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夫に捨てられた私が、妹のためにすべてを暴く

夫に捨てられた私が、妹のためにすべてを暴く

By:  佳宵子Completed
Language: Japanese
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社交界の集まりでは、決まってひとつの笑い話が出る。 「鷹宮夫人は自分じゃ子どもも産めないくせに、毎日のように鷹宮蓮(たかみや れん)の寝室へ女を送り込んでるんだってな。うちの鬼嫁にも、それくらいの覚悟があればいいんだが」 けれど彼らは知らない。あの女たちはみんな、蓮の母が私の名を使って連れてきたのだ。 最初の女を、蓮はその場で追い返した。そして私と激しく口論した。 そのあと、数十億円を超える宝石を競り落とし、私の機嫌を取った。 2人目の女を寝室に送り込んでも、あの人は手が触れただけで顔をしかめ、そしてまた、私と喧嘩になった。 そのあと、広大な屋敷を買い、自分のそばにいる女は私ひとりだけだと言った。 …… 10人目で、すべてが変わった。その夜、蓮は寝室の扉を閉めたまま、一晩出てこなかった。 私たちはもう喧嘩をしない。言葉を交わすこともなくなった。 誰もが、私が鷹宮家での居場所を守るためなら手段を選ばず、一生この家にしがみつくと思っていた。 だからこそ私が本当に離婚協議書を差し出したとき、それを信じた者は、ひとりもいなかった。蓮でさえも。

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Chapter 1

第1話

社交界の集まりでは、決まってひとつの笑い話が出る。

「鷹宮夫人は自分じゃ子どもも産めないくせに、毎日のように鷹宮蓮(たかみや れん)の寝室へ女を送り込んでるんだってな。うちの鬼嫁にも、それくらいの覚悟があればいいんだが」

けれど彼らは知らない。あの女たちはみんな、蓮の母が私の名を使って連れてきたのだ。

最初の女を、蓮はその場で追い返した。そして私と激しく口論した。

そのあと、数十億円を超える宝石を競り落とし、私の機嫌を取った。

2人目の女を寝室に送り込んでも、あの人は手が触れただけで顔をしかめ、そしてまた、私と喧嘩になった。

そのあと、広大な屋敷を買い、自分のそばにいる女は私ひとりだけだと言った。

……

10人目で、すべてが変わった。その夜、蓮は寝室の扉を閉めたまま、一晩出てこなかった。

水原詩乃(みずはら しの)という清楚そうな女子大生が蓮とともに寝室へ入っていったあと、私はリビングのソファに座ったまま、黙っていた。

中から漏れてくる、なまめかしい喘ぎ声を一晩中聞いていた。

空が白みはじめたころ、蓮が上半身を裸にしたまま部屋から出てきた。

情事のあとの生温い匂いが、扉の隙間から私の鼻先まで流れてくる。吐き気がした。

蓮は私の前に立ち、冷ややかに言った。「もう満足か?」

私は顔を上げ、蓮を見返した。「満足したのは、あなたのほうでしょ」

蓮は急に声を荒らげた。

「毎日のように女を探してきて、俺の子どもを残したいんじゃない。結婚して10年、俺に飽きただけなんだろ。いいさ、望みどおりにしてやる。今この瞬間から、お前には指一本触れない!

詩乃が起きたら、車で学校まで送ってやれ」

私は立ち上がり、震えそうになる声を抑えて、ひとつだけ訊いた。

「あの子を愛してるの?」

「ああ、愛してる。だが安心しろ。鷹宮家の奥様っていう肩書きは、ずっとお前のものだ。明日、ゲストルームをひとつ片づけさせる。お前はそこへ移れ。詩乃は俺と同じ部屋を使う」

