LOGIN私には、大好きな夫がいる。 だけど、結婚してからもその夫は私の義妹・胡桃(こもも)ばかりを優先して、喧嘩になることもしばしば。 口論になると、夫の誠司(せいじ)はいつだって【離婚】を切り出してくる。 私は誠司が大好きだから、いつも離婚を切り出されるとすぐに泣いて謝ってきた。 だけど、誠司が胡桃を優先する度に、喧嘩になる度に【離婚】と言う言葉を口にする度に──。 あれだけ大好きだった気持ちが冷めていく。 夫からの99回目の【離婚】の言葉。 99回目が、最後と決めていた。 私は夫と本当に離婚した。 もう、夫誠司には何の未練も、愛情も残っていない。 これからは、自分で一人で、生きていく──。 そう思っていた私の目の前に現れたのは、容姿端麗で、とても背の高い男性。 その男性は、私に告げた。 「もみじさん。俺と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?あなたが好きです」 その男性は、ただの会社員だと思っていたのに、大企業の社長で──。 全てを知った前夫の誠司が、私に泣きながら謝罪をし、離婚を取り消して欲しいと言ったけど。 私はもう既に大好きな旦那様がいるのだ。
View More今回発売予定のメイン商品は、文房具だった。 それ以外には、生活用品が数点。 メインは文房具で、中高生や働く女性向けに文房具を発売する予定だった。 中高生向けには、学校や塾で使う事を想定し、可愛いタイプのものと、シンプルなもの。 社会人女性向けとして、職場で使っても問題無い程度の華やかさ、そして仕事にやる気が出るささやかな可愛らしさを。 生活用品は、マグカップや洗い物ようのスポンジ、枕カバーなどの数点。 文具約10点程と、生活用品数点。 それを、出来るだけ早く納品しなくてはならない。 概要を髙野辺から説明してもらったもみじは、暫し考え込んだ。 どれだけの時間があれば、自分が納得出来るデザインを提出出来るか。 それに──。 (……出来るなら、新商品発売を中止になんてしたくない。……工場での製造も関わってくるから、難しいかもしれないけど……) 先程、髙野辺から概要を説明してもらっている間に、工場での製造にかかる時間も大凡は確認出来た。 (……間に合わせるには、2週間……いえ、10日で納品すれば、ボーダーを超えない……新商品発売を取りやめる事にはならない) 営業社員からは悲鳴が上がるだろうが、新商品発売を中止しないで良くなれば。 そうすれば、TKが被る損失も最小で抑えられる。 「──もみじさん?」 黙り込んでしまったもみじに、心配そうに髙野辺が話しかける。 やはり、こんな依頼、急すぎたか──。 (もみじさんは、世界的なデザイナーSeaだ。……そんな素晴らしいデザイナーに、こんな無茶苦茶な依頼、やっぱり不躾だったか……) 例え、もみじと親しくなったとしても。 仕事は仕事として、きちんと向き合わなくてはならない。 髙野辺自身、無茶な依頼を口にしている自覚はある。 もみじ以外に信頼して、任せたいと言うデザイナーはいない。それは本心だ。 だが、図々しいお願いを口にしてしまったかもしれない。 髙野辺は、この依頼はやはり聞かなかった事にしてくれ、ともみじに言おうとした。 だが、髙野辺が口を開くより先に、黙り込んでいたもみじが顔を上げ、口を開く方が早かった。 「──10日、いえ……7日ください」 「──え?」 「7日。7日時間をいただけたら、必ずデザインを納品します。……そうしたら、製造は間に合いますよね?……新商品の発売を、
「もみじさん」 「髙野辺さん……!だ、大丈夫ですか!?」 駆け寄ってきたもみじは、開口一番そう尋ねてくる。 髙野辺は先程まで感じていた焦りから解放され、こくりと頷いてから答えた。 「ええ、その件で……もみじさんにお願いしたい事がありまして……」 「私にですか?私で力になれる事があるなら、是非!」 拳を握り、真っ直ぐ目を見て「力になります!」と間髪入れず答えてくれるもみじに、髙野辺は柔らかく微笑む。 そして、立ち止まっていた足を再び動かした。 もみじと髙野辺は並んで歩き始める。 「──廊下だと、誰が聞いているか分かりませんので、もみじさんが使用している部屋に行っても?」 「ええ、もちろんです。そこでお話しましょう」 もみじ専用のデザイン室。 移動してきた2人は、向かい合わせに座った。 「もみじさん、蒔田から聞いていると思いますが……うちの会社で発売予定の商品の情報が、他社に漏れていました」 「──ええ、聞きました。今、流出した経緯を確認している、と……」 「ええ、それと同時に……新商品の発売は今回見送る事になるでしょう。それに変わる商品を開発、販売を急がなければなりません」 「見送る──……」 髙野辺の言葉に、もみじの表情が曇る。 営業会議に出席したからこそ、もみじにはそれがどれだけ会社に損失を齎すのかが分かる。 それに、新商品販売に携わった営業社員達の努力が、全て無駄になった事。 取引先の信用を失ってしまった事。 販路の再確認を行わなければならない事──。 沢山の人達の努力が、一瞬で無駄になってしまったのだ。 今回の新商品の発売に携わった営業社員の人達とも、もみじは営業会議で言葉を交わしていた。 皆、自社の製品を愛していて、大切にしていた。 それなのに、今回こんな事になってしまって……、ともみじは胸が痛んだ。 「そう、ですよね……。他社とそっくりな商品を……発売する訳にはいきませんよね……」 「ええ、残念ながら……。今回の商品は発売を中止します。製造に入っている商品は、相応しい場所に寄付します。……それで、もみじさんに頼みたい事なんですが」 「──はい!」 「もみじさん、急ではありますが、今回の商品に変わる新商品類のデザインを、もみじさんに依頼してもいいですか?」 「──えっ、私に、ですか!?」 まさ
