Short
エリート両親は俺の死に気付かない

エリート両親は俺の死に気付かない

By:  ロックされた心Completed
Language: Japanese
goodnovel4goodnovel
8Chapters
596views
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

俺が犯人に惨殺されているその時、犯罪捜査のエキスパートである父と、首席監察医の母は、義理の弟の試合の応援に行っていた。 かつて父に逮捕された犯人は、その復讐として俺の舌を切り落とした後、俺のスマホで父に電話をかけた。 だが、父はたった一言だけ言い放って、電話を切る。 「お前が今何をしているかなど知らん。今日は竜の試合が一番大事なんだ!」 犯人は鼻で笑う。 「どうやら人選を間違えたらしいな。実の息子のほうが愛されていると思ったんだが」 その後、現場に駆けつけた両親は、死体の惨状に息を呑んで、犯人の残虐さを激しく非難する。 しかし彼らは気づいていない。この無惨な死体こそが、自分たちの実の息子であることに。

View More

Chapter 1

第1話

俺が犯人に惨殺されているその時、犯罪捜査のエキスパートである父と、首席監察医の母は、義理の弟の試合の応援に行っていた。

かつて父に逮捕された犯人は、その復讐として俺の舌を切り落とした後、俺のスマホで父に電話をかけた。

だが、父はたった一言だけ言い放って、電話を切る。

「お前が今何をしているかなど知らん。今日は竜の試合が一番大事なんだ!」

犯人は鼻で笑う。

「どうやら人選を間違えたらしいな。実の息子のほうが愛されていると思ったんだが」

その後、現場に駆けつけた両親は、死体の惨状に息を呑んで、犯人の残虐さを激しく非難する。

しかし彼らは気づいていない。この無惨な死体こそが、自分たちの実の息子であることに。

……

俺・黒崎北斗(くろさき ほくと)の遺体は、建設途中で放置された廃ビルで発見される。作業員が嘔吐しながら警察に通報したのだ。

両親は、栗原竜(くりはら りゅう)の祝勝会から現場へと駆けつける。鑑識官が眉をひそめながら、二人にマスクをつけるよう促す。

父の栗原健一(くりはら けんいち)は犯罪捜査のエキスパートで、母の栗原葉子(くりはら ようこ)は江崎市でトップの監察医だ。

数々の凶悪事件を扱ってきた二人でさえ、その遺体を目にした瞬間、思わず顔をしかめる。

真夏の猛暑で遺体はひどく膨張している。顔面は原型をとどめないほど叩き潰されて、もはや目鼻立ちすら分からない。

全身傷だらけで、頭部はわずかな皮一枚で首と繋がっている状態だ。腐敗が進んで、強烈な悪臭を放っている。

母は一度目を閉じて、深呼吸をする。そして手袋をはめて、検視を始める。

遺体を見つめる彼女の目には、憐れみの色が浮かんでいる。生前、母からこんな優しい眼差しを向けられたことなど一度もなかった。

俺は少し緊張しながら、母が血まみれの指から指輪を外すのを見ている。

この指輪は、家族全員に同じものを手作りして贈ったものだ。しかし、竜のサイズに合わなかったというだけで、両親から激しく罵倒された。

