All Chapters of 竜剣聖伝 ─死の魔王と赤の聖女─: Chapter 1 - Chapter 5

5 Chapters

第一章 前編 「出会」

「おらぁっ!」 叫びと共に、強烈な蹴りが炸裂した。 顔面を蹴り飛ばされた人影が、木枠の窓を突き破って外へと投げ出される。醜悪な顔をした緑色の肌を持つ人影──ゴブリンだ。 魔獣《モンスター》と並び、人々の生活を脅かす害獣の如き存在。暴力と略奪しか知らない、知性の欠けらも無い邪悪な者たちである。「マーク、目を閉じろ!」 親友の言葉と同時に、マークはその目を伏せる。戦いの最中に目を背けるなど、本来は自殺行為に等しい。しかし、次の瞬間、眩い閃光が放たれる。「ナイスだセイザン!」 強烈な光に目を焼かれ、ゴブリンたちが悶絶する。夜目が効く分、目眩しの効果は絶大だ。 セイザンの放った精霊魔術の「閃光《フラッシュ》」は、光の力を凝縮して一気に解放し、周囲に強い光を放つ、彼の十八番《おはこ》である。 身動きが取れないゴブリンたちを、マークが両手に持った大小2本の長剣で斬り伏せていく。「マーク、後ろ!」 3体のゴブリンを倒したところで、レイナの鋭い声が届く。目眩しから回復した1体が、マークの背後に回りこみ、手にした棍棒を振りかざしていた。「障壁《プロテクション》!」 しかし、その棍棒は青白い光の壁によって遮られる。レイナの魔術によって作られた、意志力の障壁だ。 魔力とも称される意志の力を、特殊な言語──呪文に乗せることで現実を改変する。それが言語魔術である。「ありがとよ、レイナ!」「ついでに、おまけっ!」 マークの長剣がゴブリンを袈裟斬りにし、さらに追い討ちとばかりにセイザンも背中から剣を振り下ろす。 街の郊外にある廃墟に住み着いたゴブリンの駆除。マークたちが冒険者として依頼された仕事は、これにて完了となった。 その日の夜。 新米冒険者3人の姿は、宿の1階に併設された酒場兼食堂にあった。「やっぱり3人だけじゃ少し厳しいかもしれないぞ」 手にした豚肉の串焼きをクルクルと回しながら、セイザンが話し始めた。「今回みたいな害獣駆除って話ならともかく、例えば洞窟内の探索ってことになると、特にな」 今回の依頼は、廃墟に居座るゴブリンの駆除という、至極シンプルなものだった。10年以上前に起きた戦争の影響で、街の郊外には放棄された空き家が多い。そこを住処にしてしまうゴブリンは後を絶たず、街の住人にしてみれば脅威だ。しかし、冒険者にとっては比較的楽に日銭
last updateLast Updated : 2026-06-26
Read more

第一章 中編 「探索」

 街道を外れ、険しい森を数日間かけて抜けた先。斜面の死角になる場所に、人工的な石造りの入口が確かにあった。「ここが...遺跡の入口」 マークは目の前にぽっかりと空いた洞窟を見て、激しく鼓動が高鳴るのを感じていた。物語でしか読んだことのない、未知への冒険が目前にある。その事実に、心を弾ませない者はいないだろう。「おっと、それ以上はストップな」 ゆっくりと入口に足を進めていたマークを、大柄な体格が遮る。険しい顔をした斥候《スカウト》の青年がそこにいた。数日前に緩い顔を浮かべていた男と同一人物とは思えないほど、真に迫った表情だ。 慣れた雰囲気で、ケーベストは入口の周囲を観察し、実際に手を触れて確認してみる。「あれ、何やってるの?」「多分、何か仕掛けがないかを探ってる...のか?」 アスリィの疑問に、セイザンが曖昧に答えた。何となくの知識では知っているが、実際に斥候《スカウト》の仕事を目にするのは初めてだ、無理もない。「...おい、ケーベスト、まだかかるのか?」「もう少し待っててくれ...っと、よし、OKだ」 遺跡の入口まで来てお預けをくらい、さすがに焦れたマークが急かすと、そこでケーベストが両手を叩いた。「なぁ、マークよ、ちょっとそこに立ってみてくれ」「え、こ、ここか...?」 いつもの軽い表情に戻ったケーベストに促され、マークは指された場所に立ってみた。遺跡の入口の真ん前。先ほどマークが近寄ろうとしていた場所だ。 ガシュッ!「はっ!?」 何か機械的な音が響き、マークは咄嗟に両手で防ぐ動作をしながら屈む。しかし、音が響いただけでそれ以上は何も起きなかった。「ふむふむ、なるほど、やっぱりなぁ」 1人だけ何かを納得した様子のケーベスト。 マークは冷や汗をかいたまま固い表情を作り、他の3人も軽く青ざめている。「な、なんだよ、何があったんだ?」「そこに何かの仕掛け罠があるのはすぐに分かったんだよ」 マークがケーベストの指す場所──つまり自分の足元に目を落とすが、そこは何の変哲もない地面にしか見えない。「でも、1000年前の遺跡なわけだし、仮に発動しても劣化してて、何も起きないと思ったんだよ」 腰に両手を置き、自信満々といった様子のケーベスト。マークの顔がみるみる赤くなっていく。「案の定だったな! どうだ、ビックリしたか?」「
last updateLast Updated : 2026-06-26
Read more

