LOGIN従姉・長谷川萌衣(はせがわ めい)が、私・杉原美夢(すぎはら みゆ)のパソコンでラインにログインしたままになっていた。 私が代わりにログアウトしようとすると、画面にグループのメッセージ通知がポンと表示された。 【浩介の成績アップのお祝いとして、今夜はみんなで集まろう】 気になってそのグループを開いてみる。 メンバーは4人。 父、母、弟・杉原浩介(すぎはら こうすけ)、そして従姉。 弟が返信していた。【4人だけでいいよ。姉ちゃんは呼ばなくていい。 あいつ、すぐ細かいことを言うから。たかだかリンゴ1個のことで萌衣さんに意地張るなんてさ】 私は呆然とした。私なんてもう、この家ではすっかりよそ者なんだ。
View More私はバッグの紐をきつく握り、深呼吸した。「私は外でちゃんとやっているわ。仕事も順調だし、住むところだってある。心配しないで」「でも、お母さんはあなたが恋しいのよ!」私は返事をせず、病室を後にした。浩介が追いかけてきた。「姉ちゃん、戻ってきてよ。父さんも母さんも会いたがってる」私は鼻で笑った。「会いたい?私にまた、『物分かりのいい』娘に戻れってこと?」彼は言葉を詰まらせ、沈黙した。病院から出ると、日差しが眩しかった。スマホが震えた。千晴からのメッセージだ。【また大きな案件が来たわ。いつ戻れる?】私は返信した。【明日戻れるわ】その夜、ホテルの部屋のチャイムが鳴った。扉を開けると、両親が目を赤く腫らして立っていた。「美夢、中に入れてくれないか?」何も言わず、体を引いて部屋に招き入れた。二人は持ってきた果物を置き、なかなか口を開こうとしなかった。「萌衣ちゃんは、家を出ていったの」私は黙っていた。母が顔を上げて私を見た。再び涙で目が潤んでいる。「美夢、お母さんにも分かっているわ。まだ許せない気持ちがあるのよね。言わせてちょうだい。昔からずっと、愛情がなかったわけじゃないの……」私は彼女の言葉を遮った。「今さらそんなことを言って、何の意味があるの」母は泣き崩れた。「ごめんね、本当に、ごめんね……」私は淡々と母を見つめた。胸が痛むことも、胸がすくこともなかった。母はしばらく泣き続けたあと、意を決したように聞いてきた。「美夢、お母さんを許してくれる?」少し考えてから答えた。「分からないわ。いつかそう思えるかもしれないけれど、今は無理。私は今、自分の生活を大事にしたいだけ。部外者として扱われるのも、『物分かりのいい』都合のいい道具になるのも、もう嫌」母は小さく頷き、涙を拭った。「お母さん、待っているから。ちゃんと変わるから」私は何も答えなかった。翌朝早く、空港へ向かった。飛行機が離陸する時、窓の外に目をやった。雲の下、あの街が小さくなっていく。名残惜しさはなく、ただ肩の荷が下りたように軽かった。……千晴が迎えに来てくれた。私の表情を察して、彼女が言った。「行こう、仕入れ先が待っているわ」私は微笑んで言った。
彼女には、秘密を何でも知っている、「親友」がいた。ある男を巡って2人の仲が壊れると、その友人は彼女のこれまでのことを全部ネットにさらした。なんて皮肉なこと。私を追い詰めていた人間が、最後は自分のしたことで身を滅ぼしたのだ。母はそれを見て、ショックのあまり放心状態になった。母は萌衣にスマホを見せて、「これ、本当なの?」と尋ねた。萌衣は最初、「私のアカウントじゃない、誰かのなりすましだ」と否定した。でも、そのアカウントには彼女自身の電話番号が紐付いていたから、言い逃れはできなかった。母は、その場で泣き崩れた。母は激しく泣きながら、こう言った。「萌衣ちゃん、おばさん、あなたに良くしてこなかった?どうしてこんなことを……美夢はおばさんの実の娘なのよ。どうしてそんなことができるの……」萌衣も泣き出したけれど、今回はわざとらしさではなく、取り乱して泣き叫んだ。「おばさん、私はただ怖かったのよ!美夢さんがいるから、あなたたちに捨てられるんじゃないかって!」母は言葉を失った。「捨てられるのが怖いから、美夢を追い出したというの?美夢をベランダで寝かせて、持ち物を奪って、浩介との仲を引き裂いた……これがあなたの恩返しなの?」萌衣は笑った。「ただ妬ましかったの。どうして美夢さんには両親がいて、私にはいないの?私には何もないなんて、不公平じゃない。美夢さんばかりずるい、何もかも持っていて許せない」そばで聞いていた父は、顔を青ざめさせていた。浩介も、すっかり呆然としていた。彼は口を開きかけたが、結局これしか言えなかった。「萌衣さん……どうして……こんなことができるんだよ」拳を固く握り締め、何かを言いかけては飲み込んだ。萌衣のために、実の姉である美夢を蹴飛ばしたこと。美夢の口から血が出て、膝が傷ついていたあの日を思い出したからだ。その光景は今になって、胸を焼かれるような痛みとなって浩介に突き刺さった。母は泣き続け、ようやく枯れた声で父に尋ねた。「どうしよう。美夢が電話にも出てくれないの」父は答えない。父もまた、私と連絡が取れないでいたからだ。その数日間、家の中は大混乱だった。萌衣は部屋に引きこもったまま出てこなかった。母は一晩中リビングに座り込み、浩介は魂が抜けた
