完璧な義兄は不完全な愛に溺れる〜義弟の甘い蜜〜

完璧な義兄は不完全な愛に溺れる〜義弟の甘い蜜〜

last updateDernière mise à jour : 2026-02-23
Par:  ひなた翠Complété
Langue: Japanese
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大手商社の最年少部長・松井田伊織(28)は、誰もが認める完璧なエリートだった。一流大学卒、仕事は完璧、容姿端麗で誰に対しても丁寧――しかし、彼には誰にも言えない秘密があった。 「女性を抱けない」 恋人とは、最後の段階で身体が反応せず破局。 破局から三日後、一人でバーへ。隣の席に座った美女「ちか」に、生まれて初めて身体が激しく反応した。 運命的な一夜を過ごす。何度も絶頂を迎え、28歳にして初めて童貞を捨てた――。 しかし翌朝、シャワーから出てきたのは義弟の千景だった。 「兄さんが女を抱けるようになるまで、僕が治してあげる」 女装した義弟の甘い誘惑に、伊織は抗えない。不完全な愛に溺れていく。

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Chapitre 1

第一話「誰にも言えない悩み」

 会議室に拍手が響き渡り、大型契約が成立した瞬間の高揚感が胸を満たしていった。相手企業の部長が満面の笑みで握手を求めてきて、俺は完璧な笑顔を作りながら応じた。

「松井田部長、お疲れ様でした! さすがです!」

 会議室を出ると、営業部の後輩たちが興奮した様子で駆け寄ってきて、俺の肩を叩きながら祝福の言葉を投げかけてくる。契約書類を抱えた女性社員が頬を上気させながら「部長、今夜は飲みに行きましょう! 私、もう予約しちゃいました」と甘えた声で誘ってきて、周囲の同僚たちも「そうですよ、たまには付き合ってくださいよ」と囃し立てた。

 俺は柔らかな笑顔を浮かべ、丁寧に首を横に振った。

「すみません、明日も早いので今日は失礼します。皆さんで楽しんでください」

 笑顔を保ちながら、俺は彼らに背を向けて会社を後にする。周囲の期待していた表情が失望に変わるのを見ないように、足早にエレベーターへと向かう。

 夜の街に出ると、冷たい空気が頬を撫でていった。ネクタイを緩め、深く息を吐き出す。誰もいない道を歩きながら、胸の奥に溜まった重苦しさがじわりと広がっていった。

 気づけば、いつものバーの前に立っていた。看板の明かりが暗い路地を照らし出し、扉の向こうから低い音楽が漏れ聞こえてくる。俺は扉を押し開け、カウンター席の隅に座った。

「いつものをお願いします」

 マスターが無言で頷き、琥珀色の液体がグラスに注がれていく。氷がカラリと音を立て、グラスを傾けると喉を焼くような熱さが胸に染み込んでいった。

 仕事はうまくいった――でも。

(どうして抱けないんだ)

 三日前に恋人に振られた傷が疼き、仕事で成功を収めても飲む気になれなかった。

 過去に付き合った女性たち全てに、振られてきた。理由は一つ――セックスができないから。

 三日前に別れたばかりの元カノ、白石綾との破局が一番辛かった。同じ会社の経理部で働く彼女は、一年も俺と付き合ってくれたのに、最後まで俺は彼女を抱くことができなかった。

「もう無理です――耐えられない」

 あの日、ホテルのベッドの上で、裸の綾が涙を流しながら言われた光景が脳裏に焼き付いている。俺は何も答えられず、ただ謝ることしかできなくて、彼女は静かに服を着て部屋を出て行った。

 医者には「器質的な問題はない。心因性勃起障害だろう」と診断されたが、原因は分からないままだった。女性の裸体を見ても、キスをしても、愛撫をしても、熱は多少反応するのに、肝心な時に萎えてしまう。

 二杯目のグラスを空けた頃、隣の席に誰かが座る気配がした。ふと視線を向けると、息を呑むほど美しい女性が座っていて、長い黒髪が肩から背中へと艶やかに流れ落ちている。

 洗練された黒のワンピースを着ているが、胸元が深く開いていて白く滑らかな肌が覗き、太腿まで伸びたスリットから細く美しい脚のラインが露わになっていた。心臓が不意に大きく跳ね、視線を逸らすべきとわかっているのに目が離せなくなる。女性の横顔は整っていて、長い睫毛が頬に影を落とし、薄い唇が妖艶に光っていた。

「お一人ですか?」

 女性が微笑みながら声をかけてきて、低くハスキーな声が妙に色っぽく耳の奥まで響いてきた。顔立ちをよく見ると、どこか義弟の千景に似ているような気がして、視線が自然と吸い寄せられていく。大きな瞳が俺を見つめ、唇の端が僅かに上がっていた。

「ええ、まあ」

 俺は素っ気なく答えたが、女性は気にした様子もなく細い指でグラスを持ち上げ、ゆっくりと傾けた。喉が動く様子が妙に艶めかしく見えて、目を逸らすことができない。

「お名前は?」

「ちか、です」

(名前まで義弟と似ている)

