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第3話

Author: 匿名
「颯真、さっきは少し言い方がきつかったって、私もわかってる。でも、全部私たちのためなの。それに昨日のことだって、あんなふうに冷たく断ったのは私が悪かった。でも、蓮の今の状態は、あなたも知っているでしょう?

彼は刺激に弱いの。そばにいてあげられるのは、私しかいない。あなたも、結婚してからも私がずっと他の人のことを気にかけているなんて嫌でしょう?

蓮がよくなって、私も安心できたら、そのときはちゃんとあなたと向き合えるから。

だから、もう怒らないで。お願い」

彼女は俺の手をつかみ、いかにも俺のためを思っているかのような言葉を、ぎこちなく並べた。

俺には、ただ馬鹿げているようにしか思えなかった。

人前で何度も俺を拒絶するのも俺のため。俺を置き去りにして、他の男のもとへ行くのも俺のため。

そんなもっともらしい言い訳を、彼女はこれまで何度も口にしてきた。俺はもう聞く気にもなれず、彼女の手を力任せに振り払った。

「わかった。仕事に行く」

莉央は俺に手を振り払われてよろめき、顔にあからさまな怒りを浮かべた。

けれど、俺の冷えきった視線を受けた途端、その怒りはすぐに消えた。

俺がこんなに冷たく彼女に接したことは、一度もなかった。莉央は少し不安になったのか、結局、俺が出ていくのを黙って見送るしかなかった。

会社は家からかなり遠く、通勤には二時間かかる。

当時の俺は、莉央の職場に少しでも近い場所を選ぶためなら、自分が苦労することなど何とも思わなかった。

けれど今になって思えば、近くにいたからといって、幸せになれるわけではなかったのだ。

思い立ったらすぐ行動した。俺はすぐに不動産会社へ連絡し、会社に近い物件をいくつも探して、家賃や条件の相談を進めた。

会社の人たちは、俺がこんなに早く出社したことに少し戸惑っていた。

以前の俺は、莉央の世話をして朝食を作るため、いつも始業ぎりぎりに出社していた。遅刻することさえあった。

そのせいで、俺は仕事ぶりを認められていながらも、上層部から昇進の機会を与えてもらえずにいた。

直属の上司にも、そのことで何度も話をされた。

「まずは仕事で足場を固めてから、家庭のことを考えろ。瀬尾くん、お前は今まさに伸びるかどうかの大事な時期なんだ。目先のことにとらわれて、大事なものを失うな」

その言葉が、ずっと頭から離れなかった。

特に、同期がすでに昇進しているのを見たときは、自分だけが取り残されたようで、たまらなく苦しかった。

でも、もう大丈夫だ。

俺はもう遅刻しない。

上司は俺の肩を叩いた。

「吹っ切れたなら何よりだ。瀬尾くん、お前がもっと早くその姿勢を見せていれば、重要な案件はとっくに任せていたよ」

俺は考え込むように頷き、書類の中から、会社が次に獲得を狙っている案件の資料を取り出した。

「課長、俺がここ何年も足踏みしていたことはご存じですよね。もしチャンスをいただけるなら、今回の案件を俺に任せてもらえませんか」

上司はかなり驚いた様子だった。

この案件は複数の都市に出向き、先方と調整する必要がある。莉央から離れられないはずの俺が、自分から希望するとは思っていなかったのだろう。

けれど俺の意思は固かった。

上司は午前中いっぱい検討した末、最終的にその案件を俺に任せてくれた。

「瀬尾くん、期待を裏切るなよ」

俺は力強く頷き、そのまま全身全霊で仕事に打ち込んだ。丸一日、スマホを見ることもなかった。

本来なら、莉央は喜ぶはずだった。

彼女はいつも、俺が日々の出来事や、うまくできた料理の写真を送るたびに、面倒くさそうにしていたからだ。

けれど退勤する頃、スマホには大量のメッセージが届いていた。

莉央が送ってきた景色の写真、今日あった出来事、そして食事への誘いだった。

【サンセットテラスへ食事に行かない?ついでに夕日も見られるし。あなた、ずっと行きたがっていたでしょう?好きなものを頼んでいいわ。私からのお詫びだと思って】

意外だった。

その店ができてから三年。俺は三年間、行きたいと言い続けてきた。けれど莉央は、いつも聞こえないふりをしていた。

それが今では、俺への埋め合わせに使われている。

俺はしばらく考えたあと、彼女が会社の前にいるというメッセージを眺めながら、ゆっくりと階下へ向かった。

莉央が俺を迎えに来ることは、ほとんどなかった。

車は俺が買ったものだった。けれど、その車を自由に使っていたのは、俺ではなかった。

だから俺は当然のように助手席を通り過ぎ、後部座席へ向かった。すると、彼女は慌てて俺を引き止めた。

「二人なのに、どうして後ろに座るの?」

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