LOGIN街道を外れ、険しい森を数日間かけて抜けた先。斜面の死角になる場所に、人工的な石造りの入口が確かにあった。
「ここが...遺跡の入口」
マークは目の前にぽっかりと空いた洞窟を見て、激しく鼓動が高鳴るのを感じていた。物語でしか読んだことのない、未知への冒険が目前にある。その事実に、心を弾ませない者はいないだろう。
「おっと、それ以上はストップな」
ゆっくりと入口に足を進めていたマークを、大柄な体格が遮る。険しい顔をした斥候《スカウト》の青年がそこにいた。数日前に緩い顔を浮かべていた男と同一人物とは思えないほど、真に迫った表情だ。
慣れた雰囲気で、ケーベストは入口の周囲を観察し、実際に手を触れて確認してみる。「あれ、何やってるの?」
「多分、何か仕掛けがないかを探ってる...のか?」
アスリィの疑問に、セイザンが曖昧に答えた。何となくの知識では知っているが、実際に斥候《スカウト》の仕事を目にするのは初めてだ、無理もない。
「...おい、ケーベスト、まだかかるのか?」
「もう少し待っててくれ...っと、よし、OKだ」
遺跡の入口まで来てお預けをくらい、さすがに焦れたマークが急かすと、そこでケーベストが両手を叩いた。
「なぁ、マークよ、ちょっとそこに立ってみてくれ」
「え、こ、ここか...?」
いつもの軽い表情に戻ったケーベストに促され、マークは指された場所に立ってみた。遺跡の入口の真ん前。先ほどマークが近寄ろうとしていた場所だ。
ガシュッ!「はっ!?」
何か機械的な音が響き、マークは咄嗟に両手で防ぐ動作をしながら屈む。しかし、音が響いただけでそれ以上は何も起きなかった。
「ふむふむ、なるほど、やっぱりなぁ」
1人だけ何かを納得した様子のケーベスト。
マークは冷や汗をかいたまま固い表情を作り、他の3人も軽く青ざめている。「な、なんだよ、何があったんだ?」
「そこに何かの仕掛け罠があるのはすぐに分かったんだよ」
マークがケーベストの指す場所──つまり自分の足元に目を落とすが、そこは何の変哲もない地面にしか見えない。
「でも、1000年前の遺跡なわけだし、仮に発動しても劣化してて、何も起きないと思ったんだよ」
腰に両手を置き、自信満々といった様子のケーベスト。マークの顔がみるみる赤くなっていく。
「案の定だったな! どうだ、ビックリしたか?」
「てめぇっ! 何かあったらどうしてくれたんだよ!」
必死な形相で軽薄な斥候《スカウト》の胸ぐらを掴み、大きく揺さぶるマーク。しかし、当の本人は全く堪えた様子はない。
「そう怒るなよ、実際何もなかったわけだし、ちょっとしたジョークってやつよ」
肩をすくめて、ケーベストはやんわりとマークの手を外し、遺跡の入口の縁に立つ。
「じゃ、緊張も解れたところで、いよいよ遺跡探索ツアーの始まり始まり♪」
そう言って、無精髭を生やしたニヤケ顔が遺跡の中に消えていく。
「凄いのか凄くないのか...よく分からないね...」
一番緊張していたらしく、ずっと黙っていたレイナがようやく口を開いた。
出会って数日、あの長身で不精な青年にペースを乱されっぱなしだと、マークたちは苦笑いしながらその後を追った。 遺跡の中は当然のように暗い。 松明《たいまつ》に火を灯し、ケーベストが先頭を歩く。次いでマーク、レイナ、アスリィ、殿《しんがり》をセイザンという隊列だ。 石造りの通路は、大量の埃や蜘蛛の巣に塗《まみ》れている。その異様な雰囲気と重苦しい空気が、見えない圧力を感じさせた。 5人の歩みは実にゆっくりとしたものだった。ケーベストが数歩進んでは壁や床を調べる。何もないことを確認して、また数歩進む。その繰り返しだ。「なぁ、もう少し急いでもいいんじゃないか?」
さすがに焦れったくなり、マークがケーベストを急かす。未知の遺跡の探索に心が躍り、早く最奥まで進みたいという欲求が抑えられない。
「...まぁ、急ぎたいなら構わんが...」
いつもの口調ながら、ケーベストは一段階低いトーンで返す。そして床から大きめの石を拾うと、先に見えた十字路の真ん中に向けて投げた。