「また何か企んでると思ったわ。わざと竜をいじめて!」

「お前は確かに俺たちの実の息子だが、竜はこの家で18年も暮らしてきたんだ。竜のほうがずっと大切なんだよ!」

当時の怒鳴り声が今も耳に残っている。それでも、両親は心の底では俺を愛してくれていると信じていた。俺の贈ったプレゼントに、きっと気づいてくれるはずだ。

しかし母は、無表情のまま助手に指示を出して、指輪を証拠品の袋に入れさせる。

期待するべきではなかった。実の息子であっても、両親の心に俺の居場所なんて初めからなかったのだ。

姉の栗原結衣(くりはら ゆい)は、「竜を養子にしたのは、誘拐された北斗が見つからなかったから。本当に愛しているのは北斗なのよ」と言ってくれた。

だが、ようやくこの家に帰ってきた時、すでに俺の居場所はどこにもなかった。まるで俺のほうが、他人の家を乗っ取ろうとしている侵入者のようだった。

現場の検証を終えた父が、ため息交じりに母に尋ねる。「遺体の状況はどうだ?」

母は手袋を外して、眉間を揉みながら答える。

「被害者は20歳前後。死因は喉を切られたことによる失血死ね。死の直前、長時間の虐待を受けていた形跡があるわ」

父はタバコに火をつけ、深く吸い込みながら頭を抱える。「極めて残忍な手口だ。世間が騒ぎ出す前に、早く解決しないと」

俺は死んでからも、両親に迷惑をかけているらしい。

鑑識官が注意を促す。「犯人はまだ逃走中だ。家族にも気をつけるよう伝えておけ。子どもたちも、夜は出歩かせないほうがいいぞ」

母は苛立ったように答える。「竜は昔から言うことを聞くいい子だけど、北斗のほうは私の手に負えないわ」

鑑識官は両親の旧友で、当然うちの事情も知っている。父が右手で肩を軽く揉む。それに気づいた鑑識官が尋ねる。「栗原、また肩が痛むのか?」

父は手を振る。「いや、大丈夫だ。北斗が買ってくれた湿布を貼ったら……」

言いかけて、父はハッと動きを止める。言うことを聞かないと見下している息子が、誰よりも彼らの健康を気遣っていたのだ。

鑑識官は父の背中を叩く。「北斗にもっと優しくしてやれよ。あいつこそお前たちの本当の息子なんだから」

父は首を横に振る。「この前、竜のテニスの大会があってな。竜はずっと北斗に来てほしいって言ってたのに、あいつは電話に出た後、居留守を使いやがった。竜はショックで三位に終わっちまったんだ」

「北斗ったら、本当に恩知らずね。もう何日も家に帰ってないのよ。どこで野垂れ死んでるか分かったもんじゃないわ。やっぱり、自分たちで育てなかった子はダメね」

両親の言葉を聞いて、全身の血が凍るような絶望を覚える。

父さん、母さん。家に帰りたくなかったわけじゃない。もう、二度と帰れなくなってしまっただけなんだ。

あんたたちの言う「恩知らず」な息子は、竜のテニスの試合を応援に行っていたあの日に、もう死んでしまったんだよ。

俺の遺体は、今あんたたちの目の前にあるというのに。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters

reviews

ノンスケ
ノンスケ
救いようのない話。実の息子と義理の息子。なぜ同じように愛せなかったのか、なぜ誘拐犯の手から帰宅した時に、もっとしっかり抱きしめて愛情を注げなかったのか。死んでから悔やまれてももうどうしようもない。
2026-07-04 16:19:59
0
0
8 Chapters
第1話
俺が犯人に惨殺されているその時、犯罪捜査のエキスパートである父と、首席監察医の母は、義理の弟の試合の応援に行っていた。かつて父に逮捕された犯人は、その復讐として俺の舌を切り落とした後、俺のスマホで父に電話をかけた。だが、父はたった一言だけ言い放って、電話を切る。「お前が今何をしているかなど知らん。今日は竜の試合が一番大事なんだ!」犯人は鼻で笑う。「どうやら人選を間違えたらしいな。実の息子のほうが愛されていると思ったんだが」その後、現場に駆けつけた両親は、死体の惨状に息を呑んで、犯人の残虐さを激しく非難する。しかし彼らは気づいていない。この無惨な死体こそが、自分たちの実の息子であることに。……俺・黒崎北斗(くろさき ほくと)の遺体は、建設途中で放置された廃ビルで発見される。作業員が嘔吐しながら警察に通報したのだ。両親は、栗原竜(くりはら りゅう)の祝勝会から現場へと駆けつける。鑑識官が眉をひそめながら、二人にマスクをつけるよう促す。父の栗原健一(くりはら けんいち)は犯罪捜査のエキスパートで、母の栗原葉子(くりはら ようこ)は江崎市でトップの監察医だ。数々の凶悪事件を扱ってきた二人でさえ、その遺体を目にした瞬間、思わず顔をしかめる。真夏の猛暑で遺体はひどく膨張している。顔面は原型をとどめないほど叩き潰されて、もはや目鼻立ちすら分からない。全身傷だらけで、頭部はわずかな皮一枚で首と繋がっている状態だ。腐敗が進んで、強烈な悪臭を放っている。母は一度目を閉じて、深呼吸をする。そして手袋をはめて、検視を始める。遺体を見つめる彼女の目には、憐れみの色が浮かんでいる。生前、母からこんな優しい眼差しを向けられたことなど一度もなかった。俺は少し緊張しながら、母が血まみれの指から指輪を外すのを見ている。この指輪は、家族全員に同じものを手作りして贈ったものだ。しかし、竜のサイズに合わなかったというだけで、両親から激しく罵倒された。「また何か企んでると思ったわ。わざと竜をいじめて!」「お前は確かに俺たちの実の息子だが、竜はこの家で18年も暮らしてきたんだ。竜のほうがずっと大切なんだよ!」当時の怒鳴り声が今も耳に残っている。それでも、両親は心の底では俺を愛してくれていると信じていた。俺の贈ったプレゼントに、き
Read more
第2話
捜査会議の席上、母の検視報告を聞き終えた捜査員たちは皆、険しい表情を浮かべている。遺体の損傷が激しくて、顔の照合が不可能なためだ。遺棄現場である廃ビルは第一の殺害現場ではないので、捜査は難航を極める。父は部下たちに、遺棄現場周辺で不審者の目撃情報がないか聞き込みをするよう指示を出す。「もう一度検視を頼む。何か新しい手がかりがないか探ってくれ。採取したDNAはすぐに科捜研へ送るんだ」父は母にそう言い残して、慌ただしく部下たちと部屋を出ていく。両親は、生きている俺よりも、俺の遺体のほうにずっと関心を向けているようだ。かつて母は竜の髪を撫でながら、「監察医は死者の声を代弁する、素晴らしい職業なのよ」と語っていた。竜が頷きながら同調するのを見ていたが、母が背を向けた瞬間、彼は嫌悪感を露わにして撫でられた髪を拭っていた。その時、竜の頬を平手打ちしたが、結果として父から罰として丸坊主にされた。そして今、母は痛ましそうな表情で俺の遺体の髪に触れて、優しく呟く。「こんなにむごい殺され方をして……ご家族はどんなに悲しむことか」自嘲気味に口角を上げる。