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《桜の生贄》全部章節:第 21 章 - 第 22 章

22 章節

第21話 残酷な舞踏会

 林を抜けた瞬間、僕らの目の前に広がったのは、古びた校舎の別棟だった。使われていない倉庫のような建物で、窓ガラスは割れ、壁には枯れ果てた蔦が不気味に絡みついている。 「……ここなら、隠れられるかもしれない」  大樹が短く言い、僕らは肺を焼くような息を切らしながらその暗闇へ飛び込んだ。内部は埃っぽく、腐食した床がところどころ抜けている。美緒は有栖をそっと床に降ろし、僕らは荒い呼吸を整えた。 「……はぁ……やっと……」  美緒の声が震えて膝を突き、荒い呼吸を繰り返す美緒の横で、僕は自分の心臓が、故障した機械のように不規則に激しく、胸の内側を叩いているのを感じていた。 すると、有栖はかすかに顔を上げ、僕を見つめてそっと唇を開いた。 「……まだ……来る……」  その言葉に僕たちは背筋が凍る。 「時間を稼ぐしかない。奴が来る前に、出口を探そう」  大樹が扉に背を預け、低く構える。僕は周囲を見回し、埃をかぶった棚の間に一冊の新しいノートが落ちているのを見つけた。 拾い上げると、黒く塗りつぶされた名前の欄と、異様なほど精密な地図が描かれている。 拾い上げたノートは、異様に新しく、不気味さを放っている。そこに記された地図は、まるで建築主が設計図を自慢するかのような細かく描かれていた。 ページを進めると、カサリという紙の音がこの静まり返った倉庫では爆音のように響いた。 名前を塗りつぶした黒いインクの塊が、そこだけページを侵食している癌細胞のように見えて、僕は指先に嫌な冷たさを覚えた。 (これはヒントじゃない。……恐らくわざと運営から解答を押し付けられているんだ。) 自分の心の声が、他人のもののように冷たく響く。  僕たちは助かろうとしているんじゃない。運営が用意した最短ルートを、なぞらされているだけなんだ。と考えてしまう。 「これ……さっきの体育館のルートと同じ……でも続きがある!」  美緒が覗き込み、顔を青ざめさせる。赤い線で描かれたルートは、この倉庫からさらに北へ、まるで僕らを意図的に導いているようだった。 「……誰が、なんのために……」 「……迎えに行くって……書いてあった」  有栖の小さな囁きに答えるように建物全体が低く軋んだ。外から、重い金属を引きずる音が近づいてくる。 ギリっ……、ギリっ……と床
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第22話 生への渇望 前編

有栖は旧理科準備室から体育館の奥へ、奥へと逃げ込むうちに、背後から聞こえていた仲間の叫びは、まるで海底にに沈んだかのように遠のいていった。  かつて歓声が響いたはずの巨大な空間は、今や濃密な死臭と、喉を刺すような冷気だけが支配する底なしの檻のようだった。 有栖は、自分が完全に独りになったことをいやでも悟ってしまう。 体育館の床が、一歩踏み出すたびにギィ……ッと悲鳴のような音を上げる。広い体育館の闇の中で、有栖の存在はあまりにも小さく、無力であった。 その音は高い天井に跳ね返り、まるで何百人もの透明な観客が、有栖自身の死を待ちわびて息を殺しているかのような錯覚を呼び起こした。 「……ッ、はぁ……はぁ……っ!」 自分の荒い呼吸音が、拡声器で流されているみたいにうるさく思える有栖。まるで、追いかけてくる大鎌の引きずる音は、序盤の廊下で聞いていた時よりもずっと重く、有栖の心に不快な振動となって足裏から伝わってきた。  肺が焼けそうだ。吸い込む空気が刃のように肺を削り、足の感覚はとうに麻痺していた。それでも立ち止まることは許されない。立ち止まれば、その瞬間に背後の死が迫ってきてしまうから。  背後で、床の木材を削り取る大鎌の音と、ギリ……ギリ……と、神経を逆撫でする嫌な音が響く。 有栖の視界は、激しい呼吸のせいで白く霞んでいる。  肺が酸素を求めて呼吸するたびに、喉の奥で鉄の味が広がった。彼女にとってこの数分間は、永遠という名の地獄を走らされているのと同じことだったのだ。 そして、地を這う愉快そうな笑い声が、耳元で囁くように届いた。 「へっ……やっと俺と二人きりになれたな。有栖」  ぞくり、と背筋に冷たい氷を流し込まれたような感覚が走る。仲間がいないことをあえて口にしたその声には、逃れられない運命を慈しむような、狂おしい感情がこもっていた。 「怖ぇだろ?でも安心しろよ……俺はな、すぐには殺さねぇ」  大鎌が床をえぐり、暗闇の中に火花が散る。その一瞬の光に、殺人鬼の歪んだ笑みが浮かび上がった。 「お前がどれだけ必死で走るか……どこまで逃げようとすんのか……それを見届けるまで、この舞台は終わらせねぇからよ」  殺人鬼はわざと追いつかず、獲物が絶望を育てるための猶予を与えている。有栖が必死に足を動かすほど、その後ろを死の影
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