たっぷりで仕上げたよー」 ちょっと|炭水化物《お米》が多いけど、今日は特別に、ね。「うまそー! いっただっきまーす!」 どこかの剣士さんみたいに、一口ごとに「うまい! うまい!」と言いながら食べる彼。ほんと、作ったかいがあるなあ。「ごっそさんでした!」「お粗末様でした、ボクも、もうちょっとで食べ終わるから」 ちょこちょこお箸を進めていると、そのさまを微笑んで見つめてくるタケルくん。急に恥ずかしくなって、俯いてしまう。「なんか、見つめられると恥ずかしいよ~」「お前も、オレの食べっぷり見てたじゃん。お互い様、お互い様」 むう。ぐうの音も出ない正論。「ごちそうさまでした」 水遊びを終え、シャワーを借りて買ってもらった服に着替えると、台所を借りてお弁当箱と箸を洗う。 その後は、ポ○モン対戦!「あ! タケルくんに、初めて勝てたー!」「お見事!」 拍手をもらい、照れてしまう。 もちろん、接待プレイなんかじゃない、真剣勝負。嬉しい! さらに、ポ○モン映画リレー&雑談。 思えば、マリ○リハンカチが縁で、ボクと彼のお付き合いが始まったわけで。縁結びのポ○モンだね!「ねえ、タケルくん」「ん?」「ボクね。新学期になったら、女友達作っ
Last Updated: 2026-06-26
Chapter: エピソード41 ボクたちの初ノープランデート ―後編―「さーて、またじゃんけんだな!」 じゃーんけーん、ポン! ありゃ、負けちゃった。「お、勝った。じゃあ、お前に服をプレゼントだ!」「ええ! いいの!? そんな、ボクだけ得する話!」「お前がきれいだと、オレも嬉しい。Win-Winだろ?」 ほわあ~……。なんでしょう、このパーフェクト彼氏は!「ほんとにいいの?」「二言なし!」「じゃあね、いいお店があるんだ!」 いざ、ショッピングモールへ! ティーン向け女性服のブティックにとーちゃーく!「あのね、提案なんだけど、タケルくんに選んでほしいんだ」「ええ!? オレ、女物の選び方とかわからんぞ!?」「ボクは、タケルくん好みの服が着たいんだ。だから、どんなのも大丈夫! パンツ選んだら、パンツルックだってするよ! どうしてもわからないこととか悩んだら、ボクや店員さんに訊けばOK!」 彼は、ボクがパンツルックを嫌ってるのを、知っている。それでも、あえて宣言した。タケルくん好みの女になりたい!「わかった」 入店~。二人で見て回る。「あ……」 まず、タケルくんが手に取ったのは、タイトなデニムのミニスカ。「そのサイドテール見てたら、ビビッときてさ。あ、でも、ミニスカ嫌だったよな?」「ううん。ボク、タケルくんが選んだものなら、なんでもいいよ」 抵抗があるといえばある。万一、アレが見られたら生きていけない。でも、タイトのデニムなら、そんなに風でめくれることもないと思う。「そうか? じゃあ、これキープして……」 さらに、店内をうろうろ。「お前、水色と白好きだよな。この白いノースリーブなんかどうだ?」 次に選んだのは、襟付きのノースリーブ。「ちょっとあててみて。デニムは、ボクが持つから。……どう?」「……イイ! 自画自賛だけど、オレ、ナイス! お前、もっとナイス!」「ほんと!? すみませーん、試着いいですかー?」 さっそく、試着。我が身の余計なモノを見たくないので、デニムを履いてから、鏡を見る。 おおー! たしかに、イイ! さっすがタケルくん!「すっごく、いい感じだよ~! この後は、これ着て歩こうかな。店員さん呼んでもらえる?」「おお! 気に入ってもらえたみたいでなによりだ! すみませーん!」 ややあって、店員さんと戻ってくるタケルくん。精算後、タグを外してもらい、さっきまでの服はリ
