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フランス語が分かる私は、夫の浮気に気づいた

フランス語が分かる私は、夫の浮気に気づいた

By:  ピンクちゃんCompleted
Language: Japanese
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夫の霧島景一(きりしま けいいち)のそばには、常にフランス語通訳の女性・水野玲奈(みずの れいな)が付き添っている。 酷い時には、出張の際、二人が同じホテルの同じ部屋に泊まることすらあった。 妻である私・霧島静香(きりしま しずか)は、当然その関係が気になって仕方がなかった。 だが景一は、面倒そうに言い訳をした。 「水野の仕事は、常に俺のそばにいることなんだ。何を勝手に疑ってるんだ? 君が疑いすぎなんだよ。だから何でも怪しく見えるんだ」 自分でも、考えすぎなのかもしれないと思った。 けれどある日、玲奈が私の目の前で、フランス語で景一にこう言った。 「ねえ、今夜もあのおばさんに付き合うつもり?」 景一は、軽く笑って答えた。 「まさか、そんなわけないだろ。適当に言い訳を作って、今夜は君と過ごすよ」 そのとき二人は、私がフランス語を理解できないと思い込んでいた。

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Chapter 1

第1話

夫の霧島景一(きりしま けいいち)のそばには、常にフランス語通訳の女性・水野玲奈(みずの れいな)が付き添っている。

酷い時には、出張の際、二人が同じホテルの同じ部屋に泊まることすらあった。

妻である私・霧島静香(きりしま しずか)は、当然その関係が気になって仕方がなかった。

だが景一は、面倒そうに言い訳をした。

「水野の仕事は、常に俺のそばにいることなんだ。何を勝手に疑ってるんだ?

君が疑いすぎなんだよ。だから何でも怪しく見えるんだ」

自分でも、考えすぎなのかもしれないと思った。

けれどある日、玲奈が私の目の前で、フランス語で景一にこう言った。

「ねえ、今夜もあのおばさんに付き合うつもり?」

景一は、軽く笑って答えた。

「まさか、そんなわけないだろ。適当に言い訳を作って、今夜は君と過ごすよ」

そのとき二人は、私がフランス語を理解できないと思い込んでいた。

……

私がリビングを通りかかったとき、玲奈がふと顔を上げ、こちらを見た。

それから彼女は、甘い声で笑った。

「静香さんが淹れてくれたお茶、とっても美味しかったですよ」

景一は、隣のソファで仕事をしている。

わざわざ書斎に入らないのは、誤解されたくないからだ。

以前、私が彼とこの件について口論になったことがある。

男と女が二人きりで書斎にこもるのに、どうしてわざわざ鍵をかける必要があるのか、と。

すると景一は、ひどく不機嫌そうに言った。

「仕事してるだけだろ。

そうやって邪推して騒ぎ立てるのはやめてくれ。理不尽にも程がある」

あの件があって以来、彼が玲奈を家に連れてくるときは、ほとんどリビングで過ごすようになった。

やましいことなど何もないと、そう示したかったのだろう。

私はそれ以上、何も言わなかった。できるだけ二人の仕事の邪魔をしないようにしていた。

どうせ、私に手伝えることなんてないのだから。

「ほんと、静香さんって目障りなんだよね」

私が振り向いたすきに、玲奈が白い目でフランス語でそう吐き捨てた。

ついさっきまで、お茶がおいしいと褒めていた女が、まるで別人みたいに顔を変えた。

彼女は景一に甘えるように身を寄せると、猫なで声で言った。

「本当にリビングで仕事しなきゃダメなの?

静香さんってすごく邪魔で、何もできないじゃない」

景一は鼻で笑って、フランス語で言った。

「変なこと言うな」

「何を怖がってるの?

どうせ彼女にはフランス語なんて分からないんだから」

玲奈は露骨に見下したような顔で、わざと声を強めた。

そのころ私は花に水をやっていたのだが、その言葉を聞いて、ほんの一瞬、手が止まった。

「ねえ、今夜もあのおばさんに付き合うつもり?」

玲奈は唇を尖らせ、彼の袖をくいっと引いた。

そのとき、彼女が私をどう呼んだのかを聞いて、私は頭が真っ白になった。

おばさん?