そう言い捨てると、蓮は浴室へ入っていった。

シャワーの音に紛れるように、涙がこぼれ落ちた。

10年前、私たちが何も持っていなかったころ、蓮は私の手を握り、結婚に反対する母親の前に立った。

あのときも、蓮は同じように迷いなく言った。

「俺は彼女を愛してる。一生、彼女だけを愛する」

私だけに向けられていたはずのその愛は、結局、別の女のものになった。

夜が明けても、私は詩乃を学校へ送らなかった。代わりに、法律事務所へ向かう。

弁護士と財産のことを確認して、私はようやく思い知った。

結婚して10年。私には、何ひとつ残っていない。

蓮が私に贈ったものは、すべて蓮の名義だった。

母から受け継いだ大切な形見を売ってまで支えた会社でさえ、今の私には1株の持ち分すらなかった。

唯一あったのは、毎月きっちり振り込まれる2000万円の小遣いだけ。だがその口座さえ、名義は蓮のものだった。

昼になってようやく、私は離婚協議書を手に蓮の会社へ向かった。

蓮は眉間に深い皺を寄せ、書類を机に叩きつけた。

「白石澪(しらいし みお)、俺がお前に贈った屋敷も他の不動産も、全部お前のものだと言うのか?まさかここまで欲深い女だったとはな!