Last Updated: 2026-06-26
Chapter: エピソード40 ボクたちの初ノープランデート ―前編―「よっしゃー! 終わったああああ!!」 ガッツポーズで叫んだかと思うと、大きく息を吐いて、だらんと椅子の背もたれに体重を預けるタケルくん。 今日は、彼の家で宿題のラストスパート中! 夏休みもそろそろ終わり。早いものです。「待ってね。ボクももうすぐ追いつくから」 こちらもせっせと、追走中。「手伝おうか?」「ううん。ボクの手でやらないとだから」「じゃー、せめて、わからないとこあったら教えるから」「うん、ありがとう!」 ああ、サイコーの彼氏さんだ~。「それにしても、ノンシュガーコーヒーゼリー、イケるなあ! さすがだぜ」 今日のおやつは、人工甘味料で作ったコーヒーゼリー。それを、どどん! と、タッパーで出してます。 ボクもタケルくんも、ミルクかける派。気が合うね! それはさておき、ところどころ教えてもらい……。「でーきたー!」 うーんと伸びをして、だらーん。「おつかれー。これで、あとはずっと遊べるな!」「だねー」 二人で手つなぎ、ウキウキるんるん。 まあ、楽しい夏休みも、そろそろ終わっちゃうけど……。「なあ、明日はおじさんマネーと金一封の使って、パーッとデートしねえ!? お前の好きなとこで!」「え、いいの!? でも、タケルくんの好みは?」「オレはいつだって、お前ファーストだぜ!」 いやん、何このパーフェクト彼氏!「じゃあ、ピュー○ランドいいかな!?」「おう! と言いたいところだが、ちょっと待ってな……。 スマホを操作する彼。「うっ! 悪ぃ、完全に資金不足だ……」 しょぼん。たしかに、遊園地って、どこもお金かかるもんねえ……。「じゃあさ、完全ノープランデートとかどう!?」「行き当たりばったりデートか。面白いな!」「でしょ! とりあえず、タケルくんちに集まって、それから考える!」 ト○ピーみたく、人差し指をふりふり。「チャリ使うか?」「うーん。自転車は、とりあえずなしで!」「よっし! 十時集合でいいか?」「うん!」 ああ、明日が楽しみすぎるよー! ◆ ◆ ◆「おー、またイメチェンしたんだな!」「うん! せっかくのデートだからね! どう? どう?」 集合時刻。せっかくのデートなので、またイメチェンしてみました! 今日は、右側にサイドテールを垂らしています。「いいね! 似合ってるぜ。いやー、ほ
Last Updated: 2026-06-26
Chapter: エピソード39 ボクたちの初アスリート弁当 今朝は四人分のお弁当を作ったら、自転車漕ぎ漕ぎ、いつもの公園に向かいます。まだ朝だっていうのに、すでに暑いねー。 タケルくんにLI○Eすると、「カルガモ池のベンチでQK中」とのことで、駐輪場からは徒歩でてくてく。 カルガモ池の方に歩いて行くと……。いた! タケルくんが、肩で息してる。ダッシュ後の休憩かな?「たーけーるくーん!」 声をかけると、疲れ切っているのか、顔だけ向けて、軽く片手を上げて応える。 更に近づき、「おべんと持ってきたよ!」と言うと、少し息が整ったのか、汗を拭きながら、「サンキュ」と返す彼。 保冷ボトルを取り出すと、少しずーつ、ゆっくり飲む。「それは?」「例のスポドリ」 飲み終えると、はー……と、深呼吸。「ごはん、入る?」「おう。ちょうどいい。今日は、これで上がろう」 ボクもベンチの隣に、ちょこんと腰掛ける。「色々考えて、作ってきたよ~」 保冷バッグから、二つのお弁当箱と、お手拭きを取り出し、肩から麦茶のボトルを下ろす。「開けてみて~」「おう。