ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う

ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う

last updateLast Updated : 2026-06-29
By:  ふりっぷUpdated just now
Language: Japanese
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聖女ヒマリは「役立たず」と王に判断され、 城のゴミ捨て場へ捨てられた。 だがその先は――魔王ノリスの古い城へと繋がっていた。 前世は日本の女子高生。 絶望の底で覚醒したヒマリのスキル【浄化支配】は、 魔物の穢れを浄化し、欲望構造を読み取り上書きする危険な力。 ゴミとして捨てられた聖女は、魔王城の魔物たちを次々と味方に変え、 彼女を切り捨てた王国へ復讐の歩みを始める。

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Chapter 1

捨てられた聖女は、まだ何も知らない

 眩しい光に包まれ、思わず腕で顔を覆った。

(……え?)

 さっきまで、狭いワンルームのベッドにいたはずだ。

 スマホを握ったまま寝落ちし、通知の来ない画面をぼんやり見つめていた。

 それなのに、鼻を刺す空気の匂いが違う。

 古い石の冷たさ。ざわめく人の気配。

「成功だ……!」

 誰かの興奮した声が響く。

 恐る恐る目を開いた瞬間、心臓が止まりそうになった。

 見知らぬ大広間だった。

 高い天井。壁一面に刻まれた巨大な魔法陣。

 床には淡い光が流れ、豪奢な衣装をまとった人々が並んでいる。

 まるでゲームか映画の世界。

 けれど――違和感があった。

 誰も、私を見ていない。

 視線の先は、少し離れた場所。

 そこに立っていた人物を見た瞬間、思わず息を呑んだ。

 銀髪の女だった。

 腰まで流れる髪は月光のように淡く、赤い瞳が妖しく光っている。

 美しい。

 そう思った直後、背筋に冷たいものが走った。

 ただ立っているだけなのに、空気が張り詰めている。

 まるで猛獣を前にした時のような、本能的な恐怖。

 それなのに、どうしてか目を逸らせなかった。

「……ふふ。久しいわね、人間の王宮は」

 低く艶のある声が響く。

 その瞬間、周囲がざわめいた。

「ま、魔王ノリス……!」

 ――魔王。

 現実味のない言葉が、耳の中で重く響く。

(え、魔王? 本当に?)

 理解が追いつかない。

 混乱する私を置き去りにして、玉座の方から一人の青年が立ち上がった。

 整った顔立ちだった。

 けれど、その目は驚くほど冷たい。

「ようこそ。私の国へ、魔王ノリス」

 王族らしい豪奢な衣装。

 王だ。

 青年は微笑みながら続ける。

「君の力が欲しい。私はこの国を、誰も逆らえない完全な国家にしたい」

「私が魔王だって分かって言ってるの?」

「もちろんだ。美しく、力のあるそなたは妃に相応しい」

(……妃?)

 思考が止まる。

 何それ。

 状況が急すぎて理解が追いつかない。

 けれど、周囲の反応を見る限り冗談ではないらしい。

 大広間は成功の空気に満ちていた。

 そして私は、その輪の外側に立っていた。

「あ、あの……」

 小さく声を出す。

 誰も振り向かない。

 制服姿の私は、この空間にあまりにも不釣り合いだった。

 ようやく一部の魔術師がこちらを見る。

 だが、その視線に歓迎はなかった。

「……測定を」

 白髭の老魔術師が前に出る。

 水晶玉に手をかざし、私を値踏みするように見た。

 嫌な予感がした。

 理由は分からない。

 でも、空気が冷たい。

 数秒の沈黙の後、老人が口を開いた。

「聖女ヒマリ。魔力反応は確認できません」

 一拍。

「肉体能力も低い。ユニークスキルも無し」

 ざわり、と空気が変わった。

 期待が、失望に変わる音が聞こえた気がした。

 玉座の青年――ジギスムントが、静かに問う。

「……つまり?」

「現時点では役に立たないかと」

 その答えに、青年は驚くほどあっさり頷いた。

「そうか。じゃあ、いらないね」

 軽い声だった。

 あまりにも軽すぎて、一瞬意味が理解できなかった。

「……え?」

 喉がひくりと鳴る。

 聞き間違いだと思いたかった。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 気づけば声を張り上げていた。