俺の家族なら、俺が死んで喜ぶはずだ。悲しんでくれるのは、おそらく姉の結衣くらいだろう。手袋越しの母の手が、俺の背中をなぞる。そこには、誘拐された後につけられた広範囲のやけどがある。あの日、ようやくこの家に迎えられて、着替えをしていた時、母は驚きと微かな嫌悪を交えてこう言った。「その背中、どうしたの?気持ち悪いわね、竜を怖がらせないでちょうだい」もしかして、母はこの傷跡で俺だと気づいたのだろうか?思わず唇を噛み締めて、緊張で額から汗が滲み出るのを感じる。だが次の瞬間、母は気にも留めない様子で小さく呟く。「今回の事件でついた傷じゃないわね」その時、助手が小さな声を上げる。「先生、被害者の胃の中に紙切れがあります!」母は目を見開いてそれを受け取って、小さく息を吐く。「胃酸で溶けかかっているわ。後で鑑識に回して、解析できるか頼んでみて」突然、スマホの着信音が鳴り響く。竜の一番好きな曲だ。母は手袋を外して、急いで廊下へ出ると、ひどく甘い声で電話に出る。「もしもし、どうしたの?お母さん、今仕事中よ」「明日?そうね……」母は一瞬言葉に詰まって、やがて力強く言う。「お
Read more
第3話
優しく竜を宥めて電話を切った直後、今度は姉から母へ着信が入る。「結衣、出張はいつ終わるの?弟が試合を見に来てほしがってるわよ」姉が口を開く前に、母は急かすように尋ねる。俺が家に引き取られた日、両親は泣きじゃくる竜にかかりきりだった。そんな中、姉だけが俺の手を引いて、家の中へ案内しながら「もう怖がらなくていいのよ」と声をかけてくれた。この家で俺が感じた唯一の温もりは、彼女からのものだけだった。電話の向こうで、姉は一瞬戸惑う。「えっと、北斗の全国模試のこと?あれは来月じゃなかったかしら……」母は苛立ちを露わにして遮る。「北斗、北斗って!ずっと一緒に育ってきた弟は竜よ!何度も言ってるけど、北斗は外でろくでもない育ち方をしてきたのよ。栗原家の人間としてふさわしくないわ」姉はため息をついて、母の俺に対する憎悪が理解できないというように言う。「お母さん、竜の言うことを鵜呑みにしないで。北斗は根は優しくて努力家よ。普段からもう少し見てあげれば、絶対にわかるはず。さっき北斗に電話したんだけど、出なかったの。この数日間のメッセージにも返信がないし。家にいないの?」母は鼻で笑い、冷淡に答える。「あいつにも足があるんだから、鎖で繋いでおくわけにもいかないわ。またどこかで遊び呆けてるんじゃないの。明日は竜の大事な試合よ。帰ってこれないなら、もういいわ」少し間を置いて、母は冷酷な言葉を言い放つ。「北斗に伝えておきなさい。失踪したふりをして気を引こうなんて無駄だってね。明日、竜の試合に来ないなら、二度とこの家に入らせないわ。どうせ、あんな奴いないほうがいいんだから!」電話の向こうで俺を庇おうとする姉の声を無視して、母は電話を切る。ちょうど捜査から戻ってきた父が、不機嫌そうな母を見て不思議そうに尋ねる。「遺体の身元特定がそんなに難航しているのか?」母は首を振って、愚痴をこぼす。「違うわ、北斗よ。きっとまた結衣に泣きついたのね。結衣を巻き込んで、失踪ごっこをしてるみたい」父は荒く息を吐き出す。「俺たちが仕事で忙しいのを知ってて、そんな下らないことを!なんて恩知らずな奴だ。今すぐ電話して説教してやる!」しかし、何度電話をかけても、「ただいま電話にでることができません」という冷たいアナウンスが響くだけだ。「あいつ、見つから
Read more
第4話