 名乗られた名前が妙に耳に馴染んで、俺は少し躊躇いながら自分の名前を告げた。

「伊織です」

 会話が始まると、不思議なほど話しやすかった。ちかの話し方は柔らかく、時折見せる笑顔が胸の奥まで染み込んでくる。

 質問の仕方が押し付けがましくなく、ただ静かに俺の話を聞いてくれて、相槌を打つ声が優しく耳に届いた。グラスが空になるたびにマスターが無言で新しい酒を注ぎ、酔いが回るにつれて心のガードが緩んでいく。

「実は、三日前に彼女と別れまして」

 俺が呟くと、ちかは少し驚いたような表情を見せて首を傾げた。

「そうなんですか。お辛かったでしょう」

 同情ではなく、ただ静かに寄り添うような声に、胸の奥が熱くなる。

「どうして別れたんです?」

 問いかけられて、俺は躊躇った。普段なら絶対に言わない弱みが、酔いと彼女の優しい雰囲気に促されて言葉になって口から出ていた。

「勃たないんです」

 自分でも信じられないほど素直に告白してしまい、ちかの反応を伺うように視線を向ける。彼女は驚いた様子もなく、眉一つ動かさずに、ただ静かに俺の言葉を受け止めていた。

「今までできた恋人には、全てセックスが原因で別れました」

 言葉が次々と溢れ出し、もう止められなくなる。医者に何度も通ったこと、診断結果が心因性だったこと、原因が分からないまま過ごしてきた孤独な日々。全てをちかに吐き出してしまい、グラスを傾けて残った酒を一気に飲み干した。

 ちかは俺の手を優しく握りしめ、温かい手のひらが震える俺の手を包み込んだ。細くて柔らかい指が俺の手に絡み、親指が手の甲を撫でていく。

「試してみます?」

 囁くような声で誘われて、心臓が激しく鼓動を打ち始めた。ちかの手が俺の手を離れ、カウンターのテーブルの下へと潜り込んでいく。太腿の上に柔らかい手のひらが置かれ、ゆっくりと内側を撫で上げられて、股間へと移動していった。

 スラックスの上から俺の熱を包み込むように握られ、指が形を確かめるように動いていく。今まで歴代の彼女たちが触れても微塵も反応しなかった熱が、信じられないほど大きく滾っていて、スラックスの中で窮屈に脈打っている。

 ちかの指がゆっくりと上下に動き、布越しに愛撫されるたびに、熱がさらに硬さを増していった。

「つらそう」

 ちかが耳元で囁き、吐息が耳朶にかかって身体が震える。俺の手を引いて立ち上がらせ、抵抗する気力もなく、彼女に導かれるまま店の奥にある個室トイレへと向かった。

 カウンターを離れる時、マスターと目が合ったが、彼は何も言わずにグラスを磨き続けていた。

 扉が閉まると同時に鍵がかけられ、狭い空間に二人きりになった。ちかが俺の前にしゃがみ込み、細い指が器用にベルトのバックルを外していく。ゆっくりとスラックスが下ろされ、下着の上から熱を包み込まれた。

「こんなに大きくなって」

 ちかが満足そうに呟き、下着も一緒に下ろしていく。露わになった熱を見て、彼女は唇を舐めて艶めかしい笑みを浮かべた。

「すごく、大きい」

 低い声で呟かれ、頬が熱くなる。ちかの唇が先端に触れ、温かく柔らかい感触に思わず腰が震えた。舌先が尿道口を舐め、甘く刺激されるたびに腰が跳ねそうになる。

 舌が先端を何度も舐め、唾液で濡れていく。ちかの口が大きく開き、熱がゆっくりと口の中に含まれていった。温かく、柔らかく、濡れた感触が全体を包み込み、今まで感じたことのない快感が全身を駆け抜けていく。膝が笑いそうになり、壁に手をついて身体を支えた。

 ちかの舌が熱に巻きつき、口の中で上下に動いていく。頬の内側に押し付けられ、吸い上げられ、舌で転がされる。唾液の水音が狭いトイレに響き、恥ずかしさと興奮が同時に押し寄せてきた。

 上から見える彼女の胸の谷間に視線が吸い寄せられ、白く柔らかそうな膨らみが呼吸に合わせて揺れている。さらに興奮が高まり、熱がちかの口の中で脈打った。俺は震える手を伸ばし、ちかの胸元に手を滑り込ませて柔らかい膨らみを探っていく。ブラジャーの上から乳房を掴み、親指で乳首の位置を探って軽く擦った。

「んっ、ん」

 くぐもった甘い声が喉の奥から漏れ聞こえ、その声を聞いた瞬間に熱がさらに硬さを増していった。ちかの舌がより激しく動き、口の中で深く扱かれる。先端が喉の奥に当たり、絞り上げられるような快感に視界が白く染まった。

