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第6話

Author: つき酔
この向井莉奈め、よくも俺の商売を潰しやがったな!

切れ味の鋭い記事がネットに投稿され、瞬く間に大騒ぎになった。

そのせいで、半年以上心血を注いだバーは摘発され、閉店に追い込まれた。

この恨み、前からきっちり清算してやろうと思っていた。あの日は人を使って、莉奈を一発殴らせるつもりだった。仲間たちに囲ませて、好き放題やらせて、写真も撮って、あとで思い通りに操るつもりだったのに。

まさか莉奈、運よく逃げ切るとはな。

ところが今日は、まさかのこの女が自分から乗り込んできた。

「命知らずにもほどがあるだろ」

隼人はボディーガードから受け取ったタオルで、頭の傷を押さえた。

――このクソ女、俺に酒瓶を叩きつけやがった!

二発目は少し避けられたおかげで致命傷は免れたが、それでも大きな傷口から血が流れ、人前でこれ以上ないほど恥をかかされた。

今日は何があっても、この女を生かして帰すわけにはいかない。

隼人は身をかがめて莉奈に顔を近づけ、歪んだ笑みを浮かべた。「毎回、運が味方すると思うなよ」

「俺を訴えるつもりだったんだろ?」

莉奈を殴らせたのは、姉が帰国するその日を狙ってのことだった。

最悪、承也に知られても、姉の顔を立てれば守ってもらえる――そう踏んでいた。

だが莉奈は警察に通報し、捜査は自分にまで及んだ。それでも承也は、本当に自分をかばった。

つまり、莉奈なんて承也にとっては取るに足らない存在ということだ。妻が殴られているのに、何もしない夫がいるだろうか。

それだけ、承也は莉奈を嫌っている。そういうことだ。

「姉が一言言えば、承也は俺を守る。じゃあお前はどうだ? 承也が少しでもお前を気にかけたことがあるか?莉奈、これは三年前にお前が姉の男を奪った、その報いだ」

莉奈の表情が、ほんの一瞬こわばった。

その様子を見て、隼人は陰険に笑う。「今日のこと、必ず後悔するぞ」

胸の奥がチクリと痛んだが、莉奈は鼻で笑い、ゴミを見るような目を向けた。「後悔してるのは、力が足りなかったことね。あなたを叩き殺せなかったせいで、こんなクズがまだ元気に跳ね回ってるんだから」

「くそが!」隼人の顔から笑みが消え、怒鳴り声が飛ぶ。

「おい、そいつを押さえろ! ズボンを脱がせろ!今日は絶対に殺してやる!」

死ぬ寸前まで来て、まだ強がる気か。

テーブルの上には酒瓶が散乱している。隼人は一本を掴み、底を叩き割った。尖ったガラスが、照明を受けて冷たく光る。

合図と同時に、そばにいた男二人が功を焦って莉奈に襲いかかった。

その下品な笑い声を聞いて、莉奈はすぐに思い出した。あの夜、自分を殴った連中だ。

ちょうどいい。探す手間が省けた。

二人が間合いに入った瞬間、莉奈は素早くポケットからバタフライナイフを取り出し、刃先を一人の太ももに突き立てた。

「ぎゃあああ――!」

悲鳴とともに、男が膝から崩れ落ちる。もう一人は何が起きたのか理解する間もなく、視界の端で影が走り、莉奈の右脚が高いヒールのまま叩き込まれた。

次の瞬間、太ももに走る激痛に、男も叫び声を上げ、その場に膝をつく。

血のついたナイフを握りしめ、莉奈は冷たい目で二人を見下ろした。

あの夜、誰が自分の脚を蹴ったかなんて関係ない。一本ずつ、これでちょうどいい。

あのときは油断して、不意を突かれただけだ。

まさか、記者をやっていて、身を守る術が何もないとでも思ったのか?

佐伯直哉(さえき なおや)はプロを雇って、護身のための戦術を教え込んでいた。

ただ、去年は妊娠していて練習を怠っていたせいで、動きは少し鈍っていたが、いざというときに使う分には十分だ。

もし直哉が、自分が殴られたと知ったら、きっと芝居なんて続けず、撮影現場を丸ごと放り出して戻ってきて、全力で自分を守るだろう。

しかし、そんなふうに思われるのは癪だ。

この恨みすら晴らせないなんて、直哉に見下されたくなかった。

「全員、行け!」

仲間がやられるのを見て、隼人は顔を真っ青にし、怒り狂って怒鳴り散らした。「何してる!役立たずばっかりか!女ひとりも始末できないのか!」

隼人のボディーガードは十人以上いる。莉奈は素早く後ろへ下がった。

相手は皆、叩き上げのプロだ。我流でやってきた自分とは格が違う。

正面からぶつかるつもりはなく、来た方向を一瞬だけ鋭く見やった。ここは完全に隼人の縄張りだ。虎の穴に飛び込むのに、何の準備もなしで来るはずがない。

それなのに――自分が警備会社から雇ったボディーガードが、なぜ現れない?

