Lahat ng Kabanata ng 姉上の代わりに嫁いだ私を、辺境伯は最初から見抜いていた: Kabanata 31 - Kabanata 33

33 Kabanata

第6話 あなたは姉ではない②

「……どなたですか」 自分で思っていたより、声は落ち着いていた。少なくとも表面上は。 扉の向こうで一拍の沈黙。 それから返ってきた声に、セレフィアの指先がさらに冷えた。「ゼルヴァンだ」 低い声だった。昼間、城門の前で聞いたのと同じ、余計な熱のない声音。飾らず、押しつけず、それでいて拒みがたい声。 喉が詰まる。 来ると思っていなかったわけではない。むしろ、どこかで待っていた。待っていたからこそ、現実になった瞬間に呼吸が浅くなる。「……どうぞ」 そう返したところで、手が震えているのに気づく。急いで膝掛けの下へ隠す。扉が開く音は静かだった。蝶番ひとつ鳴らず、ただ重い気配だけが部屋へ入ってくる。 ゼルヴァンは一人だった。 黒に近い濃紺の上着の上へ薄い毛織の外套を羽織っている。昼間より軽い装いだが、それでも体の線は隠れすぎず、無駄のなさだけがよく見える。部屋の暖かさの中でも彼は汗ひとつかいておらず、外気の冷えをそのまま少しだけまとってきたようだった。髪にはもう雪はない。だが眉尻の古傷のあたりに落ちる影が、昼間よりも濃く見える。 扉が閉まる。 その音がやけに重かった。 セレフィアは椅子から立ち上がろうとした。けれど足へ一瞬うまく力が入らず、立つ動作が半拍遅れる。その遅れをゼルヴァンが見たかどうかはわからない。「長旅のあとにすまない」 彼が言う。「少しだけ話がしたい」 その言い方に怒気はない。責めるような色もない。けれど、それがかえって恐ろしい。もし糾弾されるのなら、もっとわかりやすく怒られたほうがまだ楽だったかもしれない。静かな言葉のほうが、逃げ道がない。「……はい」 セレフィアはどうにか立ち上がり、礼をしようとする。だがゼルヴァンが軽く手を上げた。「座ってくれ」「ですが」「君も疲れているだろう。形式は今はいい」 形式は今はいい。 その一言に、胸の奥がざわめいた。形式ではない何かを、これから扱うつもりなのだと、その言い方だけでわかってしまう。 ゼルヴァンは暖炉の向こう側、セレフィアと斜めに向かい合う位置へ立った。座らない。立ったまま、火の明かりを半分だけ受けている。その影が背後の壁へ細く長く落ちる。銀鉄色の瞳が、まっすぐこちらを見ている。 沈黙が落ちた。 暖炉の薪がひとつ、ぱちりと弾ける。その音があまりにも大きく聞こえた
last updateHuling Na-update : 2026-07-08
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第6話 あなたは姉ではない③

