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第3話(16)

Aвтор: 北川とも
last update publish date: 2025-10-28 21:00:10

「待たせたな」

 賢吾が口を開き、和彦は促されるまま並んでソファに腰掛ける。それを待って男も座り直し、傍らのアタッシェケースに手をかけた。それを見て、クリニックの手続きに関することだろうかと予想する。しかし、そうではなかった。

 男は封筒を取り出して賢吾に手渡してから、和彦には、名刺入れから取り出した名刺を差し出してきた。

「――総和会での事務処理全般に当たっている藤倉ふじくらです。今後、何かと佐伯先生とお会いする機会もあると思いますので、よろしくお願いします」

 藤倉と名乗った男がまた深々と頭を下げたので、つられて和彦も頭を下げたが、すぐに意識はもらった名刺へと向く。

 何かの植物の葉らしきものに、『総』という字が囲まれている代紋と、総和会という名が確かに記されていた。男の肩書きは正式には、文書室筆頭というらしい。

「『総』の字を囲むのは、十一枚の葉です。ただし、一番上にある葉だけは、形が大きいことにお気づきですか? あとの十枚の葉の大きさは同じ。総和会とは、そういう組織です。そして現在のところ、一番大きな葉を持
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    **** 普段であれば、どこか粛然とした空気が漂い、騒々しさとは無縁である総和会本部が、和彦が足を運んだこの日は様子が違った。 いつもとは違う駐車場へと回されたときから、おやっ、と思ったのだが、車から出た途端、空気を震わせるような重々しい音が聞こえてくる。 一体何事かと周囲に視線を向けていると、わざわざ出迎えにきてくれた吾川が傍らに立った。「申し訳ありません、佐伯先生。うるさくしていて」「いえ。……何をやっているのか、聞いてもいいですか?」 その問いかけに重なるように、敷地への人や車の出入りを厳重に監視している出入り口の門が、左右に大きく開け放たれる。入ってきたのは二台のダンプカーだった。意外な車両の登場に、和彦は目を丸くする。「今、テニスコートを潰して、整地をしている最中なんです。けっこうな広さがあるので、何か有効利用できないものかと、この施設を買い取ったときから話は出ていたのですが、ようやく計画が進み始めまして」「ああ、そういえば、前に会長がそんなことを話されてました。若い人たちが詰められる建物でも作ろうかと……」「長嶺会長は、もっと早くに工事に取り掛かりたかったようですが、場所が場所ですから、慎重な準備が必要なのです。いきなり工事車両が出入りするようになると、周辺の住人の方が不安がりますし、警察も、ここをさらに要塞化するのではないかと勘繰って、あれこれ詮索してくる可能性が高いですから」「……つまり、根回しをしていた、ということですか?」「そういうことです」 吾川が頷き、和彦も一応納得したものの、内心では口にするのもはばかられる疑問を抱いていた。 普通の工事に取り掛かるときでも、周辺の住人に粗品などを持って挨拶回りをすることがあるが、では、世間に悪名を轟かせる総和会の場合はどうなのか。地域社会に溶け込んでいると謳ってはいるが、総和会の人間が粗品を持って挨拶に回っている姿は、容易には想像がつかない。まるで、性質の悪い冗談のようだ。 そんなことを考えながら、いつ

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     龍造がきっぱりと言い切り、低く声を洩らして笑った。人によっては不快と感じる笑いかもしれないが、和彦は、奇妙な既視感に襲われる。何かと思えば、和彦にとっては馴染み深い、〈オンナ〉と関係を持つ男特有の、悪意のない傲慢さを、龍造からも感じ取ったのだ。 龍造の理屈に危うく流されそうになり、寸前のところで弱々しく抗弁する。「それは……、伊勢崎さんの話で、玲くんの場合とは違うはずです」「違わない。俺たちの理屈ではな。玲についても、あいつは事情を知ったうえで、自分の意思で〈オンナ〉に手を出した。悪いオヤジである俺は、そのことを利用しようとしている。現に、あんたが断れないことをわかっていて、こうして呼び出した。一度繋がった縁を断ち切らないようにな。だから佐伯先生、あんたは罪悪感なんてものを感じる必要はない。性質の悪い父子と縁を持っちまったと、むしろ舌打ちしてもいいぐらいだ」 どう返事をするべきかと、戸惑いながら御堂を見ようとして、すかさず龍造に言われた。「言っておくが、見かけによらず、秋慈も食えない奴だぞ。俺の気質を十分知ったうえで、それでもあんたを誘ったんだ。こいつも、あんたを利用する気満々ってことだ」 龍造の言葉を肯定するように、御堂の横顔に一切の表情はなかった。和彦なりに、御堂のしたたかさは知っているつもりで、自分と同類というのもおこがましい。御堂は、極道として生きている男なのだ。 ふっと息を吐き出した和彦は、ようやく表情を和らげる。「はい、罪悪感は捨てました。理由もわからないまま優しくされるより、利用したいと言われたほうが、すっきりします。……警戒もできますし。ぼくの警戒なんてあてにならないと、賢吾さ……、長嶺組長は、渋い顔をするかもしれませんが」「一度、会って話してみたいもんだなあ。長嶺組長に。昔、遠目に見かけたことがあるんだが、そのときは、傍らに怖いオヤジがいて、近づくこともできなかった」「そんなことを言いながら、もうあれこれと算段をしているんでしょう、あなたは。わたしと佐伯くんは巻き込まないでくださいね」 御堂の言葉に龍造が唇を歪めるようにして笑い

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     賢吾の言葉に歓喜したわけではない。しかし和彦の体が示した反応は、そう取られてもおかしくはないものだった。淫らに蠕動する内奥が、高ぶる一方の逞しい欲望をきつく締め付けながら、粘膜と襞をまとわりつかせる。 腕を掴まれ引っ張られた和彦は上体を起こし、背後から逞しい両腕に抱き締められる。両足の間に片手が差し込まれ、濡れた欲望を手荒く掴まれて扱かれていた。「あっ、もう、無理だ――……」 内奥を突かれ、執拗な愛撫を与えられているうちに、泣きそうになりながら和彦は小さく喘ぎ声をこぼす。 和彦の欲望が何度目かの高ぶりを示し始めたと知り、賢吾が吐息とともに呟いた。「ああ……、最高だ、和彦」** すぐ耳元で携帯電話が鳴っていた。 まるで深い水の底から引き上げられるように、意識が覚醒していくのを感じながら、和彦は枕の下をまさぐる。 電話に出ると同時に目を開けると、カーテンの隙間からわずかに光が差し込んでいる。まだ日は落ちていないようだった。『よく寝られたか?』 起きてすぐに聞くには刺激的ともいえるバリトンに、一瞬眩暈に襲われた。和彦は声を発しようとして、軽く咳き込む。寝る前に加湿器を入れておくのを忘れていた。『もしかして風邪を引いたのか――』「違う、部屋が少し乾燥しているだけだ。……それより、筋肉痛がひどくなった気がする」 非難がましくぼそりと呟くと、電話の向こうから微かに笑い声が聞こえてくる。どうやら賢吾の機嫌のよさはまだ持続しているようだ。『起こして悪かったが、また寝る前に、ダイニングに行ってメシを食え。笠野に言って、準備させておいた。俺が搾り取った分、またしっかりと精をつけてもらわないといけないからな』 起き抜けに自分は何を聞かされているのだろうと、和彦は絶句する。『……和彦?』「呆れてるんだ。あんた、組長だろ。威厳とか、そういうものを大事にしないと。いい歳なんだし」『お前にだけだ。俺がこういうことを言えるのは』

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