俺の妻でいるうちは、全部お前のものだ。だが離婚するなら、1円たりとも渡すつもりはない」

胸の奥がすっと冷えた。人は、愛しているときと愛していないときで、ここまで変わるのか。

愛されていた頃は、この世の幸せを全部手にしている気がした。

愛されなくなった今、私はそこにいるだけで邪魔者だった。

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第1話
社交界の集まりでは、決まってひとつの笑い話が出る。「鷹宮夫人は自分じゃ子どもも産めないくせに、毎日のように鷹宮蓮(たかみや れん)の寝室へ女を送り込んでるんだってな。うちの鬼嫁にも、それくらいの覚悟があればいいんだが」けれど彼らは知らない。あの女たちはみんな、蓮の母が私の名を使って連れてきたのだ。最初の女を、蓮はその場で追い返した。そして私と激しく口論した。そのあと、数十億円を超える宝石を競り落とし、私の機嫌を取った。2人目の女を寝室に送り込んでも、あの人は手が触れただけで顔をしかめ、そしてまた、私と喧嘩になった。そのあと、広大な屋敷を買い、自分のそばにいる女は私ひとりだけだと言った。……10人目で、すべてが変わった。その夜、蓮は寝室の扉を閉めたまま、一晩出てこなかった。水原詩乃(みずはら しの)という清楚そうな女子大生が蓮とともに寝室へ入っていったあと、私はリビングのソファに座ったまま、黙っていた。中から漏れてくる、なまめかしい喘ぎ声を一晩中聞いていた。空が白みはじめたころ、蓮が上半身を裸にしたまま部屋から出てきた。情事のあとの生温い匂いが、扉の隙間から私の鼻先まで流れてくる。吐き気がした。蓮は私の前に立ち、冷ややかに言った。「もう満足か?」私は顔を上げ、蓮を見返した。「満足したのは、あなたのほうでしょ」蓮は急に声を荒らげた。「毎日のように女を探してきて、俺の子どもを残したいんじゃない。結婚して10年、俺に飽きただけなんだろ。いいさ、望みどおりにしてやる。今この瞬間から、お前には指一本触れない!詩乃が起きたら、車で学校まで送ってやれ」私は立ち上がり、震えそうになる声を抑えて、ひとつだけ訊いた。「あの子を愛してるの?」「ああ、愛してる。だが安心しろ。鷹宮家の奥様っていう肩書きは、ずっとお前のものだ。明日、ゲストルームをひとつ片づけさせる。お前はそこへ移れ。詩乃は俺と同じ部屋を使う」そう言い捨てると、蓮は浴室へ入っていった。シャワーの音に紛れるように、涙がこぼれ落ちた。10年前、私たちが何も持っていなかったころ、蓮は私の手を握り、結婚に反対する母親の前に立った。あのときも、蓮は同じように迷いなく言った。「俺は彼女を愛してる。一生、彼女だけを愛する」私だけに向けられて
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第2話
これ以上揉める気はなかったので、私は次の書類を差し出した。「これは財産放棄の離婚協議書よ。署名して」蓮は机を叩いて立ち上がり、怒鳴りつけた。「そんなに俺と別れたいのか?」そのとき、蓮の携帯が鳴った。電話に出た途端、顔から血の気が引いていく。次の瞬間、私は頬を打たれていた。口の端から、じわりと血がにじむ。「詩乃を学校まで送れと言っただろうが!お前はいったい何をしてる。こんなくだらない離婚協議書なんか用意しやがって!詩乃が事故に遭ったんだ!お前は本当に役立たずだな。長年、家でぬくぬく暮らしてきて、お前が俺の役に立ったことなんて、一度でもあったか?いいだろう。離婚したいんだな。してやるよ!」蓮は財産放棄の離婚協議書の方に署名すると、書類を私の顔へ投げつけた。「来い。病院へ行って詩乃に謝れ!」そう言うと、蓮は私の腕をつかみ、乱暴に社長室から引きずり出した。病室に入った途端、詩乃は涙をこぼした。わずかに赤くなっただけの手首を、ひどくつらそうに蓮の前へ差し出す。「蓮さん、痛い……」蓮はその手首にそっと息を吹きかけた。「ほら、こうすれば痛くない」そんな2人の姿を見て、私は昔、蓮と一緒に屋台でアイスを売っていたころを思い出した。大粒の雪が降るなか、私の手は冷え切って、じんじん痛んだ。蓮はあのときも、同じように優しく息を吹きかけてくれた。「ほら、こうすれば痛くない」そこまで思い出した途端、目頭が熱くなり、胸まで苦しくなった。けれど蓮は、不機嫌そうに私を睨んだ。「泣く資格があると思ってるのか。