性悪婚約者に見世物にされた私を連れ去ったのは、黒い噂の財閥会長でした

性悪婚約者に見世物にされた私を連れ去ったのは、黒い噂の財閥会長でした

last updateآخر تحديث : 2026-06-15
بواسطة:  東雲桃矢تم تحديثه الآن
لغة: Japanese
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高級ブランドデザイナーの百合は、仕事で成功している上に、政略結婚予定の婚約者・矢絃とも順調に愛を育んでいた。お腹の中には彼との赤ちゃんもいて順風満帆。 そんな幸せを壊したのは、送り主不明の手紙。封筒の中には愛する矢絃が、女性とラブホテルに出入りしたり、キスしたりしている写真。ショックで倒れ、流産してしまう。 そんな百合に追い打ちを書けるように暴言を浴びせる矢絃。百合は別れを切り出したが、弱みを握られているため、矢絃に従うしかない。 矢絃の命令で晩餐会に出席すると、見世物にされてしまう。そんな百合を会場から連れ出したのは、裏社会との繋がりを噂されている財閥会長で……!?

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الفصل الأول

1話

 平日の昼下がり。スーツを着こなした女性が、長い黒髪をなびかせながら高級住宅街を歩く。彼女の名は宝生百合。有名ブランドのデザイナーとして成功した上に、大企業の副社長という肩書をもつ優しくて顔のいい婚約者がいる。

 セレブが多いこの高級住宅街の住人に身近な成功者を聞いたら、多くの人が彼女の名前をあげるだろう。百合は元々、高級住宅街に住めるような身分ではない。富裕層とは縁のない一般家庭で産まれ、物心付く前から、母とふたり暮らしをしていた。

 熊谷矢絃《くまがいやいと》という肩書も顔も完璧な男と婚約し、高級住宅街に住むようになった。彼とは政略結婚の予定ではあるが、矢絃は百合を大事にしてくれている。最近妊娠が発覚すると、少し鬱陶しく感じるほど過保護になった。

 誰もが百合を、「シンデレラのようだ」と羨ましがった。そんな百合が昼下がりに自宅に向かっている理由は、よくある話だ。仕事で急遽別の資料が必要になり、その資料を取りに帰路を歩いている。

 豪邸に着くと、百合はポストを確認する。昔から帰宅したらポストを見るのがクセなのだ。

「あら?」

 時間的にまだ何も入っていないだろうと思っていたが、1通の手紙が入っていた。不思議に思いながらも手紙を手に取る。どうやら百合宛のようだが、封筒に書かれているのは百合の名前のみで、送り主の住所や名前も書かれていなければ、切手も貼られていない。どうやら誰かが、直接ポストに入れたようだ。

「何かしら?」

 手紙の割には少し重さがある。それに、少し固い。入っているのは便箋の類ではないらしい。

 気になってその場で開封してみると、裏返しの写真が何枚か入っている。

(誰かが自分でデザインしたものでも入れたのかしら?)

 天才デザイナーと呼ばれるようになった頃から、デザイナー志望の人間が自分でデザインしたバッグや財布などのサンプルやラフ画、写真を送ってくるようになった。大半が百合がいる会社か、商品を取り扱っている店舗に送られてくる。

 自宅に送られてきたのは初めてだが、交流をしてみると、デザイナーや芸術家を夢見ていた女性がそれなりにいる。きっと彼女達の中の誰かがポストに忍ばせたのだろう。

 写真をめくり、頭が真っ白になった。そこに写っていたのは作品の写真ではなく、矢絃だった。写真の中の矢絃は、金草マキという女性と腕を組み、ラブホテルに入っていく。

 金草マキは社長令嬢で、芸術大学時代の同級生だ。自分が1番でないと気がすまないマキは、いつも教授に褒められ、特別講師として来た現役デザイナーにも認められる百合を毛嫌いし、嫌がらせをしてきた。

 大学を出て会うこともないと思ったが、矢絃と交際して社交界に顔を出すようになると、そこで再会し、会う度に嫌味を言ってきたり、足を踏んできたりする。挙句の果てにはこけたふりをして、食べ物や飲み物を百合にかけてきたりもした。

