LOGIN同窓会で、私・長瀬恵茉(ながせ えま)は彼氏に頼まれた用事を済ませて席へ戻った。 だけど、さっきまで私が座っていた場所には、もう親友の清水優奈(しみず ゆうな)が座っていた。 私のグラスも取り皿も片づけられ、新しい食器が並べられている。 まるで、最初から私なんてそこにいなかったかのように。 私に気づいた優奈が立ち上がろうとした、その瞬間―― 竹内英二(たけうち えいじ)は彼女の肩を軽く押さえた。 「どうせ俺たちが事件の話をしても、彼女にはわからないし。ここにいても愛想笑いするだけだから」 その場にいた誰一人として口を挟まなかった。 みんな知っている。 あの頃、家の事情で私は大学を中退せざるを得なかったことを。 大学時代、彼と優奈は法学部きっての名コンビだった。 数々の難事件を力を合わせて解決し、「最強のバディ」と呼ばれていた。 卒業後も二人はそろって一流法律事務所へ。 法曹界のエリートとして華々しい道を歩んでいる。 一方の私は―― 彼氏のコネでようやく事務所に入れてもらった、ただの雑務係。 私はその場に立ち尽くしたまま、何も言えなかった。 英二は私が買ってきたタバコを何気なく受け取ると、当然のように言った。 「優奈がジュース飲みたいって。悪いけど、買ってきてくれる?」 そう言いながら、一度も私を見ることはなかった。 すぐに彼はまた優奈との会話へ戻り、楽しそうに事件について語り合う。 二人の笑い声で満ちたその空間の中で―― 私は、ふいに疲れてしまった。 どれだけ必死に手を伸ばしても届かなかった人。 もう、その背中を追いかけるのはやめようと思った。
View More白い花びらが床一面に舞い落ちる。まるで、その瞬間だけ時が止まってしまったかのようだった。英二の顔から笑みが消え、残ったのは気まずさだけだった。「恵茉……そんなに俺のことが嫌いになったのか?君を探していたこの間ずっと、毎日が苦しかった。まるで人生そのものから意味がなくなってしまったみたいだった。だから、どうしても君を見つけて連れ帰りたかったんだ」私は花束を包む手を止めることなく、一度も彼を見ようとはしなかった。「言ったはずよ、私はあなたとは帰らないわ。これからはあなたはあなたの人生を、私は私の人生を生きる。それでいいじゃないの。お互い、もう干渉しないで」「恵茉!」ついに我慢できなくなった彼は、私の手首を強くつかんだ。「だったら俺と帰ってくれ!君は約束したじゃないか。俺と結婚するって!」私は力いっぱいその手を振りほどき、眉をひそめた。「英二。いつからそんなに子どもっぽくなったの?別れるって、どういう意味か分からない?私はやっと、自分の人生を取り戻したの。もう私を放っておいて」その言葉は彼の胸を深く刺したのだろう。伸ばしかけた手が、宙で止まった。「恵茉……そんなこと言わないでくれ。君を誤解していたのは俺だ。優奈が君を陥れて、弁護士としての未来まで奪ったことも分かってる。本当に悪かった。もう二度と同じことは起こさせない。だから……許してくれないか」あまりにも軽いその一言で、失ったすべてを取り戻せるとでも思っているのだろうか。私は思わず苦笑した。「あなたが誰と一緒にいようと、もう私には関係ない。親友も、恋人も、もういらない」その言葉に、英二は完全に言葉を失った。店に入ってくる客たちに押され、彼は入口の脇へと追いやられていた。それでもその場を離れず、ただ私を見つめ続けていた。私は最後まで彼を気にすることなく、黙々と仕事を続けた。やがて夕方になり、花屋は閉店の時間を迎えた。片づけを終え、店を閉めようとしたそのとき――英二が袋を提げて入ってきた。「お腹、空いただろ?君の好きだったコロッケを買ってきたんだ。温かいうちに食べてくれ」まるで、何も起きていなかったかのようだった。けれど、私は知っている。目の前にいる彼は、もう
十年近く暮らした街を離れ、私は未知の旅へと踏み出した。あの頃の私は、英二の起業をずっとそばで支えていた。彼の法律事務所が少しずつ大きくなっていく姿を見守りながら、その裏では毎晩遅くまで勉強を続け、ようやく憧れだった弁護士資格を手に入れた。これでやっと、英二の隣に立てる。彼にふさわしいパートナーになれる――そう信じていた。でも、現実は違った。どれだけ頑張っても、私は彼には追いつけなかった。彼の隣で一番輝いているのは、いつだって優奈。私はただ、その二人を引き立てる背景でしかなかった。旅に出てからは、さまざまな景色を目にした。見知らぬ街を歩き、季節の風を感じるたびに、胸に積もっていた苦しみも少しずつ遠ざかっていくようだった。その間も、英二から時折メッセージが届いていた。――お前とよく行った高級レストランに、優奈と行った。――優奈は解雇した。直接会って謝りたい。――最近ずっと苦しい。頼む、一度だけ会ってくれないか。でも、私は一度も返信しなかった。新しく変えた番号も、そのたびにブロックした。もう彼は、私が追いかける星ではない。そんなある日、小さな民宿に滞在した私は、女将さんが営む花屋を手伝うことになった。「あなた、お花が好きなのね」女将さんは穏やかに微笑んだ。「はい」私は小さくうなずいた。「昔から、自分の花屋を持つのが夢だったんです。でも、結局一度も叶えられなくて」「どうして?」その問いに、私は少しだけ遠くを見た。家の会社が倒産寸前になったあの日。父が私のために開いてくれた花屋も、店を畳むしかなかった。そのとき、英二が私に手を差し伸べてくれた。「俺と一緒に弁護士になろう。君ならきっとできる」その言葉だけを信じて、私は彼の背中を追い続けた。いつか肩を並べられる日を夢見ていた。だけど――気づけば、その道はあまりにも遠く続き、私はいつの間にか、自分が進むべき方向さえ見失っていた。「だったら、ここに残ってみない?」女将さんの優しい声が、私を現実へ引き戻した。「私ももう歳だからね。若い人に任せたいの。店を手伝ってくれるなら、お給料もちゃんと払うわ」「……本当にいいんですか?」思わず声が弾む。「もちろんよ」その日から私は、
