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第二章 後編 「巨人」

Author: ユウユウ
last update publish date: 2026-07-10 20:00:14

「こ、こいつは...ゴーレム...なのか...?」

 雰囲気だけだが、1ヶ月前の遺跡調査の際に遭遇したゴーレムに似ていると、マークはふと零した。色こそ異なるが、魔力の光を放つ目などはそっくりだ。しかし、その威容は比べ物にならない。

「ハハハァッ!古代ノ対魔族用ゴーレムダッ!」

 巨人の足元に、あのシャーマンがいるのが見えた。勝ち誇ったような笑みを浮かべ、汚い歯を剥き出しにしている。

「...厄介なものを...」

 小さく呟き、青髪の騎士がゴーレムの前に立つ。そして手にする剣を大きく振りかざした。

 次の瞬間、竜が象られた剣は、その形を変えていた。

「なっ...?」

 マークだけでなく、5人全員がその目を疑う。片手半剣《バスタードソード》と呼ばれるサイズだったはずのそれは、瞬きをする間に二回りは大きい大剣《グレートソード》へと変わっていた。

 伝説に聞く竜が象られた剣。ただの虚仮威《こけおど》しではないだろうとは思っていたが、形が変化するなど誰が予想したか。

「無駄ダ無駄ダ! ヤレェッ!」

 シャーマンが手を掲げ命令を下す。見ればその手に、赤く輝く宝玉のようなものを持っている。それでゴーレムを操っているのか。

 考える間もなく、ゴーレムはゆっくりと動き出す。一歩ずつ、その巨大な足が地面を踏みしめ、大きな足跡を刻む。次いで、胸部に描かれた紋様のようなものが赤く輝き始めた。

「な、なんか分からないが、一旦離れろ!」

 セイザンの叫びと共に、マークらはゴーレムから一斉に距離を取った。しかし、青髪の騎士はその場から動かない。

「ダメ、逃げてっ!」

 レイナが叫んだ。

 そして、ゴーレムの胸部から真っ赤な閃光が迸《ほとばし》る。

「ギャアァァァッ!」

 わけも分からずその場に留まっていたオーガが、悲痛な声を挙げながら燃え上がる。ゴーレムから放たれた光。それは凄まじい熱量を持つ、熱線とも言うべきものだった。

 青髪の騎士も、その赤い奔流に巻き込まれる。

「あ、あれは...!?」

 熱気に顔を焼かれそうになりながらも、マークは見た。騎士が持つあの剣が、赤い光をその刀身に吸い上げていくのを。

「す、凄すぎるぜ...」

「何なの、あの人...」

 セイザンとアスリィが呆然と呟く。まるで次元の違う戦いを見ているかのようだった。

 光が収まる。周囲の廃墟はところどころが熱線によって燃え上がっていたが、青髪の騎士の周囲だけは全くの無傷。彼は大剣を腰だめに構え、ゴーレムへと突撃した。

 ガギィィンッ!

 耳が痛くなりそうな金属音。

 ゴーレムの前腕から斧のような刃が伸び、大剣を受け止めていた。

 そこから、1人と1体は幾度となく打ち合う。その度に甲高い音が響き、レイナは自分の耳を押さえた。それでも、青髪の騎士から目を離すことはできなかった。

「あの人...また...」

 表情を動かすことなく、青髪の騎士はゴーレムと剣戟を繰り返している。しかし、その顔にはどこか、やはり恐怖の色が見え隠れしているように、レイナには思えた。まるで何かに怯え、必死にそれを誤魔化しているような...。

「...オレたちも加勢するぞ」

 ふと、マークが一歩前に出た。先程の熱線の影響で少し煤《すす》けた顔を拭い、彼はゆっくりと騎士と巨人のもとへと近づく。

「お、おい、アレに加勢って...足手まといにしかならないんじゃないか...?」

 セイザンが冷や汗を流しながらも、マークの後ろに続いた。言いながら彼も感じていたのだ。騎士と巨人の戦いは拮抗している。しかし、相手はゴーレムだ。恐らくは無尽蔵に戦い続けることができる。いずれは青髪の騎士の体力も尽きてしまうだろう。そうなれば、どちらにせよこの場にいる者はゴーレムによって蹂躙《じゅうりん》される。

