南條悠真(なんじょう ゆうま)が、あの生活の苦しい後輩を婚約披露パーティーの控室に連れてきたとき、私――夏目杏奈(なつめ あんな)は、ちょうど口紅を直していた。「莉央がうっかりドレスを汚してしまったんだ。少しだけ、君のドレスを貸してやってくれないか」私は数秒、言葉を失った。すると悠真は、当たり前のように続けた。「今日の主役が杏奈だってことは、みんな分かってる。何を着ていたって変わらないだろ」ドアのそばには、一人の女の子が立っていた。洗い古して白っぽくなったスニーカーを履き、小さな声で「こんにちは、杏奈さん」と言った。親友の藤崎瑶子(ふじさき ようこ)が、私の前に立ちはだかった。「これは杏奈の婚約披露パーティーなのよ。このドレスだって、三十軒もお店を回ってやっと決めたものなのに!」悠真が私を一瞥した。五年。彼にこういう目で見られるたび、私はいつも折れてきた。私は瑶子をそっと押しとどめ、ゆっくりと口紅のキャップを閉めた。「着せてあげて」悠真は満足そうに私の頭を撫でた。「やっぱり杏奈は分かってくれるな。結婚式の日には、最高のウェディングドレスを買ってあげる」久保莉央(くぼ りお)は、私の婚約披露パーティー用のドレスに着替えた。悠真は身をかがめ、彼女のドレスの裾を持ち上げてやった。彼はやわらかな声で言った。「莉央、本当にきれいだ」その仕草を、私は知っている。私たちがウェディングフォトを撮ったとき、カメラマンに同じことを頼まれて、彼は「わざとらしい」と言って拒んだ。私は婚約指輪を外した。今度こそ、もう、物分かりのいい女でいるのはやめる。……「あら、このお嬢さんはどなた?とてもきれいね」悠真の叔母は隣のテーブルから近づいてくると、莉央の手を取り、感心したように全身を眺めた。莉央はうつむき、唇の端をかすかに上げた。彼女が口を開くより早く、悠真が横から答えた。「俺の後輩です。家庭の事情が少し大変で、さっきドレスを汚してしまって。杏奈が気の毒に思って、自分からドレスを貸してあげたんです」叔母は頷き、私をちらりと見た。「それで杏奈ちゃんは今日、そんな格好なの?婚約披露パーティーなのに、ずいぶん地味じゃない」「彼女はそういうことを気にしないんです」悠真が私の代わりに答え
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