 それだけでは飽き足らず、人気ブロガーでもあるマキは、ブランド品辛口レビューブログで、百合がデザインした商品を貶したり、パクリだと書いたりしている。

 矢絃はふたりの因縁を理解し、百合の味方だと言ってくれた。実際、会場でマキを見つけると、遭遇しないように離れたところへエスコートしてくれたりもした。

「なんで? どうして?」

 見たくないと思っても、写真をめくる手が止まらない。写真はどれも残酷な不貞行為を写している。路地裏や居酒屋でキスしている写真や、社内の会議室や休憩室などで性行為をしている写真もあった。

(なんで、よりによってマキとなんて……)

「ぐうっ!」

 ショックで真っ白になった百合を現実に引き戻したのは、尋常ではないほどの腹痛。手から滑り落ちた写真は地面に落ち、その上に倒れ込んでしまった。

「い、いたっ……。ああっ!」

「ちょっと、大丈夫!?」

 痛みに悶絶していると、買い物で通りかかった中年女性が買い物袋を投げ出して百合の元に駆け寄る。

「お腹が、赤ちゃんが……!」

「子供がいるの!? 待ってて、すぐ救急車呼ぶから!」

 女性はカバンからスマホを出し、救急車を呼ぶと、投げ出した買い物袋からミネラルウォーターを出す。

「飲めそうなら飲んで。大丈夫、救急車すぐに来るからね!」

 女性は救急車が来るまで、百合のそばにいてくれた。

(矢絃さん、どうして……。よりによって、マキとだなんて……)

 脳裏によぎるのは、先程見た写真の数々。救急隊員の呼びかけには上の空で、絶望しながら病院に搬送される。

 大学病院に運ばれると、治療を施され、病室のベッドに運ばれる。頭の中は不貞行為のことでいっぱいで、どんな治療を施されたのかはほとんど記憶にない。

 無気力で天井を見つめていると、医師が入ってきた。

「残念ながら、流産です……」

「そんな……!」

 百合にとって、お腹の中の赤ちゃんは希望だった。その希望が絶たれ、ショックで過呼吸になる。医師は看護師を呼び、吸入器を使って呼吸を落ち着かせてくれる。

「しばらく、安静にしていてください。なにかあったら、ナースコールを押してくださいね」

 医師はそれだけ言うと、病室から出ていった。

(赤ちゃんが、もういない……)

 流産という言葉と事実が、百合に重くのしかかる。受け入れられずに、動くことすらできない。

 廊下からガシャン! と派手な物音が聞こえ、我に返る。

「もう、気をつけなさいよ」

「すいません」

 新人がやらかしたと想起させる会話が聞こえてくる。

「連絡、しなきゃ……」

 サイドテーブルに置いてあったスマホを手に取ると、矢絃に電話をかける。彼はすぐに電話に出た。

「もしもし、百合? こんな時間にかけてくるなんて珍しいね。どうしたんだい?」

 いつもの優しい声は、今では凶器でしかない。この声でマキにも愛を囁いていたと思うと、胸が張り裂けてしまいそうだ。

「矢絃さん、私、私……!」

「百合? 落ち着いて。何があった? 今、どこにいる?」

「大学病院に……」

「なんだって? 赤ちゃんは、無事なのか?」

 赤ちゃんという言葉に、息が詰まる。流産を伝えたら、彼はどんな反応をするのだろう?

(怖い……)

 それでも、伝えなくてはいけないと分かっていた。不貞行為を問い詰めるためにも……。

「私、流産したの……」

「情けない女だ」

 返ってきたのは嘲笑うような声。その声に怒りが込み上げてくる。

「情けないですって!? 私がどうして流産したと思う!? あなたがマキと不倫してる写真を見たせいで……!」

「写真だと? くだらん。そっちには行ってやる。それまでに冷静になって、本当に悪いのは誰か考えるんだな」

 電話は一方的に切られてしまう。百合はベッドに身を預けた。ただでさえ心も体もボロボロなのに、怒りをぶちまけたせいで余計に悪化したような気がする。

「どうして。こんな……」

 百合は空になった腹部に手を添え、静かに涙を流す。

 30分も経たないうちに、矢絃が来た。彼は病室に入るなり、百合を平手打ちする。

「いっ……! くぅ……!」

 叩かれた頬は、痛みの後にじんわり熱を持つ。

「何が俺とマキのせいだ! お前が弱いから流産したんだろうが! 俺とマキに責任転嫁するな。この恥知らずが」

「なんですって……!」

 暴言を吐き捨てられ、再び怒りがこみ上げる。矢絃の言い分はあまりにも身勝手だ。彼が不貞行為などしなければ、百合は幸せのまま過ごせたし、赤ちゃんを失うこともなかったのだから。