私のこと?

私は景一と19歳のころから付き合ってきた。今年でもう、きっかり十年になった。

大学を卒業したばかりの玲奈と比べれば、確かに私は若くない。

「私ね、ちゃんと新しい勝負下着まで買ったの。それとも、そういうの嫌い?」

玲奈は彼に甘えて、甘ったるい声で言った。

景一はさっきまでの厳しい顔をふっと崩し、眉を上げて笑った。

「まさか、そんなわけないだろ。適当に言い訳を作って、今夜は君と過ごすよ」

二人はそうして、私の目の前で、フランス語を使って本音を漏らした。

私は息を詰まらせた。その拍子に手元が狂い、植木鉢を倒してしまい、土が床いっぱいに散った。

ベランダのほうで物音がしたのを聞いて、景一が慌てて駆け寄ってくる。

「静香、大丈夫か?」

私が怪我でもしたと思ったのだろう、彼は心配そうに私を見つめている。

私は首を振って、なんとか口を開いた。

「大丈夫」

「よかった。少し休んでいろ。片付けなくていい」

景一はそう言ってから、玲奈と一瞬だけ目を合わせ、また私に視線を戻した。

そして、ためらうように口を開いた。

「静香、ちょっと話があるんだけど。

本当は今日、家で君の誕生日を祝うつもりだったんだけど……急にクライアントが来ることになってさ。俺と水野、迎えに行かないといけないんだ」

そう言ってる彼の顔つきは、どこか慎重だった。

嘘がバレるのを恐れていながら、わざとらしく残念そうな口調で言った。

「静香、ごめん。急な話で……」

私は彼が言い終える前に、静かに言った。

「いいわ。行ってらっしゃい」

彼の目が、ぱっと明るくなる。

「静香、理解してくれてありがとう!