果たして、その石は床の中にスゥっと消えていった。「なっ!?」
マークが短く声を上げる。他の3人も、目を丸くしていた。アスリィに至っては、素っ頓狂な声を上げながら何度も目を擦っていたほどだ。
「パッと見は見えないが、あそこに落とし穴があるんだ。さっきの罠は起動しなかったが、内部にはまだ生きてる仕掛けもあるってことだな」
口調は変えず、しかし表情には一切の緩みがない。これが斥候《スカウト》としての、ケーベスト本来の姿なのだろうか。マークたちはようやく、彼の実力が本物だと確信しつつあった。
「こんなところで死にたくはないだろ、青少年?」
ニヤリと、いつもの表情を見せるケーベスト。マークはそれに対し、無言で頷くしかできなかった。
壁際近くを歩くことで、十字路の見えない落とし穴を回避する。十字路から左右に伸びる通路の先は、残念ながら瓦礫で埋もれている。とてもじゃないが、掘り返すのは難しく思えた。「あれは諦めて、先に進もうか」
ケーベストに促され、一行は正面の通路を進んだ。石造りなのは変わらず、わずかな傾斜がついているその道は、少しずつ地下へと下っていた。
「ん、これは...?」
ケーベストが、壁を調べてる際に何かに気づく。埃と砂で半ば埋もれていたそれを、慎重に手で払う。
そこには、捻くれた文字のようなものが描かれたプレートが備え付けられていた。「これは、古代の文字か?」
目線の高さにあるそれを、ケーベストは眉をひそめながら眺める。
「待って、読めるかもしれない」
古代の文字と聞き、レイナが挙手しながら前に出て来た。彼女が行使する言語魔術で使う呪文は、古代の文字が原型となっている。読める可能性は高かった。
「えっと...これ、文字というより、何かの記号みたい...」
荷物から出した分厚い本をめくりながら、レイナは神妙な面持ちだ。しかし同時に、少しワクワクしているような雰囲気もある。
「多分、この先に何か重要な物が保管されてる...って意味だと思う」
自信のない様子で言うレイナ。文章や単語であれば問題なく読めたのだろうが、記号となると少し話が違う。祖母のアルテから、もっとしっかり習っておけば良かったと、レイナは少し後悔した。
「重要なものって...」
「もしかしてお宝!」
しかし、彼女の様子をよそに、セイザンとアスリィは目を輝かせていた。古代の遺跡の中で重要なものと言えば、何らかの宝物に違いない。
「オッサン! 早く先に進もう!」
「そうよそうよ、お宝が逃げちゃうわ!」
「お宝は逃げないだろ...あとオッサンはやめろ」
ボヤきながらも、ケーベストは先程より調べる手を早め、通路の先へ歩を進める。彼とて、未知の宝があるとすれば、その心は逸るというものだ。
「面白くなってきたな」
「う、うん...」
ますます心が躍るマークとは対照的に、レイナの表情はやや不安の色が強かった。
分厚い石で作られた大剣が振り下ろされる。 セイザンが手にした盾でそれを受けるが、重い一撃に肩が持っていかれそうになった。「ぐっ...」
「セイザン!」
親友の助けに入りたいが、マークは目の前の敵に背を向けることはできなかった。それは無機質な、石でできた巨大な人形だ。
通路の先には扉があり、先程見たのと同じプレートが備え付けられていた。ケーベストが入念に調べ、罠がないことを確認して、扉を開けた。 扉の先には、大きめの部屋が広がっていた。ちょっとした宴会場くらいの空間で、向かい側の壁には巨大な、マークがセイザンを肩車しても余裕で通れそうな扉があった。 そこに宝があると踏んで、セイザンとアスリィが足を進めると、空間内が赤い光に包まれ、けたたましい音が鳴り響いた。 同時に、空間の左右の壁から、石でできた巨大な人形──ゴーレムが2体現れたのだ。 恐らく、何らかの資格を持っていない者が部屋に入ると、起動する仕組みになっていたのだろう。ケーベストがそう分析したが、時すでに遅し。マークとセイザンが、それぞれのゴーレムを相手にすることになった。 ゴーレムは動きこそ緩慢だが、その膂力は絶大。しかも石でできているため、剣での斬撃は効果が薄い。マークもセイザンも、このような存在を相手にするのは想定外だった。「伏せて!」