お、こりゃまた、バリエーション豊かだな」「ふふふ~」 まずは、先鋒! ささみとアスパラの、からし醤油マヨ和え! ささみもアスパラも高タンパク! からしマヨは小パック入りで、お醤油は、お魚の小さい容器に入れてます。「いっただっきまーす!」 ごはんは、とろろ麦ごはん。こちらも、とろろはパックで絞るタイプ。 カロリー的には、マ○ナンごはんとかがいいんだろうけど、そこは量を控えめにして、カバー。「うめー! マジうめえ!」「ありがと」 次鋒は、アジのざんが焼き。ここで、青魚というのがポイント! 青魚は、頭にも利くからね! もぐもぐ食みながら、サムズアップをいただく。 さして中堅、枝豆、おから、にんじん、ひじき、油揚げのうの花。これまた、タンパク質もビタミンもたっぷり! スポドリを飲もうとする彼に、「こっちの方が合うでしょう?」と、麦茶を差し出す。今更、間接キスを気にする仲でもないしね!「サンキュ」と受け取り呷ると、一息つく。「ふ~……」「締めに、どーぞ」 タッパー入りの、はちみつ漬けレモンを取り出す。「おー……。んー、すっぱー!」「ふふ。効くよね、それ」「ごっそさんでした! あーもう、サイコーだな! 文字通り、朝飯前のトレーニングはキツかったけど、耐え
Last Updated: 2026-06-26
Chapter: エピソード38 ボクたちの初健康トーク「ねえねえ、タケルくん。白骨死体って、見つかることあるじゃない?」 タケルくんちのリビングで、ジュースを二人で飲んでいると、ボクの突飛すぎる話題に、彼がむせてしまいます。「なんなんだ、どうした急に」 咳き込みながら、ツッコむ。「ボクがさ、そんな状態で見つかったら、ちゃんと、女性の死体と思ってもらえるのかなあって」「おいおい、縁起でもないこと言うなよ」 肩をすくめ、首を横に振られる。「んー、でもさ。男性の死体って判断されたら、ショックだなあって。腰幅もまだ広くないし、女の人ってね、頭蓋骨の頭頂部が、ちょっと尖ってるんだって。あと、大腿骨に、男性にはない筋があるらしくて。ボクのそのへんって、どうなんだろうなあって」「ミョーなことに詳しいなあ、お前……」「人体に興味持って調べてるうちに、なんかこう、色々とね」 ジュースをいただいて、喉を潤す。「でも、肩幅なんかはこのとおり狭いでしょう? 警察も、首を傾げるんじゃないかなーって」「だから、縁起でもないこと言うなって。せめて、レントゲンで例えようぜ」「あー、その発想はなかった」 ポンと、手を打つ。「でも、なんだな。刑事ドラマなんか見てると、歯の治療記録が、身元判明の決め手になるらしいぜ?」「あー。ボク、歯医者さん、かかったことないんだよね」「へえ。大の甘党なのに?」 彼も、ジュースを飲む。「うん。ミュータンス菌っていうのが、いわゆる虫歯菌らしいんだけど、これ、親とのキスとか、スプーンの共有とかで感染しちゃうんだって。ただ、一歳まで気をつければ、もうその心配はなくなるらしくてね。お母さんたちそれ知ってたから、すごく気をつけたらしいよ。あとボク、普通に歯もよく磨くし」「ほー……。オレには、ミュータンス菌ってのがいるかどうか知らんけど、歯はめっちゃ念入りに磨くから、虫歯なったことないな。スポーツ選手は、歯が命だからな」「さっすが~」 互いに感心。「あー……。ただ、親知らずが生えたことがあってなー。そんときゃさすがに、歯医者のお世話になったわ。もう、引っこ抜くのが、いてーのなんの! ギャン泣きするレベルだったぜ……」「タケルくんでも!?」 苦々しい顔で、頷く彼。「はー……。タケルくんのギャン泣きとか、想像できないや」「恥ずかしいから、しないでくれ。こればっかはなー。歯磨きじゃ、予
Last Updated: 2026-06-26