仕事が終わったら、ちゃんと埋め合わせするから」

私は返事をしなかった。

そのまま何事もなかったように、洗面所のほうへ向かった。

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秘書も別にフランス人じゃないんでしょ なのに3人でいる時に目の前でわざわざフランス語で2人だけの会話するとか意味わからんw なんのためにフランス語使ってるの?って聞かれたらなんて答えるつもりだったんだろう
2026-07-20 11:13:49
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第1話
夫の霧島景一(きりしま けいいち)のそばには、常にフランス語通訳の女性・水野玲奈(みずの れいな)が付き添っている。酷い時には、出張の際、二人が同じホテルの同じ部屋に泊まることすらあった。妻である私・霧島静香(きりしま しずか)は、当然その関係が気になって仕方がなかった。だが景一は、面倒そうに言い訳をした。「水野の仕事は、常に俺のそばにいることなんだ。何を勝手に疑ってるんだ?君が疑いすぎなんだよ。だから何でも怪しく見えるんだ」自分でも、考えすぎなのかもしれないと思った。けれどある日、玲奈が私の目の前で、フランス語で景一にこう言った。「ねえ、今夜もあのおばさんに付き合うつもり?」景一は、軽く笑って答えた。「まさか、そんなわけないだろ。適当に言い訳を作って、今夜は君と過ごすよ」そのとき二人は、私がフランス語を理解できないと思い込んでいた。……私がリビングを通りかかったとき、玲奈がふと顔を上げ、こちらを見た。それから彼女は、甘い声で笑った。「静香さんが淹れてくれたお茶、とっても美味しかったですよ」景一は、隣のソファで仕事をしている。わざわざ書斎に入らないのは、誤解されたくないからだ。以前、私が彼とこの件について口論になったことがある。男と女が二人きりで書斎にこもるのに、どうしてわざわざ鍵をかける必要があるのか、と。すると景一は、ひどく不機嫌そうに言った。「仕事してるだけだろ。そうやって邪推して騒ぎ立てるのはやめてくれ。理不尽にも程がある」あの件があって以来、彼が玲奈を家に連れてくるときは、ほとんどリビングで過ごすようになった。やましいことなど何もないと、そう示したかったのだろう。私はそれ以上、何も言わなかった。できるだけ二人の仕事の邪魔をしないようにしていた。どうせ、私に手伝えることなんてないのだから。「ほんと、静香さんって目障りなんだよね」私が振り向いたすきに、玲奈が白い目でフランス語でそう吐き捨てた。ついさっきまで、お茶がおいしいと褒めていた女が、まるで別人みたいに顔を変えた。彼女は景一に甘えるように身を寄せると、猫なで声で言った。「本当にリビングで仕事しなきゃダメなの? 静香さんってすごく邪魔で、何もできないじゃない」景一は鼻で笑って、
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第2話
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第3話
あんなに焦っている景一の姿は、一度も見たことがなかった。たとえ19歳の頃の彼ですら、私のためにそこまでしてくれたことはない。玲奈がほんの数滴の涙を流しただけで、景一は赤信号すら無視して、なりふり構わず彼女のもとへと向かっている。彼女と争うつもりなんて全くない、だって、こんな男、もう私には必要ないのだから。誰もが「霧島静香はおっとりしていて怒ることを知らない」と思っている。けれど、私の内に秘めた頑固さを知る者はいない。一度裏切られた相手を、私は絶対容赦しない。……「静香、本当に決めたの?」凛は弁護士だ。数えきれないほどの離婚と裏切りを見てきた彼女でさえ、私の前では少し言葉を選んでいた。「だって、十年の付き合いよ? 彼がどれだけあなたを大切にしていたか、私たち皆知ってるわ。もう一度だけ、話し合ったらどう?」彼女は私たちのことなら、何でも知っている。景一が私に告白したときの、あの誇らしげな横顔。プロポーズが成功したときの、飛び上がらんばかりの喜び。そして、あの盛大で、誰もが羨んだ結婚式など。みんな、よくこんなふうにからかっていた。「景一って、静香を嫁にできないなら一生独身でいる!