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第2話 《檻の中の虚像》

last update publish date: 2026-02-09 20:43:29

春の光が、静かに窓辺を満たしていた。

白いカーテン越しの光はやわらかく、だが逃げ場がない。

彩は十二歳。

中学一年生になったばかりだった。

その傍らに立つ姉――歌原レイラ、二十四歳。

死まで、あと四年。

1. スキャンダル

あれから六年。

私はモデルとして、

誰よりも強く、誰よりも美しく光ってきた。

アジアの街角。

空港の到着ロビー。

巨大ビルボードに並ぶ、自分の顔。

電車の車内広告にまで刷り込まれた姿は、

いつの間にか「私」ではなく、

消費されるための“記号”になっていた。

それでも構わなかった。

彩を守れるなら、それでいい。

だが今――

その歩みを、大きく揺るがす出来事が起きていた。

ローテーブルに広げられた週刊誌。

《人気モデル・歌原レイラ、

 売れっ子俳優と“お泊まり密会”?》

記事に映るのは、確かに私だ。

恋愛?

だからどうした。

独身同士の交際を、

まるで罪のように扱う。

海外では問題にもならなかった。

仕事に支障がなければ、尊重される個人の選択。

だがこの国では、

愛することすら“スキャンダル”と呼ばれる。

私はページを閉じる。

怒りよりも先に、

冷静な計算が頭を占めていた。

――どうすれば、彩に被害が及ばないか。

2. 彩の戦い

スマホの画面に、罵詈雑言が並ぶ。

「昔から嫌いだった」

「全部作り物」

「スポンサーに抗議しろ」

指がスクロールするたび、

言葉だけが、皮膚を剥ぐように刺さる。

支える声の方が多い。

それも、分かっている。

それでも――

彩の目に入るのは、毒ばかりだった。

……その夜。

リビングの灯りの下。

ソファに沈み込む彩。

中学に上がったばかりで、

ようやく持たせてもらったスマホ。

小さな画面に、

無数の言葉が降り注いでいる。

涙は出なかった。

代わりに、

胸の奥で何かが熱を帯び、

言葉にならない感情が渦を巻いていた。

「……ふざけないで」

慣れない指先が、

一文字ずつ確かめるように動く。

「おねーちゃんは、そんな人じゃない」

「嘘ばっかり書くな」

誤字交じりの反論。

洗練されていない。

届く保証もない。

それでも彩は、

自分にできることを、

自分の場所から、全力で放っていた。

3. 妹の顔

そのとき、スタッフからの一報。

画面を開いた瞬間、

心臓が冷たく跳ねた。

――彩の顔。

関係のないはずの妹の写真が、

悪意と共に拡散されていた。

《妹もどうせ同じだろ》

《家族ごと偽り》

《遺伝子レベルで嘘》

胸の奥で、

何かが音を立てて割れる。

……私だけなら、耐えられた。

虚像だと割り切れば、

通り過ぎることもできた。

だが――

妹が巻き込まれるなら、話は別だ。

守られるべき彩が、

私の影で晒されている。

私は、初めて理解した。

この世界は、

私を殴っているのではない。

――彩を狙っている。

許さない。

これ以上、

何も奪わせない。

4. 姉の決意

レイラは、静かに彩の背後へ歩み寄る。

そっと肩に手を置く。

彩は振り返り、

怒りを滲ませた声で言った。

「おねーちゃん……

 わたしが守るから……!」

その言葉に、

一瞬、息が詰まる。

守られる側でいるには、

彩はもう、優しすぎた。

レイラは首を振り、微笑む。

「だめ。

 守られるわけにはいかない」

「守るのは――私の方」

彩が目を見開く。

レイラは窓の外、

都会の夜景を見つめた。

搾取でもない。

虚像でもない。

彩が、安心して立てる場所。

憧れても、壊れない舞台。

そのために――

私は、もっと上へ行く。

世界の頂点へ。

「彩は、私が必ず守る」

それは祈りではなく、

選択だった。

――第3話へ続く。

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