騙されてあげる~鬼上司に秘密の恋心~

騙されてあげる~鬼上司に秘密の恋心~

last updateآخر تحديث : 2026-03-30
بواسطة:  葉山心愛مستمر
لغة: Japanese
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アメリカ本社のアパレル企業の助っ人として日本に送られることに! 新しい勤め先となった場所で再会してしまった人 それは二度と会ってはならない人物だった…… 加藤麻菜-Mana Kato- × 仲森秀平-Syuhei Nakamori- 7年ぶりに再会した二人に過去の面影はどこにもなかった 「会いたかった……」 どうして……? わたしに優しくするの? 「俺は諦めるつもりないから」 忘れなければならない想いが今動き出す 「計画は進行中だ」 いいよ…… あなたがそれで気が済むのなら 喜んで騙されてあげる でも…… もし許されるのなら…… もう一度あなたを愛してもいいですか――?

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الفصل الأول

第1話 帰国

『麻菜、キミに決めたよ』

この一言で全てが変わってしまった。

わたしが選ばれたことによって大きく運命が動き出したと言っても過言ではない。

17歳からここ、アメリカに住み始めて早7年。

わたし、加藤麻菜かとうまなは24歳になったばかりだ。

父はアメリカ人で、高校生の時ここ、アメリカに渡った。

7年もいるのに、英語が苦手で話すことすら出来ない。

そんなわたしの支えとなってくれたのが今の上司で、わたしを指名した人……。

大学を卒業し、この上司の紹介でこの企業に就職を決めた。

わたしが勤めるのはアパレル業界でも有名な「STAR☆」という会社。

レディースが主だが、最近はメンズやキッズにも焦点を当て全米で注目を浴びている企業の一つ。

昔から洋服が大好きだったわたしは、この企業への就職が決まった時、跳びあがる程嬉しかった。

ずっとこの会社で働いていこう。

このアメリカ本社で……

わたしには他に行くあてもないし、一生アメリカで生きていこうと思っていた。

そう思っていたわたしの願いが一瞬にして打ち砕かれてしまった。

「ジョン!どうしてわたしを指名したのよ!!」

わたしが怒りをぶつけるのは、わたしを指名した張本人。

わたしの上司のジョン・テイラー。

どうしてわたしがアメリカ人の彼に日本語で話しているのかというと、彼は日本語が得意だから。

アメリカへ来たばかりに友人となった彼は、英語が話せないわたしの通訳となってくれた。

そして、その彼が今は上司。

「STAT☆日本店」の売り上げが伸び悩んでいて、本社から売り上げを上げるべく助っ人として白羽の矢が立ったのがこのジョンだった。

「仕方ないだろう?一人が困難だと思ったら、誰か一人だけなら連れて行ってもいいって許可もらったんだから」

「だからって、どうしてわたしなのよ!!下っ端のわたしなんかより、有能な人を連れていけばよかったじゃない!」

どうしてもアメリカ本社にいなければならないという理由はない。

ただ……

送られる先が日本というのが問題なのだ。

もう二度と戻ることはないと誓った日本に行かなければならないということが……。

「君も十分有能だ。それに……」

ジョンはわたしの肩をそっと引き寄せ、わたしの髪をすくった。

「君と離れるのは辛いんだ。僕は君がいないと生きていけない」

耳元でこう囁く彼は、どんな女性も虜にしてきたプレイボーイだ。

わたしにもよく「好きだ」と言ってくるけれど、それが本気なのかは定かでない。

普段の彼から考えると、おそらく遊びだ。

「はいはい」

たとえ彼が本気だったとしても、それに応えるつもりは全くない。

彼の扱いに慣れてきたわたしは、こうして適当に受け流すことが多い。

「麻菜も嬉しいだろう?また僕と一緒にいられて」

「はぁ?嬉しいじゃなくて疲れるの間違いじゃないの?」

確かに友人として一緒にいるのは楽しいし、上司としての彼はとても頼りになる。

でも、わたしの楽しいと彼の楽しいの基準が違いすぎていて、一緒にいて疲れるのも事実だ。

「全く麻菜は……素直じゃないんだから」

「大きなお世話よ」

「そういうツンケンしてるところも可愛いよ」

口角を上げ、顔を近づけてくるジョン。

キッと彼を睨んでから、わたしは彼の足をこれでもかというくらい強く踏んだ。