そこに、アスリィの鋭い声が響く。
肩を押さえながら、セイザンがとっさに身を屈める。風切り音と共に、ゴーレムの「目」にあたる部分に、1本の矢が深々と刺さっていた。「よし、効いた!」
ゴーレムの頭部が細かく痙攣する。矢が命中した箇所からは、青白い魔力の光が漏れていた。古代の魔力で動く人形だが、目に当たる部分で周囲を感知しているはずだとレイナから聞き、咄嗟にそこを狙撃したのだ。
「目の部分が弱点よ!」
「よし、そうと分かれば!」
荒事は苦手と言って一歩下がっていたケーベストが、腰に下げていたダガーナイフを投げる。真っ直ぐに、それはマークの前に立つゴーレムの目を貫いた。
「喰らえっ!」
足を止めたゴーレム。その胴体の僅かな隙間を狙い、マークの剣が突き立てられる。次の瞬間、ゴーレムは糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
程なくして、もう一体のゴーレムもその動きを完全に停止した。 「へぇ...」セイザンの肩を、温かな光が包み込む。みるみるうちに痛みが引いていくのを感じ、感心した声を上げた。
「これが神聖魔術...」
レイナも興味津々といった様子だ。
セイザンの肩は、ゴーレムの力を正面から受けて脱臼していた。彼は自分で治そうとしたが、それをアスリィが制止した。「骨が折れてるかもしれない...アタシに任せて」
患部に手を当て、アスリィが静かに祈りの言葉を呟くと、魔力の青白い光が淡く輝いた。
神官が行使する神聖魔術の1つ「治癒《ヒール》」である。神聖魔術の中でも特にポピュラーな術で、冒険者パーティで神官が重宝される最大の理由にもなっている。「...よし、これで大丈夫かな」
「おぉ、凄い...全然痛みがなくなった」
左肩をグルグル回し、その調子を確かめる。痛みも違和感もない。完全に元通りになっていた。
「大したもんだ...」
マークも感嘆の声を漏らすばかりだ。魔術のことはまるで分からないが、あの傷を短時間で完治させてしまうことには驚いた。
「さっきの弓も、助かったぜ」
「あれくらい、お安い御用ってもんよ」
手にした大きめの弓を掲げて見せて、アスリィは得意げだ。歳の頃はマークたちよりやや下に見えるが、弓の腕も神官としての練度も、想像以上の逸材だった。
「さて、あの扉の先を拝んでみるとするか」
4人から少し離れて様子を窺っていたケーベストが言う。目の前の巨大な扉の先には、果たして何があるのか。
「罠みたいなのは...とりあえずなさそう...っと!?」
扉を調べようと手を触れた瞬間、隙間から赤黒い光が漏れ始めた。その異質な雰囲気を感じ、ケーベストは本能的に飛び退いた。
ガコン...。
重い音を響かせ、その扉がゆっくりと開こうとしている。マークたちは無意識に身構えていた。その先にあるのが「お宝」などではないと、その空気が教えてくれていた。
「...っ!」
レイナが声にならない悲鳴を上げる。
現れたのは、一対のねじ曲がった角を持つ、巨大な化け物であった。 まるで人の骸骨のような頭部を持ち、その眼窩《がんか》には赤黒い光が不気味に輝く。首から下は鍛え抜かれた筋肉を持つ人のそれによく似ていたが、乳白色の肌に、青い筋のようなものが駆け巡っている。ヌラヌラと光るその肌は、生理的にも、本能的にも嫌悪感を抱かせた。 明らかに「格」の違う存在。それが5人の前にゆっくりと姿を現したのだった。「封印が弱まってきている」 月明かりが照らす夜。 切り立った崖の上に立つ古城。高くそびえ立つその主塔のバルコニーに、1つの人影が立っていた。 黄金の錫杖を手にした、白髪の男性。しかし外見は若い。せいぜい30代といったところか。「魔族たちはさらに活性化するだろう」 白髪の男性は眼下に広がる海原を見ている。波がうねりを上げ、岩盤を激しく叩き削っていく。 長い長い年月をかけ、ほんの少しずつ侵食されていく岩肌。それはまるで、竜たちによって施された封印が、徐々に弱まっていく様子を表しているようだった。