全部お前のせいだ。さっさと詩乃に謝れ!」私は背筋を伸ばし、静かに答えた。「それはできない」蓮はベッド脇の棚にあったものをつかむなり、そのまま私に投げつけた。金属の重いものが額に当たり、たちまち血が流れ落ちた。「この数年、甘やかしすぎたな。謝ることもできなくなったのか。悪いと思うなら、さっさと謝れ!」詩乃は泣きながら蓮の手を引いた。「蓮さん、やめて。澪さんを怒らせたら怖いですし……これから一緒に暮らすんですから。私は大丈夫だけど、赤ちゃんに何かあったら……」胸の奥が、ざわりとした。私は、2人が一夜だけ過ごしたと思っていた。まさか、子どもまでいたなんて。蓮はその言葉を聞いた瞬間、目を輝かせた
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第3話
蓮の顔から優しさが消え、私を見下すような視線だけが残った。「30過ぎの専業主婦が、10年も働いてないんだぞ。本気で路頭に迷うつもりか?世の中の夫婦がみんな離婚しても、お前だけは俺と離婚できない。それに、俺に子どもができるのは、お前の望みでもあっただろ?妹のところへ行ってこい。俺は詩乃についている」私はぼんやりしたまま、妹の病室へ向かった。やせ細った雨音の顔を見た途端、涙が止まらなくなった。両親は早くに亡くなり、3歳下の妹と私は、ずっと2人きりで支え合って生きてきた。蓮が会社を立ち上げた年、雨音はある資産家の息子から性的暴行を受けた。私はすぐ警察へ行こうとしたが、蓮に止められた。その男が、蓮に大口の出資を約束したからだ。会社の先行きを左右するほどの金だった。「裁判になっても、あの家の力なら相手は傷ひとつ負わない。むしろ傷つくのは、雨音の評判だけだ」結局、私は折れた。けれど雨音の心は完全に壊れてしまい、自ら6階から身を投げた。その日から、雨音は植物状態になった。蓮はこの病院で一番いい病室を用意し、今まで雨音の命をつないでいた。それは本来、蓮が負うべき責任だった。なのに今では、蓮とあの母親が私を脅すための材料になっていた。蓮の母も、雨音のことを持ち出しては、私を脅していたのだ。「あの女たちを、私が蓮にあてがったなんて言ってごらん。あんたの妹の酸素チューブを抜かせるわよ。子どもも産めないくせに。こうなったのは全部、あんたのせいなんだから」その言葉は、何度も胸に突き刺さった。「雨音、姉さんが連れていくね」……医師によると、詩乃は妊娠1か月で、胎児の状態が不安定なため、数日入院が必要らしい。蓮は24時間、病院で詩乃に付き添った。そのおかげで、私は少しだけ息をつけた。家に戻り、わずかに残っていたアクセサリーを持ち出して売った。この数年、蓮は周りに、私へ高価な宝石をいくつも贈ってやったと言いふらしていた。だが実際には、ほとんど蓮の母に取り上げられていた。私は社交の場にほとんど出ないから、家に置いておく必要はないと言われたのだ。毎月、蓮から小遣いが振り込まれるカードも、1円使うたびに蓮の母にチェックされる。だから今は、そのお金にも手をつけられなかった。私はアクセサリーを売った金で、地元
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第4話
彼女は、チャリティーオークションの招待状を送ってきた。「主人が海外出張なの。付き合ってくれない?」断るつもりだったが、リンク先の出品一覧を見た瞬間、胸が大きく跳ねた。そこにあった深い緑色をした翡翠の腕輪は、蓮の起業資金のために私が質に入れた、母から受け継いだ大切な形見だった。当時、2400万円で手放した。蓮の事業が軌道に乗ってから買い戻そうとした。けれど、そのときにはもう別の人の手に渡っていた。私は拳を握りしめた。蓮名義の小遣い口座には、使わずに残した金が数億円ある。どうしても、あれだけは取り戻したい。まさか、蓮と詩乃までオークションに参加しているとは思わなかった。「澪さん、今夜から私も一緒に住むことになったんです。これからよろしくお願いしますね」蓮も当然のように命じた。「帰ったら、まず詩乃に温かいスープを作ってやれ」私は2人を無視して、ただ腕輪が出てくるのを待った。胸の奥がずっと落ち着かなかった。最後の品が運ばれてきたとき、隣に座っていた蓮の肩もびくりと揺れた。私と同じように、すぐにそれだとわかったのだ。蓮は私を振り返った。