Alle Kapitel von 安価で俺の人生変わった件について。: Kapitel 21 – Kapitel 30

49 Kapitel

十一月十三日 水曜日② 人参

 スマホの画面を見つめながら、俺は深く息を吐いた。 申し込み完了。 たったそれだけの言葉なのに、胸の奥にずしりと重く沈む。 画面越しの文字が、まるで現実そのものになって、こちらを押し返してくる感覚だった。 今週の土曜日に開催される街コン。 自分で選んだわけじゃない。安価で決まった。 掲示板の流れの中で、半ば冗談みたいに決まり、半ば勢いで背中を押されただけだ。 それでも――申し込みボタンを押したのは、他でもない俺自身だ。 スマホを伏せ、天井を見上げる。 見慣れた白い天井。染みも、ヒビも、何一つ変わっていない。 正直に言えば、まだ実感は薄い。 胸が苦しくなるほどの恐怖も、逃げ出したくなるほどの緊張も、今はない。 どこか他人事だ。 未来の自分が行く場所で、未来の自分が何とかする。 そんな、ワンクッション挟まった感覚。 けれど、分かっている。 逃げ場は、確実に減っている。 土曜日はやって来る。 気を紛らわすように、掲示板に戻り、服装の安価結果を確認した。 ◇   ◆   ◇ 175:名前:名無しの使い魔 清潔感あるシャツとジャケット ◇   ◆   ◇(……正直、助かった) 心の底から、そう思った。 銀髪にした時点で、俺はすでに十分すぎるほど目立つ存在だ。 ここで服装まで奇抜だったら、完全に事故だった。 ヴァンパイアだの、白スーツだの、あり得た未来を想像して、背筋が寒くなる。 清潔感。なんてありがたい言葉だろう。 派手じゃない。面白くもない。 でも、だからこそ、今の俺にはちょうどいい。 俺は、画面に向かって小さく頭を下げた。(ありがとう、名も知らぬ誰か) 本気でそう思った。 金曜の仕事終わりに、服を買いに行こう。 シャツとジャケット。
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十一月十四日 木曜日 カレー

 目覚ましが鳴る前に、自然と目が覚めた。 カーテン越しの朝の光は、昨日よりも少しだけ強く感じる。 世界が、ほんのわずかに明るく見える。 それだけのことなのに、胸の奥がざわつく。 布団の中で、しばらく動けずにいた。 天井の染みを目でなぞりながら、くだらないことを考える。 髪の色を変えただけなのに、朝の空気が違って感じられる。 不思議なものだな、と、他人事のように思う。 体を起こし、キッチンへ向かう。 フライパンを火にかけ、卵を割ると、ジュウと油の弾く音が、やけに大きく響いた。 テレビをつけると、朝の情報番組が流れ始める。 天気予報、交通情報、芸能ニュース。 どれも、いつも通りだ。 アナウンサーの声も、スタジオの雰囲気も、昨日と変わらない。 変わらない日常が、画面の中にきちんと存在している。 ――その流れが、不意に途切れた。『先日起きた首相殺害事件について、新たな情報が入りました』 思わず、手が止まった。 画面には、見慣れたスタジオではなく、資料映像と重苦しいテロップ。 キャスターの声も、どこか抑えられている。『捜査関係者によりますと、事件の背景には、特定の宗教団体が関与していた可能性が――』 宗教団体という単語を聞いた瞬間、胸の奥がひやりとする。 フライパンの中で、卵が焼けすぎる音がしたので、慌てて火を止める。 ニュースでは、団体の名前や詳細には触れず、慎重な言葉が並んでいる。 それでも、画面から伝わってくるのは、ただの偶発事件ではないという空気だった。(物騒だな……) 正直な感想は、それだけだ。 俺の生活とは、あまりにもかけ離れている。 テレビの向こう側の出来事。 そう割り切ろうとするのに、宗教団体という言葉だけが、妙に引っかかる。 昨日まで、街コンだの、服装だの、カレーだのと、くだらないことで頭をいっぱ
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十一月十五日 金曜日 服

