تسجيل الدخول「理想の結婚相手がいないなら、私が一から育てればいいわ」 三百年の時を生きる最強の『黒夜の魔女』ヴェラ。 彼女の夢は、愛する人と寄り添い合う「普通の夫婦」になることだった。 しかし、強大すぎる力と恐ろしい悪名のせいで、婚活はお見合い百連敗中。 人間の男たちは皆、彼女をバケモノと恐れて逃げ出してしまう。 そんなある日、ヴェラは路地裏で息絶えかけていた戦災孤児の少年・アシュを拾う。 誰も恐れず、私だけを愛し、絶対にそばから離れない男がいないなら。 純白のキャンバスのようなこの子に、食事を与え、魔法を教え、愛情を注ぎ、「最高の夫」へと作り変えればいい。 魔女の狂った合理性から始まった、異常な『婚活(いくせい)』
عرض المزيدガチャリ、と。 静まり返った私の寝室で、重々しい金属音が響いた。 それは、イグニスが背手で扉の鍵をかけた音だった。 と同時に。 三百年間、誰一人として招き入れることのなかった私の『理性の扉』に、完全に鍵がかけられた音でもあった。「イ……イグニス……っ」 私は、シーツの上に放り出された体勢のまま、後ずさるように身を縮めた。 窓から差し込む夕暮れの赤い光が、部屋を薄暗く照らしている。 その逆光の中に立つ彼は。 つい先程まで、赤い鱗に覆われた犬サイズのドラゴンだったとは思えない。 燃えるような赤髪。 健康的に日焼けした、褐色の肌。 生意気そうで、野性的な少年の顔立ち。 私のストライクゾーンを粉々に打ち砕く『理想の容姿』を持った彼が。 着ていた黒いベストを、無造作に、乱暴に脱ぎ捨てた。「…………っ」 あらわになった、しなやかな上半身。 細身に見えるが、無駄な脂肪など一切ない。 獣のように引き締まった腹筋と、力強い胸板。 そこから発せられる熱気と、神話級のドラゴンの圧倒的な魔力が、部屋の空気をビリビリと震わせている。「エヴリン……」 イグニスが、ベッドの上へと這い上がってきた。 四つん這いのような、獣特有の動き。 ズリ、ズリとシーツを擦る音を立てながら、私ににじり寄ってくる。 その赤い瞳は、縦に細く割れた瞳孔をギラつかせ、獲物を……いや。 交尾の相手である『メス』を、完全に捕食する光を宿していた。「ま、待って……っ! イグニス、冷静になって……っ! いくら人間の姿になったからって、あなたは私の使い魔で……家族でしょ!? こんなこと、絶対に間違ってるわ……っ!!」 私は、震える声で必死に抵抗した。 そうだ。 彼は私が卵から孵し、三百年間育ててきた使い魔だ。 家族同然の存在に、こんな発情した目を向けられるなんて。 ましてや、私が彼に対して欲情するなんて、倫理的に絶対にあってはならない。 大魔女としてのプライドが。 三百年生きてきた理性が、全力で警鐘を鳴らしている。 だが。「……カゾク、ちがう」 イグニスは、私の言葉を低くハスキーな声で否定した。「オレは、オトコ。エヴリンの、オトコ」 ドンッ。 私の両腕が、彼の手によって、シーツに力強く縫い留められた。 逃げ場はない。 彼のがっしりとした両脚が
