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第91話・子供たちに教えるために

Author: 新矢識仁
last update publish date: 2026-07-29 05:24:04

 う~ん。

 町をぶらぶらして見聞きしたことを思い出し、問題点を洗い出す。洗い出すほど問題点がたくさんあったわけじゃないけど。

 今の状況だと子供問題を優先したほうがいいなあ。

 子供が何もすることがないからあちこちを探検して回ってるわけだな。

 探検が悪いとは言わないけれど、畑を踏み荒らされたり家畜を蹴られたり窯に入り込まれたりするのは困る。うん、とっても困る。

 畑はまだ可愛いもんだけど、家畜蹴飛ばして蹴飛ばし返されたら大怪我だ。窯に入ってるの気付かないで火を入れたら大惨事だ。

 そうなる前に手を打った方がいいなあ。

 学問所を作ることは予定していたけど、早めたほうがいいかもしれない。教える人はファヤンスから来た人の中に学問所の先生をやっていた人が二人いたので任せるとして、何を教えるかをまだ決めてないし。何を教えるかは町の方針とか色々関わってくるので、ファヤンスの教え方で教えられても困るので後回しにしようと思っていたけれど、そういう状態じゃなさそうだ。

 会議堂に帰って、二人の頭脳ブレインを呼んで、相談した。

「そうか……子供が」

 妻帯者のサージュ、難しい顔。

「うん。町
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     と。言うわけで。 翌日、陶器通り近くの印章彫刻家ダムガ師匠の所を訪れたぼくです。「その間抜けな格好は何なのかね、町長?」 気難しい顔でいきなりこういう師匠。 間抜け? あ、エキャルか。「すいませんこいつは訳あってあと二日は傍に置いておかなければならないんですこいつのことは無視してお願いします」「印章作りは下を向く。首が痛む」 ダムガ師匠はむっすりと言う。「更に頭に鳥が乗っていたらもっと首を痛める」「あ」 気難しい人かと思ったら、心配してくれていた。「エキャル、しばらく机の上に乗っててくれる?」 くぅ、と残念そうな顔をしてエキャルは机のぼくのすぐそばに着陸した。「それでいい」 師匠、頷いて、掌に乗るほどの四角い石を取り出した。「印章彫りに一番いい石、セーデン石じゃ」「へえ」 蒼い石を遠ざけたり近付けたりして見つめる。「まずは、どのような図柄にするか考える」 どんな図柄、かあ。町の印章はグリフォンだけど、ぼくの図柄かあ……。ぼく……。「面倒であれば自分の名をそのまま印にしても良い」 その手があったか!「町長印と違い過ぎると疑われるだろうが」 ……そうか。 う~ん……。 軽くほっぺたをトントンする気配。 ん? 誰? そっちを見ると、エキャルが心配そうな目でこっちを見ていた。「大丈夫だよ、エキャル……」 ……ん。 エキャルにすればいいんじゃないか? 町はともかくとして、ぼく自身はあんまり特徴がない。 アナイナと髪の色も目の色もパーツもよく似ているのに、アナイナは美少女だけどぼくは美少年ではない。むしろ特徴と言える特徴のない無個性な人間だ。 スピティやフォーゲルではこいつが本当に町長か扱いは当たり前だった。 町民でもぼくの顔を見てすぐ町長と分かる人間は半数いるかいないか。サージュやアパルが町長だと思ってる人もいるくらい。 そんなぼくが昨日注目を浴びたのは、頭の上のエキャル。 さすがに頭に伝令鳥を乗っけしている人間はグランディールでは町長であるぼく以外いない。 伝令鳥を乗っけて一日グランディールを歩き回ったから、エキャルと並んで覚えた人もいるんじゃないか。 そのぼくを表すのに伝令鳥は相応しいんじゃないかと思った。「こいつ、どうでしょう」 手を上げると、その上にエキャルが嘴を乗せて