「俺が落としてやる」けれど私が口を開くより先に、詩乃が蓮の腕に絡みつき、甘えた声を出した。「きれい。すごく好き。これ、ほしい」蓮は迷いもなくうなずき、それから私に言った。「詩乃が飽きたら、お前にやる」私は思わず口走った。「だめ」スタート価格は6000万円。私はすぐに札を上げた。だが蓮は、一気に2億円まで値を吊り上げた。結果は言うまでもない。私の負け。閉会後、スタッフが翡翠の腕輪を運んできた。私はすがるように蓮を見た。「これが私にとってどれほど大切なものか、あなたは知ってるでしょう。私に譲って。お金は必ず返すから」けれど言い終えるより先に、詩乃が手を振り上げ、腕輪を床に叩きつけた。翡翠は一瞬でいくつにも砕け散った。気づいたときには、私は詩乃の頬を打っていた。詩乃は甲高い悲鳴を上げ、蓮に飛びついて泣き出した。「わざとじゃないんです」蓮は激怒し、私を床へ蹴り飛ばした。そして蓮は電話を取り出し、誰かに命じた。「雨音への支払いを止めて、今すぐ病室も引き払わせろ!お前は痛い目を見ないとわからないんだな!」私は恐怖のあまり蓮に駆け寄り、やめてと懇願しようと
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第5話
けれど、運は私に味方しなかった。私が提出した資料は、何人分もの臓器移植同意書だった。しかも臓器の受取人は、金や権力を持つ人間ばかりだった。提供者の名前の中には、見覚えのあるものもあった。海外の違法組織に騙されて連れていかれたとして、ニュースになっていた人たちだ。何が起きていたのかは明らかだった。けれど、蓮が関わったことを証明する決定的な証拠はなかった。ぼんやりしたまま警察署を出ると、外の雨はもう止んでいたが、私の心だけは冷えきったままだった。携帯が何度も震える。見なくても、蓮からだとわかる。蓮と結婚して10年。彼の仕事の関係で顔を合わせる財界人の奥様たちを除けば、私には友人と呼べる人がいない。そのまま、十数分ほど道を歩いた。ふいに、すぐそばで耳障りなブレーキ音がした。続いて、黒いジープの窓が開いた。低く落ち着いた声が車内から聞こえる。「送るよ」私は振り向き、相手を見つめた。彼は白い歯を見せて笑った。その笑顔には、不思議な安心感があった。「怖がらなくていいよ。この事件を担当している刑事の真壁慎(まかべ しん)だ。足もケガしてるようだし、送ってあげるから乗って」私は何も考えられなかった。ただ促されるまま、車に乗った。座った途端、足元から鋭い痛みが走り、足の裏が傷だらけになっていることに気づいた。慎は薬局の前で車を止め、消毒液とガーゼを買ってきた。さらに隣のコンビニで、私にサンダルを買ってくれた。車の中で、大柄でたくましい男が驚くほど丁寧に包帯を巻いてくれるのを見て、ふと遠い記憶に引き戻された。中学生のころにも、同じことをしてくれた人がいた。13歳のとき、父が初恋の女性と心中し、川に飛び込んで死んだと知らされた。私は寝起きのまま、靴も履かずに川辺へ走った。あのときも足を傷つけ、今日と同じように、心を空っぽにして家へ戻った。家の前に着いたところで、色白の年上の男の子に呼び止められた。「足、血が出てるよ。僕、最近隣に越してきたんだ。手当てしてあげる」それから私たちは一番の友達になった。けれど2年後、彼は大学へ行くために家を出た。警察学校に進んだと聞いたきり、一度も会っていなかった。そこまで思い出した瞬間、胸がかすかに震えた。私は思わず聞いた。「私のこと、知ってる?」
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第6話
「蓮さんが、まだ少しは昔のよしみで家に置いてくれてるからいいですけど、私だって澪さんみたいなおばさんと一緒に暮らしたいわけじゃないんですよ。鏡、ちゃんと見てます?私より10歳も上なんですよ。もう女として見られてないって、そろそろ気づいたらどうですか。私が男でも、澪さん相手じゃ無理です。あ、言い忘れてました。蓮さん、約束してくれたんです。鷹宮家の財産は全部、私とこの子に残すって。澪さんに残るのは、奥様っていう肩書きくらいですよ。ほんと、かわいそう」さっき電話に出たとき、うっかりスピーカーモードにしていた。詩乃の言葉は、慎にもはっきり聞こえていた。慎はこらえきれず、拳でハンドルを強く叩いた。その目には濃い怒りが宿っていた。それでも私は、声を荒らげずに聞いた。