 ゼルヴァンはそんな彼女を見ても、声を荒らげなかった。近づいてもこない。怒鳴りつけるでもなく、扉を開けて人を呼ぶでもなく、ただ静かにこちらを見ている。 その静けさが、むしろ残酷だった。「……申し訳」 やっとのことで出た声は掠れていた。「申し訳、ございません……」 それしか言えなかった。何から先に詫びればいいのかもわからない。姉が失踪したことか。家が自分を差し出したことか。辺境伯を欺いたことか。手紙のやり取りの中へ自分の言葉を混ぜ込んでいたことか。どれも、どれも詫びても足りない。 けれどゼルヴァンは、謝罪の言葉を途中で遮るようにわずかに首を振った。「責めるために来たわけではない」 その一言に、セレフィアはむしろ混乱した。「……え」「今はまだ、何があったかを聞く前に、まずこちらの認識だけを伝えるべきだと思った」 認識。 その言葉の選び方が、ゼルヴァンらしいと思ってしまう。怒りや感情をぶつけるのではなく、まず事実の輪郭から置く。まるで書簡の文面のように。 セレフィアは唇を開いたが、声が出ない。 ゼルヴァンは少し視線をずらし、暖炉の火を横目に見た。そしてまたセレフィアへ目を戻す。その視線は厳しいが、無意味に冷たくはなかった。必要以上に追い詰めないよう距離を測っているようにさえ見えた。「最初に違和感があったのは、婚約後に届いた返書だった」 セレフィアの心臓が、また一つ大きく打つ。 やはり、そこなのだ。「王都で見聞きするオルフィーヌ嬢の評判と、手紙の文が一致しなかった」 ゼルヴァンの声は低く、一定の速さで続く。「私は王都の噂話を鵜呑みにする気はない。だが、少なくとも耳に入る人物像と、便箋の上にいる書き手には、かなり開きがあった」 セレフィアは膝の上で手を握った。手袋を外した指先が白くなる。「最初は、本人が意外に思慮深いのだろうとも考えた。社交の場で見せる顔と、書く時の顔が違う人間は珍しくないからだ」 そこまで聞いて、胸の中にほんの少しだけ痛みに似たものが走る。もしそうであればよかったのに、と一瞬だけ思ってしまう。オルフィーヌにも、自分の知らない思慮深さがほんとうはあって、それが手紙にだけ現れていたのなら。そうなら、こんなふうに罪悪感へ変わることもなかっただろう。 だが現実は違う。「けれど、文が重なるごとに、その違和感は大きくな
last updateHuling Na-update : 2026-07-09
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第6話 あなたは姉ではない④

 そこまで言われると、セレフィアはもう逃げ場を失う。 あの一文は、たしかに自分の奥に近すぎた。だから返書を書き終えたあとで、ひどく躊躇したのだ。それでも削れなかった。削ればただの花嫁の文にはなっただろう。だが、自分にとってはあまりにも嘘になりすぎた。 そしてその嘘でない部分こそを、彼は見つけていた。「……では」  声が、ひどく小さく出る。 「最初から、ずっと……」「最初から、というほど早くはない」 ゼルヴァンは訂正した。「ただ、手紙の主に対して私が抱いていた印象と、王都で実際に見聞きするオルフィーヌ嬢の気配が噛み合わなかったのは事実だ」 事実。 その言葉が静かに胸へ落ちる。 セレフィアはゆっくり息を吸った。暖炉の熱で空気は温かいはずなのに、肺の内側だけが冷たい。目の前の現実が、痛いほど鮮明だ。 彼は読んでいたのだ。 社交辞令の向こうにあるものを。姉の名の下へ紛れ込んだ、自分の言葉を。考えを。視点を。 そのことが恐ろしく、同時に、どうしようもなく苦しい。救いだった時間が、まるごと今の断罪の理由へ変わっている。 セレフィアはようやく顔を上げた。ゼルヴァンはまだ立ったまま、こちらを見ていた。「……では、城門で」「確認した」  彼は短く言った。 「話し方、沈黙の置き方、寒さへの反応。私が手紙の中で知っていた書き手と、目の前の君は一致していた」 一致していた。 その言葉に、胸が締めつけられる。心臓のあたりへ冷たい指を差し入れられたみたいに。 手紙の中で知っていた書き手。 それはオルフィーヌではなく、セレフィアだった。セレフィアの感覚で考え、選び、削れなかった言葉たち。誰にも見えないところで、誰かの名前を借りて書いていたはずのもの。 それを知っていたのだ、この人は。「そんな……」 言葉にならない。何を言えばいいのかわからない。否定もできないし、認める勇気も足りない。認めた瞬間に、すべてが決定的に壊れる気がする。 けれどもう、十分壊れているのかもしれない。 セレフィアは視線を膝の上へ落とした。自分の手が、知らないほど強く握られている。爪が掌へ食い込み、赤い月形の跡をつくっているだろうと思う。「……申し開きは、ございません」 やっとそれだけを絞り出した。「姉は……オルフィーヌは、婚礼の三日前にいなくなりました。父と母は
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