「隙を見てヤツの「目」を狙うんだ。きっと、ヤツの弱点はそこだろう」

 1ヶ月前に戦ったゴーレムとの類似点を思い出し、マークは剣を握る手に力を込める。そして呼吸を整え、身体能力強化の術を使った。

「...しょうがない、付き合うよ、親友」

 やれやれと肩をすくめ、セイザンも剣に雷の力を宿らせた。

「アスリィ、何かあったらすぐ回復頼む」

「...わかった」

 セイザンの言葉に、アスリィも覚悟を決めた表情で、一言だけ返す。

「レイナは...」

「分かってる、「魔力付与《エンチャント》」するよ」

 マークの声を遮り、レイナの魔術が発動。2本の剣に青白い光が宿った。

「じゃ、俺はアイツの背後に回ってみるぜ」

 ニヤリと笑顔を見せ、ケーベストは音も立てずに物陰に身を隠した。

 そして、マークは決意を秘めた目を、巨人へと向けて叫ぶ。

「行くぞ!」

 実際のところ、青髪の騎士と巨人の戦いは一触即発だった。巨人の力は見た目の通りオーガと比べても桁違い。もしその腕を叩きつけられれば、纏《まと》っているプレートアーマーなど意味をなさず、肉体は砕け散ることだろう。前腕から伸びる斧も、当たれば容易く胴体を真っ二つにされる。騎士は大剣を巧みに使いこなし、それらの攻撃を受け流していた。

 しかし、逆に騎士の攻撃はどれも効果が薄い。渾身の力を込めれば、巨人の身体に傷をつけることも可能だと思われたが、その猛攻の前に隙はなく、牽制のような斬撃を振ることしかできない。

 戦いが長引くのであれば、圧倒的に不利な状況と言えた。

 それでも、彼は退かない。否、退···········

(あなたは、何をそんなに怖がってるんですか...?)

 その脳裏に、黄金色の髪の少女が浮かぶ。そして、さらに別の女性の姿が...。

「よう、手を貸すぜ」

 不意に隣から、赤いマントの少年が現れる。2本の剣を構え、巨人と真正面から対峙した。さらにその背後には、赤毛の少年の姿もあった。

「...何をしに来た」

「アイツの弱点はたぶん、目の部分だ」

 質問には答えず、マークは必要なことだけを簡潔に伝えた。騎士はそれに対して、眉をほんの少しだけ釣り上げた。

「足手まといなんて思うなよ...これでも魔族を倒したこともあるんだぜ...」

 それは事実ではあったが、精一杯の虚勢でもあった。目前の巨人は、あの時倒した魔族をも上回る存在だと感じていた。シャーマンの言う通り、対魔族用に作られたゴーレムであるなら、それも当然か。

 マーク、セイザン、そして青髪の騎士の3人は、手にした剣を構え、巨人の動きを待つ。

 果たして、大振りに叩きつけられたその腕が空を斬る。3人はそれを躱《かわ》し、巨人へと肉薄した。

「このっ!」

 セイザンが雷を宿した剣を叩き込む。しかし、やはりというか効果は薄い。鋼鉄を超える強度を持つ何かで作られた巨人相手に、彼の剣では力不足だった。

 マークの2本の剣も同様だ。魔力で強化されている上、身体能力も底上げしているが、全く歯が立たない。やはり弱点である目を狙うしかないと思えた。

 青髪の騎士が再び巨人と打ち合う。マークとセイザンはそれを尻目に1歩引いて体勢を整えた。

「くそっ、やっぱり硬すぎるな...」

 痺れた手を押さえ、セイザンが悪態をつく。見れば手にした長剣も、かなりの刃こぼれを起こしていた。多くのゴブリンを相手にし、しかも硬質な巨人に叩きつけたのだ。すでに武器も限界だった。