「封印を解く鍵...「聖女」を探せ」 その声は男性から発せられたものではない。そして近くに、他の人物の姿もなかった。 何処からか囁くその声に、男性はじっと耳を傾けている。「全てはお前の「望み」を叶えるため...」「私の、願い...」 小さく、男性が呟く。表情のなかったその目に、少しずつ感情の光が灯る。 ただしそれは、深い憎悪に満ちた、黒い光とも言うべきものだ。『人間を、抹殺する...!』 男性の声と、謎の声。2つが重なり、同じ言葉を放つ。『探せ、捕らえるのだ...「聖女」を...!』 その声に応えるように、1匹の蝙蝠《こうもり》が月夜の空を舞っていった。 あのゴブリン掃討作戦から、半年の月日が流れていた。 マークたち一行は、「巨人討伐者《ジャイアントバスター》」としてそれなりに名が知られるようになり、様々な依頼をこなしていった。 ある時は、森に住み着いた凶悪な魔獣《モンスター》を討伐。 またある時は、夜の街を騒がせる連続殺人犯《シリアルキラー》を捕縛。 さらにある時は、古代文明の遺跡にて、物珍しい品を多数発見。 それらを通して、マークたちは自らの成長を確かに感じていた。新たな装備を購入・入手したのもあるが、より肉体や精神が研ぎ澄まされていった自覚があった。 セイ
「こ、こいつは...ゴーレム...なのか...?」 雰囲気だけだが、1ヶ月前の遺跡調査の際に遭遇したゴーレムに似ていると、マークはふと零した。色こそ異なるが、魔力の光を放つ目などはそっくりだ。しかし、その威容は比べ物にならない。「ハハハァッ!古代ノ対魔族用ゴーレムダッ!」 巨人の足元に、あのシャーマンがいるのが見えた。勝ち誇ったような笑みを浮かべ、汚い歯を剥き出しにしている。「...厄介なものを...」 小さく呟き、青髪の騎士がゴーレムの前に立つ。そして手にする剣を大きく振りかざした。 次の瞬間、竜が象られた剣は、その形を変えていた。「なっ...?」 マークだけでなく、5人全員がその目を疑う。片手半剣《バスタードソード》と呼ばれるサイズだったはずのそれは、瞬きをする間に二回りは大きい大剣《グレートソード》へと変わっていた。 伝説に聞く竜が象られた剣。ただの虚仮威《こけおど》しではないだろうとは思っていたが、形が変化するなど誰が予想したか。「無駄ダ無駄ダ! ヤレェッ!」 シャーマンが手を掲げ命令を下す。見ればその手に、赤く輝く宝玉のようなものを持っている。それでゴーレムを操っているのか。 考える間もなく、ゴーレムはゆっくりと動き出す。一歩ずつ、その巨大な足が地面を踏みしめ、大きな足跡を刻む。次いで、胸部に描かれた紋様のようなものが赤く輝き始めた。「な、なんか分からないが、一旦離れろ!」 セイザンの叫びと共に、マークらはゴーレムから一斉に距離を取った。しかし、青髪の騎士はその場から動かない。「ダメ、逃げてっ!」 レイナが叫んだ。 そして、ゴーレムの胸部から真っ赤な閃光が迸《ほとばし》る。「ギャアァァァッ!」 わけも分からずその場に留まっていたオーガが、悲痛な声を挙げながら燃え上がる。ゴーレムから放たれた光。それは凄まじい熱量を持つ、熱線とも言うべきものだった。 青髪の騎士も、その赤い奔流に巻き込まれる。
廃村までの道のりは約半日。 道中、しばしば雑談を挟みながらも、冒険者各位は警戒した様子で行軍した。 いかに相手が弱小なゴブリンといえど、その数が200もいるとなれば話は別だ。こちらはその10分の1程度の人数しかいない。いつもの気軽な害獣駆除とは訳が違った。「よし、ここで野営しよう。明朝、作戦開始とする」 やや開けた場所に来た時、装飾のある金属鎧を着た若い男性が言った。冒険者たちのお目付役として同行した、ラングナー卿配下の騎士だ。マークは記憶を辿り、確か名前はオットーだったと思い出した。「ゴブリンは夜行性だから、朝日が昇る頃合いに寝る...そこを急襲するって感じだったか」「まぁ、やり方自体はいつもの駆除と変わらないな」 隣を歩いていたセイザンに、作戦の内容を確認する。