LOGINかつて裕福な家の令嬢だった香坂花 26 は、すべてを失ったある日、断れない見合いをすることになる。 相手は恐ろしいほどのオーラを放つ、色気ある男性、鈴里大雅 30 。 世界を股にかける大スターなのに、花に婚姻届を突き出し、その日のうちに身も心も奪い、2人は夫婦になった。 やがて大雅の住む家に引っ越した花。 そこで信じられないものを見つけ、大スターが自分のような一般人(しかも相当貧乏)と結婚した本当の理由を理解する。 誤解と、実は悲しい真実を隠し、妻となり家族になってゆく花を溺愛するようになる大雅だが、隠された秘密を知った花は。 大スターと苦労を知りすぎた落ちこぼれ令嬢の、時に笑い、時に泣く、訳ありすぎる恋愛物語。
View Moreあの部屋は……いったいなんの部屋なんだろう。掃除をしながら、大雅さんが切ない瞳で女性の写真を見つめていた秘密の部屋に視線を向ける。「もしかしたら大雅さんには好きな人がいて、立場的にその人と別れなきゃならなくなって……それでも忘れられなくて、たまに思い出に浸る……部屋?」……あら?でも、週刊誌にすっぱ抜かれた恋人がいるんじゃないかしら?「あの人は『花園ミミ』って、有名な女優さんらしいわ!」昼過ぎのワイドショーや過去のドラマを観まくって、芸能界というところにはかなり詳しくなった。それによると花園ミミは押しも押されぬトップ女優。そして……「わが家主の大雅さんも、超人気俳優よ〜!」その場でくるりと一回転。覚えたてのVÉLOURSのヒット曲を口ずさみながら、振り付けをまねてステップを踏んでみる。……そこへ、ガチャっと玄関ドアが開き、仏頂面の大雅さんが入ってきた。「あ、」腰をクイッと捻ったポーズをどうしたらいいか迷いながら……「おかえりなさい。お早いお帰りで……」とりあえず声をかけてみたものの、呆れたような視線とため息だけが返ってきた。そうだった……昨夜、権堂さんが来て教えてくれた。大雅さんは撮影が長引き、帰宅は翌日の午前中になると。「あの、大雅さん……今日はもう、お仕事はおしまいで?」開けっ放しだったので、つい寝室を覗いてしまった。するとシャツを脱ぎ、上裸になった大雅が、スラックスも下ろそうとしている場面……チラっと目が合って、とりあえず後ろを向いた。立ち去らないのは返事を待っていたから……「夕方、友人夫婦が春希に会いにくるから。……何か作ってくれ」「……はっ!」ひと言だけしか返ってこない会話が長く続いたので、普通に句読点のある言葉に感動して振り向いてしまった。「……っ?!」大雅さんは黒いピッタリしたパンツ一丁……あ、パンツというのはボトムスのことではなく、下着という意味だ。ムキッとした上裸と共に、そこに立つ姿は美しい……美しいがエロい。仕事としてこんな格好になったなら、いったいいくら稼げるのかしら。「なにジロジロ見てるの?」大雅さんからクエスチョン付きの言葉をかけられるなんて久しぶりで、感動して両手を口元に当て、思わず前に2〜3歩進んでしまった。……いや、いけない。寝室✖裸体✖男女体の付き合い、体のぶつけ合
「俺、家庭があるんですよ。……それなのに歩美、子供を産んじゃったわけで、」「自分に責任はないと?」「そうは言いませんけど、事故で怪我をしたことについては咎めませんから……その、」子供を引き取る気はない、ということ……昨夜、姉の部屋で見つけた婚姻届を見たことが脳裏をよぎり、拳をギュッと固めた。「俺には可愛い子供がいるんです。……もう大きくなっちゃったけど、娘はいまだに可愛くて、」和成は知っていたようなことを言うが、姉は既婚者であることを知らなかったのだろう。だからこそ子供を産み、婚姻届に自分の名前を書いて、そっと保管していた……怒りが溢れ返って言葉が出ない。それでも何か言ってやろうと口を開いた瞬間、病室に看護師と医師が入ってきた。……結局その日はもう面会を許されず、怒りは矛先を失って俺の中にくすぶり続けた。そして翌日、再び病室を訪ねると、ベッドが片付けられているという状況に唖然とする。「……前日に入院費を精算して、夜のうちに病室を抜け出したらしいです」治す気のない患者を追う義務もないわけで……病院には、はるきという子供だけが残った。「俺が連れて帰る」未成年後見人の手続きを取り、春希と一緒に暮らすことになった。母子手帳によると、春希は1歳。すくすくと育つ姿に目を細めながら、認知もせずに逃げ出した香坂和成という男を、俺は許せずにいた。探し出してその責任を取らせ、社会的に抹殺する……そんな思いを抱きながらその行方を追っていたのだ。「……香坂、花?」「和成の娘です。20代で、小さな出版社に勤めていることはわかりましたが……」娘か……和成が可愛いと漏らしていた言葉を思い出した。「ちょっと調べてほしい。俺とつながる何か、ないかな……」「大雅さん、それは……」「話してみたいだけだよ。父親の行方とか知ってるかもしれないしさ」心配そうな権堂に、この時俺は、本心を言わなかった。20代の娘なら、俺を確実に知っている。あのVÉLOURSのボーカルである俺に会ったら、平常心でいられないだろう。「和成が可愛いがっている娘に子供を作って、同じように捨ててやるとか……」姉と同じ目に合わせる。それとも……「結婚して逃げられないようにして、春希に会わせる。……それが父親の子供だと知ったら、さすがに居場所を吐くだろう」胸に渦巻く黒い感情で、あの