って豪語してたのよ」「静香、あなた知らないでしょうけど、プロポーズが成功した日ね、彼は有頂天になって、道端の犬まで抱き上げてぐるぐる回ってたんだから。」「それから興奮して一晩中眠れずに、私たちまで付き合わされて、皆に結婚式の計画を手伝わせたの。あなたを世界一幸せな花嫁にするんだって言ってったね」そんな思い出がよぎり、私は自嘲気味に微笑んだ。あの日、誰がこんな未来を予想できるだろう。十年という長すぎる歳月が、確実に愛を少しずつすり減らしていった。彼は私の目の前で、隠そうともせずフランス語でこう言い放ったことさえある。「静香だって?もうとっくに飽きてるんだ」「どうせフランス語なんて分かりっこないさ。たとえ分かったところで、彼女に何ができるっていうんだ?」彼の言う通りだった。その時の私は、まだフランス語が分からなかった。けれど、そのときの彼の表情に、私はたまらない居心地の悪さを感じていた。目は少しも笑っていなかった。あれは、私を愛している人の眼差しではなかった。私は直感だけでそのフラン
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第4話
景一が静香に送ってるメッセージは、投げやりばかりだった。最近の彼女は妙におとなしく、以前のように騒ぐこともない。時には玲奈とフランス語で話していても、静香は意味が分からない様子だった。景一は、彼女のことを本気で鈍いと思っていた。19歳のあの頃に感じた、あの輝きはもうどこにもない。むしろ若くて綺麗な玲奈のほうがずっと魅力的に見える。どうしてあの頃、こんな女を好きになったのか、今となっては不思議でならなかった。とはいえ、妻として迎えた相手だから、心の奥に残っている責任感というものがあり、今更彼女を切り捨てることを許さなかった。彼女は他に頼れる人なんていないのだ。自分がいなければ、生きていくことすらできないかもしれない。幸い最近の静香は、以前のようにいちいち詮索してくることもなくなった。彼女と何度か言い合いになってから、妙に大人しくなったのだ。夜に帰らなくても、何も言わない。先日も出張という名目で、実際は玲奈と旅行に出かけていた。一週間ろくに連絡を取らなくても、不満の一つも漏らさなかった。こういう静香は、悪くない。だから、ご褒美に何か買ってやろうと思った。ダイヤモンドの指輪を目にした瞬間、玲奈の目が輝いた。「ありがとう、景一!ずっとこの指輪が欲しかったんだわ!」だが景一は、それを彼女には渡さなかった。「これは君にやるんじゃない」玲奈の顔がみるみる曇った。唇を尖らせて言う。「でもこれ、一点物でしょ?真実の愛っていう証だよ?私にくれないの?愛してないの?」景一はふっと笑い、少し芝居がかった優しさで言った。「バカだな。真実の愛の証なんだから、当然君には渡せないだろう」玲奈の口元から笑みがすっと消えた。「これは妻に渡すためのものだ。最近はずいぶん素直になってくれたからな、ちゃんと褒美をやらないと」静香のことが出るたびに、彼女はいつも不機嫌になる。今回は家に連れて帰ることすらしなかった。玲奈は腹が立っても、何も言わなかった。ただの指輪ひとつだ。どうせ、あの鈍い女を機嫌よくさせるだけだ。自分が夜中に電話をかけて、少し泣いて見せれば、景一はすぐに自分のもとへ戻ってくる。彼女はそう思っていた。だが景一が玄関を開けた瞬間、室内のひんやりとした空気と静かさに足が止まった
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第5話
幼い頃から父があまりにもおばさんの息子、深瀬澄(ふかせ とおる)ばかりを依怙贔屓してた、そのせいで、おばさんは自分のことなんて好きじゃないのだと思い込んでいた。だから父が亡くなってから、邪魔にならないよう自分からこの家を出た。結局、またここに戻ってきた。景一からの電話は何度もかかってきた。前のスマホが鳴りっぱなしでも、私の気持ちはなんとも揺れなかった。澄はしばらく私を見つめていたが、迷った末に、ようやく口を開いた。「……霧島景一か?」「離婚するつもりだわ」澄は一瞬、言葉を失ったようだった。それからそっと、話題を変えた。半月ほどして、景一が私の居場所を突き止めてやってきた。私の姿を見た瞬間、彼の瞳がぱっと明るくなった。「静香、ここにいたのか」澄が、私をかばうように前へ出た。「彼女はもうお前と関係ない。