母は、胃酸でボロボロになった紙切れを鑑識官に渡す。鑑識官は痛む腰を軽く叩きながら、呆れたように父に言う。「この紙切れから何か手がかりが出るといいんだが。それより、竜に戸締まりをしっかりするよう伝えたか?」父は険しい顔で頷いて、少し躊躇しながら口を開く。「なあ、北斗の奴、電話にも出ないし、結衣のメッセージも無視してるらしい。まさか、本当に何か事件に巻き込まれたんじゃ……誰かに調べさせようか?」母は苛立たしげに遮る。「もういいの。あいつは私たちが必死に探すのを隠れて待ってるのよ!こんなのは初めてじゃないわ。ただ竜の試合に行きたくないだけよ。遅くても明日には、絶対に泣きついて電話をかけてくるわ」前に俺が失踪したのは、夏休みのことだ。竜に学校のトイレに閉じ込められたのだ。休日の学校には誰もいなくて、いくら助けを呼んでも誰の耳にも届かなかった。俺は死に物狂いで窓から這い出して、泥だらけになりながら、足を捻挫した状態で家まで歩いて帰った。だが、家で俺を待っていたのは、父の強烈なビンタと母の罵声だった。「竜が言ってたわよ。お前が女の子とラブホテルに入るのを見たってね!どうしてこんな恥知らずな人間に育ってしまったの!」弁明すら許されない。ただ竜が背後で密かに浮かべる得意げな笑みを見ていることしかできなかった。薬を塗ってくれた姉だけが、優しく慰めてくれた。「お父さんもお母さんも、北斗を愛してないわけじゃないの。ただ、どう接していいか分からないだけよ」だが俺には分かっていた。口下手な俺と、要領が良くて愛想のいい竜とでは、両親はいつも竜のことばかりだ。愛情の天秤は、常に竜のほうへと傾くのだ。もし俺が生きていれば、両親が仕事で家に帰れない時、栄養満点の弁当を作って警察署まで届けに行っていただろう。だが残念ながら、今回ばかりは両親の期待通りに「謝罪」が現れることはない。なにしろ、俺はもう死んでいるのだから。間もなく鑑識から結果が届く。紙切れの正体は、買い物のレシートだった。犯人は俺をいたぶるため、その紙を俺の口にねじ込んで、無理やり飲み込ませたのだ。そうしながら、犯人はこう言った。「両親へのプレゼントか?あいつらはお前からの贈り物なんて、ゴミ箱に捨てるだろうにな」父が訝しげに尋ねる。「これはどこのレシートだ?」
Read more
第5話
母はすでに悪い予感を感じていたのか、父の腕を掴んで、爪が食い込むほど強く握りしめる。「被害者は……息子さんの北斗君です」母はその場にへたり込んで、信じられないというように呟く。「北斗?どうして……そんなはずない……」父は崩れ落ちそうになる母を慌てて支える。部下の刑事が小声で報告する。「殺害現場が特定されました。遺棄現場の廃ビルの近くにある、違法建築の長屋です」父は即座に決断を下す。「まずは現場へ行く。科捜研の奴ら、絶対に何か間違いを犯してるはずだ」パトカーの中で、母は何度も俺のスマホに電話をかけ続ける。父は前だけを凝視してハンドルを握って、自分に言い聞かせるように言う。「落ち着け。北斗の奴、署に忍び込んで科捜研の連中と結託して俺たちを騙そうとしてるに決まってる」だが心の底では、それは不可能であることは痛いほど分かっていたはずだ。どんな感情なのか言葉にはできないが、まるで毒蛇に全身を締め付けられるような息苦しさを感じる。その長屋周辺は、怪しげな連中が吹き溜まるスラム街だった。偽造の身分証明書を持っている者も多くて、警察の捜査など誰も恐れていない。両親が到着した時、すでに部屋の前には規制線が張られていた。長屋のドアが開けられると、強烈な血生臭さが鼻を突く。ベッドのシーツは血で赤黒く染まって、壁にも床にもおびただしい量の血飛沫が点在している。すでに魂だけの存在となっている俺でさえ、死の直前の虐待を思い出して、恐怖で震えが止まらない。拉致されたあの日、竜から電話があった。彼は「足を怪我して動けない。明日の試合に出られないかも」と泣きついてきた。彼のことが嫌いだったが、両親に心配をかけたくない一心で、言われた場所へ向かった。しかし、指定された場所に着いた瞬間、背後から殴られて気を失った。目隠しを外された時、目の前にいたのは竜と、不気味な笑みを浮かべる見知らぬ男だった。男が誰なのか、俺には分からなかった。だが、竜の口から出た言葉は、俺を絶望の淵に突き落とすには十分だった。「騙して連れてきてやったぞ。約束通り僕は見逃せよ。ジジババの相手をしに帰らなきゃならないんだからな」男はそれを聞いて頬を引きつらせて、薄笑いを浮かべて手を振る。「帰ったら、余計なこと言うなよ」竜は背を向けて立ち去る間際、