「何するのよ!そういうことするなら、二度と口きかないって言ったでしょ?」

「いてて……だからって、足踏むことないだろう……いってー」

痛そうに顔をしかめながら、踏まれた方の足を上げプラプラと動かしているジョン。

ヒールのある靴で踏んだから、かなり痛いみたい。

「僕がこんなに好きだって言ってるのに、麻菜はいつも冷たいんだから」

「バッカじゃないの!?わたしは、もう恋愛はしないの。何度も言ってるじゃない」

「そんな寂しいこと言うなよ。僕と恋愛しよう?」

「絶対お断り!!」

これ以上関わると面倒なことになりそうなので、フンっとそっぽを向いて歩きだした。

本当にジョンは本気なのか冗談なのかよく分からない。

わたしに好きだと言ったと思ったら、平気で他の女とデートをしてる。

別にジョンのことをどう思ってるわけでもないから、わたしには関係ないのだけれど。

「あっ、麻菜。今週末に日本に行くから準備しといて」

「……分かった」

わたしが行くことで話が進んでしまい、断るに断れなくなってしまって……

結局わたしがジョンと一緒に行くことになった。

何も起きなければいいのだけれど……

特にあの人に会ってはならない。

絶対に……

「久々の日本なのに嬉しくないのかい?」

「……別に」

飛行機に乗り数時間、日本に近づくにつれ、気分がどんどん落ち込んでいく。

どうして今、自分がこの飛行機に乗っているんだろうと今更になって後悔してきた。

本当ならずっとアメリカ本社で頑張っていくつもりだったのに、この隣の男のせいで。

日本行きを決めたのに、無理やりにでもアメリカに戻りたくなってくる。

全てがこの男のせいだと思い、キッとジョンを睨み溜息を吐いた。

「おいおい、そろそろ機嫌を直してくれよ。向こうで暮らす手はずは全て僕が整えただろう?」

「わたしはそれにも文句があるんです!」

「文句?僕はお礼される覚えはあるけど、文句を言われる覚えはないよ」

「確かに住む家を見つけてくれたのには感謝するけど、どうしてジョンと隣同士なのよ……はぁ」

そう……

ジョンがわたしと二人分の家を見つけてくれたのはいいのだけれど……

よりにもよって、ジョンと隣同士なのだ。

「よかったね、麻菜。これからは僕と会社でも家でも一緒だよ」

「何が一緒だよ、よ!一緒って言っても隣同士、一緒に住むわけじゃないんだから家でも一緒はおかしいでしょ」

「あー、そうか。麻菜は僕と一緒に住めなくてそんなに機嫌が悪いんだね?」

「はぁ!?」

毎度のことながら、ジョンの思考回路が理解できない。

どこをどう考えたら、そんな結論に辿り着いたのか説明していただきたい……

「それならそうと早く言ってくれれば、同じ部屋を用意したのに」

「用意しなくていい」

「そんな照れなくても」

「照れてないから」

日本に着くまで眠ることが出来ず、ジョンと他愛もないことで言い合っていた。

久しぶりの帰国が楽しみで、興奮して眠れなかったわけではない。

あんな最悪の形で日本を離れてしまったから、帰ることに後ろめたさを感じるのだ。

そして、ついに到着してしまった日本。

久しぶりに戻ってきた日本は、懐かしくて切ない……そんな匂いがした。

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第1話 帰国
『麻菜、キミに決めたよ』この一言で全てが変わってしまった。わたしが選ばれたことによって大きく運命が動き出したと言っても過言ではない。17歳からここ、アメリカに住み始めて早7年。わたし、加藤麻菜は24歳になったばかりだ。父はアメリカ人で、高校生の時ここ、アメリカに渡った。7年もいるのに、英語が苦手で話すことすら出来ない。そんなわたしの支えとなってくれたのが今の上司で、わたしを指名した人……。大学を卒業し、この上司の紹介でこの企業に就職を決めた。わたしが勤めるのはアパレル業界でも有名な「STAR☆」という会社。レディースが主だが、最近はメンズやキッズにも焦点を当て全米で注目を浴びている企業の一つ。昔から洋服が大好きだったわたしは、この企業への就職が決まった時、跳びあがる程嬉しかった。ずっとこの会社で働いていこう。このアメリカ本社で……わたしには他に行くあてもないし、一生アメリカで生きていこうと思っていた。そう思っていたわたしの願いが一瞬にして打ち砕かれてしまった。「ジョン!どうしてわたしを指名したのよ!!」わたしが怒りをぶつけるのは、わたしを指名した張本人。わたしの上司のジョン・テイラー。