 今日も目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。 スマホの画面を確認すると、まだアラームまで十分以上ある。 二度寝するには中途半端な時間だ。 ここ数日、こんな朝が続いている。(……やっぱり、緊張してるんだろうな) 街コンが近づいている。 それだけの理由で、人はこんなにも変わるものなのかと思う。 体を起こし、リモコンに手を伸ばしてテレビをつける。 画面が明るくなり、朝の情報番組が始まった。 天気、交通、芸能ニュース。 どれも、いつもと同じ順番で流れていく。 変わらない日常が、きちんとそこにある。 ――だが、その流れは、昨日と同じように途中で変わった。『昨日お伝えした宗教団体を巡る事件ですが――』 思わず、背筋が伸びる。 画面には、建物の外観と、慌ただしく出入りする人々の映像。『教祖とみられる人物が、昨日に身柄を確保されました』 その一文を聞いた瞬間、胸の奥に溜まっていたものが、ふっと抜けた。 要するに――終わった、ということだ。『その後、体調不良を訴え、現在は病院に搬送されているとのことです』 キャスターは感情を交えず、淡々と続きを読み上げる。 詳しいことは、まだ分からない。 だが、少なくとも、これ以上大きな騒ぎになる可能性は低そうだった。(……これで一安心、か) 心の中で、そう呟いた。 俺に直接関係があるわけじゃない。 それでも、昨日から引っかかっていたものが、ようやく落ちた気がした。 世界は相変わらず物騒だ。 どこかで誰かが壊れ、誰かが傷ついている。 それでも――今日の俺は、昨日より少しだけ前を向けそうだった。 ◇   ◆   ◇ 作業着に着替え、家を出る。 自転車を漕ぎながら、自然と頭の中で今日の予定を整理する。 仕事。定
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十一月十六日 土曜日① 街コン

 目覚ましが鳴るよりも早く、意識が浮上した。 天井を見上げたまま、しばらく動けない。 胸の奥が、じわじわと熱を持っている。(……今日、か) スマホを手に取り、時刻を確認する。 いつもより一時間も早い。 まだ時間はある。 そう分かっているのに、二度寝できるほどの心の余裕はなかった。 布団から体を起こし、深く息を吸って、吐く。それだけで、胸の内側がざわつく。 心臓の音が、やけにうるさい。耳の奥で、どくどくと主張している。 洗面所へ向かい、顔を洗うと冷たい水が、冷たい水が頬を叩き、少しだけ現実を引き戻してくれた。 顔を上げると、目の前の鏡に映るのは、銀色の髪をした三十歳の男だ。 昨日まで、何度も見たはずなのに、今日はやけに落ち着かない。 髪を整え、眉を整え、無精ひげが残っていないか確認する。 シャツに袖を通し、ジャケットを羽織る。 昨日、選んでもらった一式。 鏡の中の自分は――少なくとも、問題ないはずだ。(大丈夫だ) 声に出さず、心の中で繰り返す。(大丈夫だ、大丈夫だ) 何度も、自分に言い聞かせるように。 家を出る前、スマホを手に取り、いつものスレを開く。 指が、少し震えているのが分かった。 それでも、書き込んだ。 ◇   ◆   ◇ 325:名前:30歳の魔法使い 今から行ってくる ◇   ◆   ◇ たった、それだけの一言。 送信した瞬間、胸がきゅっと縮む。 逃げ道を、自分で塞いだ気がした。 だが、すぐにレスが流れてくる。 ◇   ◆   ◇ 326:名前:名無しの使い魔 心配すんな 327:名前:名無しの使い魔 逝ってこい 328:名前:名無しの使い魔 当たって砕けろ
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十一月十六日 土曜日② 邂逅

 差し出されたハンカチを、俺はしばらく見つめることしかできなかった。 白くて、清潔そうな布。指先に触れるほど近い位置にあるのに、どうしても受け取る動きができない。 さっきまで胸の奥を満たしていたのは、自己嫌悪と、居場所のなさと、どうしようもない諦めだった。 この場から逃げ出したい一心で、ただ帰ろうと思っただけだった。 なのに。「……あの?」 穏やかで、落ち着いた声。 その一言だけで、思考が止まった。 責めるでもなく、急かすでもなく、ただ俺を気遣う響き。 そこに立っていたのは、黒髪のロングヘアの女性だった。 過度な装飾はない。派手さもない。 それなのに、不思議と目が離せない。 整いすぎていないのに、どこにも破綻がない――そんな顔立ち。 表情は柔らかく、微笑みは控えめだ。 だが、その奥に、相手をよく見ている目をしている。 背筋が自然と伸びていて、立ち姿がきれいだ。 姿勢だけで、積み重ねてきた時間や生き方が伝わってくる気がした。 年齢は……俺と同じくらいか、少し上だろうか。 時間を重ねた分だけ、余計なものが削ぎ落とされたような、静かな美しさ。 落ち着いた雰囲気の奥に、大人の余裕が滲んでいる。 無理に主張しなくても、そこにいるだけで空気が整う――そんな存在感だった。 そして何より――服の上からでもはっきりわかるほど、すらりとしたスタイルの良さ。(……俺に?) 一瞬、理解が追いつかなかった。 視線を何度か往復させて、ようやく現実を受け止める。「お洋服……汚れてますよ」 そう言われて、ようやく胸元を見る。 さっきぶつかった拍子にこぼれた水が、シャツに薄い染みを作っていた。(こんなもの、どうでもいい) 急に恥ずかしさがこみ上げる。「あ、いえ
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十一月十六日 土曜日③ 前進