さっさと消えろ」景一は冷たく鼻で笑った。「お前、何様のつもりだ?俺と静香のことに首を突っ込むな」なぜ景一と澄が顔を合わせると、こんなにも剣呑な空気になるのか、私には分からなかった。ただ、もう景一とこれ以上関わりたくなかった。「離婚協議書、もうサインした?」景一は歩み寄ってきて、私の手首を強くつかんだ。「サインなんてしない。離婚なんてするわけないだろう?きっと何か誤解してるんだ。だからちゃんと話を聞いてくれないか?」私は、冷たく笑った。「誤解?あなたってまだ、私はフランス語が分からないと思ってる?そうね、あなたの考えでは、私は一生気づかないはずだったんでしょう。だったらいっそ、私が何も知らなかったことにすれば良かったじゃない。そうすれば離婚して、水野をちゃんと入籍させることができるのに」景一はまだ言い訳を続けてる。「静香、違うんだ。俺と水野は君の思っているような関係じゃない……」澄はもう聞いていられなかった、景一を突き飛ばし、そのまま拳を叩き込んだ。「静香がどうしてお前みたいな奴と結婚したんだ!」景一も引かなかった。歯を食いしばりながら言い返した。「深瀬、お前は昔から変わってないな。あの頃に消しておけばよかった!」彼は理性を失い、そのまま澄の顔へ拳を叩きつけた。景一は勝ち誇ったように立ち上がり、口元の血を拭ってから、また私のほうへ歩み寄
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第6話
私は父の遺品を抱えて、長らく泣き崩れていた。その間に澄はずっとそばにいてくれた。もうずいぶん昔のことだから、その夜どうやって眠りについたのかはもう覚えていない。ただ、目を覚ますと、澄の姿はもういなかった。代わりにそこにいたのは景一だった。彼は眉をひそめ、まだ怒りが収まらないといった顔をしていた。それでも彼は何も言わず、ただ「しっかり休め」と私に言った。その夜のことを、私はそれ以上深く考えなかった。澄ともそれ以来連絡を取っていない。父が亡くなった時点で、私たちの家族としての関係も終わったと思っていたからだ。けれど今にして振り返れば、あの夜、何かがあったのかもしれない。だからこそ、景一はいまだにあの夜に起こったことを忘れられないのだろう。「静香、ああいう男とは距離を置け。でなければ、あいつが何をするか分からない」景一は私の手を取ろうとしたが、私はそれを振り払った。「澄がどういう人かは、私が一番よく知ってる」私は深く息を吸い、ゆっくりと彼を見据えた。「霧島景一、あなたが昔、水野と話していたこと、私は全部聞き取ったわ」彼は一歩後ずさり、目に明らかな動揺が浮かんだ。玲奈に話した言葉がどれほど見苦しかったか、かつて誓ったはずの言葉が、今となってはどれほど白々しいのか、彼自身が一番分かっているはずだ。今さら言い訳をしても、もう遅い。私は澄を連れて病院で手当てを受けさせた。薬を塗っていると、彼が小さい声で言った。「……ごめん。霧島景一が言っていたことは、全部本当だ」私は随分沈黙してから、やがて澄の目を見つめて静かに言った。「あなたはこれからも私の兄さんだよ」それからの三十分間、私たちはそれ以上、何も話さなかった。一方、景一はそれでも離婚には同意しなかった。「法律上でまだ君は俺の妻なんだ。だから俺たちは離れられない」それさえあれば、まだやり直せると彼は本気で信じていた。私はすでに離婚裁判の準備を進めていた。時間ならいくらでもある。景一と長く争う覚悟はできていた。凛はため息をついた、まさか渡した彼はここまでこじれるとは思っていなかったのだろう。私たちはかつて、あれほど愛し合っていた。それなのに彼は、出来心で浮気をした。今更になって、私の前で平然と言い放ってる。
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第7話
