社交界の集まりでは、決まってひとつの笑い話が出る。「鷹宮夫人は自分じゃ子どもも産めないくせに、毎日のように鷹宮蓮(たかみや れん)の寝室へ女を送り込んでるんだってな。うちの鬼嫁にも、それくらいの覚悟があればいいんだが」けれど彼らは知らない。あの女たちはみんな、蓮の母が私の名を使って連れてきたのだ。最初の女を、蓮はその場で追い返した。そして私と激しく口論した。そのあと、数十億円を超える宝石を競り落とし、私の機嫌を取った。2人目の女を寝室に送り込んでも、あの人は手が触れただけで顔をしかめ、そしてまた、私と喧嘩になった。そのあと、広大な屋敷を買い、自分のそばにいる女は私ひとりだけだと言った。……10人目で、すべてが変わった。その夜、蓮は寝室の扉を閉めたまま、一晩出てこなかった。水原詩乃(みずはら しの)という清楚そうな女子大生が蓮とともに寝室へ入っていったあと、私はリビングのソファに座ったまま、黙っていた。中から漏れてくる、なまめかしい喘ぎ声を一晩中聞いていた。空が白みはじめたころ、蓮が上半身を裸にしたまま部屋から出てきた。情事のあとの生温い匂いが、扉の隙間から私の鼻先まで流れてくる。吐き気がした。蓮は私の前に立ち、冷ややかに言った。「もう満足か?」私は顔を上げ、蓮を見返した。「満足したのは、あなたのほうでしょ」蓮は急に声を荒らげた。「毎日のように女を探してきて、俺の子どもを残したいんじゃない。結婚して10年、俺に飽きただけなんだろ。いいさ、望みどおりにしてやる。今この瞬間から、お前には指一本触れない!詩乃が起きたら、車で学校まで送ってやれ」私は立ち上がり、震えそうになる声を抑えて、ひとつだけ訊いた。「あの子を愛してるの?」「ああ、愛してる。だが安心しろ。鷹宮家の奥様っていう肩書きは、ずっとお前のものだ。明日、ゲストルームをひとつ片づけさせる。お前はそこへ移れ。詩乃は俺と同じ部屋を使う」そう言い捨てると、蓮は浴室へ入っていった。シャワーの音に紛れるように、涙がこぼれ落ちた。10年前、私たちが何も持っていなかったころ、蓮は私の手を握り、結婚に反対する母親の前に立った。あのときも、蓮は同じように迷いなく言った。「俺は彼女を愛してる。一生、彼女だけを愛する」私だけに向けられて
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