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第114話

Author: つき酔
承也は何気ない動作で、ローテーブルの上のカップを手に取った。「小さな傷だ。必要ない」

美月の手が一瞬だけ止まった。だが顔には何の変化も出さず、声も相変わらず柔らかい。「それなら、お風呂のときは気をつけてね。濡れたらすぐに拭いて。そうすれば、手の甲の擦り傷も早く治るわ」

美月は薬と綿棒を恵子へ差し出した。「承也が使わないなら、いったん戻しておいてちょうだい」

承也の視線が、淡く美月の膝へ落ちた。

美月はその視線を追って下を見る。外は雨で、先ほどエントランスから入ってきたときに雨粒がいくつかスカートに落ちたらしい。濃紺の生地に、はっきりと濡れた跡ができていた。

「拭いておけ」

美月は低く「ええ」と答えた。承也は極端に清潔で整った状態を好む。こうして指摘するということは、少し不快に思っている証拠だった。

美月は車椅子を操作し、わずかに後ろへ下がった。二人の膝の距離が開く。

識子がティッシュを手に、美月の足元へしゃがみ込んで濡れた部分を丁寧に拭き取った。

外では冷たい雨が降っている。けれど室内は春のように暖かかった。

美月はテーブルの上のカップへ手を伸ばした。だがふいに指先
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