以前も小規模なゴブリンの群れを駆除したことがあるが、その時も朝方を狙った。「マーク、お前さん朝に弱いんだから、早めに寝ておけよ」「う、うるせぇ...」 ケーベストに指摘され、マークは言い返す言葉も見つからずに悪態をつくばかりだった。昔から早起きは苦手なのである。「ねぇ、レイナ、あの人まだあなたを見てるよ」「えっ...」 アスリィから耳打ちをされ、レイナは少し驚いた様子で振り返る。 少し離れたところに、あの青髪の騎士が立っている。まるで感情というものが感じられない眼差しを、移動中もずっとレイナに向けていた。「顔は良いんだけどさぁ、あそこまでじっと見てくるとさすがに怖いよね...」「そう...だね...」 渋い顔をして言うと、エルフの少女は青髪の騎士に向けて舌を見せて煽った。やはりというか、彼女のことは全く眼中にないようで、何の反応も返ってこなかったが。 レイナはしかし、向けられる眼差しをそこまで不快には思っていなかった。下心のある視線とは、どうしても思えなかったからだ。感情こそ感じないが、何かを探るような意図が見え隠れしていた。 虫たちの声、そして焚き火の
「塔」と呼ばれる地がある。文字通り、天に向けて昇る、巨大な石の塔を中心とした都市だ。 魔術師の総本山にして、世界的な研究機関。そこに従事する者はまさに魔術の最先端を行く者で、多くの言語魔術師たちにとって羨望の対象である。 その巨大な石塔の中。まるで貴族の屋敷にある応接間のような部屋に、2人の男性の姿があった。「お前に、「聖女」の捜索を命じる」 顔は40代といったところか。白いものが混じった黒髪をオールバックにして、1つにまとめあげている壮年の男性。しかし、首から下は鍛え抜かれた筋肉に包まれていて、そこに刻まれた無数の傷跡が、男性の屈強さを物語っていた。「歳の頃は16、7ほど...金の瞳を持ち、おそらく髪も同じ色だろう」 低い声で話す男性──アルベルトは、目の前に立つ青年の様子を窺っていた。青い髪の、重厚なプレートアーマーを着た男。その腰には、竜の装飾が施された長剣が下げられている。「場所は王国の東部。発見してもなるべく接触は避けろ。しばらく様子を見る」「......」 男は何も語らず、ただ静かに頷く。その青い目には、光というものが感じられない。感情の読めない相手の様子に、アルベルトは露骨にため息をつく。「...お前のことは信頼している。だが...その、なんだ...もう少し愛想とかはないのか?」 厳格そうな顔が、悩ましげに歪む。対照的に、青髪の男の表情は動かない。 ただ、ほんのわずか。目の前でも気づかない程度に、彼は鼻で笑った。「...必要ない」 それだけ言い残し、重い甲冑の足音が部屋を後にした。1人残されたアルベルトは、バツが悪そうに頭を掻きむしる。「全く...あんな無愛想な奴が「聖剣」の主とはな...」 世の中分からないものだとボヤき、彼も部屋から出ていった。「さて、ここでみんなに重大な知らせがある」 王国東部にある一際大きな街。大勢の客で賑わう真昼の食堂にて、赤毛の少年──セイザンが神妙な面持ちで話し始めた。仲間たち4人は、何事かと聞き耳を立てている。「一言で言うと...金がない」「はぁっ!?」 その報告にいち早く反応したのは、緑の瞳と長い耳を持つエルフの少女──アスリィである。目を大きく開き、その尖った耳もピンと上を向いていた。エルフは感情によって耳が動くことを、仲間たちは最近知った。「え、どういうことだ? この前