Read more
第6話
鑑識官も思わず目に涙を浮かべながら言う。「ここは我々に任せて、二人とも署に戻ってくれ。進展があれば、俺から連絡する」だが母には聞こえていないようだ。手袋をした手で床の血痕をそっとなでる。「北斗……どんなに痛かったことか……」感情豊かな若い警察官たちは、すでにすすり泣き始めている。両親は魂が抜けたようにパトカーに乗り込む。放心状態の彼らを見ていると、俺の胸も締め付けられるように痛む。この家に引き取られてから死ぬ瞬間まで、両親が俺を「北斗」と優しく呼んでくれたことなど一度もなかった。科捜研の職員が、DNA鑑定の報告書を父に手渡す。彼は放心状態の母を痛ましそうに一瞥した。「栗原さん……お悔やみ申し上げます」父の瞳孔が急激に収縮する。報告書のページをめくって、そこに記された名前を何度も、何度も確認する。長い沈黙の後、父は歯を食いしばりながら絞り出すように言う。「どうして、そんなはずが……」科捜研の職員はいたたまれない表情を浮かべて、ため息をつきながら父の肩を叩く。「現場も確認したでしょう。ご遺体は今、解剖室にあります。これが現実なんです」母が突然飛びかかって、報告書をビリビリに引き裂く。そして何かを思い出したように、先ほど遺体から外した指輪を探し出す。内側に浅く刻まれた「K.H」のイニシャルを見て、透明な証拠品の袋に母の涙がポタポタと落ちる。署の人間は、指輪に刻まれているのは被害者のイニシャルだと推測していた。だがそれは、俺が栗原家に戻った時、心から名乗りたかった「栗原北斗」の頭文字だった。父は母を支えながら、重い足取りで解剖室へと入っていく。無惨に破壊された俺の遺体を目にして、父の喉の奥から獣のような低い咆哮が漏れる。不思議な気持ちで二人を見つめる。どうしてそんなに苦しむんだ?俺がいなくなることこそ、あんたたちがずっと望んでいたことのはずなのに。母は俺の背中の火傷を撫でながら、震える声で語りかける。「北斗……どうしてこんな所で、こんな姿で……初めて家に来た時、真っ黒に日焼けして、ガリガリに痩せて、まるで乞食みたいだった。お父さんに『これから美味しいものをたくさん食べさせて、太らせてあげないとね』って話してたのよ。でも、いつから変わってしまったの?物を盗んだり、隠れて竜をいじめたりするから……あ
Read more
第7話
俺の死を知らされた姉は、出張の仕事を放り出して帰ってきた。 彼女が家に着いた時、両親はソファーに座って、絶望と苦痛の表情を浮かべていた。その傍らでは、竜が目を真っ赤に腫らして、鼻をすすりながら大粒の涙をこぼしている。「お姉ちゃん、やっと帰ってきたんだね!兄ちゃんが誰かに殺されたんだって!犯人はまだ捕まってないらしいよ。兄ちゃん、普段からいろんな人に恨まれてたから、今回もそのせいかな……」父が突然、しゃがれた声で怒鳴る。「黙れ!事件の容疑者はすでに特定されている。警察が今、全力で追跡中だ!お前の兄はその犯人と何の接点もなかった」そう言いながら母と視線を交わして、二人の瞳に深い苦悩が浮かぶ。両親は犯人の動機が、かつて自分たちが逮捕した男の兄による復讐だったと知らされた時、ショックに耐えきれず、揃って気を失ってしまったのだ。自分たちが最も嫌っていた息子は、自分たちのせいで命を落としたのだから。