第一章 後編 「魔族」

「な、何だこいつ...!?」 ケーベストが短剣を構えながら退く。現れた怪物からは、肌に刺さるくらいの殺気を感じた。とても近くにはいられない。「レイナ...? レイナ、どうしたの!?」 アスリィが叫ぶ。彼女の横に立つ黄金色の髪を持つ少女は、血の気の失せた青い顔を浮かべ、その唇は微かに震えていた。「お、おい、レイナ...?」「みんな...逃げて...!」 マークが背後に向け声をかけた直後、レイナが悲痛なまでの声を絞り出した。「あれは...魔族...」「ま、魔族...だと...?」 セイザンの顔が強ばる。その言葉が真実だとすれば、目の前の存在は恐ろしく強大な敵である。 魔族。それは1000年前、竜と大いなる戦いを繰り広げた魔王に付き従った眷族たちのこと。大きな角と、絶大な身体能力、そして魔力を持つ怪物。かつての大戦では、人間とエルフ族、ドワーフ族などが力を合わせ、これと戦ったとされる。 今ではおとぎ話の中の存在だとされていたが、実際に目の前に立つソレは、確かに魔族だと言っても不思議ではないほどの威圧感を持っていた。「マジかよ...これはさすがに、逃げた方が良くないか?」 ゆっくりと足を進める魔族。それに合わせて、5人は少しずつ後ろに退く。背中を向けて逃げたい衝動に駆られるが、それは自殺行為だと、本能が告げていた。「...ダメだ、ここで倒す...!」 しかし、黒髪の剣士だけは、下がる足を止め、正面から怪物の前に立った。「こいつを、野放しにしておけない...!」 魔族は人の天敵。この場から上手く逃げることができたとして、この怪物は恐らく、人里を探し暴れ回るだろう。そんなことは許せない。 何より、世界一の剣士を目指すマークにとって、敵から逃げるという選択肢は初めからなかった。「...ったく、しょうがない奴だ...」 隣に、赤毛の親友が立つ。一度決めたら簡単には曲げない。マークの性格は昔からよく知っている。「援護と回復、任せてね」 背後でアスリィが弓に矢を番《つが》える。「撹乱...が、効けばいいけどな」 ケーベストも何かを諦めた様子で、低い姿勢を取り構えた。「みんな...」 最後尾に立つレイナは、仲間たちの覚悟を決めた表情を見て、徐々に顔色を回復させていく。大きく息を吐き、心を落ち着かせる。杖を握る手に力を込め、ついに
last updateLast Updated : 2026-06-29
Read more

第二章 前編 「騎士」

「塔」と呼ばれる地がある。文字通り、天に向けて昇る、巨大な石の塔を中心とした都市だ。 魔術師の総本山にして、世界的な研究機関。そこに従事する者はまさに魔術の最先端を行く者で、多くの言語魔術師たちにとって羨望の対象である。 その巨大な石塔の中。まるで貴族の屋敷にある応接間のような部屋に、2人の男性の姿があった。「お前に、「聖女」の捜索を命じる」 顔は40代といったところか。白いものが混じった黒髪をオールバックにして、1つにまとめあげている壮年の男性。しかし、首から下は鍛え抜かれた筋肉に包まれていて、そこに刻まれた無数の傷跡が、男性の屈強さを物語っていた。「歳の頃は16、7ほど...金の瞳を持ち、おそらく髪も同じ色だろう」 低い声で話す男性──アルベルトは、目の前に立つ青年の様子を窺っていた。青い髪の、重厚なプレートアーマーを着た男。その腰には、竜の装飾が施された長剣が下げられている。「場所は王国の東部。発見してもなるべく接触は避けろ。しばらく様子を見る」「......」 男は何も語らず、ただ静かに頷く。その青い目には、光というものが感じられない。感情の読めない相手の様子に、アルベルトは露骨にため息をつく。「...お前のことは信頼している。だが...その、なんだ...もう少し愛想とかはないのか?」 厳格そうな顔が、悩ましげに歪む。対照的に、青髪の男の表情は動かない。 ただ、ほんのわずか。目の前でも気づかない程度に、彼は鼻で笑った。「...必要ない」 それだけ言い残し、重い甲冑の足音が部屋を後にした。1人残されたアルベルトは、バツが悪そうに頭を掻きむしる。「全く...あんな無愛想な奴が「聖剣」の主とはな...」 世の中分からないものだとボヤき、彼も部屋から出ていった。「さて、ここでみんなに重大な知らせがある」 王国東部にある一際大きな街。大勢の客で賑わう真昼の食堂にて、赤毛の少年──セイザンが神妙な面持ちで話し始めた。仲間たち4人は、何事かと聞き耳を立てている。「一言で言うと...金がない」「はぁっ!?」 その報告にいち早く反応したのは、緑の瞳と長い耳を持つエルフの少女──アスリィである。目を大きく開き、その尖った耳もピンと上を向いていた。エルフは感情によって耳が動くことを、仲間たちは最近知った。「え、どういうことだ? この前
last updateLast Updated : 2026-06-29
Read more
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status