どうしてわたしがアメリカ人の彼に日本語で話しているのかというと、彼は日本語が得意だから。アメリカへ来たばかりに友人となった彼は、英語が話せないわたしの通訳となってくれた。そして、その彼が今は上司。「STAT☆日本店」の売り上げが伸び悩んでいて、本社から売り上げを上げるべく助っ人として白羽の矢が立ったのがこのジョンだった。「仕方ないだろう?一人が困難だと思ったら、誰か一人だけなら連れて行ってもいいって許可もらったんだから」「だからって、どうしてわたしなのよ!!下っ端のわたしなんかより、有能な人を連れていけばよかったじゃない!」どうしてもアメリカ本社にいなければならないという理由はない。ただ……送られる先が日本というのが問題なのだ。もう二度と戻ることはないと誓った日本に行かなければならないということが……。「君も十分有能だ。それに……」ジョンはわたしの肩をそっと引き寄せ、わたしの髪をすくった。「君と離れるのは辛いんだ。僕は君がいないと生きていけない」耳元でこう囁く彼は、どんな女性も虜にしてきたプレイボーイだ。
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第2話 新しい職場
日本に着いてからこんなことに気付いてしまうなんて……STAR☆の日本店は東京ではなくて、名古屋にあることをすっかり忘れていた。名古屋は、わたしの故郷。忘れたい思い出が一番詰まっている場所だ。「……はぁ」わたしは、隣のジョンに気付かれないように溜息を吐いた。久しぶりに帰ってきた名古屋に懐かしさを感じつつも、嫌な予感が。こういう予感って必ずと言っていいほど当たってしまうのだから、不思議だ。「……はぁ」これから住む場所に到着し、わたしの本日二度目となる溜息が炸裂した。「おいおい、これから隣同士で住めるのに何だよ、その溜息は」「……隣同士だからでしょ」ジョンが用意してくれたマンションは、駅からも近くなかなかの立地条件のところだった。しかもまだ綺麗で、マンションにしては広い方だ。マンション自体は気に入って、これから住むには文句ないんだけど。隣の住人が問題だ。「麻菜、早速明日デートするか」「はぁ?何度も言ってるけど、プライベートは関わらないでって言ったじゃない」本当に懲りないんだから、ジョンったら。これまでにもデートに誘われてことあるけど、いつも断ってきたのに。「デートはデートだけど、事前調査も兼ねたデートなんだよねぇ」「事前調査?」「そう、これから僕たちが働くところがどんなところなのか調査も兼ねたデートってわけ」「事前調査ね、それなら行く」ジョンに言われて気付いたけど、事前調査は大切だよね。これから働く場所がどんなところか知っておいた方がいいと思うし。売り上げが伸びないって嘆いているくらいだから、人が入りやすい休日に行けばよりベストよね。「だからね、麻菜。これは調査を兼ねたデートであって、メインはデートの方……」「ちょうど明日は日曜日で人も入ることだし、早速調査開始ね」「麻菜……調査も大切だけどね、デートも……」「お昼頃がいいかな。じゃあ、明日の13時に調査開始ってことで」「いや、だから……デート……」「じゃあ、そういうことでよろしく」まだ何か言いたそうなジョンを残し、新しい自分の家に足を踏み入れた。「ふぅ……」なんだかこの7年で随分この町は変わってしまった気がする。このマンションに来るまでの間、高校時代の友人の家の前を通ったんだけれど、建て直されていて他人の家になっていた。よく知っている町に来たはず
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第3話 思わぬ再会①
髪を整え、メイクもばっちり決めて……「よし、出来上がり。今日は初日なんだから、気合い入れていこう」パシパシと頬を叩き、気合いを入れなおした。最寄りの駅から7つ先の駅まで地下鉄で向かう。たぶん始めは、地下鉄って複雑だしジョン一人だと迷うと思ったんだけど、昨日も行ったばかりだから大丈夫だと思ってジョンとは別に家を出てきた。それなんだけど……「麻ー菜ー!」朝から元気すぎるわたしの名を叫ぶ声を聞いたと思ったら、突然思い切り抱きつかれた。もちろん抱きついたのが誰かなんて、顔を見なくても分かる。「ちょっと、ジョン!何するのよ!離れなさい!」「え~?いいじゃん。僕と麻菜の仲なんだし」「どんな仲よ。朝から暑苦しいったらありゃしない」ベットリわたしに抱きつくジョンを冷めた目で見つめながら、ベリッとその絡まる腕を剥がした。全く……朝から面倒くさい人。