「急に呼ばれて、まだ力が出てないだけかもしれなくて……!」

 必死だった。

 だって、何も分からない。

 知らない世界に連れてこられて、数分で価値を決められて。

 それで終わりなんて、あまりにも勝手だ。

 だが――ジギスムントは、もう私を見ていなかった。

「こちらは失敗だ。使えないならゴミだ」

 そして、退屈そうに言う。

「処理して」

 心臓が止まりそうになった。

「……え?」

 兵士たちが無言で近づいてくる。

 本能が危険を叫んでいた。

(嘘……でしょ?)

 腕を掴まれる、強い力だった。

 逃げられない。

 魔王ノリスだけが、面白そうにこちらを見ていた。

「ふふ……いいの?」

「問題ない。魔王一人で十分だ」

 二人の声が遠く聞こえる。

 私は最初から、必要なかったのだ。

 巨大な扉が開く。

 冷たい風が吹き込んだ。

 兵士が、淡々と言う。

「ここから先はゴミ捨て場だ」

 一拍。

「聖女なら浄化してみせろ」

 次の瞬間――

 背中を、強く押された。

 身体が宙に投げ出された。

 何が起きたのか理解する前に、視界が激しく回転する。

 次の瞬間、背中に凄まじい衝撃が走った。

「――っ!」

 息が詰まる。

 瓦礫の上を転がり、ようやく止まった時には、全身が悲鳴を上げていた。

 しばらく呼吸すらまともにできない。

 肺が潰れたみたいに苦しい。

 制服は泥と埃で汚れ、膝は擦り切れている。

 握ったままだったスマホは画面がひび割れ、もう電源すら入らなかった。

「……最悪」

 ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど弱かった。

 辺りを見回す。

 暗い。

 いや、暗いだけじゃない。

 鼻を突くような腐臭が漂っている。

 崩れた木材。砕けた壺。腐りかけた食料。何か分からない黒い染み。

 文字通りの――ゴミ捨て場だった。

「……本当に?」

 胸の奥が冷えていく。

 本当に、捨てられた。

 知らない世界に呼び出されて。

 力がないと言われて。

 数分で価値を決められて。

 いらないから処理。

 寒さのせいか、恐怖のせいか分からない。

 涙が滲んだ。

「私、何もしてないのに……」

 責められるようなことなんてしていない。

 ただ、突然呼ばれただけだ。

 なのに、あの王はまるで壊れた道具でも捨てるみたいに言った。

『使えないならゴミだ』

 その言葉が頭の中で何度も響く。

 怖かった。

 悔しかった。

 何より――腹が立った。

(あんな言い方……)

 何も知らない相手を。

 生きている人間を。

 あんなふうに簡単に捨てるなんて。

 胸の奥に、じわりと熱が滲んだ。

(……ジギスムント)

 あの冷たい目。

 私を見もしなかった顔。

(絶対、許さない)

 その時だった。

 闇の奥で、何かが動いた。

 ガサリ。

 嫌な音だった。

 反射的に顔を上げる。

 闇の中に、赤い光が浮かんでいた。

 一つじゃない。

 二つ。

 三つ。

 ぬるり、と何かが這う音。

 重い足音。

 低いうなり声。

 背筋が凍った。

「……なに……?」

 目が慣れてくる。

 緑色の肌、鋭い牙。

 ゲームでしか見たことのない存在。

「……魔物」

 喉が震えた。

 逃げなきゃ。

 そう思うのに足が動かない。

 腰が抜けそうだった。

 魔物たちは、ゆっくりこちらへ近づいてくる。

 餌を見る目だった。

 兵士の言葉が蘇る。

『聖女なら浄化してみせろ』

(無理……)