「っ! マズい、よけろ!」

 巨人がその両腕を2人に向けた。それを見て、マークは咄嗟に身を翻《ひるがえ》す。刀身の破損に目を奪われていたセイザンは、反応が遅れた。

 次の瞬間、巨人の前腕が飛んだ。肘の部分から先が、高速で射出されたのだ。硬質、そして超質量のそれを避けきれず、セイザンは声も上げる間もなく大きく跳ね飛ばされた。

「セイザン!」

 アスリィたちのもとまで吹き飛ばされた彼は、意識を完全に失っていた。剣も半ばから砕かれ、戦闘不能なのは一目瞭然だった。

「アスリィ! 早く回復してやってくれ!」

「分かってる!」

 慌てて、マークも親友のもとに駆けつける。幸いと言うべきか、倒れた赤毛の少年の胸はわずかに上下していた。

「せ、セイザン...」

 倒れた幼馴染の姿に、レイナは顔を蒼白にさせている。マークはそれを見て、奥歯をきつく噛み締めていた。

 自分はなんて無力なのだ。何が世界一の剣士だ。誰も守れないまま、巨人に殺されるしかないのかと。

 青髪の騎士に目を向ける。巨人と互角に渡り合うその姿に、羨望の念を抱いてしまう。あの高みに、自分も辿り着ければ...。

 その時、ふとレイナの持つ杖が目に入る。そして、彼女の祖母である魔術師が、かつて語っていた話を思い出した。

「...まだ、手はある...!」

「マーク...?」

 再びその目に闘志を燃やした幼馴染の姿に、レイナはうっすらと涙が浮かぶ目を向けていた。彼女にこんな顔をさせてしまった自分の弱さを恥じる。だが、それを忍んででも、やれることがあった。

「レイナ、頼みがある...」

 レイナの祖母アルテがかつて語っていた話。

 それは、確か数年前のことだったか。祖母から魔術を教わるレイナを見て、マークは疑問を投げかけたことがあった。

「ばあさん、レイナに教えてる...言語魔術だっけ? あれって、どういう魔法なんだ?」

 なんてことは無い、単なる好奇心。そんな疑問に、アルテは丁寧に答えてくれた。無論、魔術に関してはからっきしなマークには、ほとんど理解など出来なかったが。

 記憶を掘り起こし、その内容を思い出す。確か、かつて竜と魔王の戦いの際に作られた魔術で、自らの意志の力、すなわち魔力を、力ある言語とされる「呪文」を介して解き放ち、現実を思いのまま改変する...そのような感じだったはずだ。つまり、理論上は想像さえできれば、どんなことでも可能とする。精霊魔術や神聖魔術と比較して、高い自由度を持つ魔術なのだ。

 だから、マークはある魔術を自分にかけるよう、レイナに頼んだ。

「そんな...無茶だよ!」

 それを聞き、レイナは瞳を揺らめかせる。今にも頬に零れそうな涙。しかし、マークの決意は揺るがない。

「無理じゃなくて無茶...じゃあ、できるんだな?」

「で、できる...けど...でも!」

「これしかないんだ!」

 躊躇するレイナに、マークは悲痛な表情で口調を強めた。自分の力だけでは、この状況を打開することはできない。守るべきはずの想い人の力を借りなければならないことに、マークは深い悔しさを覚えていた。

「頼む...レイナ!」

 一度決めたら、彼はその考えを曲げることはない。小さい頃からの付き合いになる幼馴染だ。それは分かりきっていた。

「...わかった」

 ついにレイナも覚悟を決め、マークの背後に立つ。そして、静かに、しかしはっきりとした口調で詠唱を始めた。

 青白い魔力の光。それが1つの文字の形を作る。身体強化の魔術式を表す「呪文」だ。その周囲に、具体的な強化対象、強化項目を表す「呪文」が浮かび上がり、1つの魔方陣を組み上げていく。

 レイナの詠唱に合わせ、その魔方陣が2つ、3つと増えていった。

「レイナ、まだか...?」

「もう少し待って...術式が複雑...」

 改変する現実が複雑であるほど、必要な「呪文」が増え、それに乗せるための意志力、つまり魔力の量も必要となる。魔方陣が増えるほどに、レイナの額に玉のような汗が滲んでいった。