「もう、あなたを愛してない」と私は静かに言った。景一は信じられないという顔で、私の肩をつかんだ。「そんなはずない!静香、意地になってるだけだろ。君が本気で俺を手放せるわけがない!」私はその手を振りほどいた。これ以上、彼と関わるつもりはない。この馬鹿げた離婚訴訟さえ終われば、もう二度と顔を合わせることもないでしょう。そんなことを考えながら歩き出した瞬間、何の前触れもなく、目の前が暗くなった。「静香!静香、どうした!」目が覚めると、病院のベッドの上だった。景一は嬉しそうに私を見つめていた。「静香、これはきっと運命なんだ」意味が分からないまま、私は呆然と彼を見返した。景一は私の手を握り、優しく言った。「離婚なんてしないさ。だって君は、俺たちの子供を身ごもってるんだから」その言葉を聞いた瞬間、全身が凍りついたようになって、指一本動かせなかった。ここ二ヶ月食欲がなかった、離婚のことで心身ともに疲れ切って、体調が悪いせいかと思っていた。まさか、妊娠しているなんて、考えもしなかった。「静香、もう喧嘩はやめよう。子供ができた以上、これまでのことは水に流して、俺が君と子供をちゃんと守っていくから」頭の中が真っ白になり、考えがまとまらなかった。タイミングが悪すぎる。私たちの関わりは、ここで終わるはずだったのに。どうして私にこんな意地悪な運命を突きつけるの?お腹の中のこの子は、この世に生まれたがっているかのようだ。体の中で分泌されるホルモンのせいなのか、心まで少しずつ揺らいでいく。脳裏に「この子を産もうか」という思いがよぎってしまう。だめだ、絶対にだめ。この子は、こんな時に生まれてきちゃいけない。心の中で、迷いが始まった。澄が迎えに来たとき、景一に病室の前で止められた。「霧島、どういうつもりだ。なんで静香を帰さない!彼女は今妊娠中なんだ。家族として、俺にはちゃんと面倒を見る責任がある」澄は遠くから私を見つめ、返事を待っていた。「澄、先に帰ってて。私のことは、自分でなんとかするから」私がそう言うと、景一の目元がふっと緩んだ。「静香、きっと分かってくれると思ってたよ」彼の顔に喜びが広がり、目まで嬉しそうだった。私はただ、自分の手を引っ込めて、それ
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第8話
玲奈は私よりも景一のことを理解している。そして私が何を一番大切にしているのかも知っている。だからこそ、私はこんなことを許すわけにはいかない。まして、この子をこんな家庭で育てるつもりもなかった。玲奈からのメッセージが、その決意をさらに固めた。景一は、私の表情がどこかおかしいことに気づいたらしい。「静香、何を考えてるんだ?」と彼が聞いてきた。何を考えてるって?玲奈の望みどおりにしてあげようと思っただけよ。もう、迷いはなかったから。……景一が気づき、病院に駆けつけたときには、私はすでにあの子を堕ろしていた。彼は目を赤くして、私に詰め寄った。「なんでだ!なんでなんだ!静香、なんて残酷なことを……!もう一度やり直そうって約束しただろう。なんで俺を騙したんだ!」その言葉を聞いて、思わず笑いがこみ上げた。まるでブーメランとなって彼自身に突き刺さっているようになったね。私も19歳のとき、彼が永遠に私を愛してくれると信じていた。結局永遠というのは、たった十年のことだったらしい。彼の誓いも約束も、告白したあの夜の波にさらわれて、とうの昔に海の底へ沈んでいたのだ。今彼はただ、裏切った誓いが自分のところへ返ってきただけだった。私は静かに言った。「景一、あなたはどう思う?あなたの嘘は、私が思っていたよりずっと上手だった。私なんて流石にかなうはずないね。水野があなたのことを全部話してくれたわ、本当に感謝してるよ。おかげで、決心がついたんだから」水野という名前を聞いた瞬間、景一の目に驚きの色がよぎった。「水野が?あいつ、よくもそんな真似を……君に何を言ったんだ?」その顔を見れば、すべてが分かった。景一は、玲奈と完全に手を切ってなどいなかったのだ。私の見えないところで、あの誓いをまた玲奈に囁いていたのかもしれない。幸いなことに、もう彼にこれっぽっちの期待も抱いていなかった。「静香、あれは水野が適当に言っただけだ。俺は何も言ってない!誓うから、これからは絶対に会わない。あいつを俺たちの前から完全に消してみせる!」私は表情ひとつ変えずに言った。「あなたたちのことは、私には関係ない」これ以上、彼の言葉を聞くつもりはなかった。この先も何かが関わることがあるなん
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第9話