 そんなこと、できるはずがない。

 力なんて無いと言われた。

 役立たずだと言われた。

 なのに。

 なのに――

「……死にたくない」

 声が震える。

 それでも、はっきり思った。

 私はまだ何もしていない。

 こんな場所で終わりたくない。

 勝手に呼び出されて、勝手に捨てられて。

 それで終わりなんて、絶対に嫌だった。

「……来ないで!」

 叫んだ瞬間だった。

 手のひらが、熱くなった。

 驚くほど温かい熱。

 白く柔らかな光が、指先から溢れていた。

「……え?」

 光はまるで水面に波紋が走るように広がり

 魔物たちを包み込んだ。

 次の瞬間、異変が起きた。

 魔物が止まった。

 襲ってこない。

 それどころか――

 膝をついた。

 濁っていた瞳から、ゆっくり濁りが消えていく。

「なに……これ……」

 上手く言葉にできない。

 でも確かに。

 何か大切なものを奪ったような感覚があった。

 優しいのに、怖い。

 救ったはずなのに、違和感が残る。

 白い光が静かに消えていく。

 残された魔物たちは、もう襲ってこなかった。

 ただ、ヒマリを見上げている。

 まるで――主人を見るように。

 ヒマリは、自分の手を見つめる。

(私……何をしたの?)