 青髪の騎士は、いまだ巨人と激しい戦いを演じている。しかし、着実に押されているのが見て取れた。あれほどの巨体から放たれる力を受け流しているのだ、体力の消耗も相当のはず。

 4つ目の魔方陣が組み上がる。レイナの体力もまた限界に近い。息を荒らげながらも、必死に詠唱を続けている。傍らには、セイザンの回復を終え、心配そうに見つめるアスリィがいた。

「だ、大丈夫なの?」

「あぁ...きっと...な」

 5つ目の魔方陣が完成した。同時に、全ての魔方陣がマークの周囲を取り囲んだ。そして彼の身体に重なり、1つの光となった。

 光は大きく弾け、マークの身体に吸収されていった。

「マーク...できた...よ!」

「あぁ...行ってくる!」

 赤いマントが翻り、一筋の閃光となって飛んだ。

 5つの魔方陣。それぞれが筋力、敏捷力、動体視力、判断力、そして精神力の強化を示す呪文で作られていた。

 身体能力の全てを限界にまで強化されたマークは、今までとは異なる世界に、興奮を隠せなかった。

 見るもの全てがゆっくり、そしてはっきりと見える。身体が軽い。手にした剣も、自分の身体の一部になったように重さを感じない。

 今ならば、何もかも自分の思う通りになる気さえした。この景色が、自分が目指していた「高み」なのか。

 1度の跳躍で、その身体は巨人のもとへ肉迫した。

「あぁぁぁっ!」

 雄叫びを上げ、マークは巨人の膝を蹴り上げた。何十倍、いや何百倍もの重量があるはずのその巨体が、大きくバランスを崩す。

「...お前...」

「とっととケリをつけるぞ!」

 時間は限られている。マークは青髪の騎士の隣に並び立ち、そびえ立つ巨人を見上げた。

「うぉぉぉっ!」

 一足で巨人の頭部まで飛んだ。驚異的な身体能力。常人のそれを遥かに超えた動きだった。

 巨人が腕を振り払う。巨大な石柱のようなそれに当たれば、ひとたまりもない。

 しかしマークはその腕を、2本の剣を交差させて受ける。たちまち刀身にヒビが入った。しかし同時に、その腕を蹴り上げ、反動でさらに上へと跳んだ。

「こ...ここ...だぁっ!」

 巨人の頭上。一瞬、まるで鳥になったかのように、マークは空中の世界を味わう。

 直後、2本の剣を深々と、見上げる巨人の両目に突き立てた。

 赤い魔力の光が漏れ出す。巨人は1ヶ月前のゴーレムのように周囲を感知できなくなり、その動きを鈍らせる。

「今だっ!」

「むぅ...っ!」

 マークの叫びに呼応し、青髪の騎士が大剣をふりかぶる。

 渾身の力が込められた刀身が、巨人の胴体を真っ二つに斬り裂いた。

 巨人がゆっくりと、その身体を横たえる。それを、シャーマンは信じられないといった様子で後ずさる。手にしていた宝玉も、音を立てて崩れ去った。

「はい、お疲れさん...と」

 背後から声。シャーマンが振り返ろうとするが、それは首に突き立てられた短剣に阻まれる。シャーマンの意識はそこで途絶えることとなった。

 バンダナを巻いた斥候《スカウト》──ケーベストは、ようやくひと仕事を終えたことを感じて、一息ついた。

 首魁《しゅかい》であるシャーマンが倒され、さらに切り札であるゴーレムも失ったことが決定打となり、ゴブリンたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。掃討する予定ではあったが、脅威を退けたということで、作戦は成功とされた。

 何より、超巨大ゴーレムを倒したという事実により、マークたちは最大の功労者と賞賛された。

「素晴らしい働きだった。ラングナー卿にも、しかと報告させてもらうぞ」

 お目付け役のはずが、結局戦いに巻き込まれてしまったオットーたち。

「すげぇじゃないか! あんなデカブツ、どうやって倒したんだよ!」

 負傷しながらも、最後まで戦い抜いたドワーフの若者。自慢の鎧も斧も、歴戦のようにボロボロだ。

 多くの歓声を浴び、マークたちは笑顔でそれに応えた。

 しかし、黒髪の少年の心は晴れなかった。仲間と共に勝ち取った勝利。それは確かに素晴らしいものだろう。しかし、彼の目指すべき道は違う。何者にも負けず、恐れず、退かずに戦い、そして勝利する。その境地が、まだ遥か先にあることを、この戦いで痛感させられることになった。