ドンッ!! 私の体に、凄まじい衝撃が走った。「きゃっ!?」 私は、猛烈な勢いで飛びついてきた『彼』を真正面から受け止め。 そのまま、アシュとヴェラの屋敷の美しい芝生の上へと、無様に押し倒されてしまった。「エヴリン……!! エヴリン……!!」 私の上に馬乗りになっているのは。 たった今、アシュの理不尽な魔法によって『人間の少年』の姿へと変貌を遂げた、私の使い魔。 神話級のドラゴン、イグニスだった。「オレ……エヴリンの……オトコに、なった……!!」 辿々しい、けれど少しハスキーな少年の声が、私の耳元で甘く囁く。「は……はぁぁぁぁぁっ!?」 私の脳の処理能力は、完全に限界を突破していた。 オトコになった。 その言葉の意味が、頭の中で何度もエコーする。 使い魔が、人間になった!? しかも。 燃えるような真紅の髪に、健康的な褐色の肌。 細身だけれど、獣のようなしなやかな筋肉を持った、野生味あふれる生意気そうな少年(日焼けショタ)!?(私の……私の、ストライクゾーンをピンポイントでぶち抜いてるじゃないのよォォォッ!!) 私は、心の中で血の涙を流しながら絶叫した。 そう。 私は三百年間、魔法の研究に明け暮れてきた純情な魔女だが。 密かに愛読していた恋愛小説の趣味は、完全に『生意気で一途な年下』に偏っていたのである。 目の前にいるのは、私の理想(性癖)をこれでもかと具現化したような存在だ。 それが、私の上に馬乗りになり。 スンスン、と、まるで犬が飼い主の匂いを確かめるように、鼻先を私の首筋に押し付けてきている。「ち、ちょっとイグニス!? 重い、重いわよ!!」 私はパニックになりながら、彼を引き剥がそうとした。 しかし、ビクともしない。 少年の細い腕のどこにこんな力
世界最悪の悪魔が住む、隣の屋敷。 その広大で美しい庭園に足を踏み入れた瞬間、私の胃はすでにキリキリと限界の痛みを訴えていた。 「さあ、こっちよエヴリン! アシュはあそこのテラスにいるわ!」 親友のヴェラは、完全にピクニック気分で私の手を引いていく。 その無邪気な足取りのすぐ後ろを、私の足首にガッチリと四肢でしがみついたイグニスが、ズルズルと引きずられながらついてきていた。 (あああっ……! 帰りたい! 今すぐ自分の屋敷のベッドに潜り込んで、毛布を被って震えていたいわ!!) 私は心の中で絶叫しながら、必死に足を進めた。 昨日の今日なのだ。 あの、ドロドロに甘くて過激すぎる情事を、扉の隙間から覗き見てしまったのだ。 おまけに、あの悪魔には完全に見つかっていたし、「舞台装置として這いつくばっていろ」と脅されまでした。 そんな男の顔を、まともに見られるわけがない。 「アシューっ! 連れてきたわよー!」 ヴェラが、テラスで優雅に紅茶の準備をしていた銀髪の青年に声をかけた。 アシュ・ノクス。 世界を滅ぼすほどの力を持った、狂気の魔王。 彼は、ヴェラの声を聞いた瞬間。 氷のように冷たかった表情を一瞬にして蕩けさせ、この世のすべての春を凝縮したような、極上の微笑みを浮かべた。 「お待ちしておりました、ヴェラ様。 ……あぁ、少し見ない間に、また一段とお美しくなられましたね。 あなたのその輝く笑顔を見ているだけで、俺の心は天にも昇る心地です」 「も、もう。アシュったら、エヴリンもいるのに……っ」 ヴェラは、恥ずかしそうに頬を染めてモジモジしている。
あの日。 親友であるヴェラの、狂おしいほどに愛されている惚気を聞かされて。 すっかり毒されてしまった私は、夜の庭で、愛する使い魔のイグニスに向かって愚痴をこぼした。『私だけを抱きしめて、私だけを愛してくれる……そんな運命の旦那様、どこかに落ちてないかしら』 ただの独り言だった。 三百年生きてきた、孤独で純情な魔女の、痛々しい叶わぬ願い。 神話級のドラゴンであるイグニスに、人間の恋愛感情なんて分かるはずもない。 そう思っていた。 ……だが。 まさか、あの言葉が。 イグニスの中に眠る『オス』としての本能を、完全に呼び覚ましてしまうなんて。 その時の私は、微塵も気づいていなかったのだ。 ◇ ◇ ◇「……んん……重い……」 翌朝。 私は、胸の上にのしかかるズッシリとした重みと、息苦しさで目を覚ました。 薄く目を開けると。 私の顔のすぐ数センチ上で。 犬サイズに縮小しているイグニスが、私の顔をじっと、瞬きもせずに見下ろしていた。「イ、イグニス……? どうしたの、こんな朝早くから」 普段の彼なら、私が起きるまで足元で丸くなって寝ているか、お腹を空かせてエサ入れの前で待っているはずだ。 こんな風に、私の上に馬乗りになって、顔を覗き込んでくるなんて珍しい。「お腹空いたの? 今、起きるから……」 私が体を起こそうとした、その時。 ペロッ。「ひゃっ!?」 イグニスのザラリとした熱い舌が、私の首筋を、下から上へとゆっくり舐め上げた。「ちょ、ちょっとイグニス! くすぐったいわよ!」 私は慌てて彼を引き剥がそうとした。 だが。「……グルルル……」 イグニスは、低く喉を鳴らし、私の胸の上から退こうとしない。 それどころか。 彼の前足が、
朝。 さんさんと降り注ぐ陽光が、ダイニングルームを明るく照らしていた。 私は淹れたてのミルクティーを片手に、王都から取り寄せた新聞に目を通していた。 「……あら」 一面の大きな見出しを見て、私は思わず声を漏らした。 そこには、先日この屋敷にやってきて、私に不躾な態度をとった男の名前が踊っていた。 『バルバトス伯爵、深夜の屋敷で突如発狂! 当主の座を退き幽閉へ』 『不正蓄財と密輸の証拠も多数発見! バルバトス家、取り潰しの危機か』 記事には、伯爵が何かに酷く怯えた様子で「化け物が来る」「俺の目を潰しに来る」とうわ言を繰り返し、精神を病んでしまったと書かれてい
アシュを拾ってから三年。 十五歳の彼は、私の想像を遥かに超える速度で成長を続けていた。 「――そこまで」 私が声をかけると、中庭に響いていた激しい金属音がピタリと止んだ。 「はっ……はぁっ……」 荒い息を吐きながら木剣を下ろすアシュ。 彼の足元には、私が魔法で創り出した『泥人形(ゴーレム)』が、文字通り木端微塵になって散らばっていた。 ただの泥人形ではない。 大理石ほどの硬度を持たせ、一流の騎士三人分の動きをインプットした、実践用の高度な魔法生物だ。 それを彼は、たった一人で。 しかも魔法を一切使わず、剣術だけで圧倒してみせたのだ。 「素晴らし
朝の陽ざしが、大きな窓から寝室に差し込んでくる。 「……ん」 私が微かに身じろぎすると、待っていたかのように優しい声が降ってきた。 「おはようございます、ヴェラ様。よく眠れましたか?」 目を開けると、ベッドの脇に一人の青年が立っていた。 銀色に輝く髪。 透き通るような白い肌。 そして、私のすべてを映し込むような、深く美しい赤い瞳。 「おはよう、アシュ。……ええ、とても良い目覚めよ」 私が体を起こすと、彼は流れるような動作で温かいタオルを差し出し、私の顔を優しく拭ってくれる。 アシュをあの路地裏で拾ってから、三年が経過していた。 十二歳だった彼は
アシュを拾ってから、半年が過ぎた。泥と血にまみれていた路地裏の野良猫は、見違えるように美しい少年へと成長しつつあった。毎日の十分な食事と、温かいベッド。そして私という、絶対的な庇護者の存在。それらが、アシュの本来持っていたポテンシャルを急速に引き出していたのだ。くすんでいた灰色の髪は、今や月光を吸い込んだような美しい銀色に輝いている。痩せこけていた体にも適度な筋肉がつきはじめ、背もぐんと伸びた。まだ十二歳の少年だが、すでに末恐ろし