 今まで誰にも与えられなかった快楽を、ちかは簡単に引き出してくる。呼吸が乱れ、腰が自然と動いてしまい、ちかの口の中で浅く腰を振ってしまう。

「いれていい?」

 掠れた声で尋ねると、ちかは口を離してゆっくりと顔を上げた。唾液で濡れた唇が艶めかしく光り、糸を引いている様子に息が荒くなっていく。ちかは唇を舐めて艶を足し、俺を見上げながら微笑んだ。

「動かないでね。私から入れたいの」

 ちかが立ち上がり、便座の蓋を閉めて俺をそこに座らせた。膝の上に跨るように重なってきて、スカートの中に手を入れて下着を脱いでいく。黒いレースの下着が床に落ち、ちかの手が俺の肩に置かれた。

 もう片方の手が下へと伸び、俺の熱を掴んで自分の秘部に押し当てる。熱い吐息が顔にかかり、ちかの瞳が近くで俺を見つめていた。長い睫毛が揺れ、薄い唇が僅かに開いている。

「入れるね」

 囁かれた瞬間、ちかがゆっくりと腰を下ろし始めた。先端が熱く濡れた場所に触れ、押し広げられながら侵入していく。今まで味わったことのない感覚に、息が止まりそうになった。

「ん……あっ、ああ」

 ちかの甘い声が耳に届き、さらに深く入り込んでいく。熱く、狭く、濡れた場所が俺の熱を締め付け、内壁が蠢くように動いていた。半分ほど入ったところで、ちかは動きを止めて呼吸を整えている。

「気持ちいい……」

 ちかが囁き、再び腰を下ろし始めた。さらに深く、奥へと進んでいき、全てが飲み込まれていく。今まで味わったことのない快感に頭が真っ白になり、一気に限界へと上り詰めた。

「待っ……もう……」

 声を絞り出そうとしたが、奥まで入り切る前に絶頂が訪れてしまった。

「っ……!」

 声にならない呻きが漏れ、腰が跳ね、ちかの腰を掴んで強く引き寄せてしまった。熱いものが体内の奥深くまで注がれていき、絶頂の快感が全身を支配していく。視界が真っ白に染まり、耳が遠くなり、ただ快楽だけが身体を満たした。

 波が何度も押し寄せ、そのたびに身体が震え続ける。ちかの中で脈打ち、まだ出し続けていて、止まらない快感に身体が溶けていきそうだ。

(気持ちいい――)

 自慰で感じてきた快感とは比べ物にならないほど強烈で、身体の芯から湧き上がってくる熱に溺れていく。ちかが俺の首に腕を回し、身体を密着させてきて、温かい吐息が首筋にかかった。

「すごい、たくさん出てる」

 ちかが耳元で囁き、まだ繋がったまま腰を僅かに動かす。敏感になった熱が刺激され、また腰が跳ねた。

 やがて絶頂の波が引いていき、全身の力が抜けていく。ぐったりと便座に沈み込み、荒い呼吸を繰り返した。ちかが優しく俺の頬に手を添え、額を合わせてくる。

 我に返った時、俺は中出しする形になってしまったことに気づいて血の気が引いた。

「すみません、避妊を……」

「大丈夫、ピル飲んでるから」

 ちかが優しく微笑み、俺の頬に手を添えた。まだ繋がったままの状態で、彼女の温もりが俺を包み込んでいる。

「もっと、ちかと一緒にいたい」

 自分でも驚くほど素直な言葉が口をついて出て、ちかは嬉しそうに目を細めた。

「ホテルいく?」

 誘われるまま、俺は頷いた。二人で身なりを整え、トイレから出てバーを後にする。夜の街を並んで歩きながら、ちかの手を握りしめた。柔らかく温かい手が、俺の震える手を優しく握り返してくれた。