  • Lv1・Maxからのまちづくり   第91話・子供たちに教えるために

     う~ん。 町をぶらぶらして見聞きしたことを思い出し、問題点を洗い出す。洗い出すほど問題点がたくさんあったわけじゃないけど。 今の状況だと子供問題を優先したほうがいいなあ。 子供が何もすることがないからあちこちを探検して回ってるわけだな。 探検が悪いとは言わないけれど、畑を踏み荒らされたり家畜を蹴られたり窯に入り込まれたりするのは困る。うん、とっても困る。 畑はまだ可愛いもんだけど、家畜蹴飛ばして蹴飛ばし返されたら大怪我だ。窯に入ってるの気付かないで火を入れたら大惨事だ。 そうなる前に手を打った方がいいなあ。 学問所を作ることは予定していたけど、早めたほうがいいかもしれない。教える人はファヤンスから来た人の中に学問所の先生をやっていた人が二人いたので任せるとして、何を教えるかをまだ決めてないし。何を教えるかは町の方針とか色々関わってくるので、ファヤンスの教え方で教えられても困るので後回しにしようと思っていたけれど、そういう状態じゃなさそうだ。 会議堂に帰って、二人の頭脳を呼んで、相談した。「そうか……子供が」 妻帯者のサージュ、難しい顔。「うん。町民の五分の一が成人未満。それが暇を持て余して町中走り回ってる。それはいいんだけど大事な場所や危ない場所にも行ってるんだ。牧草地で家畜に近付いたり、窯の中に入ったり」「それはまずいね」 アパルも渋い顔。「会議堂に入り込んでくるのも時間の問題だな」「うん。それで、学問所を早めに開ければ、と思ってるんだけど」「確かに、暇な時間を減らせばそれだけ走り回ることは少なくなるってことだ」「ただ、何を教えるか……」「先生も呼んできて一緒に相談しよう」 というわけで呼び出されたのが、ケンナリ・レーラール先生とチチェル・プルファソラ先生。「私たちの意見を聞きたいとのことですが……お役に立てるか」 ケンナリ先生渋い顔。「わたしたちは町長の命令で、陶器のことを教えさせられていたんです。ですが、ファヤンスを併合したからと言って完全に陶器の町で売るわけでもないのでしょう?」「うん。敢えて言うなら何でもできる町」 ぼくの言葉に、チチェル先生も難しい顔。「どういう方面を教えればいいのか、難しすぎます」「仕事の内容とかは要らない」 ぼくは天井を見上げて呟く。エキャルがバラン

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     ヨモギを首につけたまま、頭の上にエキャルを乗っけして歩いていく。 畑の方は比較的穏やかで、作業に勤しんでいる人の姿が何人も見える。ヒロント長老がぼくの顔を見て手を振った。「畑の方はどう?」「特にこれと言って問題はないよ。儂のやることも少ないしの」 ヒロント長老は畑の代表みたいなもので、畑で働く人たちを取りまとめている。「新しい人からの苦情とかは?」 にっこり微笑んで首を横に振られたので、それは良かったと顔が緩む。「ああ、一つだけあったか」「何?!」 顔をあげて食いつくぼくに、ヒロント長老苦笑。「子供が遊んで畑に入り込むことが……」「ああ……」 どの町でも子供の遊ぶスペースって言うのはあんまりない。スキルとそのレベルで住む町が決まる世の中では、子供は正式に町の住民ではなく、成長して役に立つのかがさっぱりわからないので基本的な勉強しか教えない。スキルが判明してから本格的な勉強になるんで、ランクの低い町だと子供は下手すると自分の名前しか書けないというパターンもある。 グランディールは近いうちに学問所を作りたいと思っている。子供が増えたんで、みんなに読み書きと計算、あと印の作り方を教えるところがあればいいなあと、何となく。 でもまだ出来てないので、邪魔にならない限り町の中を歩き回ってもいいという許可を出してあったけど、畑に入り込まれるとなあ……。「畑に柵作る?」「そうですな、柵があれば入ってはいけないことが分かる」 ぼくは柵の形を考えて、スキルを発動。 畑を取り囲むように、子供には背の高い柵を作った。出入り口も簡単な鍵がかかるようにしてある。「こんな感じで?」「十分ですな」 ヒロント長老が頷く。「多分畑が広がれば柵もそれを取り囲んでくれましょうな」 で、と長老の視線が上に。「伝令鳥をお買いになられましたか」「宣伝鳥も近いうちに買おうと思ってるけど」 ぼくは頭の上に手をやる。ふかっという羽毛の感触と手に押し付けられる丸みを帯びた形。「とりあえずぼくが飼ってみて、どんな感じなのかを見たいってアパルもサージュも言ってたし」「そうですか」 長老は目を細めてエキャルを見る。「最初に送りたい相手はどなたですかな?」「ん~……個人的な話になって悪いけど」 手を挙げてエキャルを撫でながら答える。「両親に」「そう言えば、

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     三日は傍に居てやってください、とパサレは言った。 伝令鳥や宣伝鳥は、まず自分が帰ってこなければならない場所を覚えなければならない。不特定多数に送る宣伝鳥や町で買う伝令鳥は場所を覚えてそこから行き来するけれど、ぼくのみたいに完全に個人的なやり取りをするなら、自分の飼い主を完璧に覚えてもらわないといけない。何処から何処に送ってもぼくの所に戻ってくるように。 高価でスキルレベルの高い伝令鳥は、例えば他人に貸しても、飼い主の意を酌んで他人の手紙を知らない人間の所にも届けたりできる。けど、元の住処あるいは飼い主を完全に認めていない鳥は元の住処に帰ってきてしまったりする。 エキャルは高価でスキルレベルの高い伝令鳥だけど、それでもぼくの気配を覚えるには三日はかかる、んだそうで。 基本的に鳥かごの中に入れておくものだけど、鳥かごに入れると文句言って暴れる。言い聞かせると分かってはくれるんだけど、あの黒い目でじっとぼくを見上げてくる。出してくれーって言ってるの分かるんだよ、これが。逃げないからここから出してーって言ってるのが。 鳥かごに入れておかなくても、ここまで気に入った飼い主の元から逃げ出すことは滅多にないとパサレも言ってたし、ぼくがエキャルの傍に居るよりエキャルがぼくの傍に居るのが色々無理がなくていいかと自由にさせた途端、右肩に飛び乗った。 鳥だからそんなめちゃくちゃ重いってわけじゃないんだけど、それでも右肩に重みはかかる。「……肩が重いんで別の場所に行ってもらっていいでしょうか」 バサバサッと飛んで頭の上。「何で頭の上がいいの?」 長い首を下ろして頭のてっぺん辺りに自分の頭を擦り付ける。「分かった分かった。そこがお前の定位置なんだな?」 だったら仕方がない、ちょっと間の抜けた姿になるけれど、エキャルを頭に乗せて、毎日恒例の町の巡回に出かける。 と言っても町のあちこちを散歩がてらほっつき歩くだけなんだけど。 拉致監禁された直後によく護衛もなくほっつき歩けますね、と元ファヤンス住民に言われたけど、実際の所グランディールより安全な場所はない。 宙に浮いているグランディールに侵入しようとすれば、まずスキルか騎獣で飛ぶしかない。で、上空から入り込もうとすると、水路が邪魔をする。水路はどうやら雨除け風除け寒さ対策もされているらしく、水路を突き抜けて通ろう