 黄金色の髪の少女。彼女の涙は、もう見たくなかった。

「なぁ、あんたの名前は?」

 その日の夜。街に戻り、ラングナー邸にて作戦成功の酒宴が開かれた。冒険者たちはタダ酒にありつけることをいいことに、飲めや歌えやの大騒ぎだった。

 その酒宴から、1人立ち去ろうとする人影。マークはそれを見逃さなかった。

「......」

 青髪の騎士は、不意に背後からかけられた声に足を止める。少なくとも、以前のように無視されることはなかった。

「オレはマークだ。オレは...必ずあんたを超えてみせる」

 あの時感じた、「高みの世界」。それにもっとも近いのは、マークの知る限り、師を除けばこの男だけだと思えた。ならば、それを超えることが、マークの夢へと近づく道標となるだろう。

 しばしの沈黙。それから、騎士は小さく口を開いた。

「...ロア」

 それだけ告げ、彼は振り返ることなく去っていく。

 マークはその背が見えなくなるまで、じっと見つめていた。

 そして、彼のさらに後方の物陰。

 黄金色の瞳が、2人の剣士の姿を映し、微かに揺らめいていた。

 数日後。

「塔」の一室。あの応接間のような部屋で、屈強な壮年の男──アルベルトはロアからの報告を受けていた。以前、「聖女」捜索の任を下した時と、全く同じ光景。

「接触は避けろと言ったのに...お前ときたら...」

 呆れたような物言いをしつつ、アルベルトの顔はやや朗らかだ。他人に興味を示さない目の前の男が、他者と関わりを持ったことが少し面白かったからだ。

「で、どうだった?」

 一転、アルベルトはその表情を固くする。ロアのわずかな変化にも興味があったが、それ以上に気がかりなのは「聖女」だ。

「...彼女で間違いないだろう」

 ロアは腰に帯びた剣にを手をかけながら答える。あの夜、黄金色の髪の少女に··········。彼女こそが「聖女」だと、ロアは確信していた。

「...そうか」

 しばらく、アルベルトは険しい表情を浮かべ押し黙る。そこに秘められた感情を、ロアは推し測ることはできなかった。

「わかった、しばらくは監視の者をつけよう」

「...確保するのではないのか?」

 告げられた言葉に、ロアは疑問を投げかけた。「聖女」の身柄確保は最優先だったのではないかと。

「...まぁ、色々と事情があるんだよ」

 複雑な表情でアルベルトははぐらかす。ロアはそれを深く追及せず、部屋から立ち去ることにした。

 その背を見送り、部屋に1人になったアルベルトは、大袈裟なくらい深く息を吐いた。

「見つけた...見つけてしまった...か...」

 レイナという名の少女。

 その運命を思い、アルベルトは心が酷く痛むのを感じていた。

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    「な、何だこいつ...!?」 ケーベストが短剣を構えながら退く。現れた怪物からは、肌に刺さるくらいの殺気を感じた。とても近くにはいられない。「レイナ...? レイナ、どうしたの!?」 アスリィが叫ぶ。彼女の横に立つ黄金色の髪を持つ少女は、血の気の失せた青い顔を浮かべ、その唇は微かに震えていた。「お、おい、レイナ...?」「みんな...逃げて...!」 マークが背後に向け声をかけた直後、レイナが悲痛なまでの声を絞り出した。「あれは...魔族...」「ま、魔族...だと...?」 セイザンの顔が強ばる。その言葉が真実だとすれば、目の前の存在は恐ろしく強大な敵である。 魔族。それは1000年前、竜と大いなる戦いを繰り広げた魔王に付き従った眷族たちのこと。大きな角と、絶大な身体能力、そして魔力を持つ怪物。かつての大戦では、人間とエルフ族、ドワーフ族などが力を合わせ、これと戦ったとされる。 