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第一話「誰にも言えない悩み」
 会議室に拍手が響き渡り、大型契約が成立した瞬間の高揚感が胸を満たしていった。相手企業の部長が満面の笑みで握手を求めてきて、俺は完璧な笑顔を作りながら応じた。「松井田部長、お疲れ様でした! さすがです!」 会議室を出ると、営業部の後輩たちが興奮した様子で駆け寄ってきて、俺の肩を叩きながら祝福の言葉を投げかけてくる。契約書類を抱えた女性社員が頬を上気させながら「部長、今夜は飲みに行きましょう! 私、もう予約しちゃいました」と甘えた声で誘ってきて、周囲の同僚たちも「そうですよ、たまには付き合ってくださいよ」と囃し立てた。 俺は柔らかな笑顔を浮かべ、丁寧に首を横に振った。「すみません、明日も早いので今日は失礼します。皆さんで楽しんでください」 笑顔を保ちながら、俺は彼らに背を向けて会社を後にする。周囲の期待していた表情が失望に変わるのを見ないように、足早にエレベーターへと向かう。 夜の街に出ると、冷たい空気が頬を撫でていった。ネクタイを緩め、深く息を吐き出す。誰もいない道を歩きながら、胸の奥に溜まった重苦しさがじわりと広がっていった。 気づけば、いつものバーの前に立っていた。看板の明かりが暗い路地を照らし出し、扉の向こうから低い音楽が漏れ聞こえてくる。俺は扉を押し開け、カウンター席の隅に座った。「いつものをお願いします」 マスターが無言で頷き、琥珀色の液体がグラスに注がれていく。氷がカラリと音を立て、グラスを傾けると喉を焼くような熱さが胸に染み込んでいった。 仕事はうまくいった――でも。(どうして抱けないんだ) 三日前に恋人に振られた傷が疼き、仕事で成功を収めても飲む気になれなかった。 過去に付き合った女性たち全てに、振られてきた。理由は一つ――セックスができないから。 三日前に別れたばかりの元カノ、白石綾との破局が一番辛かった。同じ会社の経理部で働く彼女は、一年も俺と付き合ってくれたのに、最後まで俺は彼女を抱くことができなかった。「もう無理です――耐えられない」 あの日、ホテルのベッドの上で、裸の綾が涙を流しながら言われた光景が脳裏に焼き付いている。俺は何も答えられず、ただ謝ることしかできなくて、彼女は静かに服を着て部屋を出て行った。 医者には「器質的な問題はない。心因性勃起障害だろう」と診断されたが、原因は分からないままだった。女性
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第二話「初めての歓び」
 ホテルのロビーを抜け、エレベーターに乗り込むと、ちかが俺の腕に身体を寄せてきた。柔らかい感触が腕に伝わり、甘い香りが鼻をくすぐる。エレベーターが上昇していく間、鏡に映る二人の姿を見つめながら、信じられない気持ちに胸が支配されていた。(もう童貞じゃない――) 廊下を歩き、部屋の扉を開けて中に入ると、ちかが先に部屋の奥へと進んでいく。俺は扉を閉めて鍵をかけ、振り返った瞬間にちかが身体を押し付けてきて、壁に背中を押し当てられた。「待っ――」 言葉が唇で塞がれ、ちかの舌が口の中に侵入してくる。激しく、貪るようなキスに息が詰まり、抵抗する間もなく舌を絡め取られていった。ちかの手が俺の首に回され、深く角度を変えながら何度も唇を重ねてくる。 唾液が混じり合い、舌が絡み合う音が耳に届いて、頭が熱くなっていく。ちかの身体が密着し、柔らかい胸が俺の胸板に押し付けられていた。キスをしながら、ちかの手がシャツのボタンを器用に外していき、肌が露わになっていく。 唇が離れると、糸を引いた唾液が二人を繋いでいて、ちかは満足そうに微笑んだ。 バーのトイレで、二十八年間、誰とも最後までできなかった俺が、ちかによって初めて女性を抱くことができた。喜びが胸を満たし、涙が溢れそうになる。ちかが俺の頬に手を添え、優しく微笑みながら囁いた。「ベッドに行こう」 手を引かれ、部屋の奥へと導かれていく。大きなダブルベッドが視界に入り、心臓が激しく鼓動を打ち始めた。ちかが俺の胸を押し、ベッドに倒れ込むと、すぐに上から覆い被さってきた。 再び唇が重ねられ、今度は首筋へと移動していく。舌が肌を這い、甘く噛まれ、吸い上げられていった。ちかの手が俺のシャツを完全に脱がせ、ベルトを外してスラックスも下ろしていく。あっという間に全裸にされ、冷たい空気が肌に触れて身体が震えた。「あ……」 ちかの手が下腹部に触れ、再び硬くなり始めている熱を包み込んだ。バーのトイレで一度出したばかりなのに、身体は嘘のように反応していて、ちかの指が動くたびにさらに大きく膨らんでいく。(また、勃ってる) 喜びと安堵が胸を満たし、涙が出そうになった。今まで何人もの女性と試みて、全て失敗してきたのに、ちかと一緒だと簡単に身体が反応する。 ちかが身体を起こし、俺の熱をじっと見つめた。「すごい、もうこんなに」 囁かれながら、
