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第2話

Auteur: 涼音
「綾音、君にはがっかりだ」

慎司はドアの前に立ち塞がり、逆光の中で私を断罪する神のように見下ろしていた。

「芸術における謙虚さが、才能よりも重要だと理解できるまで、そこから出ることは許さん」

私は彼を見つめ返したが、その姿は見知らぬ他人のように思えた。

この録音室は、かつて私が最も愛した場所だった。

ここで幾千もの旋律を紡ぎ出し、そのすべてが夢へと続く階段だと、そう信じていた。

だが今、ここは私の牢獄と化した。

紗耶香はといえば、頻繁に顔を出した。

機材チェックの手伝いにかこつけて、私の目の前を行ったり来たりする。その目に宿る得意満面な色と憐れみは、籠の中の鳥を見下ろすそれだった。

楠本紀彦(くすもと のりひこ)。私の同門の先輩であり、「ピアノの王子様」と称されるかつて優しかった男も、一度だけ私を見に来た。

彼はため息をつき、私を諭すように言った。

「綾音、先生の言うことを聞くんだ。君の才能は強すぎる。それは長所でもあり、短所でもある。時にはその鋭さを隠すことが、長く生き残るための処世術なんだよ」

そう言いながら、彼は私の机に散らばる楽譜へと、さりげなく視線を走らせていた。

その時の私はまだ愚かでも、彼らが本心から私を案じているのだと信じていた。

ある日、国際的な新人ピアノコンクールの受賞者リストを目にするまでは。

【受賞作品:『夜鶯の哀歌』】

【受賞者:若山紗耶香】

『夜鶯の哀歌』……それは私が三百日もの間、寝食を忘れて魂を削り出し、世界最高峰のコンクールへ挑むために書き上げた、渾身の一曲だ。

手書きの原稿は、まだ鍵のかかった私の引き出しの奥にしまってあるはずなのに。

ニュース映像の中、受賞スピーチを行う紗耶香は満面の笑みを浮かべていた。

「寺岡先生の熱心なご指導に感謝します。そして、創作に行き詰まっていた私に、かけがえのないインスピレーションを与えてくれた楠本先輩にも……」

彼女は全員に感謝を述べたが、私の存在だけはきれいに消し去られていた。

毒を塗った氷の刃が、心臓に深く突き刺さるようだった。

私は半狂乱で慎司のオフィスへ走った。ドアは少しだけ開いていた。

中から、紗耶香の勝ち誇った笑い声が漏れてくる。

「ねえ先生、見てくださいよ。やっぱり綾音ってば、本当におめでたい人。彼女の曲なんて、私が音符をちょっと変えるだけで、私のものになっちゃうんですもの。

あの子、まだ先生が守ってくれてるって、本気で信じてるんですよ」

私の足は、床に釘付けになったように動かなくなった。

そして、慎司の声が聞こえた。これまでの人生で聞いた中で最も残酷で、そして最も冷徹な声だった。

「確かに彼女には才能がある。だが、才能そのものは珍しくない。稀有なのは、君のようにあらゆるものを利用して目的を達成する強かさだ。

綾音は……純粋すぎる。魂の抜けた、ただ性能が良いだけの楽器だ。あれは、操る術を知る者に奉仕させるのが一番の使い道だ」

紗耶香が媚びるように笑う。

「じゃあ、先生がそもそも綾音と結婚したのも、彼女をより良く操るためだったんですか?」

私は拳を握りしめ、爪が肉に食い込むのを感じた。

そして、生涯で最も絶望的な一言を耳にした。

慎司は鼻で笑った。その響きには、すべてを掌握する者の愉悦が含まれていた。

「他に理由があるか?野心的な天才学生と、法的に私に縛り付けられた世間知らずの妻。どちらがコントロールしやすいと思う?

彼女のすべての作品は、結婚したあの日から、著作権は自動的に私の管理下に入るようになっている。婚姻届と一緒に、中身も読まずに『著作権管理契約書』にサインしてくれたおかげだよ。これを『資源の有効活用』と言うんだよ」

ガラガラと音を立てて――

足元から世界が崩れ落ちていくのを感じた。

師への信頼、夫への愛、音楽への理想、そして私が信じてきた未来……

そのすべてが、一瞬にして塵となって消え失せた。

そうか、私は彼の学生でも、妻でもなかった。

ただ、慎司が紗耶香のために用意した、生きた「素材バンク」に過ぎなかった。

数年にも及ぶ、愛の名を借りた、最も巧妙な略奪。

涙が込み上げてきたが、私はそれを無理やり飲み込んだ。

口を押さえ、声を殺し、一歩、また一歩と、私を幽閉していた録音室へと後ずさりした。

地獄から地獄へ。隔てていたのはたった一枚の扉と、一度の会話だけだった。

私はパソコンを開き、狂ったように検索を始めた。

「知的財産法」、「離婚財産分与」、「海外法人設立」……

涙など、何の役にも立たない。

今日、かつての綾音は死んだ。

生き残ったのは、復讐のためだけの抜け殻だ。

*

私が冷静に離婚を切り出し、彼が契約を盾に私の作品を私物化し、利益を隠蔽していた証拠を突きつけた時、彼は初めて狼狽の表情を見せた。

あの永遠に波風一つ立たなかった鉄壁の能面に、ついに亀裂が入った。

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