「お前も、お前の母親も、うちに養われている身だ。自分の立場をよくわきまえろ」

 その言葉に、百合は唇を噛みしめる。あの豪邸に住めるのは、彼の言う通り矢絃のおかげではある。押し黙る百合を見て、矢絃は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。怒りが頂点に達した百合は、口を開く。

「あなたと別れる! 婚約解消よ。慰謝料も請求するわ。結婚してなくても、婚約関係にあるなら、請求できるんだから!」

 百合が婚約解消を言い渡しても、矢絃は笑ったまま。

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 平日の昼下がり。スーツを着こなした女性が、長い黒髪をなびかせながら高級住宅街を歩く。彼女の名は宝生百合。有名ブランドのデザイナーとして成功した上に、大企業の副社長という肩書をもつ優しくて顔のいい婚約者がいる。 セレブが多いこの高級住宅街の住人に身近な成功者を聞いたら、多くの人が彼女の名前をあげるだろう。百合は元々、高級住宅街に住めるような身分ではない。富裕層とは縁のない一般家庭で産まれ、物心付く前から、母とふたり暮らしをしていた。 熊谷矢絃《くまがいやいと》という肩書も顔も完璧な男と婚約し、高級住宅街に住むようになった。彼とは政略結婚の予定ではあるが、矢絃は百合を大事にしてくれている。最近妊娠が発覚すると、少し鬱陶しく感じるほど過保護になった。 誰もが百合を、「シンデレラのようだ」と羨ましがった。そんな百合が昼下がりに自宅に向かっている理由は、よくある話だ。仕事で急遽別の資料が必要になり、その資料を取りに帰路を歩いている。 豪邸に着くと、百合はポストを確認する。昔から帰宅したらポストを見るのがクセなのだ。「あら?」 時間的にまだ何も入っていないだろうと思っていたが、1通の手紙が入っていた。不思議に思いながらも手紙を手に取る。どうやら百合宛のようだが、封筒に書かれているのは百合の名前のみで、送り主の住所や名前も書かれていなければ、切手も貼られていない。どうやら誰かが、直接ポストに入れたようだ。「何かしら?」 手紙の割には少し重さがある。それに、少し固い。入っているのは便箋の類ではないらしい。 気になってその場で開封してみると、裏返しの写真が何枚か入っている。(誰かが自分でデザインしたものでも入れたのかしら?) 天才デザイナーと呼ばれるようになった頃から、デザイナー志望の人間が自分でデザインしたバッグや財布などのサンプルやラフ画、写真を送ってくるようになった。大半が百合がいる会社か、商品を取り扱っている店舗に送られてくる。 自宅に送られてきたのは初めてだが、交流をしてみると、デザイナーや芸術家を夢見ていた女性がそれなりにいる。きっと彼女達の中の誰かがポストに忍ばせたのだろう。 写真をめくり、頭が真っ白になった。そこに写っていたのは作品の写真ではなく、矢絃だった。写真の中の矢絃は、金草マキという女性と腕を組み、ラブホテルに入っていく。 金草
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2話
「何がおかしいの? 言っておきますけどね、私ひとりの稼ぎでも、母とやっていけるのよ」 更に言葉を続けるも、矢絃の勝ち誇った顔が崩れることはない。「出て行くだと? お前の母親は終身サービス契約にサインしている。違約すれば8千万だ」「8千万!? どういうこと……!?」 母の藤子は、矢絃が副社長を務める会社で清掃員として働いている。母は常々、「今の生活があるのは熊谷さんのおかげなんだよ」と言っていた。百合はてっきり、母は矢絃が自分を雇ってくれたことに感謝しているのかと思っていた。(そういえば、最近そういう言葉聞かなくなった……)「聞いてなかったのか? お前の母親が、契約書をまともに読まなかった話」 そう言って矢絃は、契約書のコピーを見せる。契約書には、藤子は熊谷の会社で清掃員として働き、家では使用人として働くこと、百合と矢絃を結婚させること。その代わり熊谷は、宝生親子の生活を保証し、父が大事にしていた会社を守ると書かれている。これは百合も知っていることだ。 百合の父・誠二は、藤子の父、つまり、彼の義父が作ったジュエリーブランド・エテルネルを守っていた。だが、誠二が亡くなると、会社を守れる者がいなくなってしまった。