「麻菜、僕への扱いが年々ひどくなってるよね」「アンタの扱いはこれくらいでちょうどいいのよ」「ひでー。さっきだって、せっかく一緒に出勤しようと思って待ってたのに、先に行っちゃうし」いじけたような表情を浮かべて、じーっとわたしを上目遣いで見つめてくる。きっとこういうところなんだろうな。女の子たちがジョンに堕ちる理由は、こういう母性本能をくすぐるところにあるのかもしれない。わたしより年上なのに、子供っぽくて守ってあげたくなるような……そんなジョンだから、何処に行ってもモテるんだと思う。わたしは全然……何も感じないけど。ジョンには悪いけどね。「なんで一緒に出勤しないといけないのよ。どっちみち会社で一緒なんだから、いいじゃない」「え~?僕は出勤時だってずっと一緒にいたい」「わたしはいたくない」「まあまあ、そう言わずに、ね?ということで、これからは一緒に行こう」何が「ということで」よ!!誰も一緒に行くなんて言ってないじゃない。全く、ジョンったら……いつもいつも自分勝手で何でもかんでもわたしの意見は無視なんだから。こういう時は、放っておくのが一番。ジョンとの長い付き合いで、これが学んだ教訓だ。「あっ、それからジョン?」「なに?」「職場ではわたしのこと“麻菜”じゃなくて、“加藤”って呼びなさいね」「え~!?なんでよ?いいじゃん、“麻菜”でも」子供のように駄々をこねるジョンに、わたし
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第4話 思わぬ再会②
 職場に着き、わたしとジョンは真っ先に店長に挨拶を済ませた。「君たちが本社からの腕利き社員か。ここの店長の川端(かわばた)です」「本日からお世話になるジョン・テイラーと申します。こっちが部下の……」「加藤麻菜です。今日からよろしくお願いします」ジョンに引き続き、ペコリと頭を下げ店長を見上げた。店長は30代後半の体格のいい男性だった。「いやぁ、君たちには色々と期待しているよ。ウチの社員たちをビシバシ教育してほしい」店長の驚くほどの、わたしたちへの期待。ジョンへは期待を大いに持っていただいても構わないんだけど、わたしへは……「店長、申し訳ないのですが。この加藤は向こうで製作担当でしたので、接客業では全くと言っていいほどの素人なんです」そう……わたしは実は接客業というものをしたことがなくて。ここの助っ人として選ばれた理由は、わたしの服に対する思いや、仕事への熱心さを買われただけなんだ。「そうか……。じゃあ、こっちで加藤の教育係を一人つけるとしよう」「ありがとうございます。加藤は洋服に対する情熱は人一倍ありますから、役に立てるとは思います」「そうかそうか。それは加藤にも期待大だなぁ」いやいや、店長さん。わたしに期待されてもお役にたてるかどうか……それにジョンもわたしを持ち上げすぎだし。「じゃあ、今から顔合わせということで。社員たちに紹介するとしよう」店長に集められ、開店前の店内にズラリと並んだ社員たち。この人たちがこれから一緒に仕事をしていく仲間なんだ。「アメリカ本社から助っ人としてやって来たジョンと加藤だ」
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第5話 上司と部下①
一瞬たりとも視線をそらせることが出来なかった……彼から。無言のまま見つめ合い、まるで時間が止まってしまったように感じた。 どうしてだろう……どうして嫌な予感っていうのは当たってしまうんだろう……もしかしてこの人じゃないかって思ったりもしたけど、本当に再会してしまうなんて。 再会してしまった気まずさや、彼の驚きや切なさの混じった表情を見たら、やっぱり再会なんてしちゃいけなかったんだって。そう思えてならなかった。 「もしかして二人は知り合いなのか?」 見つめ合うわたしたちと沈黙が続き、それを破ったのは店長だった。お互いしばらく返答できなくて、再び沈黙。 「あ……実は俺たち……」「いえ、店長。知り合いではありません」「は……?何言って……」 ダメ……ダメなんだよ、秀ちゃん。わたしとあなたは本当は再会してはいけなかった二人なの。わたしとあなたは赤の他人、何の関係もない……その方があたしもあなたも傷つかないのだから。「初めまして。わたしは本社からやって来た加藤麻菜と言います。これからよろしくお願いします」 わたしが頭を下げて挨拶すると、秀ちゃんは複雑な表情を浮かべた。 「……仲森秀平、です。よろしく」 やっぱり……やっぱりわたしは……わたしはここへ戻ってくるべきではなかったんだ。ここへ戻って来て秀ちゃんに会わない可能性の方が低いことは分かり切っていたのに。 