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第三話「義弟という悪夢」
 目を覚ますと、窓から柔らかい朝日が差し込んでいて、カーテンの隙間から光の筋が伸びていた。身体を動かそうとして、全身に心地よい疲労感が残っていることに気づく。筋肉が適度に張り、腰が重く、昨夜激しく動いた証が身体に刻まれていた。(昨夜の女性は……) ぼんやりとした頭で隣を見ると、そこには誰もいなくて、シーツだけが乱れたまま残されている。枕には長い黒髪が数本落ちていて、ちかがここにいた証を示していた。 耳を澄ますと、浴室の方からシャワーの音が聞こえてくる。水が流れる音、壁に当たって跳ね返る音が、静かな部屋に響いていた。(先にシャワーを浴びているのか) ベッドから視線を下に落とすと、床に黒いレースの下着が落ちていて、昨夜のことが鮮明に蘇ってくる。ちかの甘い声、繋がった時の熱さ、何度も絶頂を迎えた歓び。全てが夢ではなかったと実感し、胸が熱くなった。 身体を起こすと、腰に鈍い痛みが走る。昨夜、何度ちかを抱いたのか、もう数えきれなくなっていた。それでも気持ちよくて、ちかと繋がっていたくて、朝まで求め合っていた。(浴室に行けば、全裸の彼女の姿を見られるかもしれない) 昨夜、ちかはワンピースを脱がなかった。服を着たまま俺を導き、俺だけが全裸で晒されていた。できるなら、もう一回繋がりたい――彼女の裸を見たいと思いながら、ベッドから降りて浴室へと向かう。 脱衣所に入ると、黒いワンピースがハンガーにかけられていて、その下に黒のブラジャーが置かれているのが見えた。胸が高鳴り、ちかの裸がすぐそこにあると思うと、身体が熱くなっていく。 がちゃりと浴室のドアが開く音がして、湯気が流れ出してきた。濡れた髪、水滴が滴る肌、タオルを身体に巻いた姿が現れる――と思った瞬間、出てきたのは昨夜の美女ではなく、なぜか義弟の千景だった。「――あ」 千景が気まずそうな表情を浮かべ、俺と目が合った瞬間に動きを止める。濡れた黒髪が肩に張り付き、長い睫毛に水滴がついていて、白い肌から湯気が立ち上っていた。「は?」 声が勝手に出て、頭が真っ白になる。目の前にいるのは、間違いなく義弟の千景で、昨夜抱いた女性ではなかった。「……なんでお前がここに……?」 掠れた声で問いかけると、千景は視線を逸らして小さく呟いた。「バレた」「どういうことだ!」 怒鳴りながら千景の肩を掴み、壁に押し付ける
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第四話「ちか」
 マンションのドアを開けて中に入ると、リビングから明かりが漏れていて、キッチンに人の気配がした。玄関で靴を脱ぎ、廊下を歩いてリビングに足を踏み入れると、黒髪の長身の男性がキッチンに立っていて、こちらに気づいて振り返った。「随分と遅い帰りだな」 鷹宮玲司が低い声で言いながら、切れ長の目を細めてこちらを見つめてくる。整った顔立ちに鋭い眼光が宿っていた。(これは……怒ってる)「起きてたんだ」 僕が答えると、玲司はカウンターに手をついて首を傾げた。「昨日は早くあがったのに」 俺より帰宅が遅いのはどういうことだ――と言いたいのだろう。 玲司は僕がバイトしているカマバー「Queen's Night」でバーテンダーをしていて、昨夜は僕が早めにシフトを終えて店を出たことを知っている。 玲司がキッチンから出てきて、僕の前に立った。高い身長が威圧感を与え、見下ろされる形になる。玲司の手が上がり、親指の腹で僕の首筋を軽く押してきた。(きっとキスマークがバレた)「これは? もう遊ぶのはやめたって言ってなかった? こっちにもある……どういうこと?」 首筋に残るキスマークを指摘され、顔が熱くなる。玲司の視線が鎖骨へと移動し、ワンピースの胸元から覗く肌にも赤い痕が残っているのを確認しているようだった。「ホテルに行った」 正直に答えると、玲司の目が僅かに細められた。「誰と?」 問い詰められて、視線を逸らす。玲司の鋭い視線から逃れたくて、床を見つめながら小さく答えた。「……兄さんを見かけたんだ。一人でバーに入っていくのを。それで追いかけて――」「女のフリをしたまま抱かれたの?」 玲司の声が低くなり、心臓が早鐘を打つ。嘘をつくことはできなくて、僕は小さく頷いた。「バレたけど」 玲司の視線が下に向けられ、僕の太腿に何かを見つけたようだった。テーブルにあるティッシュを手にすると、垂れてきていた白濁の液体を優しく拭ってくれる。 兄さんの精液が太腿を伝っていたことに気づいて、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。「処理しきれてない。しっかりとかきだしたほうがいい。風呂なら湧いてるから」 玲司が淡々とした口調で言い、ティッシュを捨てる。「ありがとう」「一人でできるよな?」「うん。大丈夫」 答えると、玲司は僕の頭に手を置いて軽く撫でた。「俺は寝るから。朝食は食
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第五話「千景とちか」