 わからない。

 この力が救いか、何かを奪う力であるのか。

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闇の底で芽吹く光
 ゴブリンが突然動きを止めた。 その理由を、ヒマリはすぐに理解したわけではない。  ただ、闇の奥で何かが目を覚ました気配だけが、肌を刺した。 ガサリ。 複数の足音。  赤い光が、闇に点る。 一つ、二つ……十を超える。 腐った息。  低い唸り声。(……来ないで……) 後ずさった背中が瓦礫にぶつかり、逃げ場が消える。 闇から現れたのは、歪な影たちだった。  骨だけの骸骨。  粘液の塊。  腐臭を放つ死体のような魔物。 魔王城の最下層に巣食う、最底辺の存在。「来るなっ!」 反射的に手を突き出した瞬間――  白い光が、ふわりと指先から溢れた。 眩しくはない。  けれど、やけに温かい。 春の日差しのような光が闇に触れた瞬間、  魔物たちの動きがぴたりと止まった。 黒い靄が剥がれ落ち、  腐りかけた皮膚がゆっくりと塞がっていく。 がしゃり、と音を立ててゾンビが膝をついた。  続いて、また一体。  また一体。 気づけば、全員が地に膝をついていた。「……おお……」 低くかすれた声が闇に響く。「我らの魂に絡みついた枷が……ほどけていく……」「苦しみが……ない……」 その視線が、ゆっくりとヒマリに向けられる。 恐怖ではない。  敵意でもない。 そこにあったのは――深い安堵。「……主」 誰かがそう呼んだ。 ヒマリは息を呑む。(……え?) 自分の手を見る。  まだ淡く光っている。 胸の奥が、ひどく静かだった。「主様、力を使いすぎです」「目覚めたばかりでは?」 魔物たちの声は、どこかぎこちない。  けれど、確かに気遣いの色があった。 恐怖が引いていく。  代わりに、奇妙な確信が芽生える。 魔物たちは逆らわない。  そういう力だ、と。「……あなたたち」 声が思ったより落ち着いていた。「私の言うこと、聞くの?」 魔物たちは、一斉に頷いた。 祈りのように揃った動きだった。「主は最下層に捨てられた我らの開放者」 ヒマリは瓦礫に腰を下ろし、深呼吸をした。  腐敗臭が、もう気にならない。 制服は汚れているし、髪もぐちゃぐちゃだ。  なのに、不思議と惨めさはなかった。「……じゃあ。まず、ここから出たいんだけど」 魔物の一体が前に出る。「この先に、かつての魔王城下層がございます」
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廃城に巣食うものたち
 通路は、思っていた以上に広かった。 崩れた石壁の向こうへと続く回廊は、  かつての城の名残を感じさせる造りで、  ところどころに装飾の欠片が残っている。「ここが……魔王城……」 ヒマリは、足元を確かめながら歩いた。 湿った石床。  天井の高い空間には、かつての威厳が微かに残っている。「昔は、もっと栄えておりました」 先導するゴブリンが、静かに言った。「魔王クルス様が在りし頃は、  この城一帯が闇の都と呼ばれておりました」「……今は?」「主を失い、統制を失い  ……強き魔物が弱き者を喰らう場所になりました」 淡々とした口調だった。 だが、その奥には、わずかな苦さが滲んでいる。(つまり、あなた達は弱者なわけね) ヒマリは、歩きながら周囲を見渡した。 崩れた扉の奥。(この魔物も私と同じ、追われてゴミ捨て場で身を震わせていた) どこかから、視線を感じる。  怯えと、警戒と、渇望が入り混じった気配。「……見てるなら、出てきて」 自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。 沈黙のあと、壁の陰から痩せた影が現れる。 小柄な魔物。  半透明のゴースト。  ぼろ切れを纏った影のような存在。 どれも、戦力とは言いがたい。 彼らは一定の距離を保ったまま、  怯えた目でヒマリを見つめていた。「……逃げないの?」 ヒマリが尋ねる。 魔物たちは顔を見合わせ、やがて一体が震える声で答えた。「逃げても……食われるだけです」「強い者に、奪われて……」「ここは、そういう場所です」 言葉は拙いが、意味は痛いほど伝わる。 ヒマリは、胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。(やっぱり……同じだ) さっきまでの自分を見ているようだ。 強い側に選ばれなければ、切り捨てられる。 役に立たなければ、存在を許されない。「……なら」 ヒマリは、一歩前に出た。「私のところに来なよ」 魔物たちが、息を呑む。「ここでは、奪われない」 小さな魔物達は沈黙したまま動かない。 これ以上ひどい目に合わないか恐れているのだ。 だが―― 一匹の小さな影が、恐る恐る前に出た。 半透明のゴーストだった。  ぷるり、と震えながら、ヒマリの足元に近づく。 その瞬間。 淡い光が、自然と溢れ出す。 ゴーストの体が、穏やかに輝いた。 濁
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忘却の玉座と、甘い毒の囁き
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緊急作戦会議 ― 闇の女王への対策
 中層の回廊は、張りつめた空気に満ちていた。 ノリスの出現は、完全に想定外だった。  その存在感だけで、浄化された魔物たちは震え、  膝を折りかけている。 ――古い支配の残滓。 欲望構造の奥深くに根を張った恐怖が、  まだ消えきっていない証拠だった。 ヒマリは密かに浄化の光を魔王に送ったが  光は届く前にかき消された。(全然ダメだ) ヒマリは歯を食いしばり、フェルマーに視線を送る。 フェルマーは即座に察し、結界石を操作した。  淡い光が広がり、小規模な遮断結界が展開される。「撤退よ! 全員、下層へ!」 ヒマリの号令と同時に、魔物たちが一斉に後退を始めた。 ノリスは腕に膨大な魔力を込めると  力任せに結界を殴りつけた。 ドガァァン。 結界こそ破れなかったものの振動で  壁面一帯にヒビが入り、魔術師の足元が崩れた。「ゴリラ女め、何でも力で解決できると思うな!」  ヒマリ逃げたことを確認し、フェルマーは悪態を付く。「誰がゴリラよ。ジギスムントに怒られないよう  これでも手加減してるんだから」 ノリスはフェルマーの引き攣った顔を見て  くすくすと楽しげに笑った。「逃げるの? いいわよ、聖女。  また遊びに来てあげる」 黒い霧が彼女の身体を包み、  次の瞬間には上層へと溶けるように消えていた。 ◆ 最下層――仮作戦室。 扉が閉ざされ、結界が幾重にも張られる。  魔物たちは警戒態勢のまま配置につき、  フェルマーはすぐに記録水晶を展開した。 空中に、ノリスの魔力残滓データが浮かび上がる。 ヒマリは椅子に座るなり、テーブルに突っ伏した。「……最悪。あの人、強すぎる」 しばらくして顔を上げ、ぽつりと続ける。「私の浄化、まったく効く気配なかった」 フェルマーは水晶から目を離さず、淡々と言った。「当然だ。ノリスは魔王だ。  欲望構造が複雑すぎる」 投影されたデータが変化する。  絡み合ったグラフが、異様な密度で重なっていた。「支配欲、快楽欲、承認欲、退屈回避。  すべてが高水準で混在している。  君の光で上書きするには、完全解析が必要だ」 ヒマリは顔をしかめる。「……今の私じゃ無理、ってこと?」「その通りだ」 即答だった。「今の段階で無理に触れれば
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