今ではおとぎ話の中の存在だとされていたが、実際に目の前に立つソレは、確かに魔族だと言っても不思議ではないほどの威圧感を持っていた。「マジかよ...これはさすがに、逃げた方が良くないか?」 ゆっくりと足を進める魔族。それに合わせて、5人は少しずつ後ろに退く。背中を向けて逃げたい衝動に駆られるが、それは自殺行為だと、本能が告げていた。「...ダメだ、ここで倒す...!」 しかし、黒髪の剣士だけは、下がる足を止め、正面から怪物の前に立った。「こいつを、野放しにしておけない...!」 魔族は人の天敵。この場から上手く逃げることができたとして、この怪物は恐らく、人里を探し暴れ回るだろう。そんなことは許せない。 何より、世界一の剣士を目指すマークにとって、敵から逃げるという選択肢は初めからなかった。「...ったく、しょうがない奴だ...」 隣に、赤毛の親友が立つ。一度決めたら簡単には曲げない。マークの性格は昔からよく知っている。「援護と回復、任せてね」 背後でアスリィが弓に矢を番《つが》える。「撹乱...が、効けばいいけどな」 ケーベストも何かを諦めた様子で、低い姿勢を取り構えた。「みんな...」 最後尾に立つレイナは、仲間たちの覚悟を決めた表情を見て、徐々に顔色を回復させていく。大きく息を吐き、心を落ち着かせる。杖を握る手に力を込め、ついに

  • 竜剣聖伝 ─死の魔王と赤の聖女─   第一章 中編 「探索」

     街道を外れ、険しい森を数日間かけて抜けた先。斜面の死角になる場所に、人工的な石造りの入口が確かにあった。「ここが...遺跡の入口」 マークは目の前にぽっかりと空いた洞窟を見て、激しく鼓動が高鳴るのを感じていた。物語でしか読んだことのない、未知への冒険が目前にある。その事実に、心を弾ませない者はいないだろう。「おっと、それ以上はストップな」 ゆっくりと入口に足を進めていたマークを、大柄な体格が遮る。険しい顔をした斥候《スカウト》の青年がそこにいた。数日前に緩い顔を浮かべていた男と同一人物とは思えないほど、真に迫った表情だ。 慣れた雰囲気で、ケーベストは入口の周囲を観察し、実際に手を触れて確認してみる。「あれ、何やってるの?」「多分、何か仕掛けがないかを探ってる...のか?」 アスリィの疑問に、セイザンが曖昧に答えた。何となくの知識では知っているが、実際に斥候《スカウト》の仕事を目にするのは初めてだ、無理もない。「...おい、ケーベスト、まだかかるのか?」「もう少し待っててくれ...っと、よし、OKだ」 遺跡の入口まで来てお預けをくらい、さすがに焦れたマークが急かすと、そこでケーベストが両手を叩いた。「なぁ、マークよ、ちょっとそこに立ってみてくれ」「え、こ、ここか...?」 いつもの軽い表情に戻ったケーベストに促され、マークは指された場所に立ってみた。遺跡の入口の真ん前。先ほどマークが近寄ろうとしていた場所だ。 ガシュッ!「はっ!?」 何か機械的な音が響き、マークは咄嗟に両手で防ぐ動作をしながら屈む。しかし、音が響いただけでそれ以上は何も起きなかった。「ふむふむ、なるほど、やっぱりなぁ」 1人だけ何かを納得した様子のケーベスト。 マークは冷や汗をかいたまま固い表情を作り、他の3人も軽く青ざめている。「な、なんだよ、何があったんだ?」「そこに何かの仕掛け罠があるのはすぐに分かったんだよ」 マークがケーベストの指す場所──つまり自分の足元に目を落とすが、そこは何の変哲もない地面にしか見えない。「でも、1000年前の遺跡なわけだし、仮に発動しても劣化してて、何も起きないと思ったんだよ」 腰に両手を置き、自信満々といった様子のケーベスト。マークの顔がみるみる赤くなっていく。「案の定だったな! どうだ、ビックリしたか?」「

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