 目覚まし時計のアラームが鳴り響き、目を覚ますと窓から朝日が差し込んでいた。手を伸ばしてアラームを止め、ベッドから身体を起こす。 全身にまだ疲れが残っていて、昨夜バイトから帰ってきてすぐに眠りについたことを思い出した。 顔を洗い、髪を整えて、階下へと降りていく。リビングからは母の声と父の笑い声が聞こえてきて、朝食を作る良い匂いが鼻をくすぐった。「おはよう、千景」 母が振り返って微笑み、僕は小さく頷いた。「おはようございます」 父が新聞から顔を上げ、「よく眠れたか」と尋ねてくる。僕は「はい」と答えて、テーブルに着いた。 母が焼きたてのトーストと目玉焼き、サラダを運んできて、僕の前に置く。湯気が立ち上り、バターの香ばしい香りが広がった。フォークを手に取り、目玉焼きを一口食べると、優しい味が口の中に広がっていく。「今日は授業、何時まで?」 母が尋ね、僕はコーヒーを飲みながら答えた。「四時半まで。その後はバイト」「そう。無理しないでね」 母の優しい声に、笑顔で頷いた。 母も義父も、僕がカマバーでバイトしているとは知らない。深夜まで営業している飲食店とだけ伝えていた。 朝食を終え、大学へと向かう。電車に揺られながら、窓の外を流れる景色を眺めていた。 大学に着くと授業を受け、友人と他愛もない話をする。 午後四時半に授業が終わると、僕は大学を出て玲司のマンションへと向かった。鍵を開けて中に入ると、リビングから玲司の声が聞こえてくる。「おかえり」「ただいま」 答えながら、荷物を置いて浴室へ向かった。 シャワーを浴び、身体を洗い流してから脱衣所に戻る。クローゼットに保管してある「ちか」の衣装を取り出し、黒のワンピースを取り出す。ブラジャーを身につけ、身体のラインを整えてから、ワンピースを着る。「玲司、ファスナー上げて」 リビングに出て背中を向けると、玲司が立ち上がって近づいてきた。細く長い彼の指がファスナーを掴み、ゆっくりと上へと引き上げていく。背中が覆われていき、ワンピースが身体にぴったりと沿った。「よし」 玲司が短く言い、僕は鏡の前に座った。化粧品を並べ、ファンデーションを顔に塗っていく。肌の色を均一にし、アイシャドウで目元を強調し、口紅で唇に色を足していく。 ウィッグを被り、長い黒髪が肩に流れ落ちる。玲司が後ろに立ち、髪を整え
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第六話「夢の中でも――」
 朝六時、目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。身体がびくんと跳ねて、意識が浮上してくる。上半身を起こすと、下半身に不快な違和感が広がっていて、深いため息が自然と漏れた。 布団から足を出し、パジャマのズボンと下着のゴムを引っ張って中を覗き込む。濡れた下着が肌に張り付いていて、白く濁った痕が広がっているのが見えた。げんなりとした気分が胸を満たし、頭が重くなる。「またやってしまった」 呟きながら、ベッドから降りた。 あの日から毎日、同じことが続いている。ちかを抱く夢を見て、目が覚めると下着を汚している。ときにはちかではなく、千景の姿で現れることもあった。 今までだって、欲求不満の具合によって夢を見ることはあった。ただ、下着を濡らすほどではなくて、むしろいい雰囲気から勃たない自分に焦る悪夢のほうが多かった気がする。夢の中でさえ、女性を抱けなくて、相手に謝り続ける自分がいた。 下着を汚してしまったという嫌悪感に苛まれながら、浴室へと向かう。シャワーを浴びて身体を洗い流し、濡れた下着も一緒に洗った。温かいお湯が肌を流れ落ち、夢の余韻が少しずつ消えていく。 タオルで身体を拭き、脱衣所に戻ってクローゼットを開けた。下着が入っているカラーボックスの引き出しを開けると、中には一枚しか下着が残っていなくて、絶望を感じた。「下着の買い足しが必要だ」 それも早急に、と心の中で付け加える。毎晩見る夢のせいで下着が足りなくて、洗濯が追いつかない。 ラスト一枚の下着を履き、シャツとスラックスを身につけて出勤の準備を始める。鏡に映る自分の顔を見ると、目の下にクマができていて、疲れた表情が浮かんでいた。寝不足が続いていて、夢を見るたびに身体が疲弊していく。 キッチンに立ち、コーヒーメーカーのスイッチを入れた。豆が挽かれる音が響き、香ばしい香りが部屋に広がっていった。マグカップに注がれたコーヒーを一口飲み、苦味が口の中に広がった。 朝食はコーヒーだけで済ませ、カバンを手に取ってマンションを後にする。エレベーターに乗り込み、一階へと降りていく。外に出ると、朝の冷たい空気が頬を撫でていった。 駅へと向かい、地下鉄に乗り込む。仕事場までは十分の距離で、いつもと同じ車両に乗って、同じ景色を眺めていた。窓に映る自分の顔を見つめながら、今日一日をどう過ごすか考える。 駅を降り、オフィスビ
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第七話「突然の帰省」