すべて手配は済ませていた。ミスなんて起きるはずがない。

一体どこに問題が?

莉奈が完全に囲まれた隙に、ひとりのボディーガードが背後から襲いかかり、彼女の両腕を押さえ込んだ。

顔を血で染めた隼人がぐっと距離を詰め、莉奈の首を絞め上げた。「ずいぶん暴れるじゃないか、莉奈。今夜はどこまで暴れられるか、見せてもらおうか!」

彼は完全に殺意を剥き出しにし、莉奈に息をつく隙さえ与えなかった。顔色が変わっても、莉奈は一言も発せず、隼人を見つめる目は相変わらずゴミを見るようだ。

「ふざけるな!」隼人は完全に逆上した。

「やめなさい!」

少し離れた場所から、女の鋭い声が飛んだ。

莉奈の首を締めていた手が、ぴたりと止まる。

「お姉さん……どうしてここに?」

隼人が振り返り、そこに誰がいるのかを確認したとき、真っ先に目に入ったのは姉ではなかった。

目に入ったのは車椅子のそばに立つ、冷ややかで気品のある男だ。

墨を流したように深いその瞳と視線がぶつかった瞬間、隼人の頭皮がぞわりと粟立つ。

――承也……どうして、ここに?

莉奈の視線が隼人の肩越しに伸び、その男を捉えた瞬間、顔から血の気が引いた。信じられない、というようにその顔を見つめる。

すべて、理解してしまった。

クラブの外に配置していた人間は、承也に押さえられていたのだ。幼なじみの弟の誕生日パーティーを邪魔させないために、そこまで徹底するなんて……

莉奈の目が赤く染まり、唇に意味の読めない嘲笑が浮かぶ。

ぼんやりしている隼人に視線を戻し、胸いっぱいに渦巻く怒りをぶつけるように、力任せに拘束を振りほどいた。

そして一蹴りでボディーガードを吹き飛ばす。そのまま飛びかかり、隼人を押さえつけると、床に落ちていた割れた酒瓶を拾い上げ、迷いなくその頭に叩きつけた。

血走った莉奈の目。誰にも止められず、隼人の額で砕け散る酒瓶。飛び散ったガラス片に悲鳴を上げる周囲の人間たち……

あまりの光景に、誰も動けなかった。ボディーガードですら反応が遅れるほどだった。

そのときの莉奈は、人というより、地獄から這い上がってきた鬼のようだった。

床に倒れた隼人は、至近距離から狂ったように酒瓶で殴られ、すでに意識は朦朧としている。口から漏れる言葉は、助けを求めているのか、罵っているのかすら判別できない。

それでも、莉奈は手を止めなかった。

逆手に持ったバタフライナイフを握りしめ、隼人の胸ぐらを掴んで、そのまま突き刺そうとする。

迷いのない、あまりにもはっきりとした動き。誰が見ても、彼女が隼人を殺すつもりだと思ったはずだ。

その瞬間、手首を強く掴まれた。

あまりにも強い力で、莉奈は抗う暇もない。一瞬で力を抜かれ、ナイフが乾いた音を立てて床に落ちた。

悠斗が眉をひそめる。「……奥様」

彼でさえ、今の莉奈には背筋が冷えた。

莉奈はその場に崩れ落ちるように座り込み、視線の端で、手を離し、床からナイフを拾い上げる悠斗の姿を捉える。彼は承也の側近で、命令を聞くのは承也ただひとり。

「……何?あいつが人を使って私を殺そうとするのは許されて、私があいつを殺そうとするのは、あなたたちの許可が必要ってわけ?」莉奈は低く笑った。

さきほど酒瓶が砕けたとき、ガラス片が頬をかすめていた。血が流れ、顔の半分を赤く染めている。

悠斗は一瞬、言葉を失った。そして何かに気づいたように胸がざわつき、思わず少し離れた場所にいる承也へと視線を向けた。

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