「な、何だこいつ...!?」 ケーベストが短剣を構えながら退く。現れた怪物からは、肌に刺さるくらいの殺気を感じた。とても近くにはいられない。「レイナ...? レイナ、どうしたの!?」 アスリィが叫ぶ。彼女の横に立つ黄金色の髪を持つ少女は、血の気の失せた青い顔を浮かべ、その唇は微かに震えていた。「お、おい、レイナ...?」「みんな...逃げて...!」 マークが背後に向け声をかけた直後、レイナが悲痛なまでの声を絞り出した。「あれは...魔族...」「ま、魔族...だと...?」 セイザンの顔が強ばる。その言葉が真実だとすれば、目の前の存在は恐ろしく強大な敵である。 魔族。それは1000年前、竜と大いなる戦いを繰り広げた魔王に付き従った眷族たちのこと。大きな角と、絶大な身体能力、そして魔力を持つ怪物。かつての大戦では、人間とエルフ族、ドワーフ族などが力を合わせ、これと戦ったとされる。 今ではおとぎ話の中の存在だとされていたが、実際に目の前に立つソレは、確かに魔族だと言っても不思議ではないほどの威圧感を持っていた。「マジかよ...これはさすがに、逃げた方が良くないか?」 ゆっくりと足を進める魔族。それに合わせて、5人は少しずつ後ろに退く。背中を向けて逃げたい衝動に駆られるが、それは自殺行為だと、本能が告げていた。「...ダメだ、ここで倒す...!」 しかし、黒髪の剣士だけは、下がる足を止め、正面から怪物の前に立った。「こいつを、野放しにしておけない...!」 魔族は人の天敵。この場から上手く逃げることができたとして、この怪物は恐らく、人里を探し暴れ回るだろう。そんなことは許せない。 何より、世界一の剣士を目指すマークにとって、敵から逃げるという選択肢は初めからなかった。「...ったく、しょうがない奴だ...」 隣に、赤毛の親友が立つ。一度決めたら簡単には曲げない。マークの性格は昔からよく知っている。「援護と回復、任せてね」 背後でアスリィが弓に矢を番《つが》える。「撹乱...が、効けばいいけどな」 ケーベストも何かを諦めた様子で、低い姿勢を取り構えた。「みんな...」 最後尾に立つレイナは、仲間たちの覚悟を決めた表情を見て、徐々に顔色を回復させていく。大きく息を吐き、心を落ち着かせる。杖を握る手に力を込め、ついに
街道を外れ、険しい森を数日間かけて抜けた先。斜面の死角になる場所に、人工的な石造りの入口が確かにあった。「ここが...遺跡の入口」 マークは目の前にぽっかりと空いた洞窟を見て、激しく鼓動が高鳴るのを感じていた。物語でしか読んだことのない、未知への冒険が目前にある。その事実に、心を弾ませない者はいないだろう。「おっと、それ以上はストップな」 ゆっくりと入口に足を進めていたマークを、大柄な体格が遮る。険しい顔をした斥候《スカウト》の青年がそこにいた。数日前に緩い顔を浮かべていた男と同一人物とは思えないほど、真に迫った表情だ。 慣れた雰囲気で、ケーベストは入口の周囲を観察し、実際に手を触れて確認してみる。「あれ、何やってるの?」「多分、何か仕掛けがないかを探ってる...のか?」 アスリィの疑問に、セイザンが曖昧に答えた。何となくの知識では知っているが、実際に斥候《スカウト》の仕事を目にするのは初めてだ、無理もない。「...おい、ケーベスト、まだかかるのか?」「もう少し待っててくれ...っと、よし、OKだ」 遺跡の入口まで来てお預けをくらい、さすがに焦れたマークが急かすと、そこでケーベストが両手を叩いた。「なぁ、マークよ、ちょっとそこに立ってみてくれ」「え、こ、ここか...?」 いつもの軽い表情に戻ったケーベストに促され、マークは指された場所に立ってみた。遺跡の入口の真ん前。先ほどマークが近寄ろうとしていた場所だ。 ガシュッ!「はっ!?」 何か機械的な音が響き、マークは咄嗟に両手で防ぐ動作をしながら屈む。しかし、音が響いただけでそれ以上は何も起きなかった。「ふむふむ、なるほど、やっぱりなぁ」 1人だけ何かを納得した様子のケーベスト。 マークは冷や汗をかいたまま固い表情を作り、他の3人も軽く青ざめている。「な、なんだよ、何があったんだ?」「そこに何かの仕掛け罠があるのはすぐに分かったんだよ」 マークがケーベストの指す場所──つまり自分の足元に目を落とすが、そこは何の変哲もない地面にしか見えない。「でも、1000年前の遺跡なわけだし、仮に発動しても劣化してて、何も起きないと思ったんだよ」 腰に両手を置き、自信満々といった様子のケーベスト。マークの顔がみるみる赤くなっていく。「案の定だったな! どうだ、ビックリしたか?」「