 自分の部屋でベッドに横になりながらスマホを眺めていると、階下から騒がしい声が聞こえてきた。何事かと思い、スマホを手に持ったまま部屋を出て廊下に立つと、声が聞こえてきた。 階段を降りながら玄関を覗き込むと、スーツ姿の義兄、伊織が立っていた。長期休みにしか帰ってこない兄さんが、平日の何でもない日に帰宅するなんて予想もしていなくて、心拍数が跳ねあがる。(なんで兄さんが――)「伊織くん、どうしたの?」 母が驚いた声を上げ、義父が心配そうに兄さんの顔を覗き込んだ。「体調でも悪いのか」 父の問いかけに、兄さんは首を横に振って答える。 僕は階段を降りながら、いつも通りを装って声をかけた。「兄さん、おかえりなさい。珍しいね」 僕の声が聞こえた瞬間、兄さんの肩が一瞬だけ強張ったように見えて、視線がこちらに向けられた。スーツ姿のまま、カバンを手に持っている兄さんは、会社から直接、実家に帰ってきたのだろう。 明日だって会社があるはずなのに、なぜ実家に帰ってきたのだろうか。(まあ……原因は僕なんだろうけど)「どうしましょう」 母が困った声を上げ、おろおろといろいろな方向に身体を向ける。「せっかく伊織くんが帰ってきてくれたのに、夕食が……」「急に帰ってきたのは俺ですから、気にしないでください」 兄さんが丁寧に答えたが、母は首を横に振った。「でもお腹、減ってるでしょう?」 母の心配そうな声に、僕は咄嗟に言葉を発していた。「じゃあ、兄さんが僕の分を食べて」 僕の言葉に、全員が一斉に僕の顔を見つめてきた。母、父、兄さん。三人の視線が突き刺さり、息が詰まりそうになる。「千景?」 母が首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべた。「実はさっきバイト先から連絡が入ってさ。急遽、出ることになって」 嘘を重ねながら、心臓が早鐘を打つ。母は僕の顔をじっと見つめ、疑うような視線を向けてきた。「今日は休みじゃないの?」「風邪で来れない子がいるんだって。代わりに出てくるよ。帰りも遅いから」 スマホを手に持ったまま、階段を降りて玄関へと向かう。靴箱から靴を取り出し、急いで履いていった。 両親からいろいろ質問されるまえに、家を出ないとボロを出してしまいそうで怖い。「バイトって?」 兄さんが質問してきて、背中に視線を感じる。長期休みにしか帰ってこない兄さんは、僕がバ
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第八話「話がしたいと思ってたのに」
 父親が再婚すると聞いたとき、俺はすでに社会人だった。学生の頃にも、父親が誰かと交際していたのは知っていて、何度か相手の女性を紹介されたこともあった。 どれも長続きしなかったのは、別れた俺の実母のせいだと思っている。父曰く、実母は自由奔放な人だったという。家庭に囚われない女性で束縛を嫌い、誰かに縛られることを何よりも嫌った。 そう聞いたとき、俺は「母は仕事が好きな人だったのだな」と勘違いした。キャリアウーマンで、家庭よりも仕事を優先する女性だと思っていた。 成長して男女の性についてわかるようになって初めて、母親は男にだらしない生き物だったのだと理解した。父親に子育てを押し付けて、男との恋愛を楽しむために家を空け続けた。それで家庭にいたくなくて、俺と父を捨てて出て行ったのだと気づいた時、胸が冷たくなった。 浮気されるのが当たり前の夫婦生活で、父は女性と長く付き合うのが苦手なのだと感じていた。長くなれば、母親のときのように浮気を疑ってしまい、それが嫌で関係を終わらせてしまう。父の交際が続かない理由を、俺なりにそう理解していた。 だから父親が結婚したい女性がいると俺に紹介してきたとき、正直驚いた。職場で知り合い、そこそこ長い年月、交際をしていたらしい。お互いにシングル同士で話も合い、義母の連れ子である千景の高校入学に合わせて籍を入れることになった。 学校が変わるタイミングで苗字が変わるほうがいいだろうという両親なりの考えで、千景が高校に入学する春に入籍が決まった。 父親の入籍と同時に、やたらと広く感じていた一軒家に義母と義弟が引っ越してきた。ずっと何もなかった隣の部屋が義弟の部屋になり、一階の父の部屋が夫婦の寝室へと変わっていく。 家族四人になった日に、夕食を家で食べた。長年夢に見ていた家族団欒を目にして、息苦しさを感じたのを今でも覚えている。 あんなに憧れていたのに、友人の家庭を羨み、妬むくらい望んでいたのに。義母が料理を作り、父が楽しそうに笑い、義弟がいる――そんな生活が自分の一部になるのだと感じたとき、俺は無性に逃げ出したい衝動に駆られた。 あの時は自分が社会人で、一人暮らしをすでに始めていて良かったと心から感じた。望んだものが手に入る恐ろしさを思い出すだけで、今も手が震える。 ブーっと、ベッドの上でスマホのバイブ音が響いた。画面を見れば「義
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第九話「本当に抱けない?」