前までの私なら、悔しさに泣き出していたかもしれない。でも今は、滑稽にすら感じる。萌衣はいつもこれだ。先に被害者を装い、すべての非が私にあるかのように仕立て上げる。でも予想外だったのは、そのコメントの中に一つ、見覚えのある名前があったこと。母だった。母はそれが萌衣のサブ垢とは知らず、見知らぬ誰かの投稿だと思ったのだろう。そこにこうコメントしていた。【本当にその通りです。うちの娘は本当に聞き分けがなくて、あなたぐらい素直だったら良かったのに】その文字を見て、指先が凍りつくのを感じた。母の中で、私は本当にそんな人間だったのだ。スマホを置き、ベランダに出て長い間立ち尽くした。子供の頃、熱を出した時に母が一晩中私の側について、額のタオルを何度も替えてくれたのを思い出す。あの頃は、母の愛情は一生のものだと信じていた。後になって気づいた。愛情は移ってしまうものなのだと。1週間後、千晴が1000万円相当の大きな契約を取りつけてきた。クライアントの要望が急で、2人で二晩徹夜して準備に追われた。梱包作業中、手にできたまめが潰れてはかさぶたになり、刺すように痛んだ。それでも、なぜか地に足がついている気がした。自分で稼いだお金だし、誰の顔色をうかがう必要もない。千晴は利益を分ける時も気前がよく、きっちり半分にしてくれた。多すぎると言った私を、彼女はじろりと睨んだ。「多すぎるっていうなら、私に返せばいいじゃん」私は笑って、そのまま受け取ることにした。すべてが良い方向に向かっていると思った矢先、母が訪ねてきた。どこにいるかまでは知らなかったはずなのに、千晴のことは知っていたらしい。千晴に電話をして、娘に会いたいから住所を教えてほしいと、泣きながら頼み込んだのだ。千晴が私にどうするか聞きに来たので、こう伝えた。「千晴が困らないなら、知らないって言っておいて」千晴は頷くと、そのまま外へ出て行った。その後、母に何を伝えたのかは知らない。けれどそれ以降、母からの電話はかなり減った。そして間もなく、事態は急展開を迎えた。仕入れ先と価格交渉をしていると、突然千晴からリンクが送られてきた。そこには、【萌衣さんがSNSで話題になってるよ】と添えられていた。開いてみると、暴
私はスマホを握りしめ、黙っていた。母の声は涙声だった。「何か言いなさいよ!一体どこにいるの。今から迎えに行くから」私は淡々と答えた。「いいわよ。今、別の街にいるから、しばらくは帰らない」電話の向こうが数秒、静まり返る。それから、信じられないという母の声が聞こえた。「どういうこと?勝手に別の街へ行ったの?頭がおかしくなったの?女の子が一人で……」私は言葉を遮り、落ち着いた声で言った。「相談しているんじゃないの。ただ知らせているだけよ」母の声が突然甲高くなる。「美夢!今すぐ帰ってきなさい!何なのその態度は。たかが外食に連れて行かなかったくらいで、何を大げさにしてるのよ?」私は答えなかった。母は私が折れたと思ったのか、声を少し和らげた。「いいわよ、もう。戻ってきなさい。あなたの好きな煮込みハンバーグを作ってあるから。浩介だって悪かったと思ってるんだから。戻ってきて、家族みんなで仲良くしましょう」家族みんなで。私は苦笑いした。「お母さん、一つ質問してもいい?もし今日、浩介が誰かにボコボコにされて地面に倒れていたら、どうするの?」電話の向こうが黙り込む。「心が狭いとか、大げさだとか言うの?それとも、自分を殴った相手に謝れって言うの?」「美夢、浩介は……」私は目を閉じた。「答えはわかってる。切るね」電話を切った後、私は母の連絡先を着信拒否にした。その後3日間、スマホの電源を切り、仕事に没頭した。千晴のプロジェクトは事前に調べていたので、すぐに仕事に慣れた。千晴が仕入れを、私が商品の選定と運用を担当し、2人の連携は完璧だった。時々、千晴が何か言いたそうな目で私を見ていた。彼女は私の傷が、うっかりぶつけただけのものではないと見抜いている。それでも彼女は、私が話したくなったら話すだろうと、待ってくれていた。4日目、私はスマホの電源を入れた。父から知らない番号で電話がかかってきた。彼は疲れた声で言った。「美夢、お母さんは何日も眠れていないんだ。少しは気遣ってやれないのか?」気遣う?またその言葉だ。私は言い返した。「気遣いはお互い様でしょ。2人は私を気遣ってくれたことがある?」父はもっともらしく言い返した。「俺たちのどこが、お前を