澄は昔から、景一にいい顔をしたことがなかった。殴るときも、手加減など一切しなかった。それでも景一は、離婚協議書にサインしようとしなかった。とうとう玲奈が我慢の限界を超え、彼に報復した。彼女は二人の私的な関係をすべて公にし、ネット上で大きな騒動を引き起こしたのだ。景一自身も、会社も、一気に世間の批判の的になった。ここに至ってようやく、景一は私と離婚届を提出した。「静香、身の回りのことを片付けたら、必ず迎えに来るから、待っていてくれ……」私は一瞥もせず、澄の車に乗り込んだ。バックミラーの中に、景一の苦しげな眼差しと、崩れ落ちそうな表情が映った。けれど、少しの痛みも感じなかった。彼を愛さなくなったら、こんなにも心が軽くなるものなのか。「彼とのことは片付いたことだし、俺と一緒に海市で生活しないか?俺の会社、あそこで上場するんだ」私は笑って答えた。「いいよ」澄の眼差しの奥に、何か別の感情が見え隠れしていた。だが彼はそれを口にせず、ただ優しく私を見つめて言った。「静香、俺たちはずっと家族だ」分かっているよ。彼の視線の奥に潜んで、言葉にならない想いも分かってる。この町を離れたあとに、別の答えが見えてくるのかもしれない。でも、それはまだ遠い先の話だった。……景一がまた現れた。あれは引っ越しの準備を進めていたときのことだった。以前より顔がやつれ、目には光が見えなくなった。玲奈が暴露したスキャンダルのせいで、彼の会社の評判は一気に落ちたらしい。そしてこれまで築き上げてきたイメージは、一夜にして崩れ去った。どの取引先も彼との関わりを恐れて離れていったらしい。彼は玲奈を歯ぎしりするほど憎んで、心身ともに追い込まれているようだった。それでも私が引っ越すと知ると、無我夢中でここまで駆けつけてきたのだった。「静香、話がしたいんだ」澄は察して車に乗り、私たちに距離を置いてくれた。けれど、彼が近づいてくるのを見て、私は思わず一歩下がった。「静香、俺たちの間って、もうそんなに余所余所しくなったのか」私は答えず、ただ黙っていた。景一の目には苦しさと動揺が見えてる。「実は、後悔してることがあるんだ」私は、てっきり彼が世論に押されて離婚したことを後悔していると
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第10話
「水野に君の地位を脅かす資格などない。彼女はそんな度胸もないし、これから先も二度とそんな真似はしない」景一は歩み寄って私の手を握った。その口ぶりはやけに誠実そうだった。まるで、これがごく当たり前のことだと言わんばかりに。私は彼を見つめたが、十年前の面影はもうどこにも見つからなかった。彼の愛は、こうして腐り果てていったのか。「霧島景一、そんなのもうどうでもよくなったわ」私は手を引き抜き、足早に車へ乗り込んだ。景一は慌てて追いかけてきた。でも車はすぐに走り出し、彼はただ後ろから、私の名前を呼び続けるしかなかった。私は振り返らず、心が動くことさえもなかった。本当の別れには、涙なんて必要ないのだと、そのとき初めて知った。私は景一との縁を完全に断ち切った。電話番号もスマホも新しくして、新しい家に引っ越した。新しく始めた仕事が、私に新しい生き方を見せてくれた。毎日が楽しかった。景一という人のこともあの十年間のすべても、少しずつ忘れていった。澄はいつの間にか、私の日常のすべてになっていた。何をするときも、彼はいつも隣にいた。ある夏のごく普通の夜に、彼は私に告白してくれた。彼の手から花を受け取ったとき、周りから歓声が上がった。ふと、目の前の景色が19歳のあの夏と重なったような錯覚に陥った。でも、私が今、飛び込もうとしているのは、あの頃とは違う懐だ。景一とは、もう二度と会うことはない。――霧島景一の視点――静香が離れてから、俺は何もかもがどうでもよくなった。あんなに大人しくて優しかった彼女が、どうして玲奈一人のことで、俺との離婚まで決めたのか、俺にはまったく分からなかった。玲奈なんかに、彼女の居場所を脅かせるはずがない。彼女は、これからもずっと俺の妻のはずだった。19歳のあの日に誓った言葉のとおり、俺の気持ちは一生変わらないはずだった。でも彼女は、俺を信じなかった。彼女を失うと分かっていたなら、もっと用心すべきだった。静香は、俺が思っていたよりずっと冷静で、ずっと冷たかった。子供さえできれば、彼女を引き留められると思っていたのに。まさか、玲奈のひと言だけで、あの子を堕ろすとは思わなかった。どうして、こんなことになったんだろう?あんなに素直で俺の言うことに
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