わたしは秀ちゃんに辛い顔させることしか出来ない。ほら、現に今だってこんな泣きそうな辛そうな顔してる。こんな秀ちゃんはもう見たくなかったんだよ…… 「あっ、そうだ。仲森を加藤の教育係にしよう」「えっ……」 秀ちゃんがわたしの教育係……?それは……それだけは……これ以上秀ちゃんと関わりたくないのに。 「加藤はアメリカ暮らしが長いし、接客業に就いたことないらしいんだ。だから仲森、よろしく頼むよ」「分かりました」 秀ちゃんは一瞬の躊躇いも見せずに、即答した。どうして……どうしてなの、秀ちゃん。 「じゃあ、加藤。分からないことがあったら仲森に聞くように」「……はい」 店長は何処かへ行ってしまったし、他の社員たちは開店の準備に取り掛かっていた。わたしと秀ちゃんは二人、また気まずい雰囲気に包まれた。 「……よ、よろ
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第6話 上司と部下②
 「加藤、レジの使い方を教えるから付いてこい」「はい」仲森さんは昔と違って口調はきついけど、教え方は丁寧で優しい。昔と180度変わってしまった性格、変わっていない性格。わたしを“加藤”と呼ぶ声。少し寂しい気もしたけど、これでよかったんだよね……?少なくともわたしはこれでよかったと思ってるよ……“仲森さん”と“加藤”これで上司と部下としての関係が成り立った。それから先は干渉しなければ問題ないのだから。「加藤、分かった?」「はい、ばっちりです」特に機械音痴というわけではないので、案外簡単にレジの使い方を覚えられた。仕事に集中しよう……集中すれば、仲森さんのことや過去のこと……全て忘れることが出来すのだから。この思い出しやすい環境にいたとしても……「それから、レジは応対したお客様が会計する時に、各自俺たちがレジをすることになってるから」「はい。分かりました」それから接客において、一通りの注意を受けた後、いよいよ10時になり開店の時間に。 お昼辺りになっても未だ数組しか来店していない状態。わたしだけじゃなくて、他の人たちも暇で暇で仕方がないって感じだ。「やっぱり本店とは全然違うでしょう?お客が入らな過ぎて驚かなかった?」ボケーっとしていたところへ、挨拶の時に一際目立っていた美人の人が話しかけてきた。あれ……?この人って、確かジョンに全く興味を示してなかった人だよね……?
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第7話 失った笑顔①
 お昼を食べてから店内に戻ると、午前中よりわずかにだけど、お客様の来店数が増加していた。そして、接客中に店長から指摘を受けたこと……それは笑顔だった。「加藤、笑顔が固い。それじゃあ、せっかく良い商品を売ってるのに、お客さんが逃げてくぞ」「はい……。すみません」自分では笑っているつもりなんだけど、上手く笑えていないみたいで。店長や先輩から何度も何度も指摘されてしまった。どうしても笑顔が引きつってしまう。「……はぁ」周りの先輩たちは、今日が初めてなんだからそれにしては上出来よと言ってはくれるのだけれど。わたしは全然納得していない。たった今も、ここに置いてあるサイズしかもうないですか、と尋ねてきたお客様を対応していたんだけど……「さっきのお客様があなたの態度が気に入らなかったみたいだから、気を付けてよね」こう先輩に注意を受けてしまった。はぁ……なんだか上手くいかないことばかりだ。「田畑さんがウチで一番顧客が多いんだ。彼女を見習うように」店長にこう言われ、わたしのお手本はあんなに完璧に接客をこなす幸さんになった。幸さんを見習え、幸さんのように……って言われても。あんなに輝かしい笑顔を振りまきながら、お客様に対応するなんて、わたしには至難の業かも。接客業に就いたのだから、それは乗り越えなければならない関門なのだけれど……わたしには、自分にはそれが出来るとは到底思えない。出来たとしてもいつになることやら。でも頑張らないと!と気合を入れるために、頬をパンパンと叩いた。
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第8話 失った笑顔②