そのときになって初めて、英二は恵茉の退職届に目を落とした。日付は、ちょうど同窓会があったあの日だった。あの日、酒に酔って廊下へ彼女を探しに行ったとき、彼はかすかに彼女がこう言うのを聞いていた。「彼には知らせないでください」――あの時にはもう、恵茉は辞める決心をしていたのか。だが、一体なぜ?自分が彼女に雑用を頼んだからか。それとも、優奈が彼女の席を勝手に使ったからか。しかし、どれも普段ならよくあることだった。英二は痛む体を無理やり支え、優奈の執務室へ向かった。だが、部屋の中から誰かと話している声が聞こえてきた。「清水先生、依頼人がものすごく怒っています。まさか、あの程度の案件で負けるなんて思ってもいなかったそうです。でも本当に不思議ですよね。先生の実力なら、あの裁判は勝って当然だったはずなのに」それを聞いた優奈は、鼻で笑った。「賠償金がいくら必要なのか、金額を出して。穴埋めは私がするわ」職員が困惑した表情を浮かべると、彼女は続けた。「全部、みんなのためなのよ。長瀬って、本当に要領が悪いでしょ。竹内所長のおかげで事務所に入れただけなのに、雑用をしてるだけでお給料をもらってる。みんなだって、あの子のこと嫌ってたじゃない?でももう大丈夫。あの子は事務所を辞めたし、これでみんな平和になれるわ」もともと彼女を支持していた職員は、何度もうなずいた。「なるほど、そういうことだったんですね!私も前から気に入らなかったんです。コネだけで入ってきた、典型的な縁故採用ですから!」だが、その悪口は途中でぴたりと止まった。視線の先――扉の前に立つ人影を見つけたからだ。「し……所長……」優奈は慌てて立ち上がる。顔から一気に血の気が引いていった。「英二?どうして急に……さっきの話、聞いてたの……?」「ああ、全部聞いた」英二の声は、氷のように冷たかった。一歩、また一歩と彼女へ近づく。その瞳は、底知れない闇を宿している。「全部、お前が仕組んだことだったのか……本当に大した役者だな」優奈は慌てて言い訳を並べた。「わ、私は事務所のためを思ってやっただけよ。みんな恵茉に不満を持ってたし、私は親友として、あの子が陰口を叩かれるのを見たくなかっただけなの」隣にいた職員も、慌ててうな
【英二。私たち、終わりにしよう】英二はスマホを拾い上げ、その一文をじっと見つめ続けた。最近の恵茉はいったいどうしてしまったのか。少し気に入らないことがあるたびに、「別れる」と口にする。胸の奥の不安を押し殺しながら、彼はメッセージを打った。【もう意地を張るのはやめないか?お前の大好きな高級レストランを予約してある。今どこにいる?早く電話に出てくれ】送信ボタンを押した、だが、何分待っても既読はつかない。――恵茉にブロックされていた。英二は呆然と立ち尽くし、眉を深くひそめた。そのとき、優奈が歩み寄り、彼のスマホ画面をちらりと見た。「英二、最近の恵茉、本当にひどくない?どうしてあなたにそんな態度を取るの?せっかく彼女のためにお気に入りのレストランまで予約したのに、感謝どころか相手にもしてくれないなんて」そう言われるほど、英二の中では恵茉への苛立ちが募っていく。彼女のために苦労して受付の仕事を見つけ、機嫌を取ろうとあれこれ気を配ってきた。それなのに返ってきたのは、冷たい「終わりにしよう」の一言だった。「私たちが甘やかしすぎたのよ。お姫様みたいに扱ってきたから、どんどんわがままになっちゃった」英二は疲れたように眉間を押さえた。優奈は彼をオフィスチェアに座らせ、肩を優しく揉んであげた。「でも、どうする?あの子のわがままは今さら治らないでしょ。……それより、せっかく予約した高級レストランがもったいないな。実は私もあそこ、好きなんだけど」さっきまで心がぐちゃぐちゃだった英二は、その一言に思わず苦笑した。「彼女が来ないなら、俺たち二人で行こう」レストランへ向かう車の中でも、優奈は仕事の進捗を楽しそうに話し続けていた。その一方で英二は、何度もスマホを開いては恵茉とのトーク画面を更新していた。だが、相変わらず未読のままだ。とうとう我慢できなくなった彼は、別の携帯からショートメッセージを送った。【お前が来ないなら、優奈と二人で食べるからな。あとで後悔しても知らないぞ】それでも返事はなかった。レストランに着くと、スタッフがメニューを差し出した。英二は上の空のまま適当に指をさした。その瞬間、スタッフの笑顔がぴたりと固まる。彼が指していたのは料理ではなく、メニューに印刷された店の
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