「雨音にあんなことをしたのは、あなたね?」「だったら何ですか?証拠でもあるんですか?私が怖がるとでも思いました?澪さんみたいな専業主婦に、誰かを動かす力なんてないですよ。誰も相手にしてくれませんって。それに今、この家で一番大事なのは私とお腹の子です。責められるのは私だと思います?それとも、今さら騒いでる澪さんだと思います?」私は鼻で笑った。「あなたも、一生このままでは嫌でしょう。私がいる限り、あなたの子どもはずっと婚外子のまま。私を追い詰めるのは、奥様の座が欲しいからでしょう?私はもう蓮と離婚協議書に署名している。あと10日で離婚は成立する。賢いなら、その日まで蓮を引き止めておきなさい。私が無事に離婚できるように」「うそでしょう?澪さんが鷹宮家っていう後ろ盾を手放せるわけないじゃないですか?」「離婚協議書は2通ある。蓮の分は書斎の引き出しに入れてあるから、見ればわかるわ」そう言って、私は電話を切った。そのとき初めて、慎の目が赤くなっていることに気づいた。「俺はお前が愛する人と結婚して、幸せに暮らしているんだと思ってた」私は苦笑して、ため息をついた。「そうね。私もそう思ってた。でも、愛だと思っていたものは、最初から全部、計算だったのよ」慎はもう一度、私の手を強く握った。「雨音は俺にとっても妹みたいなものだ。安心して。必ず真相を調べる。相手が鷹宮家だろうと、もっと上の連中だろうと、必ず法の裁きを受けさせる」そのあと、慎は火葬場まで付き添い
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第7話
卒業後、私はデザイン会社でインターンをするつもりだった。けれど蓮は、決まった給料をもらっていても大したお金にはならない、それなら自分たちで商売をしたほうがいいと言った。蓮のために、私は自分の夢を諦めた。それからは蓮について、あちこちで商売をした。露店を出したこともある。怪しいルートで仕入れた品を売ったこともある。危うくマルチ商法に巻き込まれそうになったこともあった。あの頃は、焼きそばひとつを2人で分け合っても、少しもつらいと思わなかった。未来があると思っていたし、そこには愛があった。悔しいけど、蓮に商才があったのは確かだ。ほどなくして、蓮はいくらか資金に余裕のある人たちと知り合い、一緒に会社を立ち上げた。会社で蓮が強い発言権を持てるように、私は母から受け継いだ大切な形見を売り、全財産をつぎ込んで、蓮を筆頭株主にした。今になって思えば、あのころの恋は、ただの錯覚だったのかもしれない。結局、すべては計算だった。雷雨の音を聞きながら、私は少しずつ眠りに落ちた。それから7日が過ぎた。詩乃がどんな手を使ったのか、蓮は本当に一度も連絡してこなかった。指を折って数えた。あと3日で、私は完全に自由になれる。でも、その先はどうすればいいのだろう。どこへ行けばいいのだろう。考え込んでいたとき、突然ドアを叩く音がした。慎が来たのだと思い、そのままドアを開けた。けれどそこに立っていたのは、蓮だった。蓮は怒りをにじませた顔で、私を押しのけるように部屋へ入ってきた。そして部屋の隅々まで見回した。「何してるの。出ていって!」ひと通り見終えると、蓮は私の前に立った。「どれほど大したことをしてるのかと思えば、俺の考えすぎだったな。お前に俺を裏切る度胸なんてあるわけがない」そう言うと、蓮は私の手首をつかみ、強引に連れ出そうとした。「来い。家に帰るぞ。お前は俺の妻だ。外で暮らすなんてみっともない。俺に恥をかかせたいのか」私は必死にその手を振り払い、部屋の隅に置いた雨音の遺影を指さして叫んだ。「いいわ。私を家に連れて帰りたいんでしょう?だったら雨音も一緒に連れて帰って。できるの?」そこでようやく、蓮は額に入った雨音の写真に気づいた。一瞬、蓮は呆然とした。けれど次の瞬間、急に近づいて供え台をひっくり返し、
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第8話
