梨沙は呆然とした。千鶴は泣き崩れ、片手で顔を覆った。「それもあなたたちの家で、あなたたちの寝室でだよ。どうしてあんなことができるんだい!これは私たちへの侮辱よ!」梨沙の胸には驚きと嬉しさが同時に込み上げた。祖母は昔気質な考え方をしているから、離婚なんてするな、少し我慢しなさいと言われるかもしれないと思っていた。今でも、あの閉鎖的な地域では、離婚した女性は陰であれこれ言われる。祖母もそういう環境で育ってきたのだから、そうした価値観に染まっていても不思議ではない。けれど、違った。梨沙はまったく予想していなかった。海渡の浮気を知った祖母が、ここまで必死に自分の離婚を後押ししてくれるなんて。梨沙は目尻をこすった。「おばあちゃん、とりあえず帰ってから話そう。この件は、おばあちゃんが思ってるほど単純じゃないの」その言葉を聞き、海渡の胸にのしかかっていた大きな石が少しだけ下りた。口元に薄い笑みが浮かぶ。――やはりそうだ。梨沙は自分から離れられない。海渡は軽く咳払いをした。「この件については後でちゃんと説明する。今はおばあちゃんを連れて帰ってくれ。少し落ち着いてもらわないと」梨沙は海渡を見ようともしなかった。半ば引きずるように千鶴を連れて立ち去る。二人の姿が角を曲がり、エレベーターの方へ消えていくまで、海渡はじっと見つめていた。やがて待合用のプラスチック製ベンチに腰を下ろし、冷たい壁にもたれかかる。こめかみを揉みながら頭痛をこらえた。なぜか心がひどく落ち着かない。ネクタイを緩めるように襟元を引っ張り、重い息を吐く。そして立ち上がり、その場を後にした。――千鶴は鼻水と涙でぐしゃぐしゃになりながら梨沙を抱き締めた。「本当に全部本当なのかい?」梨沙は苦笑する。祖母の涙を拭いながら言った。「こんな状況で、嘘なんてつかないよ。おばあちゃんの心臓が耐えられないんじゃないかと思って、ずっと言えなかった......一か月くらい経って心臓の状態が落ち着いて、離婚の話も確定してから伝えるつもりだったの」千鶴はさらに激しく泣き出した。ほとんど号泣だった。「一体......どれだけ辛い思いをしてきたんだい。かわいそうに......ごめんなさい。あの男との結婚を許すんじゃなかっ
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