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第6話

Author: 莉里
会場の外には、大きな噴水があった。周囲では梅の花がちょうど見頃を迎え、咲き誇る花々が冬の夜を鮮やかに彩っている。

枝いっぱいに咲く梅を眺めていると、重く沈んでいた千春の心も、ほんの少しだけ軽くなった。

歩き疲れ、近くのベンチで休もうとしたその時だった。

顔を上げると、美夏がこちらへ歩いてくるのが見えた。

透真が千春のために用意した盛大なサプライズが、よほど堪えたのだろう。美夏はついに取り繕うことをやめ、隠していた本性をむき出しにした。

「千春さん、この前の電話で透真さんが何を言ってたか、ちゃんと聞こえたでしょう?どうして彼を問い詰めないの?どうしてまだ彼のそばにいるの?

今日のサプライズは確かにすごかった。でも、あれは全部、透真さんに罪悪感があったから。

本当にあなたを愛してるなら、最初から私なんて眼中に入らないはずでしょ?」

美夏は挑発するように笑った。

「いいことを教えてあげるよ。私、もう透真さんと何千回も寝たの。

言ってる意味、わかる?あなたが知らないところで、あの人はずっと私を抱いてきたってことだよ。

あなたは、ただ私より少し早く透真さんに出会っただけ。いい気にならないでね。透真さんの体も心も、結局は私のものだって、いつか必ず証明してみせるから」

千春は美夏の話を最後まで聞いていたが、表情ひとつ変えず、そのまま立ち去ろうとする。

その態度が、美夏には何より癪だったのだろう。彼女は勢いよく千春の腕をつかむ。

「待って!千春さん、一つ賭けをしない?透真さんがいったいどっちを大切にしてるのか、確かめてみようよ」

言い終えるや否や、美夏は千春の腕を引っ張り、彼女を噴水池に突き落とすと、自分も中へ飛び込んだ。

真冬の水は、氷点下寸前の冷たさだった。

豪華なドレスは水を吸った瞬間、鉛を詰め込まれたように重くなり、千春の体を容赦なく水底へ引きずり込んでいく。

必死にもがいても、沈もうとする力には抗えない。

寒さで体は震え、手足から少しずつ力が奪われていった。

意識が遠のき始めた、その時――

騒ぎを聞きつけた透真が、慌てて駆けつけた。

水中でもがく二人の姿を見た瞬間、彼の顔色が変わる。次の瞬間には、ためらうことなく池へ飛び込んでいた。

美夏もすでに冷え切り、泳ぐ力を失っていた。透真が自分へ向かってくると思い込み、涙声で叫ぶ。

「透真さん……!」

しかし、透真は振り返りもしなかった。

彼の口から繰り返し叫ばれるのは、ただ千春の名前だけ。

「千春!」

必死に水をかき分け、より遠くにいる千春のもとへ泳いでいく。

ようやく彼女を抱き上げると、冷え切った体を強く胸へ抱きしめた。

「千春……!目を開けてくれ……頼むから……!」

透真の顔は恐怖に染まり、目も充血している。

千春を呼びかける声もだんだんと震え出す。

やがて駆けつけたスタッフが乾いたタオルを持ってくると、透真は彼女の髪や頬の水滴を拭いながら、大声で叫んだ。

「救急車を!早く!」

水に長く浸かっていた千春の肌は、紫色を帯びるほど冷え切っていた。意識はもうほとんど残っていない。

気を失う直前、彼女の視界に映ったのは警備員に救助された美夏の姿だった。

青ざめた顔に涙を浮かべ、悔しさと信じられないという表情で立ち尽くすその姿は、どこか滑稽に見えた。

……

千春が目を覚ますと、そこは病室だった。

目を覚ました彼女を見つけた看護師は、体温を測りながら安心したように話しかける。

「伊賀崎さん、ようやくお目覚めですね。あと数時間眠ったままだったら、ご主人、本当に街中のお医者さんを全員呼び寄せる勢いでしたよ」

「そうなんです。私たちは疲労が重なっただけだと何度も説明したんですが、ご主人はどうしても納得されなくて。全身を徹底的に検査してほしいって譲らなかったんです」

千春は、その言葉を聞いても何も感じなかった。

まだ力の入らない体を支えながら、ゆっくりと上体を起こそうとする。

そのとき、病室へ戻ってきた透真が、彼女の目覚めに心底安堵したような表情を浮かべた。

「千春!」

駆け寄るなり彼女を強く抱き締め、顔を首筋へ埋める。

その声は、震えていた。

「やっと目を覚ましてくれた……すごく心配してたよ。君が目を覚まさなかったら、俺も後を追おうって思ってた」

千春の体が一瞬だけ強張る。それでも何も言わず、ただ黙って抱き締められていた。

その静寂を破ったのは、透真のスマホの着信音だった。

彼は名残惜しそうに腕をほどき、画面を見た瞬間、わずかに表情を曇らせる。

数秒ためらったあと、千春の額へそっと口づけを落とした。「千春、少し休んでいて。仕事を片づけたらすぐ戻るよ」

「……うん」

彼女が小さくうなずくと、透真は急ぐように病室を出ていった。

千春は静かにベッドを降り、気づかれないよう後を追う。

透真が向かったのは6階だった。階段脇の病室へ入っていく姿を見届け、千春は閉め切られていない仕切りカーテンの隙間から中をのぞく。

そこには、美夏がいた。

床にコップや果物などが散乱している。

透真は部屋へ入るなり、美夏を抱き寄せた。その口調には、わずかな苛立ちが混じっている。

「何度も連絡して来るな。前も言っただろ?お前はただの遊び相手、俺が愛してるのは千春だけだって。千春が危険な目に遭ったなら、助けるのは当たり前だろ」

美夏は涙を浮かべたまま叫ぶ。

「愛してないなら、どうして何度も私を抱くの?愛してないなら、どうして私が電話しただけで、慌てて飛んできてくれたの?

透真さんなんて大嫌い!私のことがどうでもいいなら、私だってもうあなたが好きじゃない、今すぐ新しい彼氏を作ってくる!」

その言葉に、透真の顔色が一変した。険しい表情で彼女の腕をつかむ。「そんなの許さない!」

美夏は何も返さない。ただ涙をぬぐいながら、いっそう激しく泣きじゃくる。

その姿を見つめた透真は、深くため息をつくと、とうとう観念したように彼女を抱き寄せた。

「……もう泣くな。今回は俺が悪かった。お願いがあるなら何でも聞く。だから機嫌を直してくれ」

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