髙野辺には今、最優先で行かなければならない場所がある。 そのため、髙野辺は急かされるような足取りで社長室の扉を開けた。 「──きゃあっ」 「──とっ、すまない、大丈夫か?」 髙野辺が扉を開け、廊下に出ようとした瞬間。 ちょうど扉をノックしようとしていた人物と鉢合わせた。 前方につんのめってしまった女性社員を受け止めるようにした髙野辺は、ふとその女性社員に見覚えがあると感じた。 それも、そのはず。 その女性社員は、中途採用した徳居 朱音だったのだ。 徳居は頬を赤らめ、髙野辺に身を寄せる。 「すみません、ひじ──、社長。受け止めて下さってありがとうございます……」 「いや、礼には及ばない。だが、気をつけてくれ」 「は、はいすみません……」 徳居は可愛らしく頬を染め、ちらりと髙野辺を上目で確認する。 「1番自分が可愛く見える角度」で髙野辺を見た徳居だったが、髙野辺の態度は一社員に対するものから変わらず、冷たい。 「用が無いのならいいか?……急いでいるんだ」 ふい、と顔を背けてしまった髙野辺に、徳居は慌てて追いすがるように声を発した。 「あっ、待ってください、社長……!」 「──何か?」 髙野辺の声に、苛立ちが混じる。 急いでいるというのに声をかけるのならば、早急に確認してもらいたい仕事や案件があるのだろうか。 そう思った髙野辺だったが、足を止めた髙野辺に徳居は場違いな声をかけた。 「あの、お昼を一緒にいかがかな、と思い……」 頬を染め、もじもじとしながら徳居に声をかけられる。 わざわざ自分の足を止めてまで言う事はそれか、と髙野辺は苛立つ。 徳居の方を一切見ないまま、髙野辺は歩き出した。 「──結構だ。忙しい」 「──あっ、社長っ」 足を動かし、廊下を歩いて行く髙野辺の背に、呼び止めるような徳居の声が再びかかる。 だが、髙野辺は今度は足を止める事なく真っ直ぐ廊下を進んだ。 廊下を歩いている髙野辺のスマホが、着信音を鳴らす。 胸ポケットからスマホを取り出した髙野辺は、画面に表示されている名前を見て先程までの苛立ちを一瞬で消し、明るい表情になる。 そして、すぐに電話に出た。 「──もみじさん?どうしましたか?」 柔らかく、優しい声音。 先程の人物と同一人物なのだろうか、と思ってしまうほど、髙野辺の声は柔ら
「──?」 神咲は訝しむように眉を寄せた。 徳居は視線を感じたのだろう。 ふ、と顔を上げると神咲とバチリ、と視線が合った。 その瞬間、徳居は硬い表情に変わり、逃げるようにさっと目を逸らした。 そして小さな声で「お昼行ってきます」と呟くとそそくさとその場に立ち上がり、フロアの出口に向かってしまった。 「──徳居さん、何で笑っていたんだ?」 何だか嫌な予感がもやもやと胸に込み上げる。 いや、まさか。 きっと勘違いだ。 そう思い、神咲は頭を振ってその考えを振り払う。 「──神咲!悪いが昼飯はまた今度……!」 「……っ、わ、分かりました……!すみません、お昼行ってきます……!」 先輩社員にそう声をかけられた神咲は、ぱっと顔を上げて軽く頭を下げる。 お昼に向かうため、フロアを出て行く神咲の背中に、忙しそうな先輩社員の「行ってらっしゃい!」という声がかかった──。 ◇ 「社長……!」 社長室に田島が飛び込んで来る。 田島の顔色は真っ青だ。 その様子から、何か起きた事は明白だ。 髙野辺は自分のパソコンから顔を上げ、慌てた様子の田島に落ち着くように声をかけた。 「──分かっている、うちの新商品の件だろう。まずは落ち着いて何が起きているのか話してくれ」 「──は、はいっ!」 髙野辺も今正に、田島が入ってくる瞬間までパソコンで他社ホームページで発表されていた新商品のラインナップを見ていた。 TK株式会社ととても酷似した商品ラインナップ。 そして、デザインだ。 明らかにTKの情報が漏れているのが、髙野辺にも分かった。 髙野辺の落ち着き払った様子に、田島も気持ちを落ち着かせられたのだろう。 田島は深呼吸をして息を整えると、手帳を手に髙野辺に報告をした。 「──社長もご存知の通り、弊社のデザインと商品情報が他社に流出したようです。そのため、弊社の商品ラインナップと酷似した商品が、ライバル会社から新発売する、と発表がありました」 「……この発表はいつ頃に?」 「午前11時頃に新商品の発表がございました」 「うちの商品とデザインが酷似しているが、ライバル会社のデザイナーは誰だ?発表されているのか?」 「いえ、今のところデザイナーは未発表です」 「発売時期は?」 「──ふた月頃を予定しているようです」 「我が社と全く一緒だ
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