それを聞いた竜の目に、一瞬だけ焦りの色が走る。彼は自分の服の裾を強く握りしめて、額に冷や汗をにじませる。「犯人が分かったの?だったら、どうして兄ちゃんは殺されたの?」目の下に濃い隈を作った母が、憔悴しきった声で言う。「竜……試合を見に行けなくてごめんね。そのせいで、試合に集中できなかったよね」姉は冷たく鼻で笑う。「こいつは、北斗が二度と帰ってこなければいいって思ってるわよ。これっぽっちも悲しそうな顔なんてしてないじゃない」竜は哀れっぽく姉を見つめて、母の腕の中に身を縮める。「お姉ちゃんと兄ちゃんが実の姉弟だってことは分かってるけど、兄ちゃんが死んだからって、僕に八つ当たりしないでよ。兄ちゃんの分まで、僕がお父さんとお母さんを大切にするから!」母は感動したように涙ぐみながら頷く。先ほど母が俺のために泣いているのを見た時は、胸の奥が締め付けられて、感動と切なさでいっぱいだった。だが、母が竜を庇うのを見て、自分の感情が急に冷めていくのを感じる。俺の命なんて、その程度のものだったのだ。竜こそが俺を地獄へと突き落とした張本人で、俺を殺した共犯者だ。生きている間、俺はいつも母さんが竜の嘘に気づいて、優しく俺を守ってくれたらいいのに、と夢見ていた。だが今となっては、両親が真実を知った時にどんな顔をするのか、それだ
Read more
第8話
観客席に両親と姉の姿を見つけた竜は、得意げな笑みを浮かべる。俺がいなくなった今、自分がこの家で一番愛される存在になったと確信しているのだろう。ハーフタイムの休憩中、竜は甘えるように父の腕に抱きつく。「お父さん、お母さん、お姉ちゃん!見に来てくれて本当に嬉しいよ」表彰台の上で、竜は満面の笑みでメダルを掲げる。記者のインタビューに対して、彼は愛想よく答える。「僕が今日ここに立てたのは、家族のサポートのおかげです。これからも、お父さんとお母さんの誇りで、お姉ちゃんが一番愛する弟でありたいです!」誇らしげな竜の姿を見て、激しい吐き気を覚える。こいつの幸せは、全て俺の苦痛の上に成り立っているのだ。俺を地獄へと突き落としておきながら、自分は花束と拍手を浴びている。どうしてこんなことが許されるんだ。観客席から、ヒソヒソという話し声が聞こえてくる。「彼のお兄さん、少し前に亡くなったんでしょ?あんなに可哀想なのに、立派よね」「あのお兄さん、札付きの不良だったらしいわよ。何股もかけてて、痴情のもつれで殺されたって噂だわ」その声は竜の耳にも届いていた。彼の顔の笑みはさらに深まって、まるで俺を殺した勝利を高らかに宣言しているかのようだ。だがその時、数人の警察官が突然現れて、笑顔が凍りついた竜へと歩み寄る。「人違いじゃないですか!?僕は今回の大会の優勝者ですよ!」姉が冷たく言い放つ。「あんたで間違いないわ。優勝のメダルを首に下げたって、その腹黒さは隠しきれないわよ」一番注目を浴びている最高の舞台で、竜の偽りの仮面は無残に引き剥がされた。彼は荒い息を吐いて、目をひん剥いて叫ぶ。「証拠はあるのかよ!?お父さん、お母さん、助けて!お姉ちゃんがおかしくなっちゃった!」母は信じられないものを見るような目で、静かに問いかける。「犯人からボイスレコーダーが提出されたの。お前が言ったこと、全部聞かせてもらった」俺に「死んでほしい」と言い放ったことも、両親を「ジジババ」と呼んだことも。すべてが録音されていたのだ。犯人は、レコーダーの隠し場所を教えながらこう嘲笑ったという。「なんで俺があのガキを見逃したか分かるか?お前たちが溺愛してる偽物の息子が、実の息子を殺したんだ。その事実を知ったほうが、お前たちはもっと苦しみを味わうだろうから
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status