 「もっとこう……ニッて。口角上げてごらんなさい」「ひょっ……いひゃいでふ、はひはん!」 幸さんに両頬を痛いくらいに上げられて、思わず手をバタバタと忙しなく動かした。一応「痛いです、幸さん!」と言ったつもりだったんだけど、自分でも何を言っているのかさっぱり。 「うーん。どうして笑えないのかしらねぇ」「これでも笑ってる方ですよ?」「それでどこが笑ってるのよ。口角下がったままじゃない」「精いっぱい上げてます……」「全然、ダメねぇ……」 ふぅ、と腕組みをしながら、わたしをジッと見つめてくる幸さん。 「そんなんじゃ、幸せも逃げるわよ。笑ってたらいいことたくさんあるんだから」「別にわたしは……」 自分が幸せになることを望んでなんか、いない―――。だって、わたしが幸せになることなんてありえない……。幸せになって、絶対なってはいけないの、わたしは―――…… 「笑ってたら幸せになれるわよ?私みたいに」 ふふふ、と笑う幸さんは本当に幸せそうだ。幸さんは、何もしなくても幸せが自然と舞い込んできそうな人だなぁ……名前からしても。 「じゃあ、ウイスキーって言ってごらんなさい」「え……ウ、ウイスキー……?」 何が何だか分からないまま、幸さんが言うようにその言葉を発してみた。それなのに、ムッとしながらわたしの腕をバシバシと強く叩く幸さん。 「も~!それじゃあ、全然ダメ!普通、ウイスキーって言ったら最後に口角上がるものなのに、どうして上がらないのよー!」「どうしてって……それより幸さん、痛い……」 幸さんが腕が真っ赤になるくらいに叩くたび、わたしの顔はどんどん歪んでいく。痛い……幸さん、バカ力…… 「いい?ウイスキーって最後の母音が“い”
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第9話 抱きしめられて①
 仲森さんからすれ違い際に言われた言葉が耳から離れない。『話しがある。仕事が終わったら待ってて』話……?話って一体……?昔のこと……?それとも……まさか仲森さんから呼び止められるなんて、思ってもみなかった。わたしの顔なんて、見たくなんかなかったはずなのに。それからは彼が言った言葉が気になって仕方がなかった。何を言われるんだろうと不安な気持ちでいっぱいになり、仕事に身が入らなかった。「麻ー菜ー!!」閉店後、またいつものような盛大な呼び声が聞こえて、ジョンが勢いよく向かってきた。それを難なくかわすと、ジョンが転びそうな勢いのまま壁に激突しそうになる。ジョンのお陰で反射神経が高まった気がする。「麻菜ぁ、急に避けるなよぉ。もう少しでぶつかるとこだったじゃんかぁ」「毎度毎度、アンタは何なのよ。わたしに突進してきて」「え~?いいじゃんかぁ。僕と麻菜の仲だしぃ~」「どんな仲よ。それと勤務中は麻菜って呼ぶなってあれほど言ったじゃない!」「麻菜ちゃん、もう仕事終わったんだけど?」減らず口を叩くジョンを睨みつけ、足を思い切り踏んだ。すると、顔をしかめながら踏まれた足を上げて、ケンケンを繰り返すジョン。「いってー!何すんだよー!」「何するって自業自得でしょう?あれは、勤務中ってことは職場ではって意味も含まれてるに決まってるじゃないの」「そんな決まりはないもーん」拗ねた顔でジョンは言った。そんな顔しても全然、可愛くないんだから……「はいはい。アンタには、はっきり言わないと分からないんだったわ
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第10話 抱きしめられて②
 「あっ、お疲れ様です」「あら?あなたはまだ残っていくの?」何処で待っていたら分からなくて、あちこちウロウロしていると、ちょうど帰る幸さんと出くわした。スラッと背の高い幸さんが、カツンカツンと音を立てながら近づいてくる。「え、あ、まぁ……。もう少し残っていこうと思って……」「そう。初日から頑張るわね」まあ、本当に仕事していくわけではないんだけどね。「あっ、そうそう。あなたにも宿題、出しておかないとね」「宿題……?」去り際にあっと思いついたように、後ろから幸さんの声が聞こえてきた。わたしにも宿題って……一体何を……?「一日50回、ウイスキーって言うこと。笑えるまでね。これが宿題」「一日50回!?しかもそれが宿題って……学生じゃないんだから」「あら?何かおっしゃって?」「……いえ。何も」花のように笑う幸さんが、今は黒い負のオーラを纏いながらわたしに微笑んでいた。こわ……っ!幸さん、それ……逆に怖いから……!「あっ、そうそう。今、一人で店に残ってるあの鬼上司にも同じ宿題出しといたから」「え……?」「それじゃあ、また明日ね」最後に意地悪そうな笑みを浮かべた幸さんが、軽く手を上げて去っていった。え……っと、ちょっと待って。今、幸さん……一人で店に残ってるって言ったよね…&hellip
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