社員達は経営の知識を持っていなかったのだ。藤子は専業主婦で働いたことがない。このままではエテルネルは潰れてしまうと危惧していた時に現れたのが矢絃の父親だった。(この人は、母さんが契約書をよく読まなかったって言った……。ということは、なにかあるはず……!) 目を凝らしてよく見ると隅に蟻よりも小さな文字で、無償労働すること、従わなかった場合、違約金8千万円と書いてある。しかも色は見づらい灰色だ。悪意を感じる。 こんな文字、藤子に読めるわけがない。「こんなの詐欺じゃない!」「ちゃんと読まなかったのが悪い。それに、お前との婚約は、公式発表していない。知ってる人間も身内だけだしな」「あなたには、人の心がないの!?」「黙れ。お前には選択肢も拒否権もない。母親がどうなってもいいっていうのなら、話は別だがな」「なんですって?」「来週、晩餐会がある。お前は必ず出席しろ。皆の前で、マキが俺の婚約者だと宣言してやる」「あなたって人は……!」 コピーを持っていた手に力が入り、穴が開く。それでも百合の怒りは収まらない。「出席して、お前も俺に従うと誓
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3話
 晩餐会当日、高級ホテルにあるきらびやかな会場には多くのセレブがいる。百合は暗い気持ちで壁の花を決め込む。 成功したデザイナーとはいえ、セレブの仲間入りを果たしたわけではない。矢絃がいなければ、このような場にはいられないだろう。(こんなところ、願い下げよ) 百合は矢絃から送られてきた日程を伝えるメールを思い出し、心の中で吐き捨てる。メールには日時と会場と、「本来はお前ごときが参加していい場ではない。晩餐会に出られること、感謝するんだな」という一文が添えてあった。 あれから矢絃はマキの家にでも転がり込んでいるのか、帰ってこず、母の藤子と数人の使用人と奇妙な同居生活をしていた。 藤子に契約書のことを聞きたかったが、流産のショックで聞く余裕がなく、仕事に打ち込んでいた。そのせいで藤子と距離が出来てしまった。(はやく終わらないかしら) 腕時計を見るが、時間は会場に着いてから17分しか進んでいない。時間の進みの遅さにイライラしていると、足音が近づいてくる。顔を上げると矢絃とマキが、性格の悪さが滲む顔でこちらに向かって歩いてくる。「あらぁ、ブランドデザイナーのくせに、安っぽいドレス。TPO知らないの?」 マキはそう嘲笑うが、百合が着ているシックなネイビーのドレスは、高級ブランドのものだ。マキが着ているのも高級ブランドではあるが、子供が好むような青みピンクで、フリルが多く、おゆうぎ会にでも着るようなドレスに見える。このドレスはデザイナーの間でも、ネットでも悪い意味で有名だ。 「でっかい園児用」とか「こんなの選ぶ人いるの?」と言われているようなもので、こういった場に着ていくものではない。 ブランド評価ブログをしているマキなら知ってるはずだ。百合の視線に気づいたのか、マキはドヤ顔をしてくるりと回る。「言いたいことは分かるわ。けど、どんなドレスもあわせる小物やメイクで変わるの」 そうは言っても、会場にいる人々は、こんなにフリフリのついたロリータに近いドレスなど着ていない。TPOについてマキに言われるのは心外ではあるが、言い返す気力などない。 黙って視線を少しずらしていると、矢絃が舌打ちした。「お前ごときが無視していい相手じゃないぞ。まぁいい。今日は晴れ舞台だ。お前はそこで見てるといい」 そう言ってふたりは壇上に上がっていく。もう矢絃には愛情も未練も興味
last updateآخر تحديث : 2026-06-13
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4話