 会場を出たあとのことを、正直に言えば――よく覚えていない。 照宮さんと別れの挨拶をして、軽く会釈を交わして、それから……どうしたのか。 頭では理解しているはずなのに、記憶としては途切れ途切れだ。 気づけば、俺は街を歩いていた。 夜の空気は冷えていて、隙間から入り込む風が、現実に引き戻すはずなのに、足取りはどこか地に着いていなかった。 ネオンの光も、行き交う人の声も、すべてが遠い。 駅まで、どうやって辿り着いたのかも曖昧だ。 改札を抜けた記憶はある。電車に乗った覚えも、かすかに残っている。 吊り革を握っていたはずなのに、車内の風景も、人の顔も、まるで霧がかかったみたいにぼんやりしていた。 誰かに肩が触れた感触すら、後になって思い出したくらいだ。 頭の中に浮かんでくるのは、断片的な光景ばかりだった。 差し出されたハンカチ。白くて、清潔で、少しだけ柔らかかった感触。 穏やかな声。 「大丈夫ですか?」と、気遣うようにかけられた一言。 そして、はっきりとした「はい」という返事。 たったそれだけのやり取りなのに、胸の奥が、じわりと熱を帯びる。(……本当に、現実だったんだよな) 何度も、そう思う。 確認するみたいに、何度も。 改札を抜け、いつもの道を歩く。 見慣れたコンビニ、街灯、アパートの並び。 気づけば、俺は自分のアパートの前に立っていた。 鍵を取り出し、扉を開ける。部屋に入り、靴を脱いだところで、ようやく全身の力が抜けた。 そのまま、ベッドに腰を下ろす。 服も着替えず、ただ天井を見上げていた。 白い天井の染みをぼんやりと眺めながら、呼吸だけを繰り返す。 時間の感覚が、なくなる。 どれくらい、そうしていただろうか。 スマホが震えて、はっと我に返る。 画面を見れば、表示された名前。 照宮さん。
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十一月十七日 日曜日 誘い

 目覚めたとき、部屋は妙に静かだった。 いつもなら、スマホの目覚ましが、無遠慮な電子音で意識を引きずり上げてくる。 休みの日は予定がなければ、目覚ましをかけていない。 それでも体が覚えているせいで、八時前後には自然と目が覚める。 ――今日は、それがない。 薄く開けたカーテンの隙間から、白っぽい光が差し込んでいる。(……明るいな) ぼんやりとそう思い、枕元に置いてあった時計に目をやった。 ――十一時三十二分。「……は?」 声が、間抜けなほど低く漏れた。 一瞬、脳が数字を理解するのを拒んだ。 二度見して、三度見して、それでも表示は変わらない。 昨日は、あれだけ気を張っていた。 知らない場所、知らない空気、人の視線。 精神的にも、体力的にも、間違いなく消耗していた。 条件を並べてみれば、理由はちゃんと揃っている。 それでも――「……こんなに寝たの、いつぶりだ……」 布団の中で、小さく呟く。 身体が重いのに、不思議と嫌なだるさはない。 むしろ、深いところまで沈んで、ようやく浮かび上がってきたような感覚だった。 昨日の夜、服も着替えずにベッドに倒れ込んだことを思い出す。 電気を消して、天井を見上げて、考えるのをやめて―― 気づいたら、意識は途切れていた。(……いや、もう昼だけど) 天井を見上げたまま、しばらくぼんやりとする。 頭の奥が、まだ少し夢と現実の境目にある。 ゆっくりと起き上がり、枕元に置いていたスマホを掴む。 画面を点けると、通知のアイコンが浮かんでいた。 心臓が、どくんと跳ねた。 表示されている名前は――「……照宮さん…
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十一月十八日 月曜日 揺動