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    「お待たせいたしました。書類を……あら」 頭の上の伝令鳥を見てパサレが笑う。「お前、本当にこの方のことを気に入ったのね」「これが?」「頭に乗るのは信頼しているからですよ」「そうなの?」 頭の上に手を伸ばすと、掌に頭をぐりぐりしてくる感触。「では、ここにお名前と印を」「大人しくしててね」 ゆらゆら揺れている伝令鳥にそういうと、ぴたりと動きを止める。「この気難しい子がこんなに好くなんて、本当に運命の相手に巡り合えたのね」 書類を渡された。「この鳥の名前をこの欄に書いてください」「名前?」「ええ。名前を与えて、主従の契約を結ぶ。そういうものでしょう?」「名前……」 まさか入手したその場で名前を付けなきゃいけないとは……。「前の持ち主はどんな名前を付けてたんですか?」「同じ名前を付けることはお勧めしません」 何で? というぼくの顔に気付いたんだろう。パサレは真剣な目でこっちを見た。「名前を与える、ということは、この子に対する全権を名付け親が得る、ということに他なりません。前の飼い主と同じ名でこの子を呼ぶと、この子は果たして自分がどちらに仕えてどちらを愛しているか混乱するでしょう。名前、とは、その相手に責任を持つという一番分かりやすい例なのです」「ちなみに前の飼い主はどのような方でしたか?」「かなり強引な方でしたね。明らかにこの子が嫌がっているのに自分にこそこの子が相応しい、とお金を置いて強引に連れ帰ってしまいました。その後、この子が逃げ帰ってきた時連れ戻せ、でなければ弁償しろと言われましたが、ええ、伝令鳥をただの持ち主のステータスと見做している方にはお譲りできませんとお金と弁償金を叩き返しましたよ」 ……何か、その元の飼い主って、ぼくの知っているヤツのような気がする。 そいつのおさがりと思うと嫌だけど、無理やり連れていかれたのを嫌がって戻ってきたと言われたら、放っておくわけにはいかない。 じゃあ、名前つけないと……。 う~ん……。名前って……言われても……。 緋色か……緋色……緋色……。「エキャルラット」「古語、かな」アパルの言葉に頷き返す。「通称はエキャルかな?」 頭の上でエキャルと名付けた伝令鳥が揺れている。「踊ってる?」「踊ってるねえ」 踊るの?!「ではここにもう一度お名前と印、そしてここに伝令

  • Lv1・Maxからのまちづくり   第6話・望んでいたぼくらの小さな町

     正直、ショボい光景を覚悟して目を開けた。 所詮はレベル1Maxのスキルだ、ボロ家の一軒でも立っていれば大ラッキーという気分で。 ゆっくり開いた視線の先、眼の前にあるのは、門だった。 衛兵がいてもおかしくないような、立派な門。 左右を見れば、城壁と言ってもいい立派な塀。 エアヴァクセンよりも立派な入り口だった。「これ……は……?」「おいおい、レベル1のもんじゃないぜこれは」 盗賊団の皆さんも呆然と入口を見上げている。 アナイナだけが、自分がやったわけでもないのに得意気に胸を張っていた。「ほーら、やっぱり、お兄ちゃんじゃない」 何だその威張り方は。「い、いや、塀だけが立

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     エアヴァクセンからこの森の街道までは徒歩で約四半日。 野宿するならエアヴァクセンが見えない場所で、と言われているから、森の街道沿いで……と思ってたけど、この可愛いお荷物のせいで大急ぎで回れ右しなければならなくなった。 昨日までは親切だった警備兵さんたちからすれば、今のぼくは勝手に町に入り込もうとする放浪者でしかない。近付けば追い払われる。その傍に仮住人がいれば保護しようとするはず。場合によっては仮住人を誘拐したと思われるだろうけど、その時は全速力で逃げるしかない。 そんなぼくの思いも知らず、上機嫌でついてくるアナイナ。 ……本当に、もう。兄の事情も苦労も知らないで……。 アナイナ

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