「……はい、カーットっ!」助監督の声でハッと我に返った。胸ぐらをつかんだ状態で、ヒロイン役の花園ミミを見下ろす。「大雅さん、迫真の演技で素晴らしいんだけど……ミミちゃんが振り回されてるから、少し力を抜いてやって」「あ、すみません」演技に集中できないと、つい力が入ってしまうのは俺の悪い癖だ……胸ぐらを離し、助監督とミミ、両方に向けて謝罪した。「権堂さんに聞いたよ?……探してた人、見つかったんだって?」「本人じゃない。……その娘」「おびき寄せる道具にするつもりでしょ。うまく引っかかるといいけどね」撮影の合間、わずかな休憩時間にミミに話しかけられた。彼女は、2年前の事故を知る数少ないうちの1人。……詳しい事情までを知るのは、彼女と権堂の2人だけだ。「おびき寄せるのは、無理そうだな。今どき携帯を持ってないんだから」2年前、信じられない知らせを受けたのは、こんな風に撮影の合間で休憩をしている時だった。それは後に俺の代表作となる日韓合同映画「境界線のレクイエム」の撮影で海外ロケをしていた時のこと。「……大雅さん、携帯が何度も鳴っています。確認しますか?」権堂が手渡した携帯に表示されたのは、知らない番号からの着信。「……もしもし」「町蔵警察署の松本と申します。鈴里大雅さんの携帯で間違いありませんか?」はい……と返事をすると、信じられない情報が耳に流れてきて言葉を失った。「鈴里歩美さんが運転する車が事故を起こしまして、本人と同乗者2名が救急搬送されました」鈴里歩美は、5歳年上の姉……早くに両親を亡くした俺にとって唯一の家族だ。携帯を取り落とし、呆然とする俺の代わりに権堂が細かい事情を聞き、一旦撮影を離れることになった。たくさんの人間が関わる撮影に穴をあけるなんて、後にも先にもこの時だけ。少々の怪我や体調の異変くらいなら、歯を食いしばってステージをこなし、撮影に挑んできた。だがこの時だけは、ダメだった……「大雅……ごめんね、大事な時に、」病院に到着した時、姉は痛々しく包帯を巻かれた姿で……それは油断ならない状態だと一目でわかった。「子供が、いるの。はるきって、いうの。……好きな人と、結婚の……約束を、」「姉さん、母親になってたのか?なんで教えてくれなかったんだよ、バカだな……」「幸せに、なりたかったよ……」まさに、虫の息…
「はなちゃ〜ん!おうまさんのほんよんでぇ」「あ……わかったよ!」週刊誌の表紙にギリギリまで目をやり、笑顔の2人を脳裏に焼き付ける。女性の方が誰なのかわからない……今日からテレビをつけて、少し情報を入れないとダメだわ。私、何も知らなすぎる……子供に絵本を読み聞かせるスペースには、春希と同じくらいの子供とお母さんらしき人が何組かいた。自分も母親に見えるかな、なんて、妙にくすぐったい気持ちを抱えながら春希を膝に乗せる。「……お馬さんのお母さんは『ヒヒィ〜ン』と笑って、赤ちゃん馬を背中に乗せ、パッカパッカと歩き出した」続きを読もうとして、ふと春希を見ると、いつの間にかウトウトしている。昨夜は早めに大雅さんと横になってぐっすり眠ったと思ったのに、まだ眠いのか……「おうまさん、おわっちゃった?」しばらくユラユラしながら寝かせていたが、ハッとして起き出す春希。「昨日春くん眠れなかったの?たいがー、寝相悪かった?」いたずらっぽく聞いてみれば、春希は意外なことを言う。「たいがーずうっとモゾモゾしてたの」よくよく聞いてみれば、何度も寝返りを打っていた、ということらしい。ふと、さっき見てしまった週刊誌が思い浮かんだ。……女優との密会を撮られ、揉み消せなくて事務所に責められたとか。芸能人はスキャンダルが原因でCM契約を打ち切られたり、下手をすれば違約金が発生すると、以前瑠璃に聞いた事がある。「私との結婚だって、もしもバレたら……」世間に公表しないのは私のためなんて言っていたけど、やっぱりどう考えても困るのは大雅の方だ。春希は花の膝から降りて、読み聞かせ用の絵本を自分で開いて覗き込んでいる。その姿を見守りながら、花の思考はまた、さっき目にした週刊誌に戻ってしまう。密会する恋人がいるのに結婚なんかして……大雅さんはいったい何を考えているんだろう。「春希くんのこと、恋人さんは知ってるのかしら」というより、春希のことを公表していないなんて、まるで存在を否定されてるみたいで。「鬼ムカつく……」近いうち意見してやろう。そう心に決めたところで、ハッと思い出した。「そういえば権堂さん、どこにいるんだろう」こういうとき携帯を持っていない不便さを思い知る……大きなショッピングモールの中、権堂さんを見つけるのは大変そうだ。ところが権堂は、車のトラン