 月曜日の朝は、身体が重い。 理由は単純で、また仕事が始まるからだ。(……月曜か) 目覚ましの音を止めたまま、しばらく天井を見つめる。 頭では理解している。今日は月曜日で、会社に行かなければならない。 けれど――今までとは、どこか違った。 胸の奥が、落ち着かない。 嫌なざわつきではなく、むしろその逆。(水曜日……) まだ布団から出てもいないのに、その二文字が浮かぶ。 スマホを手に取るわけでもなく、ただ記憶をなぞるだけで、口元が緩みそうになる。(……駄目だ駄目だ。仕事前から浮ついてどうする) 自分に言い聞かせるように、布団を蹴って起き上がる。 朝食を簡単に済ませ、顔を洗い、作業着に着替える。 いつもと同じ動作のはずなのに、動きがどこか軽い。 家を出て、自転車に跨がる。ペダルを踏み込むたび、頬を刺す冷たい空気が冬の気配を主張してくる。 寒さは相変わらずだが、世界が少しだけ違って見えた。(……現金だな、俺) そんなことを思いながら、仕事場へ向かう。 ◇   ◆   ◇ 仕事は、いつもと変わらず、図面の溶接仕様を確認し、溶接を行う。 火花が散り、金属が溶け、形を変えて固定されていく。 集中できていないわけじゃない。 ただ、頭の片隅に、常に小さな灯りがともっている感じだった。 消えはしないが、主張もせずに、そこにある。(……浮かれてるな、俺) 自覚はある。 あるからこそ、姿勢を正し、意識的に仕事へ集中する。 浮ついた気持ちのままじゃ、危ない作業だ。 昼休みの食堂で、弁当を食べていると、向かいに人影が落ちた。「伊原」 顔を上げると、信先輩だった。「お疲れ。隣いいか?」
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十一月十九日 火曜日 混濁

 目覚ましは鳴っていない。それなのに、目は覚めた。 目が覚めて、最初に伸ばしたのは、枕元のリモコンだった。 テレビをつけると、部屋の静けさを切り裂くようにニュース番組の音が流れ込んでくる。 まだ頭が完全に起きていないのに、現実だけが強引に入り込んでくる。 どの局も、同じ話題だった。『――昨夜の連続自爆テロ事件ですが、現在も被害の全容は把握できていません』 アナウンサーの声は落ち着いている。 だが、画面の下を流れるテロップは違った。 赤く、太く、強い言葉ばかりが並んでいる。【連続自爆テロ】【各地で同時発生】【動機は不明】 現場映像、専門家のコメント、そして何度も繰り返される調査中という言葉。 場所はぼかされ、被害は数百人規模とはっきりしない表現ばかりだ。(……結局、何も分からないじゃないか) 画面を見つめながら、無意識に歯を食いしばっていた。 テレビを見ているだけでは埒が明かず、スマホに手を伸ばし、ニュース記事を見る どの記事を開いても、書いてあることはテレビとほとんど同じだ。 言い回しが少し違うだけで、中身は変わらない。 新しい情報はほとんどないのに、記事の数だけが増えていく。(……わからない、か) 分からない、という状態が、ここまで人を不安にさせるものだとは思わなかった。 何が起きて、どこまで広がっていて、もう終わったのか、それとも――まだ続いているのか。 何一つ、はっきりしない。 昨日と同じ部屋、同じ天井、同じ朝のはずなのに、どこか違う。 歯を磨き、顔を洗い、作業着に着替える。 いつもと変わらない動作のはずなのに、頭の奥が少し遅れてついてくる感覚があった。 玄関を出ると、朝の空気は澄んでいた。 空は青く、雲は薄く、あまりにも平穏だ。(……昨日、あんなことがあったなんて、嘘みたいだな)
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十一月二十日 水曜日① 鼓動

 目が覚めた瞬間、心臓が少し早く脈を打った。 目覚ましが鳴る前。まだ薄暗い部屋の中で、天井を見つめながら、頭の中に今日という日を浮かべる。(水曜日……いよいよ、今日だ!) 布団の中で一度、深呼吸をする。 胸の奥がざわついていて、落ち着かない。 期待と不安が、同じ重さで胸の中に詰め込まれている感じだ。 枕元のスマホを手に取り、無意識のまま掲示板を開く。 今日は仕事終わったらすぐに行くからレスできないことを書き込む。 書き込んで、少しだけ間を置くと、すぐに反応が返ってくる。 画面を眺めながら、口元が自然と緩む。(……ほんと、ありがたいな) 顔も名前も知らない連中だ。住んでいる場所も、どんな人生を歩んできたのかも分からない。 それなのに、こうして背中を押してくれる。 一人で抱え込んでいたら、きっと今日を迎える前に潰れていた。 いや――そもそも、今日という日を迎える決断すらできなかったかもしれない。 スマホを置き、布団から起き上がる。 身体は正直、少し重いが足取りだけは、不思議と軽かった。 ◇   ◆   ◇ 工場に着き、朝礼の列に並びながら、無意識に信先輩の姿を探してしまう。 だが、やはり見当たらない。(……今日も、休みか) 胸の奥が、少しだけ痛む。 家族が事件に巻き込まれたと聞いたときの、おばちゃんの顔が脳裏に浮かぶ。(心配だけど……) 今は、他人を気遣う余裕がない。 今日は、自分のことで手一杯だ。 意識を切り替えるように、溶接機を手に取る。 スイッチを入れると、耳慣れた音が周囲を満たした。 こういうときだけは、余計なことを考えずに済む。(……終わったら、すぐだ) それだけを目標に、手を動かし続けた
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