 意識が浮上してきて、目を覚ますと兄さんの腕に抱きしめられていた。後ろから強く抱き込まれていて、兄さんの体温が背中に伝わってくる。規則正しい寝息が首筋にかかり、くすぐったさに身体が僅かに震えた。 視線を横に向けると、ベッドの横にあるゴミ箱が目に入る。ティッシュに包まれたコンドームが三個も捨てられているのが見えて、胸が熱くなる。立て続けに三回、兄さんと身体を重ねた事実が、ゴミ箱の中身で証明されている。 身体を動かそうとして、全身に残る痛みと違和感に小さく息を呑んだ。肌に触れる兄さんの手が、昨夜刻まれたキスマークを撫でているのが分かる。前回よりもひどい痕が身体中に残っていて、特に太腿に集中していた。 兄さんは女性を抱けないと悩んでいたはずだった。元カノとは一年も付き合って、最後まで抱けずに別れたと言っていた。それなのに、僕とは何度も繋がることができて、今夜は立て続けに三回も求めてきた。 何度しても、硬さも太さも大きさも衰えることなく、最後は睡魔に勝てずに寝落ちしてしまった兄さんが、本当に女性を抱けずに悩んでいたのだろうか。想像できなくて、混乱が深まっていく。 そっと兄さんの腕を解こうとして、力を入れる。兄さんが小さく呻いて腕を緩め、僕は静かにベッドから抜け出した。冷たい空気が肌に触れて、身体が震える。床に散らばった服をかき集めると、一枚ずつ拾い上げていった。 シャツ、ズボン、下着。全てが乱暴に脱がされた痕跡を残していて、記憶が蘇ってくる。兄さんに押し倒され、服を剥ぎ取られ、何度も名前を呼ばれた。甘い声で囁かれ、激しく求められ、全てを受け入れた。 服を抱えて、隣の自分の部屋へと静かに戻る。扉を閉めてから、姿見の鏡の前に立つ。全裸の身体が映し出され、点在する赤い徴が目に入る。首筋、鎖骨、胸、脇腹、太腿。至る所にキスマークが残っていて、指を這わせると僅かに痛みが走った。 兄さんが夢中で口づけを落とした証が、こんなにも残っている。ずっと片想いをしていた相手から求められる嬉しさが、胸を満たしていった。兄さんに抱かれた、兄さんと繋がった。夢のような時間を思い出し、涙が溢れそうになる。 嬉しさと同時に、罪悪感も芽生えてきた。これは母と結婚をし、父親になってくれた義父さんへの裏切り行為でもある。温かい理想の家族が、僕の行動一つでいとも簡単に崩れる危うい関係にしてしま
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第十話「週に二回の大人の付き合い」
 映画館の暗闇の中で、千景の手を握りしめながら、俺はスクリーンを眺めていた。隣の席から千景の体温が伝わってきて、絡み合った指の感触が心地良い。(これはデートと言っていいのだろうか) 千景に見たい映画があると言われて、仕事終わりに観に行くことにした。待ち合わせ場所に行くと、千景ではなく「ちか」の姿で立っていて驚いた。前回会った時のような妖艶な格好ではなく、淡いピンクのシフォンワンピースにベージュのジャケットを羽織っていて、柔らかい雰囲気を纏っている。 軽く夕食を済ませて、映画館に向かった。千景が見たかったのは洋画の恋愛もので、主人公が運命の相手と出会い、様々な障害を乗り越えて結ばれる物語だった。 映画が始まると、自然と指を絡め合って手を繋いだ。暗闇の中で千景の手が俺の手を強く握りしめ、温かい感触が手のひらに広がっていく。 千景から『兄さん、この前来たときに話ができなかったから』とメッセージが届いた時は、心臓を掴まれたような感覚を味わった。確かに、話をせずに感情のままに抱いて、翌朝には仕事があるからと千景が起きる前に実家を出ていった。『兄さん、本当に抱けない?』『抱けなくて困ってる。助けてほしい』 送信ボタンを押した瞬間、胸が苦しくなった。ちかと千景は抱ける。それ以外の女性は抱けない――と思う。恋人と別れてから、千景しか抱いていないから確信は持てない。それもまだ二回だけで、本当に千景だけなのか、自分でも分からない。 助けてほしいとメッセージを送ったのは、千景との関係を終わりにしたくないから。打算的な思考で送った。助けてほしいとお願いすれば、優しい千景なら俺を切り捨てられないと思った。 案の定、千景のほうから週に二回のレッスンと称したデートを提案してきた。俺の残業がない水曜日と金曜日の深夜。水曜日はデート中心で、金曜日は千景のバイト終わりに俺のマンションに来てくれるという。 映画を見終わって映画館を出ると、足が自然と駅方向へと向かっていった。「これで今夜は終わりか」と理解しているのに、別々の方向へと帰りたくなくて気が重くなる。 明日だって平日で、俺には仕事があるし、千景だって大学がある。明日のことを考えれば、デートを終わりにして家に帰宅するのが流れだ。 駅の構内に入る前、俺は繋いでいる千景の手を強く引っ張った。暗い柱の影へと連れ込み、壁に押し付
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