裏切りの婚約者が絶望するまで
出所してから3年が経った頃、俺、北原永真(きたはら とうま)は地下闘技場で桐生雪菜(きりゅう ゆきな)に力任せに引きずり出された。
彼女は血走った目で俺を睨みつけ、顔面に思い切り拳を叩き込んできた。
「永真、家に帰らないばかりか、自分をこんなボロボロにして……一体何のつもりなの!?」
俺は口元の血を拭い、あっけらかんと笑ってみせた。
「桐生社長、一発200万円だ。まだ気が済まないなら続けてもいい。ちょうど今年の家賃分になるからな」
彼女の拳は怒りで小刻みに震えていたが、その声は少し柔らかくなった。
「一緒に家に帰って……佑樹に謝って。彼は優しいから、あなたが彼を中傷したことなんて、もうとっくに気にしていないわ」
俺の体中に刻まれた無数の傷跡を見つめる雪菜の瞳に、複雑な色がよぎる。
「今の血まみれな姿を見てよ。野良犬と何が違うの?」
俺はビクッと体を震わせ、そのまま背を向けて立ち去ろうとした。
雪菜は知らないのだ。この血に塗れた姿こそが、俺が刑務所で唯一身につけた生きる術だということを。
「忘れないで、私はまだあなたの婚約者なのよ!」
俺の足がピタリと止まった。
忘れられるわけがない。
3年前の婚約の夜、俺は北原佑樹(きたはら ゆうき)に薬を盛られて闇市のオークションに出品され、値札をつけられたのだ。
あの夜、俺は帝都中の人間に指を指される笑い者に成り下がった。
そして、俺を売り飛ばす書類にサインしたのは、他でもない婚約者の雪菜だった。