私は彼女たちを相手にせず、そのまま会場の奥へ進んだ。向こうから、片手にグラスを持った詩乃が歩いてくる。詩乃はオーダーメイドのドレスをまとい、少しふくらんだお腹を見せつけるように、腰を揺らして近づいてきた。「澪さん、まさかそんな格好で来たんですか?恥をかくのは澪さんだけじゃなくて、鷹宮家なんですよ」私は冷ややかに詩乃を見た。「そのお腹、妊娠2か月には見えないわね」次の瞬間、詩乃はグラスの赤ワインを自分のドレスに浴びせ、わざとらしく悲鳴を上げた。「澪さんが私のこと嫌いなのはわかってます。でもお願い、この子だけは傷つけないでください。私には何をしてもいいですから……蓮さんの大事な子なんです」そのとき、背後から低く威圧的な声がした。「子どもも産めないくせに、私の大事な孫に何かあったら、ただじゃおかないよ!」現れたのは蓮の母だった。そばには、30歳にもならないような若く整った男が付き添っている。私は口元に笑みを浮かべ、そばにあったグラスを手に取ると、中身を詩乃の顔に浴びせた。「さっきのは私じゃない。これは、私からよ」詩乃は耳をつんざくような悲鳴を上げた。その声を聞きつけ、蓮も駆け寄ってくると、詩乃をしっかり抱き寄せた。「お前、気でも狂ったのか!何のつもりだ!」私はバッグから雨音の遺影を取り出し、胸に抱いた。そして会場中に届く声で言った。「妹のために、報いを受けさせに来たの」詩乃の顔から血の気が引いた。目を固く閉じ、遺影を見ようとしない。「どうして見られないの?自分の手で雨音を死なせたときは、平気だったくせに」「私じゃありません。あなたの妹なんて知りません」蓮も声を荒らげた。「ここで騒ぐな!これ以上、詩乃を悪者にするなら警察を呼ぶぞ!」私は冷たく笑った。「信じないのね。いいわ」そう言って、私はスマホを操作し、録音を再生した。それは、詩乃が病院へ電話したときの録音だった。電話を受けた医師も、自分に責任が及ぶのを恐れて、証拠として録音を残していたのだ。「もしもし。鷹宮社長の妻、水原詩乃です」「ご用件は何でしょうか?」「白石雨音の酸素チューブを外して。病室も今すぐ空けさせてください」「そ、それは……命に関わります。もし亡くなったら、大ごとになります」「鷹宮社長の言うことが聞けな
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第9話
そのとき、警察官たちが会場に入ってきた。詩乃に手錠をかけようとしたが、それでも蓮は彼女をかばった。「待て。彼女に手錠をかけるな。妊娠してるんだぞ。澪、早く被害届を取り下げろ。まだ鷹宮家の嫁でいたいんだろう!」私は笑って、バッグから書類を取り出し、床に叩きつけた。「私はもう鷹宮家の人じゃない。私たちは離婚したの」「本気だったのか!いや、離婚したとしても、長年一緒にいた情くらいあるだろ。俺の子どもを刑務所で産ませるつもりか?」その言葉を聞いて、私はさらに大きく笑った。「ここまで来ても、まだその女をかばうのね。そのお腹の子、そもそもあなたの子じゃないわよ。この馬鹿!妊娠2か月で、あんなにお腹が目立つわけがないでしょう。少なくとも3か月は経っている」それでも蓮は信じようとしなかった。「俺が詩乃を大事にするのが悔しくて、そんな嘘をついているんだろう!そもそも俺をほかの女のベッドに押し込んだのはお前だ。今さら何のつもりだ!」「蓮、今日こそ教えてあげる。あの女たちを用意したのは、全部あなたの母親よ!雨音を人質にして、私にあなたを女たちと寝かせるよう強要したの!結婚して10年よ。どうして私が一度も妊娠しなかったのか、考えたことはないの?2人で検査を受けたとき、医師は私に問題はないと言った。あなたは検査結果を見ようともしなかった。今ここで見せてあげる。子どもができないのは、あなたのほうよ」検査結果の紙を蓮の顔に投げつけると、蓮は完全に固まった。次の瞬間、振り返って詩乃の頬を打った。「このクソ女!腹の子は誰の子だ!」私は詩乃の代わりに答えた。「あなたの母親のそばにいる、あの運転手の息子よ。あの男は詩乃を従妹だと言って、信頼できる子だとあなたの母親に紹介したのよ。だからあなたの母親は、詩乃をあなたの寝室に送り込んだ。でもね、お義母さんも暇ではなかったみたいですね。あの男とは、ずいぶん楽しそうだったじゃないですか」蓮の母の顔が真っ白になった。否定しようと口を開く前に、私は写真の束を投げつけた。写真には、詩乃があの男とデートしたり、キスしたりしている姿が写っていた。さらに、邸宅で蓮の母がその男の体に触れている写真まであった。蓮はその場で取り乱し、狂ったように叫んだ。「ふざけるな。お前ら全員、ふざけるな!」
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