 百合は秋明のオーラに圧倒され、言われるがままにキスをしてしまう。「あの女、妻夫木さんにキスをしたぞ!」「どういうことなの!?」 会場はどよめき、矢絃とマキは呆然としている。秋明は更に百合を抱き寄せ、人々に振り返る。「この女性は宝生百合といって、最近噂になっている高級ブランドのデザイナーであり、俺の婚約者でもある。そこの副社長のストーカーなどしていない」 秋明の言葉に、会場は更にどよめく。百合は何がなんだか分からず、固まっている。「なんだ、お前は! コイツに何をした!? お前もお前だ! 男だったら誰でもいいのか? このアバズレが!」 顔を真っ赤にして怒った矢絃が、ふたりの間に割って入り、秋明の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす。「俺に手を出す前に、お前の父親が俺と敵対できるか、先に確かめてこい」「くっ、この……!」 矢絃は悔しそうに睨むも、舌打ちをして手を離す。 場の空気が一気に重く沈み、息苦しくなってきた。「お部屋の用意ができました。こちらへ」 スーツを着た童顔の青年が、この場とはあまりにも不釣り合いな笑顔で話しかけてくる。(だ、誰、この子……。いったい、どうなってるの?)「行くぞ」 秋明は頭の中がハテナでいっぱいの百合の手を掴むと、青年の案内で会場から出る。百合はそのままついていくしかなかった。 静かな廊下を進んでいると、少しずつ冷静さが戻って来る。百合は先導して歩く青年に目を向ける。後ろ姿で顔は見えないが、男性にしては低いように見える。「あ、あの、あなたは? というか、いったい何が……」 思い切って青年に声をかけると、彼は振り返って愛らしい笑顔を見せた。「私は小田巻紫苑《おだまきしおん》と申します。紫苑とお呼びください。詳しいお話は、お部屋でしましょう」「でも……」「お前は大人しく着いてくればいい」 他にも聞きたいことがあるが、秋明のオーラに圧倒されて何も言えなくなってしまった。 黙って紫苑についていくと、エレベーターに乗ることに。エレベーターは途中で止まることなく、最上階まで来た。(この階、スイートルームしかないんじゃ……) 困惑していると、紫苑は1室の鍵を開け、ドアを大きく開いてふたりが入りやすいようにしてくれた。 予想通りスイートルームで、広々とした部屋には高級な調度品が置かれている。「座れ」「は、はい
last updateآخر تحديث : 2026-06-15
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5話
 百合は疲れ切った顔で家に帰る。あの後、秋明と情報を共有していて遅くなってしまった。彼は百合が矢絃の家に住んでいると知ると、新しい家を用意するからすぐに出られるようにしろと言っていた。 これは百合にとって嬉しい話だ。1秒でもはやく、この家から出たいと思っている。(色々話したいけど、母さんはもう、寝てるだろうな……) 腕時計を見ると、もう12時になろうとしている。早朝から仕事がある母はきっと寝ているはずだ。(私も、シャワー浴びてはやく寝よう……) 自室に戻ることを考えながら玄関の前に立つと、ドアが開いた。「母さん……!」「おかえり、百合」 パジャマにカーディガンを羽織った母・藤子が玄関を開けて出迎えてくれた。「母さん、起きてたの?」「矢絃さんが、他の子を婚約者として発表するって言ってるのを聞いてしまったの。そんなこと聞いたら、心配で眠れないわ」 藤子は力なく笑う。その笑みが百合の胸を締め付けた。「母さん。私達、近いうちにここを出ることになるわ」「どういうこと?」「詳しい話は、私の部屋でしましょう」 百合は家の中を見回す。寒々しい廊下には誰もいないが、どこで他の使用人達が耳をそばだてているか分かったものではない。「お母さんは先に部屋で待ってるから、お風呂入ってきなさい。着替えも用意してあるから、そのまま行って」「ありがとう、母さん。カバン、お願いね」 百合はカバンを藤子に預けると、浴室に向かった。温かい風呂に入ると、緊張して固まっていた心と体がほぐれていく。気に食わない男の家であることが腹立たしいが、足を伸ばして入れる浴槽が、百合を回復させた。 風呂から出ると、髪をざっと乾かして部屋に戻る。藤子が冷たいお茶を用意して待っててくれた。「喉渇いてるでしょ?」「ありがとう、母さん」 お茶を半分飲み干すと、冷たい液体が胃に落ち、体内が潤っていく感じがする。お茶を注ぎ直してテーブルを挟んで母の向かいに腰を落ち着ける。「実はね……」 百合は藤子に今日の出来事を説明した。矢絃がマキと婚約発表したこと、秋明が2年の契約結婚を持ちかけたこと。そしてその条件で藤子が自由になること。「私、この話に乗ろうと思う」「百合! ダメよ、そんなこと……」「どうして!? このままじゃ母さんは、一生あの人達の言いなりじゃない!」「それでいいの。百合
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